永遠の空~失色の君~
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EPISODE8 クラス代表対抗戦~その2~
「なるほど・・・・」
グラウンドに穴の原因と鈴の機嫌の悪化、その原因の全てはどうやら一夏にあるようだ。
「一夏。いくらなんでもこれは酷い」
「そうだよな・・・・」
「わかってるなら今すぐにでも謝りに行くべきだ。・・・・と言いたいところだが、あの様子では取りつく島もないだろう」
鈴が一度機嫌を損ねたら長い、とはこのときの一夏談。これでは元もこうもない。仲直りどころではなくなってしまったわけだ。
「・・・・時間の問題、か」
ため息が三つ、夕闇のアリーナに落ちた。
◇
そいてむかえたクラス代表対抗戦。あの後鈴と話す機会が何度とあったが一夏は眼中にない様子で僕にだけ話かけてくる姿がなんとも気まずかった。
管制ルームにある大型モニタで対抗戦の試合を見ながらまたため息。この先二人の板挟みにあうのはごめんだ。なんとかして二人の仲を修復しなければ・・・・。
「いつになく難しい顔をしているな」
「そう見えますか織斑先生」
「さっきから私の話を無視してため息ばかりついて上の空だったからな。いい度胸だ」
仲直りさせるよりも自分の身の安全を考えたほうがよさそうだ。
「凰の機体、甲龍のあの武装、おまえならどう攻略する?」
「衝撃砲ですか・・・・。ハイパーセンサでも感知が厄介なら、空間の歪みが確認でき次第武装破壊に集中しますね。あれで攻められたら回避のしようがない」
砲身と砲弾が見えないうえに射程は360°。回避よりもダメージ覚悟で破壊、もしくは使用不能まで追い込むのが得策なんだろうが鈴がそれをさせてくれるとは思えないし、対策もあるだろう。ましてや一夏は近接ブレード一本のみ。これでは勝ち目がないようにしか見えるが――――――
「すごいですよ織斑君!!」
山田先生の声と同時に観客席から歓声があがる。一夏が鈴に対応し始めたからだ。
「ほう……」
モニタに映る一夏の奮闘ぶりにさすがの織斑先生も声を溢す。
「セシリアとの訓練で空間把握を、箒との訓練では剣の基礎を、って感じて徹底的にやりましたから」
織斑先生の声に答える。後ろの二人は誇らしそうに笑っているが、まだ油断はできない。
問題は龍砲の脅威だ。これをなんとかしない分にはどうにも状況は好転しない。
白式は甲龍に比べてかなり燃費が悪い。加えて零落白夜も能力こそ優れているもののその分のデメリットが大きい。これをいかにクリアするかだが・・・・
「まあ、今の奴には無理だろうな」
織斑先生の言葉が示す通り、モニタに映る一夏は右手を開いたり握ったりしている。これは彼の独特の癖で、これをやるときは到底初歩的なミスをする。
管制ルームに4つのため息が落ちる。
そして、その直後。それはあまりにも唐突に舞い降りた。
*
警告:所属不明の熱源接近。警戒レベルを4に移行
クラブのハイパーセンサが警告を促したと同時にアリーナに展開されていたシールドがまるでガラスのように砕け散り、何かが内部に侵入してきた。
黒い全身装甲に巨大な腕。無骨なフォルムに言い知れぬ雰囲気をだすそれはグラウンドの中心に佇んでいた。
*
報告:アリーナの警戒レベル4へ移行。客席及びカタパルト閉鎖。
「これは!?」
「落ち着け山田君。どうした?」
「防衛システムが外部からのハッキングを受けています!そのせいで、ここのハッチがすべて閉鎖されました」
「外部との通信は?」
「ダメです。さっきからやってますが、日本政府との回線がつながりません!」
やられた。これでは避難することも外から応援も呼べない。それに外にいるふたりにも危険が・・・・!
