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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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ゼロ魔編
  006 ハルケギニアでの日々


SIDE 平賀 才人

一通り換金作業が終わったので、そこらで見つけたカフェっぽい店で一息吐く事にする。

(大体10万エキューか……こんだけあればゲルマニアで領地を買えそうだよなぁ)

酒場で聞いた話ではこの世界の平民の平均月収は約10エキュー程度らしい。……正直なところ、こんなにお金が有ってもあまり使い道が無い気がするのはご愛敬か。

(うーん、どうするか? お金は有っても無限にある訳じゃないしなぁ)

HIKIKOMORI☆彡──はアレなので、お金を稼ぐ手段も探さなければならない。

「……もし?」

注文したパイとにらめっこしながらうんうんと唸っていると、横合いからやや間延びした声が俺に掛けられた。

「何でしょうか?」

〝見聞色〟の範囲に入っていて、更には俺に向かって近付いて来ていたのを感じていたので、あまり慌てずに返答する。

(貴族……。しかも女の子が何で俺に……)

俺がしたリサーチでは、このトリステインでの貴族への心象は最悪の二言である。

「ふふ、そんなに身構え無くてもとっては食べてはしまいませんよ、安心して下さいませ。……私の名前はユーノ。ユーノ・ド・キリクリと申します。……誠に失礼ながら、貴方のお名前を聞かせて頂いても宜しいでしょうか?」

軽く身構えていると、それを見透かされた様で冗句を言って名前を訪ねてきた。……それも、自分から名乗って、俺の逃げ道を塞ぐ形で。

(……これは返答しない──と云う選択肢は取れないな)

「これはご丁寧に。……俺の名前は平賀──サイト・ヒラガと申します」

ここがハルケギニアである事を思い出し、咄嗟にそれっぽい名前に言い直す。

「サイト・ヒラガ様ですか。……〝まるで日本人の様な〟名前ですね」

「っ!?」

男なら誰でも見惚れる様な柔和な微笑みを浮かべた彼女(?)──服装を鑑みるに、彼女のセリフは俺の警戒レベルを上げるには充分過ぎた。

「あらあら、言ったはずですわよ? 〝そんなに身構え無くてもとっては食べてはしまいませんよ、安心して下さいませ。〟……と」

「……そうですね。しかし貴族様、〝ただの〟平民ごときに〝様〟付けは御容赦頂きたい」

「なら私の事は〝ユーノ〟とお呼び下さい。……サイト」

「ミス・ユ──」

「ユーノ」

「判ったよ。ユーノ」

そこで第三者の声が響き渡る。

「ユーノよ! 平民と話込むとは貴族淑女にあるまじき行為だぞ」

「すいません、父上。この方の話す内容が大変興味深くて、ついつい話し込んでしまいましたわ」

少女──ユーノの父と思われる小太りの男のセリフにもユーノは然も当然の様に、悪気も無く言う。

「ふんっ! そこの平民よ、これをやるからあまり我が娘に近寄らないでくれないか」

ユーノの父親はトリステイン貴族よくある傲慢不遜な態度で1枚のエキュー金貨を乱雑に置いて、ユーノの二の腕をやや強めに引っ張る。

「行くぞ、ユーノよ」

「……そうですね。行きましょうか。……そうそう、サイト。〝ただの〟平民は杖を隠し持ったりしないわ」

「はは、ナンノコトヤラ」

(おっふ、バレテーラ)

「ふふ、〝また会いましょうね〟サイト──いえ、真人君」

ドキリ、冷や水を吹っ掛けられたように心臓が高なる音がした。

「ユーノ、君は一体──」

聞き返そうとした時、親子は既に居なかった。

「まさか、な。……〝アイツ〟が──円がいるはずはない」

何故だか、〝アイツ〟と話していたような──狐に摘ままれた様な懐かしい感覚に捕らわれた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ユーノ・ド・キリクリ。……ほんの少し苦手意識と懐かしさを感じた少女との邂逅から約2週間。俺はと云うと──

