万華鏡

「豆あるだけ食うから」
「だから美優ちゃんはなの」
「あたしも豆好きだけれど年齢の数だけでいいやって思ってるんだよ」
「それでお兄さんがなの」
「殆ど一人で食っちまうんだよ」
　節分のその豆をというのだ。
「そうしちまうんだよ、うちは」
「お兄さん豆好きなの」
「特にああいう炒り豆がさ」
　まさに節分の豆だ。美優の兄はそうした豆がというのだ。
「酒と一緒に幾らでもなんだよ」
「あっ、お酒と一緒になのね」
「おつまみにするのね」
「だから幾らでも食うんだよ」
　その事情をだ、美優は仲間達に話した。
「あるだけか」
「ご両親はどうなの？」
　里香がこの二人のことを尋ねた。
「お二人は」
「親父とお袋も好きだけれど」
「それでもなの」
「普通だよ。年齢の数だけ食って終わりだよ」
「それじゃあお兄さんだけが」
「あたし達三人が歳の数だけ食ってさ」
　そして、というのだ。
「残りを兄貴がなんだよ」
「それでなのね」
「兄貴は特別でさ」
　普通は、というのだ。
「歳の数だけ食うものだって思ってたよ」
「まずは歳の数だけ食べて」
「そうよね」
　里香は景子に顔を向けて言った、景子もそれに応える。
「その後でね」
「残ったお豆を食べて」
「節分のお豆ってね」
「そういうものだと思ってたけれど」
「そうだったんだな」
　そう聞いてだ、そして二人であらためて美優に言った。
「別に食べてもいいと思うわよ」
「幾らでもね」
「食べたら駄目ってこともないし」
「特にね」
「そうなんだな。それじゃあな」
　ここまで聞いてだ、そしてだった。
　美優はあらためて頷いてだ、こう言ったのだった。
「じゃあ食うか」
「ライブの後でね」
「一杯ね」
「あたしもお豆好きなんだよ」
　兄と同じく、というのだ。
「あれを食いながら飲むのもさ」
「そこ兄妹ね」
　彩夏はこのことを聞いて美優ににこりと笑って言った。
「美優ちゃんとお兄さんって」
「何かお酒の趣味は似てるかもな」
「うふふ、そうなのね」
「あたし結構親父かな」
「別にそうは思わないけれど」
「だといいけれどな」
　それでもだと言う美優だった。
「親父じゃないと」
「というかお兄さんって」
　彩夏は美優のその兄貴について彼女の見解を述べた。
「普通でしょ」
「普通かね」
「あんなものよ、うちのお兄ちゃんも」
「お酒の趣味もか」
「別におかしなところもないでしょ」
　こう言うのだった。
「お豆で飲むのも」
「別に親父じゃないか」
「特にね」
　そうでもないというのだ。
「親父っていうのはまた違うでしょ」
「普通の兄貴か」
「食べた後手の指を楊枝にするとか」
「ああ、よくやる人いるよな」
「それでお風呂上がりに股のところを濡れたタオルでパン、とやるとか」
「それも親父だよな、確かに」
「何か違うのよ」
　親父、この生きものはというのだ。