魔法少女まどか☆マギカ ~If it were not for QB~
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参話 幸せ
「あっ、みんな~」
放課後、病院前で待ち合わせることにして各自帰宅してからやってきたのだが、さやかとほむらは既に到着していた。
まどかも待ち合わせの五分前にきていたのだが、二人の方が早かったらしい。
「ごめんっ、待ったかな?」
「いえ、私たちもさっき来たところですから」
「何かデートっぽいね、うちら」
「さやかちゃんっ!!!!」
あははと笑う二人に、まどかも釣られて微笑みを漏らす。爽やかな風が三人の髪を揺らした。
「それじゃあ、行きますか」
「うん、行こっ、ほむらちゃん」
「はいっ」
市立見滝原総合病院、この町で一番大きな規模の病院で、設備もよいものが整っているらしい。
さやか曰く『私もこんな所に入院してみたい』だそうだが、今のところ彼女が入院するような大事は無いに違いないのだけれど。
「なんであいつの病室は遠いのかね~……こういうときに困るんだけど」
「ほむらちゃん、大丈夫?」
「あ、はい……病院の中、慣れてますし」
慣れの問題はあまり関係ないと思うのだが、ほむらがそう言うのならそう言うことにしておく。
「失礼しま~す……おっ、いたいた」
「さやかか……ん、友達かい?」
上条恭介、さやかの幼馴染で彼女の好きな人だ。この世界でなら、二人は想いを重ねられるのだろうか。
彼しかいない少し広く感じる病室、まどかは窓を開け空気を入れ換えた。
「鹿目まどかです」
「暁美、ほむら、です……」
「何と言ってもほむらちゃんは今日転校してきたばっかりの旬の話題のスポットなのさ」
「そうなのか……さやかがいつもご迷惑おかけします」
全体的に色素の足りない顔で上条は笑う。さやかの話によると彼の入院の原因は事故による腕の損傷とのことだったが、まるで不治の病を患っているような顔だ。
「あ、そうだ恭介。この前言ってたCD、買ってきたよ」
「アヴェ・マリア……ありがとう、さやか」
さやかが渡したのはヴァイオリンのCDだった。彼の好きな奏者が演奏したものらしく、最近出たのでさやかがそれを買ってくるのを依頼されたのだった。
「上条君って、こういうの聞くんだね」
「まあ……自分で弾けないから、音楽を楽しむならCDやコンサートを聞くしかないんだけど」
「上条さん、ヴァイオリン弾けるんですか?」
「私は詳しいこと知らないけど、何かその筋じゃ有名だったらしいよ」
だった……と言う言い回しが少し寂しい。彼はさっそくCDをプレイヤーに入れて再生した。
情感溢れる旋律に乗って弦の柔らかい響きが時間を埋めていく。確かに、その筋で有名な彼がわざわざ他人に依頼してまで買ってきてもらう演奏だ。
「……何だか、凄いですね」
「この曲はね、僕がヴァイオリンを始めるきっかけになった曲なんだ。この曲が弾いてみたくて、音楽の世界に入ったんだ」
「良いと、思います……そういうの」
ほむらが静かにつぶやくように言う。力強い含みが確かにそこにあった。
「私は、特に何か目標があるわけでも無いですから……」
「ほむらちゃんだって何かやればいいよ。きっと何か他の人より凄いことができるはずだって」
「そんなっ、私なんて……鹿目さんの方がずっと……」
「まあまあ、そんな所で言い争ってないでさ。恭介、そろそろうちら帰るね」
「うん……二人とも、さやかを宜しくお願いします」
「ははっ!!!!!」
「ふふふっ……!!」
「あのな~……」
笑う二人と呆れるさやかを見て、上条恭介は自然と頬を弛ませるのだった。すると……
「あれ、あの子……」
「知ってる子?」
「あ、うん……最近近くの病室に入院してきた子なんだ。小児ガンらしくてね、以前チーズケーキを持っていったら看護師さんに怒られたよ。チーズは大好きなのに、病気のせいで食べられないらしくて……」
まどかもちらりと見た。お菓子の国のようなファンシーなパジャマを来た小さな女の子だ。ずっとこちらを見ていたのだろうが、自分たちの視線に気づいて逃げ出したのだろ……
がたっと言う音が廊下でした。急いで逃げ出したから転んだのだろうか。だとしたらまずい、ガンの女の子なのに。
「ちょっと行って来r……だ、大丈夫!!?」
「……っ」
女の子は頭の先から胸のあたりまでのサイズの人形を持っていた。それがクッションになって助かったらしい。
だが、まどかはその人形のフォルムを見て絶句した。しかし、冷静に頭を働かせてみればそれは安堵に変わる。
その人形はいつかの世界で巴マミを喰い殺した魔女にそっくりだったのだ。それが何を意味するかまどかだけは知っている。
「そっか、あの子も世界を絶望せずに済んだんだね……」
キュゥべえが存在していた頃の世界で、彼女が何を願い魔法少女になったかは分からない。もしかしたら病気を治してほしかったのかもしれないし、前の世界では病気でも何でもなかったのかもしれないが、それでも彼女が絶望する未来を絶つことが出来たのだ。
魔女になって他人を殺す人生を歩むよりは今の方が良いに違いない、勝手な偽善のようだったが、まどかは自分の願いが世界の為であると強く信じていた。
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