美しき異形達
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第十一話 ハーレーの女その二
「私の方は大丈夫よ」
「そうなのね」
「ええ、じゃあね」
「お互いに勝ちましょう」
「そういうことね。しかし」
ここでだ、菊はというと。
毒蛾の拳をかわした、しかし。
そこで撒き散るものもかわした、それは鱗粉だ。蛾の。
しかし只の鱗粉ではないことは明らかだ、菊はそれをかわしつつ言うのだった。今度は菖蒲ではなく怪人に対して。
「この粉も受けたら」
「ほほほ、わかってるのね」
男の声での言葉だった、声域は高いが男の声だ。
「あたしは毒蛾なのよ、毒蛾ならね」
「その粉でね」
「死にはしないまでも」
それでもというのだ。
「酷いことになるわよ」
「そうよね、やっぱり」
「さて、どうするのかしら」
拳を繰り出しながらだ、怪人は菊に問うた。
「あたしにどうして攻撃を仕掛けるのかしら」
「ちょっと難しいわね」
菊もこのことは認めた。
「これは」
「ではあたしに倒されるのね」
「いやいや、それはないわ」
「倒すっていうのね、あたしを」
「ええ、そうよ」
その通りだというのだ。
「あんたを倒すわよ」
「冗談にしては面白くないわね」
「別に冗談は言ってないから」
笑って返した菊だった。
「私の方もね」
「じゃあ見せてくれるかしら、冗談でないっていうことを」
「そのつもりよ、ではね」
菊はここで間合いを離した、そして。
鱗粉が届かない範囲からだった、左手に苦無を出した。しかしただ苦無を出しただけではなかった。その苦無だけでなく。
無数の石、それを出してだった。苦無と一緒に怪人に投げた。
そしてだ、蛾の羽根で飛ぼうとした怪人に。
その羽根を撃った、蛾の大きな羽根では全てかわしきれなかった。
幾つかが当たりだ、羽根に穴を開けた。そうしてだった。
「これで飛べないわね」
「考えたわね」
「まあね、戦いは頭だからね」
にやりと笑ってだ、菊は怪人に告げた。
「こうしたこともしないとね」
「勝てないというのね」
「そうよ」
まさにというのだ。
「この通りね」
「頭がいいことは認めるわ」
怪人もだというのだ。
「これであたしは少なくともこの闘いでは飛べないわ」
「武器の一つは封じたわね」
「ええ、ただね」
「それでもよね」
「あんたはあたしの最大の武器は防いでいないわよ」
それはというのだ。
「毒はね」
「わかってるわ、そのことは」
「ではどうするのかしら」
「粉ね、粉は撒かれないといいからね」
だからだというのだ。
「ちょっと閃いたのよ」
「あら、どうしたやり方かしら」
「私の力は土なのよね」
このことも言う菊だった、飛べなくした怪人と今も間合いを保ちながら。
「土から出るものは結構使えるのよ」
「ではその土でどうするのかしら」
「こうしてみようかしらってね」
こう言ってだ、そしてだった。
菊は左手にまた出してきた、今度は苦無でも手裏剣でもなかった。
土だ、いや泥だった。泥の玉を出してだった。
そのうえでだ、それを。
飛べなくなり普通の動きしか出来なくなっている怪人に向かって投げた、それも一度や二度ではなく幾度も出してだった。
それを怪人にぶつける、怪人の禍々しい毒蛾の色彩が瞬く間に泥に染まりその色になる。そうしてであった。
ページ上へ戻る