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異世界でボッチ男の過ごし方~勇者召喚の場合~

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ちょっとしたプロローグ

 風魔法を身体強化と武器の重量軽減に回してすごいスピードで駆けていく男がいた。そのスピードは時速100キロをゆうに超えている。目の前に出てきたモンスターは持っている『戟』と呼ばれる武器でひと振り。すでにそれを繰り返して2時間は経過していた。

 そしてついに全五層あるうちの五層目、つまり最下層にたどり着く。なんとこの男、驚くべきことに今までの四層を2時間もしないうちに攻略してしまっていた。つまり一層あたり約30分で攻略していくという猛者でもあった。

 見た目身長は180センチあるかないかくらい、綺麗な黒髪に短髪、10人中1人くらいは振り返るであろうちょっと微妙な顔立ち。まあ、見た目(・・・)だけだったら冒険者の中だといい感じの男、ぐらいの評価だろうか。

 そして現在、男の目の前にはファンタジー系の世界ではお約束と言われるのだろうゴブリンの軍勢と対峙していた。身長が1メートルあるかないかぐらいの体。腰には申し訳程度の布。手には棍棒や槍、そしてメイジ職についているであろう個体は杖を持っていた。

 そしてなによりこのゴブリン達、数が多いのだ。目測だけでも300はくだらない。目に映っている個体だけでもこの数なのだからきっとまだまだいるのであろう。この『子鬼迷宮』と呼ばれる一層一層が東京ドームほどもあるフロアでこの男はゴブリン達を対峙していた。

「あ~あ~あ!この数は普通の冒険者だったら死ぬっつうの!まったくこれだからあの王様は無能でいけない。隣にいる王妃と王女は綺麗だがこれも頭がユルくていけない。クラスの連中も大半があの親子の空気に当てられてるし……なんで戦争のために召喚されたのにそのまま従うんだし。しかも周りのバカっぽい大臣のあの視線。どう考えても勇者を戦争のための道具だとしか思ってないし……ああ、もう!イライラしてくる。おっとっと、一応戦っているのだからちょっと頭切り替えるか……」

 待ちきれずに攻撃してきたゴブリンの攻撃を戟で軽くいなして両断しつつ、頭を軽く振って目の前のゴブリン達を注視する。そして、ゴブリン達の威嚇をものともせず、まるで獲物を見定めるかのような目でゴブリンたちを見渡す。

 見回してからやっぱり特に警戒することはないかと判断した男はさらにのんびりと独り言を続けた。

「おお!このゴブリン達はいい経験値になりそうな予感。いったいいくつくらいレベルを上げられるのだろうか?とりあえず一言、経験値うまうま~……コホン。では、失礼してっと」

 そう言うと男は持っていた先ほど両断したゴブリンの血で汚れた戟を軽く振ってから左手に持ち替え、右手を地面につける。

「ブラックホール」

 すると男の手からどんどん黒いモヤが広がっていく。

「はあ、クラスごとテンプレ展開で召喚されたときはどうなることかとヒヤヒヤしたがな。召喚先の人たちがいい感じに脳までお花畑な人たちで良かったわ。それにガルナ王国が戦争のために俺たちを召喚したということがわかった以上王国側に手を貸す義理もない」

 知性ある動物は初見の攻撃を見ると戸惑うという。実際黒いモヤが広がる様子は不気味であったためなのか数秒は動揺を見せていた。だが、ゴブリンとて知性ある魔物。今のところ自分たちに影響はないと知ると一気に押し寄せてきた。

「悪いがこれから先は自由にやらせてもらうさ。今回の迷宮探索だって無茶ぶりにほかならないしな。そこまでの危険を冒してまで何千万分の一の確率でドロップするという『ゴブリンの宝玉』なんて見つけたって意味がない」

 どんどん黒いモヤが広がっていき、ゴブリン達が押し寄せてきたが、押し寄せてきたゴブリン達を黒いモヤで包む。そしてゴブリン達は黒いモヤに阻害されてだんだんと動けなくなっていった。

「同じ人ながら言えることだが、人というのはどこまで愚かなのだろうか……」

 自分の魔法によって突っ込んできたゴブリン達が動かなくなったのを見て満足げに頷く。
 そして丁度黒いモヤがフロア一面を包んだところで右手を地面から離す。

「さて……これからどうするか……王国から出るということは決まっているが何処に向かうか……まあ、王宮から逃れる仕掛けはのちのち考える事にしようか。まずは行き先を決めなければいけないな。一番候補はアイゼンシュトラか?ここから近いし、独立都市、迷宮都市と揃っているのはいいがやはり色々な面で王国に劣るか?」

