永遠の空~失色の君~
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EPISODE5 ツインテールにご用心
クラス代表決定戦。ひょんなことから始まったそれは試合の結果だけ見れば一夏の敗北に終わったが、セシリアが代表になることを辞退したため一年一組の代表は一夏となった。
もともと代表の地位に興味のなかった僕はもちろん辞退。セシリアとの一件も落着したところで僕の目的は果たしている。
さて、きょうは記憶探しに図書館に来ている。ここならなにか記憶がもどるきっかけになるものがあるかもしれないからだ。だが・・・・
「・・・・キツイな」
主に視線が。忘れてはいなかったがここはIS学園。男子禁制の女の園、そこに男である僕がいるのだから視線が集中するのは致し方ないことだがこの前の決闘のせいでさらに拍車がかかったようで図書館内は静かなのに異様なプレッシャーにさらされていた。
正直、かなり帰りたい。だが今日は記憶探しと決めたし、あとでセシリアと合流する予定だ。帰るわけにはいかない。
少しでも気を紛らわすために手近にあったIS基礎理論と書かれた本を手に取る。これだけ科学技術が発展したこの学園で紙媒体のものがここまであることに少し驚いたがこういったものの方が頭に入りやすいこともある。
とりあえずぱらぱらと適当に流し見ていく。
わかる。これは束さんから施された記憶転写のもので僕自身が持っている記憶とは違う。IS関連のものは全て束さんからもらったものだからだ。
(これを読んでもしかたないか・・・・)
本を閉じてため息を一つ。「・・・・あの」声をかけられた。隣を見ると水色の髪をした眼鏡の少女が立っていた。どこかおっかなビクリなのはたぶん僕が男だからだろう。この学園に二人しかいない男子だ、好奇の意で積極的に話しかけてくれる子もいれば彼女のように男にたいして免疫のない子もいてもなんら不思議じゃない。
そんな彼女の目は本棚に戻しかけていたIS基礎理論の本にいっていた。
「これか?」
コクンと頷く。本を渡すと「ありがとう」と言われたのでこちらも返す。
「きみは・・・・一年生?」
リボンの色で判断した。
「うん。・・・・そういうあなたは・・・・蒼月、ライ・・・・君・・・・」
「僕を知っているのか?」
「有名、だから・・・・」
まあ予想はできていたけど。
「えっと・・・・名前を教えてもらえるか?話すうえで不便だ」
「更識・・・・簪・・・・簪で、いい・・・・」
更識簪―――――。たしかこの学園の生徒会長とおなじ苗字だったような。
「日本の代表候補生か」
「よく、知ってるね・・・・」
「ここの生徒の有名どころは一応」
でないとなんらかのトラブルに巻き込まれそうな気がする。前例があるからこれだけはしっかりしておこうと一夏の件を聞いて思った。
「代表候補ってことは専用機持ちか?」
この質問を投げかけた瞬間、簪の顔がすこし・・・・いや、かなり陰った。触れてはいけないことだったのだろうか。
「すまない。きみにとってこの質問は立ち入られたくないものだったか」
「・・・・ううん。大丈夫・・・・」
明らかに気にしている。気が優しい子なんだろうか、努めて表情を明るくしている。
「・・・・もしよかったら、僕にも手伝えないか?」
「え・・・・?」
「たぶんだと思うが、きみはISをくみ上げようとしてるんじゃないか?」
勉強の為だとも思えるが、それだけだとこの本は難しいことばかりでとても一年生のうちに習うようなことは書かれていない。
だとすれば、さっき僕が言った「専用機持ちか?」という質問での彼女の反応と日本代表候補生という立場。そこから推測されることは。
「きみの専用機はなんらかの理由で製作が途中で断念された。きみはそれをなんらかの形で回収し自身の手で組み上げようとしている・・・・違うかい?」
「・・・・蒼月君」
「ライでいい」
「ライ君・・・・あなた、何者?」
この学園に来てもう何度目かの質問だ。これからは迂闊に推論を述べるのはやめにしよう。
「ただの転校生だよ」
◇
それから簪とアドレスを交換して彼女からの連絡があったら手伝うということで僕たちは別れた。それからセシリアと合流し、今は学園の内部散歩コースを散策中。のどかな昼下がりの太陽が心地いい日差しをあびせてくれ、風もない。まさに散歩日和だ。
「なにか見つかりましたか?」
「これといってなにも。図書館にもそれらしいものはなかったから、多分この学園にはないんじゃないかと思い始めてきた」
がっくりとうなだれるセシリア。最初の印象からずいぶんと変わった彼女とは、今ではよく行動を共にすることが多くなった。メディカルルームでの“約束”をこうも律儀に守ってくれるとは非常にうれしい反面申し訳ない気持ちもあった。
「・・・・セシリア、僕は―――――」
言いかけて、ドン!と背中に何かがぶつかった。あまりにも突然なことですこしよろめく。足がもつれぬよう態勢を立て直そうとするが、すでに時遅し。そのまま倒れてしまった。
「ひゃん!?」
顔に、なにやら柔らかくておおきなものが。嫌な予感しかしない。
「ライさんて、意外と大胆なんですのね・・・・」
慌てて飛び退く。
「すまない!こんなつもりは微塵もないんだが・・・・」
「ちょっと!少しはあたしのことも気にかけなさいよ!?」
あたふたしているところに聴こえてきた声。振り返るとそこには褐色の髪を二つに縛った少女が尻もちをついていた。さっきぶつかったのは彼女だろう。
「すまない、考え事をしていてきみに気づくことができなかった。怪我はないか?」
「まあね・・・・あたしも前見てなかったしこれはお互い様かな」
手をとって起き上がらせる。
「見ない顔だが、リボンの色からして一年生・・・・転校生か?」
「よくわかったわね。あたしは鳳鈴音(ファン・リンイン)、鈴でいいわ」
「僕は蒼月ライ。この学園の生徒だ」
「生徒!?」
まあ転校生ならこの反応は当然だろう。公表されてないのならこれが当然の反応なんだが・・・・―――――
「一夏、あんたなんの冗談よ!?」
どうやらめんどくさいことになったようだ。
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