IS<インフィニット・ストラトス> ―偽りの空―
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第四十一話 同志と苦悩
「それで、今度は何を企んでいる、束」
じゃれ合い……というには殺気立っていたけど、ようやくそれが落ち着いた千冬さんは束さんを離し、尋ねる。
「ぶー、酷いなぁ。せっかくちーちゃんとしーちゃんに会いに来たっていうのに」
「ふん、どうせお前のことだ。それだけではあるまい?」
僕らに会いに来たというのは、おそらく本当のことだと思う。千冬さんもそれを感じ取ったのか、心なしか嬉しそうな気がする。もちろん、それは僕も。
でも千冬さんが言うように、このタイミングで会いに来たというのは何かしらの裏があると思うのも事実だ。
「うん、箒ちゃんにちょっとお届け物に。あ! さっきいっくんには会ったよ? うんうん、だんだん男の子らしくなってきたね、お姉さん嬉しいよ」
「まて、一夏の姉は私だぞ」
「え、知ってるよ?」
「……」
問いただす千冬さんに対して、悪びれる様子もなく答える束さん。
すると、束さんの『お姉さん』発言が千冬さんの何かに触れてしまったのか急に大きな声で抗議をする。しかし冷静に返されてしまい、自分の言葉に気付いたのか千冬さんは気まずそうな様子を見せる。
というか、千冬さんはラウラさんとの一件で姉という単語に過敏になっているんじゃないだろうか。束さんもなんでこんな時だけ冷静なの……いつもみたいに悪ノリしてあげれば千冬さんのダメージは少なかっただろうに。いや、彼女のことだからそのこともわかってやってる可能性もあるけど。
「そ、それで束さん。贈り物っていうのは?」
微妙な空気に耐え切れなくなった僕は、なんとなく束さんに問いかける。まぁ、だいたい予想はついているんだけど。
「むっふっふ、よくぞ聞いてくれました……だけど今は秘密だよ!」
「そ、そう」
「はぁ……いや、いい。どうせ聞いても無駄なのだろう」
本人はとても話したそうではあるけれど、どうやら秘密らしい。
千冬さんはもう追及する気もなくなったのか、半ばウンザリした様子だ。
「おっと、それじゃ私はやることがあるから。名残惜しいけれどこれで失礼するね!」
こちらのペースを乱しまくった挙句、彼女はそのまま文字通り姿を消した。どうやらこの場に現れたときのようにステルススーツを起動させたようだ。背後でドアの開閉の音が聞こえる……姿は見えないからシュールだ。
「……しかし、お前はよく気が付いたな」
「いや、なんか見つめられているような感じがして。背筋がむず痒くなったんだよね」
束さんが作ったステルススーツ、彼女が欠陥品なんか使うはずがないから普通は見抜けないんだろう。千冬さんだって気付かなかったんだし。でも、あのときはなんか邪まな気配を感じたんだよね……束さん僕になにしようとしてたの? ちょっと身の危険を感じる。
「まぁ、いい。それよりもこれからだ。海に行くんだろうから、事前にここで着替えておけ。水着は大丈夫なんだろう?」
「あ、うん。できれば遠慮したいんだけどね」
「お前が参加しなければそれを訝しむ者も出てくるだろう。我慢するんだな」
もっともなので、何も言えない。それに前々から覚悟していたことだし。
とはいえ、それでも……! 女物の水着を着るのは抵抗があるんだよ!
