永遠の空~失色の君~
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EPISODE7 クラス代表対抗戦~その1~
女の子という生き物はとても不思議だ。一度した約束は何がなんでも守ろうとする。これは女の子というくくりに限らず当てはまることだが、大抵はそれほど重要でもない限り忘れてしまうだろう。
では、なぜ僕がそう思うのか。それは鈴が言っていた一夏との約束にある。
昔、彼女は自分が料理がうまくなったら毎日酢豚を食べてくれる?といったらしい。日本でいうところの毎日私の作る味噌汁を飲んでくれる?という、所謂プロポーズの言葉だ。それを言った時一夏はうんと答えたそうな。
これだけ聞けば、鈴の逆プロポーズ―――――そもそもこの時代に逆プロポーズという表現は正しいのかどうか疑問だが―――――を一夏は受け入れたということになる。
だが、これを一夏側はどうやら奢ってあげると勘違いしたらしく彼女と喧嘩になる。それが今日の昼ごろで、今度は箒とセシリアの訓練後にもなにかあったらしく再び喧嘩。そして今、彼女は僕の目の前で愚痴りながら起用に夕食のラーメンを食べている。ちなみに僕はカレーだ。
「よくわからないが、つまり鈴との約束を一夏が誤って覚えていた。それをなんとかして正しい形で思い出してほしいが喧嘩になりそうもいかなくなった。これでいいか?」
「さすがライ。飲み込みがはやいわ」
結局僕の言った通りのことになってしまったということか。一夏なら、と思っていてがまさかこうもとんとん拍子に事がはこぶとわ。
しかし今回の問題は一夏だけにあるわけではないのも事実。カッとなって怒ってしまう気持ちもわからないでもないが、そこは鈴が大人の対応をすべきところだったとも思う。
「だがきみにも些か問題はある。こうなることが予測できていたのなら気持ちのコントロールもできたはずだ。一夏も一夏だが鈴にも責める点はある」
「わかってるわよそれくらい・・・・」
「けどそおれができたら苦労しないわよ」とラーメンをすする。こうなってしまった以上謝ろうにも謝れない、ましてやそれはプライドが許さないだろう。鈴はそういう性格だ。だが切り出さなければこのまま平行線で進展はない。
(なんとかしてあげたいが・・・・)
こればかりは他人の僕がどうこう言ってもどうにもならなさそうだ。だがこうギクシャクされるとこちらの気が滅入る。やはりなんとかしないといけなさそうだ。
「なら、今度のクラス代表対抗戦の時にもし鈴が勝ったら素直に告白すればいいんじゃないか?」
「はぁ!?」
「そんなに回りくどいことするよりずっと効率的で手っ取り早いし伝わりやすい。それに僕にはその方が鈴にあっている気がするが」
「・・・・あんた遠回しにあたしのことバカにしてない?」
「違う。ストレートに言ったほうが誤解されることなく想いが伝わるだろうということさ。鈴は直球勝負の方が勝率は高いと思うし、なにより自信家な面もある。自分に自信をもって言えばきっと伝わるさ」
カレーを食べ終え、水を飲みほして「それに」と続ける。
「鈴はかわいいんだし、そのままのきみをぶつけたらいいと思うよ?」
「か、かわ・・・・!?」
なぜか顔が赤い。空調の効きすぎだろうか。そういえばきょうは少し肌寒い。
「まあなにはともあれ僕の意見はそういうことだ。それじゃ、僕はセシリアとチェスの約束があるからこれで失礼するよ」
「ちょ、あんた逃げる気!?」
「別に逃げてない。これから先は鈴の気持ち次第だ。僕がいくら言葉を並べてもきみが動かないかぎりどうにもならない。だからなにかあった時は助力するよ。それじゃ」
強制的に会話を切って食堂をあとにする。後ろの方で鈴がなにか仕切りに言っていたがスルーしておこう。
◇
「それで鈴さんと一緒だったのですか」
「ああ。まったく、一夏も鈴も大変だよ」
約束通りセシリアの部屋でチェスをしながら食堂でのことを話す。
「そいうえばセシリアはどうなんだ?」
「なにがです?」
「一夏を狙っているのなら早めのほうがいいんじゃないか?鈴も箒も強敵だぞ」
「・・・・ライさん。それは本気で言ってますの?」
「もちろん」
セシリアが壮大にため息をついた。疲れてるのだろうか?
「私は違います。一夏さんは仲の良いお友達ですわ」
「そうなのか」
「はい。それに私は・・・・」
セシリアと目が合う。きれいな瞳にシャワーからあがって間もないのであろう、石鹸のいい匂いがして・・・・
「セシリア・・・・」
「ライさん・・・・」
「チェックメイトだ」
「・・・・ライさん。ムードと乙女心という言葉をご存知ですか?」
またため息。やっぱり疲れているんだろうか。
◇
時は変わり翌日の放課後。鈴との対決を控えた一夏の特訓の為アリーナに集まったいつものメンバーで現在訓練中。一度目はセシリアにボロボロにされ、二度目は訓練機で打鉄を使っている箒にボコボコにされた。
そして、次は僕なんだが・・・・
「す、少し休憩させてくれ・・・・」
一夏の限界により休憩することに。まああれだけダメージを喰らえばいくら模擬戦仕様の設定といえど疲労はくる。かたや代表候補生のセシリアとそうでない箒は、まあさすがといってところだ。汗一つかいてない。
一夏・・・・これはさすがに僕でも男としてどうかと思うよ。
苦笑いをしていると、足音が聞こえてきた。その主は褐色の髪をリボンで二つにむすんだ小柄な少女、鈴だった。
「・・・・それじゃ、僕はなにか飲み物もってくるよ」
そういってその場から離れる。ここは二人に任せよう。箒とセシリアも静観するようだし問題ないだろう。
だがこの直後、戻ってきた僕を後悔の念でうな垂れる一夏と呆れてものも言えない箒とセシリアがいたのは言うまでもなかった。
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