魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~
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第7話 「ダークマテリアルズ」
フロア内の照明が落とされているが、一部だけスポットライトで照らされている。そこには制服から衣装換えしたT&Hの看板娘が円形の台の上に立っており、彼女を中心に人ごみが出来上がっていた。その理由は、今まさに口を開こうとしている看板娘の方から説明があるだろう。
『れでぃーす&じぇんとるめん! みなさん、こんにちわ。ホビーショップT&Hの看板娘、アリシア・テスタロッサです。昨日から本稼動したブレイブデュエル、みんなで仲良く楽しんでますか~?』
アリシアの問いかけにフロア中から肯定の返事が発せられる。
フロアにはざっと見ただけでも数百人に上る人間が存在しているため大音量に聞こえる返事だった。デュエル中ならばそちらに集中するため気にならないだろうが、まだ始まっていない今はどうも胸の内が落ち着かない。
『今日はみなさんにブレイブデュエルの新しい魅力をお伝えしちゃうべくイベントデュエルをば~んと行いたいと思います』
アリシアのやつ……よくノリノリで司会進行ができるな。俺だったらあんな風にやるのは無理だから、こういうときの彼女だけは素直に尊敬する。
今回行われる勝負は昨日から行われていたフリーバトルではなく、ファーストステージと呼ばれる《スピードレーシング》と呼ばれるものだ。
アリーナに表示された障害物コースを進み、チェックポイントを通ってゴールする。ブレイブターゲットと呼ばれる物体を破壊することで追加ポイントを得られる。主なルールはこのふたつくらいであり、着順のポイントとターゲットのブレイクで得られるポイントの合計で勝敗が決するデュエルとなっている。
『補足解説のチーフスタッフ、エイミィです。このデュエルにはスピードの他に飛行技術と攻撃精度、このふたつが重要になってくるんですねぇ』
『なのです』
エイミィの言っていることは間違っていないが、チーフスタッフの部分は必要だったのだろうか。まさかだと思うが、チーフスタッフだと思われていないから宣伝しているのでは。
『さて……それでは本レースの参加デュエリストを紹介しましょう。まずは当店のエースで我が妹、フェイト・テスタロッサが率いるチームT&H!』
「アリシア……」
「ノリノリね」
自分の部分を強調された説明だったからか、フェイトは顔を手で覆っている。他の3人は呆れているといった感じだろうか。
『対するはインダストリーからの刺客! ロケテスト中の全国ランキング4位!』
「雷纏……強いぞ、すごいぞ、カッコイイ! ダークマテリアルズ斬り込み隊長、レヴィ・ザ・スラッシャーとはボクのことだ!」
レヴィはアリシアの司会に負けず劣らずノリノリで名乗りを上げた。
彼女の補足説明をするならばスタイルはインダストリーでカードのレア度はR。通り名は《雷刃の襲撃者》である。
『おぉーと、コレは凄い名乗りですね。ここら辺はうちのチームにも頑張ってほしいものです』
フェイト達がレヴィのように名乗っていたら異常な光景に見えるし、人はそれぞれ性格が違うのだから、レヴィのような名乗りを求めるのは良くないと思う。
『気を取り直して……知っている人は知っている、知らない人はまあ知らないでしょう。昨日はT&Hのお手伝いだったが、今日はダークマテリアルズの助っ人!』
「なあアリシア、説明がどことなく悪意に満ちてないか?」
『などと、いつもわたしに冷たい返しをする中学生で名前は夜月翔です。まあでも、好きな子にいじわるをして気を引きたいといったところでしょうから気にしてません♪』
思わず顔を手で覆ってしまった。
何で俺がアリシアに気があるようなでたらめな発言を大勢の前でするかな。誤解でもされようものなら、この店に来るのが億劫になるんだが……いやあまり気にしないでおこう。俺があまり意識していなければ、アリシアが適当に言ったと思われるはずだから。
「……ん?」
不意に衣服の一部を引っ張られるような感覚を覚えた俺は視線を落とした。すると実際の背丈よりもずいぶんと小さなレヴィの姿が視界に映る。