「ふふ、これを乗り切ればお前に疑いを持つ者など今後現れんさ。今でも十分騙しおおせてるんだからな。逆に真実を突き付けても誰も信じんぞ」
「人聞きの悪いことを……まぁ、事実かもだけど」
うん、最近自分が男の姿でいることを想像できなくなってきている。ちょっとまずいよね。
今度の休みにでも遠出して男の恰好して一日過ごそうかな……そうでもしないと本当にまずい気がする。
「さて、私は先に出る」
「うん、了解」
そう言い残し、千冬さんは部屋を後にする。
彼女の言葉に、次の休日の過ごし方を思案していた僕はなんとか現実に戻ってきた。
「……はぁ」
そうして一人になると、やはり水着になるという非情な現実に直面しなくてはいけなくなる。
鞄から取り出した、去年に用意してもらった水着を手にとると、自分でも顔が引き攣っているのがわかる。
幸い、サイズは一年前と変わっていない。事前に、本当に嫌だったけれど念のために試着をしたときは大丈夫だった。幸い、昏睡から目覚めたあとに落ちていた体重は適正までに戻っている。筋力は完全ではないけれど、とりあえずは問題ない。まぁ、胸のサイズは変わらない訳だし……。
悩んでいても仕方ないので、とにかく着替える。
認めたくないけれど、こういうものにもう慣れてきてしまっているのでさほど時間もかからずに着替え終わる。
おかしいところはないか、鏡でチェックする。
楯無さんをして、本物と見分けがつかないと言わしめた胸。見た目だけでなく感触まで本物そっくりだ。僕も最初のころはドキドキしてしまった……もう慣れたけど。いや、それはそれで何かを失った気がするんだけど!
そして、それと同じ質感で下半身を覆うサポーターつきの水着。一応、これだけでも誤魔化せなくはないのだけれど、よく見ると少しふっくらとしてしまい違和感が残る。だからパレオもセットになっている。
水着の色は白基調で、薄い青と白のグラデーションのパレオが巻かれている。
……白は着こなすのが難しいって、前に買い物に行ったときに聞いたけど大丈夫かな?
トップは派手な装飾はないけれど、若干のフリルのようなものがついている。それでいて、いやらしくない程度に胸元が見えるようになっている。
ボトムはビキニタイプではなく、フレアショートパンツに近い。もっともその上からパレオを巻いているからほとんど見えないけれど。
うん……大丈夫かな。どっからどう見ても女の子……だよ……ね。はぁ、なんか再確認しただけなのに鬱になりそうだ。
このまま落ち込んでいるとあっという間に時間が過ぎていきそうなので気持ちを切り替えて、パレオを外したあとに水着の上から服を着込んだ。
「……よし」
そうして気合を入れなおした僕は、集合場所である海岸へと向かうために部屋の外に出る。すると、ちょうどななめ前の部屋の扉が開いた。
そこから出てきたのは何故か少し元気のないデュノアさんだった。
「どうされたんですか?」
「あ、西園寺さん……えっと、あはは」
力なく笑うデュノアさん。なんとなく、それで僕は理解した。
これからのことを考えて気落ちしていたのだろうと。
「もしかして、デュノアさんも?」
「えっと、西園寺さんも?」
同じ境遇の二人にもはや言葉はいらない。
僕らは無言で固い握手を結び、ともに海岸へと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
既に海岸では生徒達が思い思いに遊んでいた。
気恥ずかしくはあるけれど覚悟を決めた僕は、人に見られない場所で着替えを済ませて見知った顔を探すことにする。
すると、すぐに織斑君とデュノアさんを見つけた。二人とも更衣室から出てきたところのようだ。ただ、何故かデュノアさんの顔が凄く赤い。
……というか彼女の水着は、普段の授業で使っているISスーツとほとんど変わらない上下タイプのもので、さらにその上からTシャツを着ていた。
考えてみれば、これなら別に彼女はそこまで悩む必要なかったのでは……なんか理不尽だ!
「あ、さ、西園寺さ……ん」
織斑君がこちらに気付いて声をかけてくる。
密かに、出来たばかりの同志に裏切られ憤慨していた僕はすぐに我に返る。あれ、いつの間にか織斑君も赤くなってる気がするけど。
「お二人とも様子がおかしいようですけど……どうしたのですか?」
「へ? あ、いや……俺は別に。シャルルはなんか一緒に着替えてたあたりから……」
……一緒に着替えた?