*
報告:アリーナ、シールド再展開
最悪だ。これでは完全に八方ふさがり、おまけに教師陣や上級生で構成された鎮圧部隊も送り込めない。
全隔壁は封鎖、外部との連絡は全て遮断されて応援も期待できない。そんな最悪な状況なのに、不思議と僕の頭は冷静だった。
「・・・・山田先生、インカムを貸してください」
山田先生の返事を聞くや否や僕は二人に通信をつなぐ。どうやらこのアリーナの範囲内には繋がるようだ。
「二人とも、聞こえるか?」
《ああ。よく聞こえてる》
「知ってるかもしれないが、状況は最悪だ。援軍も期待できない」
《そうみたいね。で、策は?》
鈴の言葉に驚く。
《あんたが連絡してくるってことは、なんかあるんでしょ?この状況を打破できる策が。とっとと言いなさいよ》
「・・・・ある。けど、少し時間がかかる。その機体の足止め程度で構わない。頼めるか?」
これは実戦。命を落とす危険すらある。そんな危険なことになっているというのに、僕も一夏も鈴も、極めて冷静だった。
《もちろん。まかせろ》
一夏が言う。
《あたしらの命、あんたに預けるわ。ライ》
鈴が頼もしい笑顔でいう。
「・・・・わかった。必ず二人を無事に帰還させる」
そこでいったん通信を切る。
「ちょ、ライ君!?」
「蒼月、なにか策があるんだな?」
「はい。けど、それにはみんなの協力が必要です。回線をオープンで開いてもらえますか?」
戸惑う山田先生だが、織斑先生に後押しされて回線を開いた。アリーナ全体に対しての放送のようなものだ。その回線に載せて、僕の言葉を流す。
《こちら、管制ルームの一年一組、蒼月ライです。状況はみなさんしっているかもしれませんが、最悪です。隔壁は封鎖され、ハッチも開かない。誰一人、ここから出ることはできません》
どよめきと悲鳴が聞こえる。耳をふさぎたくなるような声だが、言葉を続ける。
《ですが、方法はあります。それをやるにはまず、ここにいる全員の協力が必要になります。近くのモニタを見てください。これが今できる最善のプランです》
無茶だ、とだれかが言った。できっこないと、誰かが叫んだ。
でも・・・・それでも。
《・・・・今、外では二人の友人ががんばってくれています。それは命を落とすかもしれない、危険なことです。それを指示したのは、この僕です。ですが、二人は言ってくれました。命を預けると。僕は二人の想いに答えたい。だから・・・・その為には、みんなの協力が必要なんだ。無謀なのはわかってる。身勝手に危険に巻き込んでるのもわかってる。でも、それでも!僕はふたりを助けたい!何もなかった僕を友達だと言ってくれたふたりを守りたい!だから・・・・!」
「ライさん・・・・」
《・・・・だから、お願いします。みんなの力を、貸してください・・・・!》
静寂に包まれる空間。そして――――――
《ライ君・・・・》
「簪?」
《私、やる。なにしたらいい・・・・?》
《二年、黛薫子。あなたの気持ち、たしかに届いたよ。で、そうすればいいのかな?》
オープンで接続された回線から、次々に協力を申し出る声が聞こえてくる。気持ちが高ぶり、目頭が熱くなった。
「・・・・ありがとう、みんな」
やれると確信した。できることがるとわかった。
「ありがとう。それでは、こちらから指示を出します。まずは―――――」
◇
「・・・・たく、これじゃあたし達完全に救助を待ってるみたいじゃない」
「実際そうだろ?」
オープンで放送されたライの言葉を聞いて、二人が笑う。
「ま、それもそうだけど。あんなに盛り上げられちゃやるしかないわよね・・・・一夏、やれる?」
「愚問だぜ。ライがああ言ったんだ。俺達がやらなきゃ示しがつかねーよ」
「そう。なら・・・・」
「ああ」
ふたりして得物をアンノウンにその切っ先をむける。そして―――――
「「行くぜ/行くわよ!このデカブツ野郎!!」」
作戦、開始。
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