この小さなレヴィの正体は、フレンドNPCといってチーム戦で人数が足りないときに手持ちのカードから呼べる助っ人だ。今回の勝負はT&H側が4人、こちらが2人ということでレヴィが自分のカードから2体呼んでいる。
なぜ小さなレヴィ……チヴィが俺の注意を引いたかというと、どうやらもう1体が持っているアメを自分もほしいと訴えたかったからのようだ。レヴィのNPCだけあって食い気がある。
「悪いけど我慢してくれ」
アメを出すことは出来ないため、チヴィの頭を撫でながらそう言った。効果があるとは期待していなかったが、どこか犬っぽいところが本人にあるせいかチヴィは笑顔になる。
そんなことをしている間にステージの説明は終わり、レースの開始が近づいていく。ふとT&H側に視線を向けたとき、バニングスが何か考えている素振りをしているのが見えた。
何を考えているか分からないが、今回の勝負を俺まで勝ちに行くのは経験の差を考えても卑怯だろう。あの子達の面倒でも見ながらやることにするか。
『みんな位置について……スピードレーシング、レディ~GO!』
開始の合図と共に一斉にスタートする。
まず先頭に立ったのはレヴィだ。彼女のアバターは《ライトニング》タイプと呼ばれるスピード重視の高機動型であるため、この競技に優れているアバターだと言える。また本人の技量も相まって俺達との距離は徐々にだが確実に開いていった。
『まず飛び出したのはレヴィ選手……後続をどんどん引き離していますが、ブレイブターゲットは全て無視していますね。これは作戦でしょうか?』
ボク自身は1番でゴールを目指して、ショウやフレンドのボクらがポイントを取る。おそらくレヴィの頭の中にはそんな考えがあるのだろう。
俺がいるから作戦として問題ないだろうが、レヴィはフレンドNPCしかいない状態でも同じような作戦をしそうだよな。元のプレイヤーが同じフレンドNPCだと考えまで似たようなものになって弊害が起こることがあるし。
『おぉーと、そんなレヴィ選手に近づくひとつの影が……T&Hのフェイト選手だ!』
と、アリシアは実況した後で「うちの自慢の妹もライトニングタイプ。スピードでは引けを取りません」と個人的なことを言う。おそらくだが、フェイトはきっと恥ずかしくて顔を赤くしていることだろう。
実況によるとレヴィは直線的な軌道、フェイトは空中ドリフトを駆使したなめらかな軌道で進んでいるらしい。同じライトニングタイプでも実に対極的なスタイルだ。まあ性格自体もふたりは真逆なので自然なことかもしれないが。
『ふたりから少し遅れて追いかけているデュエリストが……って、何このコース取り!?』
アリシアの驚愕の声が聞こえたかと思うと、何かが盛大に壊れる音がコース中に響いた。実況の説明によると、高町が障害物のビルを壊してショートカットしたらしい。
――初心者ならでは……というか、大抵の人間は考えない発想だな。これを見ている多くの人間が驚いているに違いない。ロケテストの経験者なら特に……それにしても、スキルでビルを壊すなんて高町は意外とパワフルだな。
『あれ? 軌道から察するにもしかしてアリサは空を飛んでないの?』
「浮かぶだけならまだしも……人間が、空を飛べるわけないじゃない」
『頭固いよアリサ』
「うっさい!」
などとアリシアと会話しながらも、バニングスは見事な跳躍で進みながらターゲットを破壊していく。
飛行しない……今のところできないが正しいか。スタートからこんな調子だったから、この子がきちんと進めるか心配だったがとりあえず問題はないみたいだな。ただ……
「次のターゲットは高い位置にあるけど大丈夫?」
「あっ、はい大丈夫です。すずか」
「了解、アリサちゃん」
月村はスキルカードを発動させ氷の盾で段差を作った。それをバニングスは素早い身のこなしで昇って行く。
攻撃スキルが豊富なバニングスがターゲットの破壊で、月村は彼女の補助。レヴィ達に追いつけないと理解して自分のできることに専念なんて、ブレイブデュエルを始めて間もない子供ができることじゃないんだけどな。