聞き捨てならない言葉を聞き、僕はデュノアさんへと視線を向けると彼女はさらに顔を赤くして俯いてしまった。
一応、正体がバレたとかそういうことではないのだろうけど……彼が何かしらやらかしたことは明白だった。
「織斑君、ちょっと失礼しますね……デュノアさん、どうしたのですか?」
織斑君に断りを入れ、デュノアさんに小声で話しかける。すると彼女も同じように織斑君に聞こえない程度の声で答えてくれた。
「あう……一夏が、一夏が全部脱いだあとに僕に着替えないのかって。ぷらぷらして、近づいてきてはぅ」
デュノアさんから聞く織斑君の話、そこだけ聞いていると本当に彼の性癖を疑ってしまうような内容が多い。まぁ、とりあえず。
「織斑君? 男同士でもセクハラは成立するんですよ? 国が違えば文化も違うんですから言動には気をつけたほうがいいですよ」
「へ? セ、セクハラ?」
「その……いきなり裸でにじり寄られたりしからびっくりんだよ?」
僕の言葉に驚く織斑君と、ようやく落ち着いたのか理由を告げるデュノアさん。
「そ、そんな大げさな」
「もしかすると今までも着替えや部屋で似たようなことがあったのではないですか? 男同士だから、という理由であっても文化的に慣れない子もいるのですから。嫌がる子に無理矢理というのはいただけませんね。それとももしや……本当は男の方がいいんですか?」
前々から彼女も悩んでいたようだし、この機会に釘を刺しておくことにする。まぁ、あんまり強く言っても二人の仲に影響が出そうだし、少し茶化すけど。
いや、本当に冗談だよね? なんか本当にそっちの気があるかもと考えてしまったら少し引いてしまった。
「……へ? あ、いやいやいやいや! そんなことないですって! 俺はちゃんと女の子に興味があります! 西園寺さんの水着姿だってすごい綺麗でさっきだってちょっと見とれて……あ」
「そ、そうですか……ありがとうございます?」
いきなりのカミングアウトに別の意味で僕は少し引いてしまった。
そうか、さっき彼が顔を赤くしていたのは僕の水着を見てだったのか……どちらにしろアウトだよ。いやまぁ、僕も客観的に今の姿を見たら同じ反応をしたかもしれないから何とも言えないけど。
ふとデュノアさんを見ると微妙な顔をしていた。まぁ、彼女も僕のことを知っているから複雑な心境なんだろう。ふと目が合うと、アイコンタクトでお互いを慰め合った。うん、彼女は裏切りものではなく、やはり同志だ。
「あ、いたいた。一夏~……ってなにしてるの?」
傍らで何やら地に伏して落ち込んでいる織斑君と、再び絆を確かめ合っている僕とデュノアさんを見て、声の主である鈴さんは訝しげな視線を送ってくる。
「い、いえ。なんでもないですよ?」
「う、うん。なんでもないよ?」
「あ、あぁ。なんでもないぜ?」
僕の返答に続いて二人も答える……けどこれじゃ何かあったって言ってるようなものじゃないか。
「はぁ、いいけどさ。みんなあっちにいるから早く来なさいよ」
言及は避けてくれた鈴さんに感謝しつつ、僕らは皆が待つという場所へと向かった。
……そこから先は大変だった。
無理矢理織斑君にサンオイルを塗ることを強請るセシリアさんに、なぜか肩車をしてもらって巡回させる鈴さん、用意したお弁当を自分の箸でなんとか食べさせようとする箒さん、そしてそれを見ていた周りの生徒達が順番待ちの列を作る。
僕と簪さん、ラウラさんにデュノアさんは騒動に巻き込まれないように少し離れた場所で見ていた……んだけど、すぐにデュノアさんにも織斑君と同じように順番待ちの列ができてしまった。
「あぅ。さ、西園寺さん助けてぇ……」
僕に助けを求めるデュノアさんだけど、すぐに女生徒の波に呑まれて見えなくなってしまう。うわぁ、あれには巻き込まれたくない。
……く、同志を救えないなんて僕はなんて無力なんだ!
「ふむ、他人事のような顔をしているがお前もだぞ?」
「……頑張って」
「はい?」
二人の言葉に振り返ると、そこには何故か同じような女生徒の集団。
なぜ?
「さ、西園寺さん……よかったらサンオイルを塗り合いませんか?」
「お姉様! あ、あの、ご一緒にビーチバレーなどどうでしょうか?」
「ご一緒に食事しましょう、西園寺さん!」
あれ? 僕って一年の子らには避けられていたような気がしたんだけど……?
