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戦国異伝

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第百六十七話 信玄動くその二

「向かって来るならな」
「そうですか、やはり」
「徳川家康、見所はある」
 家康についてだ、こう述べた信玄だった。
「一つ見てやるか」
「では出て来た時は」
「わし自ら相手をしてやる」
 そのうえで家康の器を見るというのだ。
「そうしてやろう」
「左様ですか」
「では我等は」
「攻め入る、留守はここはな」
 ここでだ、信玄は弟の一人である武田信廉を見て言った。
「御主じゃ」
「わかりました、それでは」
「そして織田の目を惑わせる為に信濃から美濃の東にも兵を送るが」
 今度は秋山を見て命じる。
「膳右衛門、御主に五千の兵を預ける」
「そのうえで、ですな」
「美濃の東を攻めよ」
「岩村城をですか」
「そうじゃ、あの城をな」
 こう命じるのだった。
「よいな」
「畏まりました、それでは」
「木曽氏と共にな。そして他の者達はじゃ」
「はい、それでは」
「我等は」
「国には一万の兵を置く」
 六万のうちの一万をだというのだ。
「膳右衛門に五千与えておる、残り四万五千でじゃ
「我等がですか」
「御館様と共に」
「東海からですか」
「そのまま遠江、三河に入りじゃ」
 まさにだ、家康の領国を横に通り抜けてというのだ。
「尾張、美濃を目指すぞ」
「織田家のまさに腹をですな」
「そうじゃ」
 まさにだ、その通りだというのだ。
「腹を食い破られては蛟龍も生きてはいられまい」
「尾張の蛟龍も」
 信長のことだ、信玄は彼の通り名も出して話すのだった。
「それ故にじゃ」
「ここは、ですな」
「尾張と美濃をですか」
「ではよいな、先陣は」
 次はその話だった、その先陣を務めるのは。
 信玄は山県を見てだ、こう言った。
「源四郎、御主とじゃ」
「何と、源四郎殿だけでなく」
「他にも誰か」
「幸村、御主じゃ」
 幸村も見て言うのだった。
「御主達二人に先陣を命じる、主は源四郎でじゃ」
「それがしが源四郎殿の副将ですか」
「そうじゃ」
 その通りだとだ、信玄は幸村に答えた。
「そうなる。わかったな」
「わかりました、有り難き幸せ」
「ではじゃ」
 二陣は馬場が率い右は飯富、左は高坂となった。そしてそれぞれの諸将が配されてだった。
 信玄はあらためてだ、己の手足であり頭脳である二十四将と幸村に命じた。
「出陣じゃ、目指すは都じゃ」
「ははっ!」 
 赤い服と冠の者達が一斉に頭を垂れる。今ここに甲斐の虎が動いた。
 孫子の旗が動いた、その報は忽ちのうちに天下に伝わった、すると。
 義昭は狂喜乱舞した、そのうえで小躍りせんばかりになって天海と崇伝に言うのだった。
「これで織田信長も終わりじゃな」
「はい、上杉殿も動かれるとのことなので」
「それはもう」
「そうじゃな、武田だけではないわ」
 実に嬉しそうに言う義昭だった。 
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