彼女達の年代の子供は基本的に自分が活躍したがるものだろう。きちんとチームプレイができている彼女達は同年代よりも成熟しているのかもしれない。
そんなことを思っている内にバニングス達はターゲットを破壊し下り始める。飛行できないバニングスは飛び下りるのかと思ったが、月村がきちんと抱えていた。
「君達は本当に仲が良いね」
「友達ですから……あの、さっきから思ってたんですけど」
「私達と話してていいんですか?」
「良いか悪いかで言えば悪いかな。でもまあ……先輩として後輩がきちんとゴールできるか心配だったからさ」
「……アリサちゃん、早く飛べるようにならないと」
「い、言われなくても分かってるわよ!」
顔を真っ赤にしているバニングスと微笑みを浮かべている月村を見守りながら並走していると、チヴィ達がひとつのターゲットに固まっているという実況が耳に届いた。フレンドNPCではたまにあることであり、また元のプレイヤーがレヴィということもあって何ら不思議ではない。
さて……このままゴールするとレヴィに文句ばかり言われるだろうな。バニングス達には悪いけど、ここいらで見守るのは終わりにしよう……って、見守るっていうのも舐めてるようで失礼か。
「このままだとこっちが劣勢になりそうだから……残りのターゲットはもらうよ」
★
前半戦はレヴィが圧倒的な速さを見せ付ける形で1位を獲得したが、バニングス達のターゲット撃破や高町達の好プレーにより、82対83とT&H側が優勢という結果になった。
今は後半戦に入る前の休憩時間だ。T&H側は作戦会議を行っているようだが、こちらは頬を膨らませた子供の相手を行っている。
「もう、ショウが真面目にやらないからボク達負けちゃってるじゃん!」
「ロケテストに参加してた俺達が全力で初心者を叩き潰してどうするんだ。そもそもレヴィは高町の力量を確かめに来たんであって、自分の実力を見せ付けに来たわけじゃないだろ?」
「それはそうだけど……負けるのは嫌だよ。王さま達にも悪いし」
こいつも何も考えていないようでちゃんと考えているんだな。まあ前半戦であの子達も問題ないって分かったし、後半はレヴィのためにも真面目にやるか。あの子達には悪い気もするけど、あまり手を抜き過ぎるのも良くないだろうから。
「2周目も私となのはが高順位を狙って……」
「あたしとすずかが」
「ターゲットをきっちり狙う作戦だね……ただ問題はショウさんだよね。さっきも後半は全て取られちゃったし」
「すずかちゃん、弱気になっちゃダメだよ」
「うん。ショウさんは凄いデュエリストだけどこれはチーム戦。私やなのはもできるだけターゲットを破壊すれば勝てる可能性は充分にあるはず」
どんなことを言っているのかはよく分からないが、雰囲気からして作戦が無事に決まったのは分かる。
可能性として、基本的に前半と同様だがフェイト達も出来る限りターゲットを狙う作戦が高いな。レヴィは先ほどと同様に1位を狙ってもらうのが妥当だから必然的にターゲットは俺の担当……だが全員でターゲットを狙われるとなると厳しい部分があるな。
高順位を狙える速度でターゲットを破壊して行ってもいいが、それだとフェイトとの勝負になる。速度ではあちらが有利であり、彼女は全国ランキング2位の猛者だ。ポイント差をつけるのは難しいだろう。チヴィ達が先ほどのように固まってしまったら……
「くっくっくっ……一度成功したからといって策も練らず、相手の力量も熟知しておらんというのに同じ策に頼る。人はそれを短慮と言うのだ、このうつけめが!」
突如ステージ内に響いた声に俺達の視線は上へと向いた。太陽の位置の関係ではっきりとは見えないが、ふたつの人影がビルの屋上にあるのは分かる。
「だ、誰!?」
「ふん……貴様らに名乗る名前などないわ!」
「やっほ~」
あの軽い感じ……ひとりはアリシアか。もうひとりは声や口調からして彼女だよな。
などと思っていると、ふたつの人影はビルから飛び下りる。空中にいる間にそれぞれリライズアップを行い、着地と同時にポーズを決めた。それと同時に、ステージ内にアリシアの代わりに進行を務めることになったエイミィの声が響く。
これは関係ないのだが、ド派手に登場した姉に対して恥ずかしさを覚えているのかフェイトの顔は赤い。その隣にいる高町は拍手をしている。本当にこの子は純粋な子だ。