 男はそのまま手を前に突き出し、握り潰す。そして、ただ一言呟く。

圧縮(コンプレッサー)

 その光景はただ圧倒的としか言いようがなかった。ゴブリン達は抵抗する間もなく、地面から湧き上がってきた先ほどの黒いモヤに一瞬で包み込まれ、そして包み込んだ物体はだんだんと小さくなり、しまいには数センチほどの黒い塊となった。そして再び直径10メートル大に広がると中からゴブリンだった肉塊やら何やらが出てくる。それをゴブリンだった肉塊以外を器用に包み込む。包み込んだことを確認すると、また黒いモヤが小さくなり、黒い塊が自分の影の中に落ちていった。ついでにと持っていた戟も影の中にしまう。

「闇魔法、マジパネエ。1分でこの広さのフロア全部包み込むとか広域殲滅にもってこいだな。こいつらの経験値で俺もいい感じにレベル上がったしドロップ品も結構あるみたいだから王宮に帰ったあと一旦整理するか」

 ヒョイっと自分の持っていたポーチに無造作に突っ込んである転移用魔石を掲げて呟く。

「転移、ガルナ王国第一王宮」

 すると目の前の景色がガラっと変わり、赤い絨毯とでぶいおっさんとそれを囲む騎士達が目の前に入ってきた。

 騎士たちがジロリとこっちを向く。視線の意味は早く跪けってか。相変わらずここだと勇者の扱いは騎士以下かよ。

 ああ、鬱陶しいな。そんなことを思いつつ、舌打ちすると即座に跪く。

「おお!戻ってきたか勇者キキョウよ。で、どうだったか?」
「申し訳ございません、残念ながらお目当てのものはドロップしませんでした」
「ふむ、そうか……貴殿の風魔法でもドロップしないか……手間をかけたな。一応ギルドカードを見せてはくれまいか?念の為に討伐数も確認させてもらいたい」
(いや、風魔法使ったってドロップしないよ)
「ここに」

 と、男は言うとポーチからカードを取り出し、近くにいる騎士に預ける。

「おお!ゴブリン討伐数1531とな!レベルも61か。なかなかに順調だな。貴殿ら勇者にはそれぞれ別れて修行してもらっているが、そろそろもう少し難しいダンジョンにパーティを組んで攻略しに行ってもらってもよいかもしれないな」
(てめえポ○モンの育成でもしてるつもりか!?迷宮は育て屋じゃねえぞ!!)
「ッハ」
「それはそうと、その他のドロップ品はあるかな?」
「いえ、ゴブリンの肉はもってのほか、武器もほとんどがずさんに手入れされているものでしたので……」
「そうか、なにかレア物があればあれば買い取ろうかと思ったんだが……では今回の迷宮探索の報酬だ。金貨100枚でいかがかな?」
「意義はございません」

 二束三文でだろと突っ込みたくなるのを我慢しつつ、頭を下げる。

「うむ、よろしい。では次のダンジョン攻略の連絡まで待て」
「ッハ」

 そのまま男は下がるが、自室に戻るなり荷物を整理し始める。

「うっわ、舐めてるだろ。あの王様。こちとらC級ランクの迷宮をソロ攻略だろ。もうちょい報酬ははずむっつうのに金貨100枚とか……高級娼婦10回分じゃねえかよ。楽しみだなぁ。おい!」

 ちょっぴり下衆なことを考えつつ、自分の影の中のドロップ品を整理する。

「あ、ラッキー。王様のお目当ての宝玉3個ドロップしてるやん。いい感じの武器も結構手に入ったから『方天戟』の餌にするか」

 最初は文句を言っていたが、これからのことを考え、楽しそうにしている。

「こちとら召喚されてから3ヶ月でもう金貨1000枚は貯めたんだ。最初の手当の500枚からどんどん金貨を貯めてもうこの額だ。ちょっと浪費(娼館)したけどもそれでも白金貨10枚分!素晴らしい!」

 普通の平民が1年で生活するのに必要な金額が金貨5枚ほどであるからそれを考えるととんでもない額なのである。

 この男の名前は宮島(みやじま)桔梗(ききょう)。ガルナ王国に勇者として召喚された35人のうちの1人であり、風魔法と闇魔法と槍術に特化した、思春期真っ盛りである元男子高校生だ。 
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