「バレッタ師匠、たった今風邪薬の調合終わりました」

「ありがとう、サイト。君が居るお陰で大分仕事が捗る様になったよ」

「いえ、バレッタ師匠には敵いませんよ」

俺はと云うと、トリスタニアで主に平民向けの値段で薬屋を開いている家から勘当されたと云うフリーの水メイジの医者の薬屋を手伝っていた。

……出会った時の事は割愛するが、俺の師匠であるバレッタさんはトリステインで稀に見る〝良い〟メイジだ。……メイジとしての腕は今一つと云ったところだが。

「悪いねぇ。君に給金が渡せなくて」

「いえ、〝住〟と〝食〟を提供して頂けるだけで十分ですよ。……あれ? 師匠、これは?」

バレッタさんの机から溢れた1通の書物を拾う。

「ああ、それ? ヴァリエールの次女が原因不明の病に臥せていてな。望むだけの物をやるから、次女の病気を治してくれとのお達しだよ」

「師匠は行きましたか?」

「無理無理。スクエアですら治すことはおろか、原因すら判らなかったのにトライアングルの私じゃ門前払いが良いところだよ」

「そうですか……」

「サイト、君なら治せるんじゃないか?」

「診てみなければ判りませんよ」

どんな病気だろうが、ほぼ100パーセント治せる自信はあるが、はぐらかしておく。

「………」

「………」

数秒間の静寂が部屋の中を支配する。……すると、バレッタさんは頬を赤らめながらモジモジしだした。

「今日はもう店仕舞いにするか。……それとサイト、今日の夜も良いか?」

「今日もですか? まぁ、良いんですけどね」

そうして、バレッタさんと一緒に店仕舞いの準備に入った。

……ちなみに、バレッタさんの性別は女で年齢は22歳。で、身体をもて余しているのかこうやってたまに──週2ペースで誘惑してくる。……まぁ、その誘惑に乗り気になってしまう俺も俺で、ドライグを宿したからか性欲ならびに精力が高まった気がするのは気のせいにしておく。

(それに、偽名…だろうな)

本人はバレて無いと思っているし、スルーしておく。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ん…朝か」

起きて、未だに規則正しい寝息を発てているバレッタさんを確認して、この家に住むようなってから即席で増設したシャワーに入る。

「起きたか」

「それはこっちのセリフですよ。バレッタさん」

シャワーから出て食卓に向かうと、バレッタさんが既に朝食の準備を終えていて、俺を待っててくれた。……あちら──地球では、両親は働き詰めだったので食卓を一緒に囲んでくれる人がいるだけで、その日のテンションやモチベーションやらが軒並み上昇する。

(俺も単純だなぁ……)

「じゃあブリミル様への祈りを省略して…頂きます」

「以下略。頂きます」

今日も今日とて1日が始まる。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE ユーノ・ド・キリクリ

「まさか真人君が主人公になっているなんてねぇ」

もしかしたら──と思い、カマを掛けてみたら案の定ビンゴだった。……何故かメイジである事を象徴する杖を持っていたが。

(このままボクの〝知識〟通りに進めば、平賀 才人はアルビオン戦役の後、〝勲爵士(シュヴァリエ)〟の爵位が叙勲される。……まぁ、どうなるか判らないけど)

既に、ボクも居るし〝知識〟通りにいかないだろうことは容易に想像出来る。……そもそもボクの知識の大元は二次創作だから、〝原作〟の内容が判らない。

「まぁ、なるようにしかならないか」

さすがにボクも不確定要素が多すぎるので、この件については考えるのを後回しにした。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 平賀 才人

ハルケギニアに生活拠点を移して早い事半年。俺は風の〝遍在〟に薬屋の番を任せて、久々に地球に──俺が元々居た時間軸に戻って来ていた。

“別魅”の分身に地球で何が有ったか箇条書きで教えてもらい、用済みになった“別魅”を消す。……俺が2人も居たら両親も驚くだろうし。

「とりあえずはこの半年間、特に目ぼしい事は何も無かったと……」

地球に戻って来た理由は主にあちらでも──ハルケギニアでも栽培出来る様な野菜の種と、電子機器の入手だ。

「(なぁ、ドライグ)」

<(どうした相棒?)>

買い物をしつつドライグに念話で話しかける。

「(前から気になっていたんだが、〝鎧〟って何か仰々しくないか?)」

<(そうは思わんが? ……それがどうかしたのか?)>

「(いや、〝鎧〟を今から俺がイメージする様に調整出来ないかと思ってな)」

<(別に構わんが……)>

俺はドライグにイメージを送る。

<(………ほぅ、興味深くは有るな。……だが、かなり時間が掛かるぞ?)>

「(1年以内には終わるか?)」

<(そんなに掛からん。1ヶ月で終わらせる)>

ドライグはそう言って神器の奥深くに潜っていった。

SIDE END 
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