「というわけで後半戦は私アリシアと、ロケテスト時のチャンピオンチームのリーダーであるディアーチェを加えて行いたいと思います!」
おいおい、プレイする側になったのに実況するのかよ……。
これを言葉に出さなかったのは、外でエイミィが実況の仕事を奪わないでほしいと言っているのが聞こえたからだ。
何故かエイミィの隣にプレシアさんがいるのも見えたが、またサボってるのだろうか。もしそうならリンディさん大変だな……何か彼女が黒い笑みを浮かべた後に叫び声を上げたような気配がした。プレシアさんの身に危険が迫っているのではないか、と思ったが結論から言うと彼女の自業自得であるためどうでもよかった。
「王さま!」
「ぬおっ!?」
「王さま、王さま!」
「ええぇい、うっとぉしい!」
ディアーチェの腰付近には元気溢れるレヴィが抱きついているため、彼女から出た言葉は当然のものだろう。俺もレヴィに抱きつかれることがあるため、彼女が感じているであろう鬱陶しさは良く分かる。
「抱きつくでない……ん?」
「ごめん王さま……前半負けちゃった」
「……このたわけ」
呆れつつもどことなく優しい声色でそう言いながら、ディアーチェはしょんぼりしたレヴィの額を指で弾く。レヴィは悲鳴を上げて額を手で押さえたが、そこまで強くやったようには見えなかった。心配するようなことは何もないだろう。
「前半の負けがどうした。我と貴様が揃ったのだ、ちびひよことその一味なぞ恐るるに足らん。大差をつけてひっくり返してくれようぞ!」
「う、うん!」
ディアーチェの励ましによってレヴィは元気を取り戻したようだ。
普段はあの元気の良さにうっとしさを感じたりするが、元気がないとそれはそれで嫌だよな。元気のないレヴィは見ていて心配にしかならないし……っと、ふたりの視線がこっちに向いたな。
「大体ショウが真面目にやらなかったから悪いんだぞ!」
「おいおい、失礼だな。俺は真面目にやってたぞ」
「真面目にやってたら負けてないよ!」
「レヴィ、やめんか。ごちゃごちゃ言ったところで現状は変わらん」
俺に詰め寄ってくるレヴィに制止をかけながらディアーチェは視線をこちらに向けてきた。彼女の瞳には、前半戦に関することで責めるような思惑は見えない。何かを促すような気はしないでもないが。
「悪いなディアーチェ」
「その謝罪はどっちの謝罪だ?」
どっちという言葉に惑いを覚えた俺は、一瞬ではあるが理解が遅れる。それによってディアーチェは呆れた表情を浮かべ続けて言った。
「我が理解しておらぬとでも思っておるのか。さっさとせぬと後半戦が始まるぞ」
真意を理解した俺はきっと驚きの顔を浮かべていたことだろう。そうでなければ、目の前の彼女が「我を誰だと思っておる?」と言いたげな微笑を浮かべるはずがない。
――さっきのレヴィへの言動もそうだけど、本当にディアーチェは人の気持ちを読み取ることに長けてるよな。俺がやろうとしていることなんて普通なら怒ってもいいはずなのに。
「……お前には敵わないな」
「ふん、伊達に長く付き合っておらぬわ」
「え? え? 何だかボクだけ仲間はずれにされてるような……」
微笑を浮かべる俺達をよそにレヴィだけは困惑した顔を浮かべている。が、今は彼女に構っている時間はない。
「エイミィ」
『はいは~い、どったのショウくん?』
「後半戦だけど俺は参加しないから」
『ほいほい了解……ええっ!?』
さらりと承諾したように見えたのもつかの間、エイミィはすぐさま驚愕の表情を浮かべた。予想外の事態に今のような反応をしたのだろうが、何故かエイミィがやるとわざとやっているようにも思える。日頃の行いが大事というのは、こういうときに疑われないために言われているのだろう。
『ちょっ、これからさらに盛り上がるってところだよ。じょ、冗談だよね?』
「冗談じゃない」
『……マ、マジっすか?』
「マジだよ」
俺が口を閉じるのと同時に、モニター越しに見えるエイミィはキョロキョロと周囲を見渡す。何をやっているのだろう、と見ていると彼女はぎりぎりまで顔を寄せて小声で話しかけてきた。
『こ、これから何か用事があったの?』
