普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
013 虚無の曜日、王都にて その1
SIDE 平賀 才人
「すぅ…すぅ…」
虚無の曜日を翌日控えた今日この日。もうすぐ日を跨ぐだろうと云う時間に、俺はルイズの部屋の窓から見える空に浮かぶ双月をぼんやりと眺めながら、ルイズの規則正しい──〝正し過ぎる〟寝息をBGMにして安物のワインを片手に1人で黄昏ていた。
「ルイズに召喚されてもうすぐ一週間か……」
ギーシュとの決闘騒ぎに始まり、ユーノの爆弾発言。……本当に色々な事が有った。確かに色々な事は有ったが、俺の元来の性質で騒がしいのは嫌いでは無いので悪い気はしていない。
―〝チート〟! 今日は狩り尽くすぞ!―
―真人君、シュウ! タルG置いたよ! 早く早く~!―
――ポタリ
何かしらの水滴が俺の頬を伝い、丁度顔の下に有ったズボンにシミを作る。
「ああ、もうアイツらとバカなことがやれないんだなぁ。……死にたくなんか無かったなぁ」
転生して──平賀 才人として覚醒してから、もうすでに7年以上経つ。今思えば、死にたくないの一心でがむしゃらに──それこそ心骨削ってまで鍛えてきて、前世について思いを馳せた事があんまり無かった。
「“腑罪証明”で飛んでもなぁ……」
“腑罪証明”で前世の世界に飛んだとしても、〝転生者になった俺が〟居る時点で元の俺が居た世界とは異なる世界となるので、そんな世界に飛んだとしてもほんの少しの自己満足と多大な虚無感を得るだけだろう。
「……呑むか。たまには酒に呑まれるのもアリだろうし」
騒がしいのが好きな分、湿っぽいのは嫌いなのでこの暗鬱とした気分を紛らわせることにする。……幸いな事に俺は笑い上戸だし。
SIDE END
SIDE ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
「ああ、も…アら…バカ……とが…れな……だなぁ。……死…たく…ん……か……なぁ」
(サイト……)
サイトは珍しく酔っている──更には、私が寝ていると思って気付いていない様だけど私は起きている。……別に明日サイトと出掛けるのが楽しみと云う訳では無いことをここに言っておく。
(使い魔の心のケアは私の仕事。……なのに──)
「ア……イ…ロック……ぶのも…ぁ」
使い魔の心のケアは私の仕事なのに、サイトに掛ける言葉が見付からない。サイトの口から洩れる途切れ途切れの呟きを1つ──また1つと聞くたび、何故か知らないがサイトを私の目の前から居なくなってしまう気がして、私は言い様の無い不安に駆られていく。
「……呑むか。たまには酒に呑まれるのもアリだろうし」
先ほどまではサイトの呟きは途切れ途切れだったが、今度の呟きはまるで私に言い聞かせる様にはっきりと聞こえた。……何やら踏ん切りが着いたのだろう。自分で〝呑む〟宣言をして、液体をグラスに注ぐ特有の音と、喉を嚥下させるさせる音から推測すると……
(本当に呑み始めた様ね)
改めてサイト──サイト・ヒラガについて考える。トリスタニアの薬屋で働いているメイジらしく、メイジとしての腕はトライアングルクラスであるシュブルーズ先生のお墨付きだ。
(……あれ? サイトはトリスタニアに居たのよね?)
それを自分に置き換えて考えてみる。……いきなり知らない場所に召喚されて、それまたいきなり〝使い魔になれ〟と言われる自分を想像する。
……ジワリと身体が汗ばみ、形容のし難いイヤな気持ちになった。……サイトはいきなりトリスタニアからトリステイン魔法学院に──サイトからしたら知らない場所に呼ばれた。……これはつまり、ひょっとしたら──
(誘拐……?)