いや、そうじゃなくて! というかサンオイル塗り合うってなにさ! 織斑君達に対する要求より、女子同士ということになっているせいか酷いことになってるよ!
助けを求めて周囲を見渡すも、ラウラさんと簪さんは既に離れた場所にいってしまった。
いつの間にあの二人も仲良くなったんだ……抜群の連携だ。
気付けば僕も女生徒達に囲まれ、彼女らの相手をする羽目になった。
もちろん、サンオイルは断ったけどね! 他はまぁ、常識的なものだったからよかったかな。
それより、いつの間にか同学年の皆が僕を受け入れてくれた事実が何より嬉しかった。この日、彼女らと話している中で聞いたところ、普段の振る舞いやトーナメントの活躍を見てファンになってくれたということだ。ちょっと気恥ずかしいけど、避けられるよりはずっといい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
皆に少なからず受け入れられたのは嬉しいとはいえ、さすがに大人数を相手にすることに慣れていないこともあり、僕はすっかり疲れ果ててしまった。騒ぎは夕食まで続き、結局解放されたのは夜の自由時間だ。
温泉に入るわけにもいかないので、僕は大人しく部屋に戻ろうとしたところ何やら部屋の前に人だかりがいた……というか見慣れたメンツだった。
「……何をしているのですか?」
「しっ! 今いいところなの!」
鈴さんにセシリアさん、箒さん。さらにはデュノアさんやラウラさん、簪さんまで部屋の前に集まって、しかもなにやら聞き耳を立てている。
不思議に思いつつ、部屋の前まで歩み寄るとその謎はすぐに解けた。
『……んっ』
『千冬姉、大分ほぐれてきたかな?』
『あ、あぁ。お前も……ん、うま、くなった、な』
『少しでも気持ちよくなってもらいたいからね』
『ば、馬鹿者……あぁっ』
……千冬さんの艶めかしい声と織斑君のちょっと息が荒くなった声が聞こえてくる。
「こ、これはまさか……」
「一夏ったら、私たちにまったく気がないと思ったらまさか千冬さんと……!」
「む、むぅ。しかしこれは強敵が……」
織斑君にあからさまにアプローチをしている三人は顔が赤くなったら青くなったり割と大変なことになっている。
他は単純に中で行われている出来事に興味津々といった様子だ。なんだか、最近簪さんに対する僕のイメージが崩れていってるんだけど……。
まぁ、確かにこの声だけ聞いていたら勘違いしても仕方ないけどこれは恐らく……。
「はぁ、まったくあなた達は……。織斑先生、失礼しますね」
「あ、ちょ、ちょっと紫音!」
鈴さんが制止してくるけれど僕は構わず、部屋の扉を開け中に入る。
「ん……あぁ、西園寺か」
背後からキャーキャー声が聞こえるが気にせずに部屋の中に進むと、そこには織斑君にマッサージを受けている千冬さんの姿があった。まぁ、こんなことだろうと思った。
「はい、戻りました」
「あぁ。それと、そこで盗み聞きしている連中も入ってこい!」
やっぱり気付いていたか。
恐る恐るといった様子で皆が入ってきて、二人の姿を見てなんともいえない表情になっている。
「こ、こんばんは織斑先生」
「まったくお前らは。あぁ、お前は風呂にでも行って部屋に戻れ。汗もかいただろう?」
「へ? あ、あぁ。そうするよ。それより千冬姉、かなり凝ってたかぞ? 無理すんなよ~」
「ふん、お前に心配されずとも。まぁ、だが楽にはなったよ」
普段はあまり見られないやり取りに、見慣れていない面々は少し意外そうな表情で見ている。鈴さんや箒さんはそうでもないけれど。
「あ、じゃぁあたしらもこれで失礼して……」
我に返った鈴さんが織斑君に便乗して退室しようとしたら、いつの間にか千冬さんによって肩を掴まれている。
「まぁ、せっかく来たんだ。話くらいしていけ……西園寺」
そう言い、僕に目で何やら要求してくる。
……あれは酒を寄越せってことだね。
「はぁ、わかりました。皆さんも適当に座っていてください」
