絶対の正義
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第二十六章
第二十六章
「この悪人を!いじめで人を自殺に追い込んだ悪人を!」
「主人が悪人だっていうんですか!」
「そうだ、その通りだ!」
岩清水はここぞとばかりに抗議してみせた。
「いじめは悪だ!いじめをする奴は悪人だ!」
「鳥越は悪人だ!」
「悪人は裁け!」
「成敗しろ!」
ここでも同志達が次々に叫ぶ。そうして。
店の中を次々に壊していく。鳥越がうずくまっているカウンターの計算機もだ。そうして彼の前にその壊した店のものをぶちまけるのだった。店の商品まで次々と粉々にしていく。
「悪人のものなぞ壊してしまえ!」
「これは正義の裁きだ!」
「いじめっ子への裁きだ!」
「兎殺しへの天誅だ!」
やはり警察は止めない。デモの警戒にあたっているが何も動かない。彼等のいる警察署は事前にこのデモに関する電話が業務に支障をきたすレベルで殺到しデモに対して何も言えなくなっていたのである。それに鳥越の行動を聞けばどうしても心理的にも動けなくなったのである。
「それにだ。この男はいじめていた相手の食事にこうしてゴミを入れていた」
「目には目を!歯には歯をだ!」
ハムラビ法典の有名な一句まで出される。
「だから我々は今こうしているのだ!」
「義挙だ!」
「そうだ、悪人に天誅を下す義挙だ!」
「その義挙で何もかも壊して」
鳥越の妻はそれでも抗議を続ける。何を言われてもだ。
「お義父さんもお義母さんも心労で倒れて動けなくなって。全ては貴方達のせいなのに」
「悪人の親も罰しろ!」
「悪人を育てた天罰だ!」
「そうだそうだ!」
「当然の報いだ!」
家族についても同罪だという。
「何もかも破壊してやれ!」
「糾弾してやる!」
「許さないぞ!」
「うう・・・・・・」
女も流石に夫を持って店の中に隠れるしかなかった。そうやって難を逃れる。しかしそれで終わりではなく例によってデモ隊は連日連夜抗議活動を続け罵詈雑言を浴びせる。店の経営は完全に崩壊し潰れた。鳥越の両親は親族に引き取られ妻もそれに従った。そして鳥越は。
抗議のデモ隊が去ったある晩のことだった。ふらふらと店の外に出て彷徨った。やがて踏み切りに出てそこで倒れ。何もかもが終わった。
これで彼も死んだ。そうして小笠原もであった。廃墟になった自宅で衰弱死しているのが発見されたのは随分後のことだった。彼もまた死んでしまいこの事件の関係者は全て報いを受けたことになった。
岩清水は自宅においてサイトの更新をしていた。いじめっ子達の末路を書いてそれを天罰であると記したのである。その彼の後ろに高校生程度の少年が来た。それで彼に声をかけてきたのであった。
「健一郎兄ちゃん」
「ああ、健也君か」
見れば彼そっくりの顔と雰囲気である。その彼に顔を向けて笑顔で声を返したのであった。
「来てたんだ」
「いじめサイトの更新してたんだね」
「うん、また悪が報いを受けたよ」
小笠原達の末路の記述を見ながら笑っていた。
「またね」
見れば彼等の写真もある。しかしどれにもバツマークが描かれている。これだけで何があったのか充分察しができるものがあった。
「よかったね、またいじめっ子が滅んだんだ」
「いじめは最低の行為だよ」
岩清水は少年に対して告げた。
「本当にね」
「そうだよね。兄ちゃんの言う通りだよ」
「君は僕の従弟だから言うけれど」
「うん」
その従兄の言葉に頷く彼だった。
「いじめなんてする奴はどんな奴でもどんな手を使っても」
「徹底的に叩き潰せばいいだね」
「そう、容赦をしたらいけないよ」
こうまで話すのだった。
「もうね。腕力がありそうな相手でも陥れて周りを囲んでずっと糾弾すれば参ってしまうからね」
「そして参ったら?」
「さらに攻めるんだ」
彼のやり口をそのまま従弟に教えるのだった。
「絶対にね。許したら駄目だよ」
「絶対に許さない」
「そう、どんな手段を使ってもいいから攻めて攻めて攻め抜いて」
まずはそこを強調する。
「潰すんだよ」
「潰すんだね」
「健也君ならできるよ」
そして従弟に対して告げるのだった。
「絶対にね」
「じゃあ今度転校するけれど」
「その高校でいじめがあったら。いいね」
「わかってるよ。その時は僕も戦うから」
強い決意と共に語る彼だった。
「兄ちゃんみたいにね」
「期待しているよ。じゃあその時にはね」
「徹底的にやるから」
にこりと笑って言い合う二人だった。そしてその時は確実に来る、こう確信もお互いにしていたのであった。
絶対の正義 完
2009・10・31
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