イヤな想像が私の頭の中を駆け巡る。……サイトに面と向かっては言えないけど、私はサイトに凄く感謝している。サイトのお陰でこの学院に居られるし、≪ゼロのルイズ≫なんて呼ばれる事もこの一週間で殆ど無くなったし、魔法も使える様になった。
……魔法についてサイトに訊いたら、サイトが〝おまじない〟とやらで使える様にしてくれたらしい。……サイトにお礼を言っても「俺に出来る事をしただけだ」、とか「俺は俺のためにやった」と言うばかりだ。
(私、サイトに貰ってばっかりだ……)
何かサイトにお返し出来る物が無いか、頭を回す。
(……無いわね。私からサイトに返せる物なんてそれこそ──)
そこで顔が熱くなっている事に気が付き、沸き上がった思考をカットし、顔に集まった熱をクールダウンさせる。
(明日はサイトと目一杯たのしみましょう! ……サイトの奢りだけど)
私は暗鬱とした考えを振り払う様にして意識を眠りの淵へと沈めていった。
SIDE END
SIDE 平賀 才人
(……寝たか)
流石にあんなにゴソゴソされれば、いくら酔っている状態でもルイズが未だ起きている事くらいは判る。
(酒もそろそろ止めて、翌朝のトレーニングは軽く流すだけにしよう)
俺は仙術で肝臓の働きを強化してアルコールの分解を早めて、愛用している布団に入る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
眠りから目が覚めて翌日。虚無の曜日。地球で云うところの日曜日──つまりは休日である。
ルイズとの約束を二日酔いでポシャらせる訳にはいかなかったので、昨日の段階で肝臓の働きを強化してアルコールの分解を早めたのが功を奏したのか、二日酔い独特の頭痛もなくすんなりと起床する事が出来た。
「さ、早く行くわよ! 支度しなさい!」
「はいはい。それじゃあ行こうか?」
(この気配はキュルケとタバサか……?)
俺はこそこそと近寄って来る気配を知り合いと断定し、危険な事にはならないだろうと判断してルイズと共に学院の外に出る。
……因みに、トリスタニアまでの〝足〟は“魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)”で創った2人乗り出来る様な、飛竜型の〝魔獣〟で行くことした。……ルイズから〝魔獣〟について訊ねられた時はゴーレムの類だと言って誤魔化した。
「わっ! この竜、かなり速いわね!」
「ああ。これならトリスタニアまで30分程で行けそうだな」
優雅にルイズと会話しているが、現在いる場所は地上50メートル。その地上50メートルの高度を、それまた結構な速度でトばしている。……因みに、魔術で風圧対策も万全だ。
「……本当に30分位で着いちゃったわね」
「そうだな。そろそろ高度を下げるか」
〝魔獣〟の上で2、3ルイズと四方山話に花を咲かせていると、眼前に目的地である王都が見えてきて〝魔獣〟へ徐々に高度を下げるよう命令する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あら、ヴァリエール。私と彼との語らいを邪魔しないで頂戴」
「面白い冗談ね。ツェルプストー」
「「ふふふふふふ」」
「………このパイ、美味しい」
俺とタバサは──俺は今、トリスタニアのパイが美味しいとの評判の店で修羅場の真っ只中に居た。……タバサはダメだ。既にパイに夢中だ。美味すぎたんだ。パイが。
(嗚呼、胃が痛い)
俺達4人が座って居るのは4人掛けのテーブルで、俺の目前には判りやすく「私、不機嫌よ」と云わんばかりの表情を浮かべているルイズ。俺の横にはそんなルイズを挑発するかの様に、艶やか声音ですりよって来るキュルケ。我関せずと云った感じにパイを口に入れ続けるタバサ。……どっからどう見ても修羅場で、タバサ居なかったら既に俺は退散している事だろう。
「サイトも離れなさいよ!」
「……判ったよ。……キュルケ、〝その手を離せ〟」
「きゃっ!? 何よ今の?」
〝言葉の重み〟でキュルケに俺から離れる様に命令する。キュルケはいきなり、何が起こったのかと普段では聞けないだろう、可愛らしい声を上げた。
「ぷっ、何よ〝きゃっ!?〟って? しかも、それを〝ヴァリエール〟の私に聞かれるって、どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?」
当然ルイズは、家柄からしての怨敵である〝ツェルプストー〟の恥態に突っ込まない理由は無く、鬼の首を獲たと云わんばかりにキュルケの事を弄りまくる。
「ルイズ、そろそろ」
「判ったわ。ツェルプストーの事も大分弄り倒したし」
「ヴァリエール、覚えてなさいよね」
「………ゲプッ」
いい加減、面倒臭くなりそうだったのでルイズをやんわりと宥める。キュルケは軽く顔に青筋を立てている。タバサは幸せそうな顔で食事を終えている。
「………貴方に聞きたい事がある」
これからどうしょうかという時に、珍しく──初めて、タバサが神妙な顔で俺に向かって言葉を投げ掛けてきた。
「俺に?」
「………うん。………〝赤い龍の帝王〟……この言葉に聞き覚えは?」
(あれ? 何でドライグの事がバレたんだ?)
「ドライグがどうかした?」
タバサのいきなりの言葉に驚くが、彼女の使い魔を思い出せば何となくドライグの事がバレた理由は判る。……そして、このメンバーならドライグの事を殊更隠し通さなければならない理由は無いので、“赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)”を顕現させる。
<相棒、人前で出すなんて珍しいじゃないか? どうかしたか?>
「「「!!?」」」
やはりと云うべきか、3人は驚きの表情を浮かべた。
SIDE END
後書き
明日もう一話投稿します。
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