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戦国異伝

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第百六十七話 信玄動くその三

「上杉もおるのじゃ、天下最強の二人がな」
「武田殿と上杉殿となれば」
「さしもの右大臣殿も危ういかと」
「ですからここは」
「ゆうるりと」
「何っ、幕府も兵を挙げぬのか」
 実は義昭は信玄と謙信が動くと同時に自身も兵を率いて立ち上がるつもりだった、だがここでだった。
 二人の僧はだ、こう義昭に言うのだった。
「いえ、上様それは」
「それはなりません」
「今は挙兵せずにいましょう」
「そうすべきかと」
「それはまたどうしてじゃ」
 二人の言葉を聞いてだ、義昭は目を丸くさせて問い返した。
「織田信長は倒れるというのに」
「ここはゆうるりとお二人に任せましょう」
「そうすべきです」
「むしろお二人を都に迎える用意をしましょう」
「今は」
「ふむ。左様か」
 二人の言葉を受けてだった、義昭はというと。
 納得してだ、こう言うのだった。
「ではな」
「はい、それでは」
「今は」
「兵を挙げぬ」
 義昭は決めた、そしてだった。
 彼は二人が都に来ると確信して彼等を迎える用意に入った。幕府の動きはそうしたものだった。そして。
 報は顕如のところにも届いた、彼は雑賀からその報を聞いてこう言った。
「わかった、しかしな」
「しかしですか」
「右大臣殿は今は倒れぬ」
「倒れませぬか」
「凌ぐ」
 そう確信している言葉だった。
「兵を挙げる等というkとはせぬ。しかもじゃ」
「しかもとは」
「和議はまだ切れぬ」
 結んだばかりだ、それではだった。
「今兵を挙げては約を違えたことになる」
「だからですか」
「そうじゃ、様子を見るだけじゃ」
 信長の今度の戦のだというのだ。
「それもまたあの御仁を見ることじゃからな」
「右大臣殿をですか」
「そうされるからですか」
「そうじゃ」
 だからだというのだ。
「武田、上杉であろうとも退けられねば」
「天下は握れない」
「そして泰平を守ることも」
「出来ぬわ」
 こう言うのだった。
「到底な」
「では、ですか」
「ここは右大臣殿を見ることですか」
「公方様の呼びかけに応じず」
「和議を守りますか」
「もとより和議を破るつもりはない」
 約束は約束だ、顕如はそれを破るつもりはなかった。ここはしっかりとしてこう言ったのである。
「だからな」
「それでは今は」
「右大臣殿を見ますか」
「うむ、そうする」
 こう言ってだった、顕如は動かなかった。今はだった。 
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