永遠の空~失色の君~
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EPISODE9 クラス代表対抗戦~その3~
外部から爆音が聞こえてくる。その度に耳に付けたインカムから悲鳴が聞こえ、時折泣き声のようなものも聞こえてきた。
それに檄を飛ばす声も。
《ダメ!こっちはしばらくかかりそう!》
「ならそこは破棄して構いません。次の指示をだしますのでそこに向かってください」
《了解!》
矢継ぎ早に次のルートを指示してプログラムを走らせる。
「簪、そっちは?」
《今、指定ルートを走行中。打鉄弐式も、これくらいなら・・・・役に、たつ・・・・》
「ありがとう。あとで整備手伝うよ」
《うん・・・・約束・・・・》
ああ、約束だ。だから、この事態をなんとしても解決してみせる。
コンソールを走る指がさらにその速度を増す。意識が次から次へと流れ、すべての情報をくまなく把握する。
《ライ君!こっちは条件クリアだよ!》
《こっちもだ!》
次々に聴こえてくるクリアの声。モニタに映る赤い表示がどんどん青へと変わっていった。それとほぼ同時に山田先生の声が飛ぶ。
「指定箇所全てクリア、解析終了!ライ君、制限時間まで残り―――――」
「一夏、鈴。東側のカタパルトハッチを開ける。そこに敵をおいこんでくれ!」
《おう!》
白式と甲龍が抜群のコンビネーションでアンノウンを追い込んでいく。幼馴染故の息のあったフォーメーションは即席とは思えないほどキレがある。
喧嘩するほどなんとやら、とはよく言ったものだ。
やがて、二機がアンノウンを追い込む。零落白夜が唸り、甲龍の蹴りでハッチの真ん前に蹴り飛ばす。そして――――――
「・・・・これで」
「チェックメイト、ですわ」
開いたそこにはコバルトブルーの機体が。風にわずかに揺れる金髪がふわりと舞い、引き金にかけた指が最後の一手を指す。
放たれたビームの嵐が武装、頭部、スラスターを貫いた。
黒煙をあげて墜落する黒い機体。静寂が、重く落ちる。
*
報告:敵残存エネルギー0を確認。武装大破、再起動の兆しなし。警戒レベルを4から1へ移行。敵機完全に沈黙。オペレーションシステム、解除。
「・・・・敵機、完全に沈黙を確認。状況終了。みんな・・・・お疲れさま。そして・・・・ありがとう」
湧き上がる歓声。インカム越しに聴こえてくる大音量はとても聞いていて心地よかった。
そして、後ろでうずうずしている箒に振り返る。こんな状況でよく我慢したものだ。
「行ってあげて。僕はもう少しゆっくりいてくから。一夏のこと、いっぱい褒めてあげてくれ」
その言葉で箒はぶっきら棒に笑いながらも踵をかえして退室する。出てったあとに足音が加速した。やっぱり行きたかったんだね。
深く息をついて背もたれにもたれかかる。
「状況把握にプログラミング、そしてプランの明確な提示と指揮能力。おまえには本当に驚かされる」
「僕じゃない。みんなの協力があってこその結果です」
みんな、本当によくやってくれた。そう思いながら少し目をつむる。
*
報告:僚機白式、甲龍、ブルーティアーズ、健在。損傷なし。パイロットバイタル正常
報告:白式パイロット、軽傷。
あ、一夏が鈴と箒に殴られた。労いが拳とは、なんとも彼女らしいというかなんというか・・・・。
目をひらいて画面に映る友人たちのはしゃぐ姿を見る。
僕は、守ることができた。“今度はちゃんと守ることができたんだ”。
「ここの扉から最寄のカタパルトハッチまでの最短ルート、及びロックが手薄な場所の算出。同時に打鉄弐式よるハッチの開閉からオルコットへの指示。協力があったとはいえこれだけのことを成し遂げたんだ。もっと胸をはれ」
「・・・・あなたがほめてくれるなんて珍しいですね?」
「・・・・弟とその友人を救ってくれた。ありがとう」
褒めたのは照れ隠しだったわけか。
少し顔を赤くしてそれを見られまいと普段どうりに振る舞おうと頑張る姿がなんとも微笑ましい。ブリュンヒルデといえど、一人の女性。たった一人の弟が命の危機を無事に切り抜けたとなれば安心せずにはいられないのだろう。
「・・・・織斑先生」
「なんだ?」
「・・・・なんか褒められると違和感があるんですが」
「空気を読め馬鹿者」
出席簿ではたかれた。
ただし、威力はいつもより弱めのものだ。
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