うどん
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第三章
第三章
朝にはまず立ち食いで昼や夜は普通の店に入って。とにかく食べまくった。それは今もであった。
「うどんといっても色々ね」
「そうだね」
またうどんを食べている。今度は鍋焼きうどんだった。二人でそれぞれ土鍋を前に置いてはふはふと汗をかきながらそのうどんを食べていた。
「ただ。大体わかったよ」
「何が?」
「おつゆだったっけ」
まずはつゆについて言う。
「このスープは」
「ええ、そうよ」
ワンダは夫の問いに答えた。
「おこのおつゆはあれだね。お醤油で味付けしているよね」
「そうよ、和食だからね」
夫の問いに素直に述べる。
「それはわかるわよね」
「うん、ただ」
「ただ?」
「本当に不思議な味だよ」
鍋焼きうどんのそのおつゆを飲みつつ妻にまた述べる。
「この味は。何ていうかな」
「詳しい味を知りたくなったの?」
「どうやってこんな味になるんだろう」
首を捻りつつ述べる。
「ええと、中国の麺類とかはあるじゃない」
「ええ」
ニュージーランドにもチャイナタウンがある。チャイナタウンはそれこそ世界中にある。ツィ最近までないのは韓国だけとまで言われていたのであるが最近できたようである。
「あれは豚とか鶏の骨から味を取っているけれど」
「このおうどんは何かしらね」
「まずそれがわからないよ。本当に日本の味らしいけれど」
「お味噌を使ったものもあったわね」
「味噌煮込みうどんだったっけ」
二人は既にそれも食べていたのである。
「あれは凄かったね」
「そういうのもあればね。こうしたおうどんもあるし」
「凄いよ。ただ」
「ただ?」
「本当にこのだしは何なんだろう」
首を傾げつつ味わっての言葉であった。
「美味しいけれど。それがわからないや」
「本屋さんがあるじゃない」
ワンダは自分達が日本語を使えるということをここで最大限に活用することにした。それをまずは本に対して使うことにしたのである。
「そこに入って本を買えばわかるわよね」
「うどんに関する本だよね」
「そうよ。買ってみる?」
「そうだね」
妻の言葉にすぐに答えてみせた。
「ここはね。是非知りたくなったよ」
「食べるだけじゃなくて知りたくなったのね」
「だって。あまりにも美味しいから」
そのうどんの麺をすすりつつ述べる。
「だからだよ。美味しいのは罪なんだよ」
「罪なのね」
「そうだよ。何かを知ることが罪っていうんならね」
笑っての言葉だった。これは実にキリスト教的な考えであった。キリスト教では知るということは罪であるという考えが確かに存在している。あの林檎の話である。
「これは立派な罪だよ」
「ウッディにとっては林檎じゃなくてうどんだったのね」
「本当に。美味しいから」
それをまた言う。完全に取り憑かれている。
「だからだよ。知りたいよ」
「じゃあ決まりね。食べ終わったら」
「本屋にね。それでこの麺についても調べようよ」
「わかったわ。それじゃあね」
「うん」
こうして二人はうどんに関する本を買うことにした。それも何冊も買いそれで調べてみた。その結果二人にとって実に面白いことがわかったのだった。
「面白いわね」
「そうだね」
滞在しているホテルに戻って最初のやり取りはこれであった。
「海草でだしを摂っていたのね」
「それと・・・・・・鰹節?」
「鰹を燻製にしたものらしいわ」
ワンダは本のうちの一冊を読みながら夫に説明する。
「和食ではよく使うらしいわ」
「ふうん、それを細かく切ってそれからなんだ」
「手間がかかってるわね」
「そうだね。それに」
アレンもまた本を読んでいる。その中でまた言うのである。
「見てよ、干した魚までだしに使ってるよ」
「想像以上に変わってるわね」
「変わっているっていうか信じられないよ」
ニュージーランド人の彼から見ればこう言うしかないものであった。彼にしろ妻のワンダにしろ今までこうした和食は食べたことがない。だからこれも当然だった。
「それに麺だってね」
「面白い作り方ね」
「パスタとは全然違うね」
「練ってそれから粉をまぶした上で包丁で切っていくらしいわね」
「何処か中国のそれに似ているね」
「ええ」
実は二人は中華料理は食べたことがあるが和食は殆どないのだ。それでこうした和食にとっては基本的な話も全く知らなかったのである。
「麺に関してはそうね」
「それでも。とにかく独特だよ」
「けれど美味しいのは確かね」
「うん」
妻の言葉にまた頷いてみせる。そのうえでまた言うのだった。
「ところでさ」
「どうしたの?」
「これ、日本でしか食べられないのかな」
彼はそのことを心配していたのだ。
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