絶対の正義
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第二十四章
第二十四章
「犯罪者の親!」
「犯罪者の親は犯罪者だ!」
「人殺しだ!」
彼らに対する攻撃も連日連夜に渡った。筑紫の手術室の前で始終抗議を続けそれは手術が終わってからも続いた。それは意識不明の筑紫にも届いたのだろうか。それとも医者や看護士達の手がそれで鈍ったのだろうか。それとも既に手遅れだったのだろうか。筑紫は間も無く死んでしまった。
その葬式は無惨なものだった。葬儀屋も僧侶も誰も来なかった。筑紫の悪評を聞いて誰もが引き受けなかったのだ。会社は倒産した。岩清水達の連日連夜の会社前での抗議活動とネットでのネガティブキャンペーンにより評判が最悪なまでに落ちその結果取引できなくなったからだ。その結果として会社は倒産した。
親族全員からもこれまで交友があった人達からも縁を切られた。当然葬儀をする場所も誰も貸してはくれなかった。筑紫の両親達が残った僅かばかりの財産で葬儀を自分達だけで行った。そうしたまことに無惨な葬儀だった。
いるのはその二人だけだ。彼等も憔悴しきって今にも死にそうな有様である。実際に彼等に残ったものは何一つとしてなかった。
だが静かな葬儀ではなかった。何故かというとだった。
「万歳!万歳!」
「悪辣漢がまた一人地獄に落ちたぞ!」
「皆さん、祝いましょう!悪魔の無様な結末を!」
「これから地獄に落ちるのを!」
「貴方達は・・・・・・」
彼の父親がその葬儀を行っている自宅の前で乾杯を取っている岩清水達の前に来て言ってきた。涙も涸れ尽くしやつれきったその顔で見据えて言うのだった。
「息子を殺して私達から何もかも奪ってまだやるんですか」
「当然です」
岩清水はその父親に対して平然と告げたのだった。
「それが何か」
「息子は確かに人をいじめました」
涸れもそれは認めた。
「ですがここまで。いびり殺すのですか、貴方達にその権利があるのですか・・・・・・」
「あります」
また平然と答える岩清水だった。
「悪逆非道の輩にはどんな劫罰を与えてもいいのです。そして」
「そして。何なのですか」
「その家族が悪逆非道の輩を育てたなら同罪です。私達は正義を行ったのです」
「私達から全てを奪ったことがですか・・・・・・」
「そうです。ですが御安心下さい」
氷そのものの言葉を告げたのだった。
「もう貴方達には何もしません。筑紫を成敗したのですからね」
「そうだ、悪魔をだ!」
「悪魔を永遠に地獄に落としたのだ!」
同志達がまたここで叫ぶ。
「皆さん、勝利の凱歌をあげましょう!」
「悪がまた一つ滅んだぞ!」
「悪魔は貴方達だ・・・・・・」
父親の声はその勝利の凱歌の中に消えてしまっていた。
「息子は確かに許されないことをした」
それはわかっている。しかしだった。
「だが。その息子をいびり殺し私達から全てを奪った貴方達こそ悪魔だ。正義なんかじゃない・・・・・・」
この言葉は掻き消されるだけであった。そして岩清水は小笠原への陰に陽にの攻撃を執拗に続けていた。今度はであった。
『兎虐殺下手人総務部小笠原祐次』
会社の掲示板にこう書かれた貼り紙が貼られていた。それと共に彼自身と兎達の死体も。その兎達の写真は虐殺されたものではないが死体なのは間違いなかった。その三つと兎の虐殺の状況を克明に書き綴った文章がそこに貼られていたのであった。
社員達はそれを見て。忌々しげに言うのだった。
「あの総務部の新入社員か」
「こんなことまでしていたのかよ」
「最早人間じゃないわね」
「全くよ。もう許せないわ」
こう言ってだった。総務部に殺到してだ。小笠原を探し出して一斉に糾弾するのだった。
「おい屑!」
「兎殺し!」
「いじめだけじゃなかったのね!」
憔悴しきってまさに屍の様になっている彼を取り囲んで糾弾するのだった。
「兎まで殺してたのか!」
「何処まで最悪な奴なのよ!」
「会社から出て行け!」
「そうだそうだ!」
こう言ってだった。彼を連れ出し総務部から蹴り出した。それと共に机や椅子まで廊下に放り出して。そのうえでさらに糾弾するのだった。
「会社から出て行け!」
「二度と来るな!」
「辞めろ!」
次々に罵声を浴びせる。やがてそれは暴力にもなろうとして彼を追いだした。憔悴しきっていた彼だったが命の危険を察してふらふらと前に歩きだした。しかし階段の手前で。
岩清水は全て読んでいた。階段のところで待ち伏せていたのだ。ふらふらと彷徨う様にして前に逃げる彼の足のところにモップを出してこかせた。すると彼は無惨に階段を転がり落ちた。それにより頭から血を流して腕も歪な方向に曲がってしまった。
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