「何でひそひそと話す?」
『いやほら……デートとかだったらこの場で聞くのは不味いかなと思いまして』
そういう気遣いが出来る割に、顔には「あとで聞くけどね」って書いてあるように見えるんだが……人の恋路を心配する前に自分の方を気にするべきだろうに。
「そんなんじゃない。大体、仮にそうだったとしても別に不味くはないだろ」
『え……ショウくんて意外と――』
「誰と行くとか絶対に今でも後でも言うつもりないし」
『――気さくに話してくれる……って、やっぱり君は私の思ってたとおりの子だったよ!』
何をひとりで盛り上がっているのだろうか。というか、そんなに声を張ったら今までのやりとりの意味がなくなるのでは。
「エイミィ、どうかしたの?」
『聞いてよアリシアちゃん。ショウくんが後半戦に出ないって!』
エイミィに話しかけたアリシアだけでなく、T&H側全ての視線が俺に集中した。テスタロッサ姉妹は理由についてある程度予想がついているように見えるが、あの初心者3人組には疑問しか見えない。
「ショウさん……何か用事があるんですか?」
「それは……あるとは言えないけど」
「だったらどうして……」
「簡単なことよ」
少女達の声を遮ったのはディアーチェだった。腕組みをした状態で彼女は少女達を真っ直ぐ見据え、淡々とした口調で話し始める。
「我らと貴様達とでは実力が違うのだ。ショウが参加していては一方的な展開にしかならんだろう」
「なっ……そっちがどれだけ凄いのか知らないけど、こっちにはフェイトやアリシアだっているのよ! ふたりも黙ってないで何か言ってあげなさい!」
と、話を振ったバニングスだったが、テスタロッサ姉妹は微妙な表情を浮かべている。それに彼女が戸惑いを覚えたようで、表情から怒りが薄れて見えた。
「どうしたのよ?」
「……正直に言って否定できない」
「な、何でよ?」
「それはねぇ……実際のところ、レヴィとショウだけでも厳しいんだよね。前半はショウが本気じゃなかったから勝ち越せたってのはアリサも分かるでしょ?」
「それは……」
「それに……ロケテの時のチーム戦、対ダークマテリアルズでの私達の勝率って2割くらいなんだ。全国で1位になれたかもしれないショウが入った状態で本気出されたら……言わなくても分かるでしょ?」
T&H側に暗い雰囲気が漂い始めるが、俺やディアーチェがフォローする前にテスタロッサ姉妹が動いた。
「まあ実際のところ、勝敗がどうこうって前にショウはダークマテリアルズの一員じゃないからね。みんながちゃんとできるか心配だったから参加しただけみたいだし……というか、それならこっち側で参加すればいいじゃん!」
「アリシア……そこで怒るのはおかしいんじゃないかな?」
「おかしくないよ! ショウがあっちに取られちゃったら今後やばいんだから。それにフェイトだってショウと一緒の方がいいでしょ?」
「え、いや別に私は……ショウさんがこっちに入ってたらレヴィが厳しくなってただろうし」
「もう、フェイトは気を遣いすぎ……そんなんじゃ誰かに取られるよ」
アリシアが何か耳打ちするのと同時に、フェイトの顔は真っ赤に染まった。俺に文句を言うアリシアをフェイトが宥めるという構図に見えていたのだが、いったいどういう会話に発展したのだろうか。
「べべ別に私はショウさんのことなんて……!」
「あれ~、お姉ちゃんはショウなんて一言も言ってないんだけどなぁ」
「うぅ……」
「ライバルは……割と多いんだから頑張らないとね」
アリシアはほんのわずかな時間だが視線を高町のほうに向けた。距離が離れていたため、そのように見えただけかもしれないが。
「え……そうなの?」
「さあ?」
「……あんた達、話が逸れてるような気がするんだけど」
「ロケテじゃ5回に1回くらいしか勝てなかったけど今はみんなもいるし、それにわたし達もあのときよりもレベルアップしてるからね。頑張れば勝てないことはないよ!」
「何か強引に戻した!?」
「うん、みんなで頑張ろう!」
「何で疑問もなくそうなるのよ!?」
「なんだかんで、みんないつもどおりだね」
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