訳が分からず、といった様子の皆は言われるがままに空いたスペースに座っていく。
その間に僕は備え付けの冷蔵庫を開けて、中から千冬さん用のビールと、あとはソフトドリンクを適当に出して、腕に抱える。ひんやりとした感触が気持ちいい。
千冬さんから順番にそれぞれドリンクを配り終えるころには、みんな我に返っていたけれど、逆に今の状況に緊張しているようだ。まぁ、普段から厳しい千冬さんと相対しているわけだから仕方ないか。
そんな折、再び千冬さんから視線。
あぁ、何か酒の肴を用意しろと。僕は苦笑いしながら、再び冷蔵庫に向かい扉を開ける。この部屋には小さいながらもキッチンがある。これは教職員に割り当てられている部屋だけらしいけれど。そして冷蔵庫の中には恐らく千冬さんが持ち込んだであろう食材もあったので、最初から僕に作らせる気だったのだろう。
「さて、せっかくこうして集まったんだ。お前らの本心を聞かせろ。この中で一夏に惚れているのは?」
『!?』
僕が簡単なツマミを作っている間何らかの話をしていたようだけど、その後にいきなり投げかけられた千冬さんの直球な質問に、数人が反応する。
やはりというか、あからさまな態度を見せたのは、セシリアさんと鈴さんと箒さんの三人だ。あとの三人は質問の内容に驚いた、といった様子だ。
「ふん、やっぱりか。まったく、あいつのどこがいいのか」
そう言いながら、ビールを一気に仰ぐ。
僕もちょうど準備が終わったので、千冬さん用とそれ以外につくった簡単なものを持って行き、ビールの追加も渡す。
みんなは、普段の毅然とした様子からは想像もできない千冬さんの様子にかなり驚いているようだ。まぁ、今の姿は完全に酔っ払いが絡んでいるようにしか見えないからね。
「ふふ、お前はやっぱり気が利くな。料理もうまいし、言うことなしだ」
「ありがとうございます」
周囲の困惑を余所に、早速料理に手をつけながら再びビールを飲み出した千冬さんは、僕に向かってそんなことを言い出す。せっかくのお褒めの言葉なので僕は苦笑しながらお礼を言った。
「あ、あの……織斑先生はお姉様とはどういったご関係ですの?」
恐る恐る、といった様子で僕らの関係を聞くセシリアさん。
普段学内ではあまりこういう関係を見せないから、今のツーカーな状態は確かに不思議に思うかもね。
そんなことを考えながら、僕も適当な場所に座って自分用に持ってきたドリンクを口につける。
「ふむ……こいつは一夏の許嫁だ」
「ぶふぅ!」
んぐ……ごほっ、あ、危ない、吹き出すところだった! 耐えきった僕を褒めて欲しいよ! っていうか、他の皆は我慢できずに大変なことになってるよ!
「ち、千冬さん。何を言っているんですか!」
「冗談だ」
「ちょ!」
目の前の惨状を見てニヤニヤしている千冬さん。絶対、面白がっているなこの酔っ払い……。
あっさりと前言を撤回した千冬さんに鈴さんも思わず突っ込みを入れている。
「まぁ、付き合いが長いだけだ。だからこそわかるが……いい女だぞ? 一夏が欲しいならこいつを超えてみろ。操縦者としても、女としても、な」
「千冬さん!」
僕は断固抗議するが、彼女はそんなの知らんぷりだ……。
「お、お姉様と戦わなければいけないなんて、わたくしはどうすれば……」
「むぅ、確かにこんなサッと作った料理がおいしいし……やっぱり強敵ね」
「く……」
あぁ、僕のことなんて気にしなくていいのに三人が悩んでいる。というか箒さん、そんな親の仇のように睨まなくても。
残りの面々は興味深そうに僕とセシリアさん達を見ている。
「ま、あいつのことに関わらずお前らはまだ若いんだ。自分を磨けよ、ガキども」
最後はそう締めて、皆を帰す千冬さん。
良いこと言ったみたいな顔していたけど、巻き込まれた上にそのあと酔いつぶれるまで続いた酒盛りの後始末をした僕からしたらいい迷惑だからね!
翌日、しつこく彼女らに問い詰められたことは言うまでもない。
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