戦国異伝
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第百六十五話 両雄の会同その七
「命を賭けて争っておる相手とな」
「それでは御身のことは」
「任せた」
口と目だけで微笑み雑賀に答えた。
「宜しく頼むぞ」
「それでは」100
雑賀も応える、こうしたことを話してだった。
本願寺の者達も都に入った、そうして。
都は青と灰色の二色になった。織田家がいる場所と本願寺のいる場所の二つに分かれたのだ、だがその中で。
都の民達はこう言うのだった。
「織田様が石山を攻め落としてくれれば」
「うむ、本願寺は入って来なかったのにのう」
「何が和議じゃ」
「和議なぞしてもまた戦になるわ」
「全くじゃ」
こう話すのだった。
「それではじゃ」
「本願寺との和睦なぞな」
「公方様も余計なことをされるわ」
「ここで本願寺が降れば余計な戦もなくなるのに」
「公方様はわかっておられぬわ」
「まことにのう」
「右大臣様の仰る通りにされればよいのに」
こうした言葉まで出た。
「今の公方様は駄目じゃ」
「義輝様はよいお方だったのにのう」
「今の義昭様はな」
「よくない方じゃ」
「幕府ももう終わりじゃな」
「力もなくなっておるしのう」
彼等の言葉は辛辣だった、殆どの者が織田家の青のところに向かい一向宗の者が本願寺の方に向かっていた。だが幕府の方には誰も行かなかった。
その二色に分かれた泉を見てだ、義昭だけはだった。最早彼と僅かな者しかいない二条城で口を大きく開いて笑って言うのだった。
「よいことじゃ」
「今の状況がですな」
「実にですな」
「うむ、よいわ」
そうだとだ、己の傍にいる天海と崇伝に話す。
「織田信長を止められたことがな」
「本願寺との和議ですな」
「それを認めさせて」
「このまま本願寺まで倒されてはな」
只でさえだ、石山御坊以外の寺を全て抑えられてそのうえでだというのだ。
「たまったものではないわ」
「ですな、だからこそです」
「我等も」
「よい策であったぞ」
義昭は上機嫌のまま二人にも言った。
「実にな」
「はい、それではですな」
「これより」
「織田家と本願寺の主な者達をこの城に集めてじゃ」
そうしてだというのだ。
「和議を結ばさせる、余がな」
「これで幕府の権威も示されますな」
「双方の戦を止められて」
二人はここぞとばかりに義昭の自尊心をくすぐりにかかった。
「織田信長も抑えられた」
「実によいことですな」
「全くじゃ」
自尊心をくすぐられてだった、余計に上機嫌になって応えた義昭だった。二人がいうことに素直にそうなっている。
そうしてだ、こうも言うのだった。
「あ奴は何もわかっておらぬ」
「右大臣殿はですな」
「武門の棟梁のことが」
「それは余じゃ」
室町幕府の将軍であるだ、彼に他ならないというのだ。
「将軍である余じゃ」
「その通りであります」
「公方様こそがです」
ここでまたこう言った二人だった。
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