鋼の魔神と月の光
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プロローグ
無数にある並行世界。その中にある『魔法少女リリカルなのは』の世界の一つ。ここは、崩壊する寸前だった。
その中で唯一残った研究所のような場所。ここで、この世界の住人である一人の少女“月村すずか”が黒いコートを着た青年と向き合っていた。
「何で、一緒に逃げないんですか。」
すずかは青年にそう語りかける。すると、青年はこう答えた。
「“奴”をこのまま放置していたら、同じ悲劇が様々な世界で撒き散らされる。だから、ここで倒さなければならない。例え、刺し違えても・・・」
「なら、私も一緒に戦います!!」
「ダメだ。奴を倒すのは奴と同じ“転生者”である僕の役目だ。君達は生き延びろ。」
「嫌です!!!」
「なのはもフェイトもはやても皆、そんな事は望んでいなかった。」
「でも!!」
青年について行くと言って聞かないすずか。
『ダメでしょ、すずか。智春を困らせたら。』
すると、そんな彼女の背後に一人の少女が現れた。鮮やかな金髪を持つすずかと同じくらいの年齢の少女だ。だが、彼女は生身の人間では無かった。その身体は透けていて、足は地面からわずかに浮いている。
「アリサちゃん・・・」
『すずか。私がこうなったのは、すずかに戦いで命を捨てさせるためじゃない。二人で生き延びるためよ。』
「アリサちゃんは智春さんを見捨てるって言うの・・・」
『私だって本当はそんなの嫌よ!!でも、私たちを守ってくれたなのは達の想いだって、無駄には出来ない・・・』
「あ・・・」
アリサの言葉で思い出した。自分達を庇い、倒れていった仲間…いや、友達の姿を。
その時、彼女がはめているグローブから声がした。
《そうですわ、お嬢様。ここで私たちまでもが倒れてしまっては、彼女達の犠牲は無駄になってしまいます。》
「スノーホワイト・・・」
「それに、この世界の住人の最後の生き残りである君たちも消えてしまえば、それこそ“奴”の思い通りだ。」
智春と呼ばれた青年も再び説得をし始めた。
「それに、僕も最初から刺し違える積りは無い。あくまで、覚悟の話だ。生き延びる事が出来たら、必ず君を追いかけるよ。」
「本当、ですね。」
「ああ。約束する。」
すずかの言葉にそう答えると、智春は部屋の中に置いてあった銀色のトランクを手に取り叫んだ。
「来い!黒鐵(クロガネ)!!!」
そして、彼が叫ぶとトランクが開き、その中から濃密な“闇”が溢れ出た。
《闇より暗き深淵より出でし、其は科学の光の落とす影》
そして、“電子音声”による呪文が鳴り響くと共に闇の中から巨大な影が現れる。それは漆黒の鎧を纏った巨人だった。だが、鎧の所々はひび割れ、白い部品により補修され、まるでパッチワークのような姿になっている。
「黒鐵・改。こいつなら“イグナイター”でブーストすれば奴を倒せるし、後で君たちを追いかける事も出来る。」
「分かりました。」
「じゃあ、言ってくる。」
そう言って、智春は黒鐵・改の肩に乗ると、出撃した。
『すずか。私たちも・・・』
「うん。」
アリサに言われ、すずかは心を落ち着ける。そして、自分に託された力の名を叫んだ。
「来て、鋼!!」
すると、アリサの姿がかき消えすずかの影が色を変える。何も映さない虚無の色へと。
『闇より暗き融炉より出でし・・・』
アリサが呪文を詠唱し始めた。だが、その声は途中から地の底から響くような低いものへと変化する。
『其は科学の鎚が鍛えし玉鋼』
すると、すずかの影から鋼色の巨大な右腕が現れた。やがて、左腕も出現し、影をこじ開ける。そして、鋼色の魔神の上半身が姿を現した。
「行こう、鋼・・・ううん。アリサちゃん。」
そして、すずかは鋼の手の上に乗ると、共に影の中へと沈んでいった。
黒鐵・改の肩に乗り、“奴”の下へ向かっている智春は一人つぶやいた。
「すまない、すずか、アリサ。君たちには嘘をついた。イグナイターは“魔神相剋者(アスラクライン)”の力をブーストする装置なんかじゃない。暴走させる装置なんだ。“魔力炉式”の黒鐵・改ではどこまでいけるかわからないが、赦してくれ・・・」
続く
後書き
何故すずかの機巧魔神が鋼かって?
黒鐵よりも合うと思ったから。
※ちなみにその次にすずかに合うのは翡翠。
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