万華鏡
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第七十五話 大雪の後でその九
「ゴキブリ出て愕然となってね」
「というか時々お掃除しないと」
「そう、だから寮ではね」
「ちゃんとお掃除してるわ」
「さもないと先生か先輩に言われるから」
「余計にね」
「女の子で不潔なのは」
女子だから清潔である、というのは偏見である。その様な偏見を持っているとそれは後で恐ろしい絶望となる。
それでだ、二人の先輩も琴乃に言った。
「いいわね、お掃除はね」
「あんたも忘れたら駄目よ」
「私達は身を以て知ったから」
「あんたもよ」
「そうですね。といいますか」
琴乃は先輩達は多少引いている目で見つつその先輩達に述べた。
「あの、そこまでお掃除しないって」
「そうよ、反省してるから」
「あんたことになったら絶対に駄目だからね」
「さもないとね」
「後悔するわよ」
その後悔の後で知る教訓だった、それは。
「お掃除は忘れない」
「さもないと出るから」
ある意味において怨霊より恐ろしいものがだ。
「お店の娘なんかゴキブリ見たら血相変えるから」
「注意してね」
「何かかるた部に」
八条学園の文化系の部活の一つだ。可愛い女の子が多いことで有名な部活である。試合では着物を着る。
「商業科の一年の娘達がいて」
「あの食堂とパン屋さんのよね」
「娘さん達よね」
「はい、あの娘達えらく綺麗好きって聞いてます」
「あの娘達のことは私達も聞いてるわ」
「しっかりしてる娘達らしいわね」
このことで有名というのだ、二人は。
「あの娘達はね」
「物凄く綺麗好きでね」
「それでね、ゴキブリを見たらね」
「目茶苦茶怒るらしいのよ」
理由は簡単だ、ゴキブリこそ不潔の象徴だからだ。
「そういう娘もいるから」
「模範にしないと駄目なのよね」
「そういう娘には怒られるし」
「不潔だとね」
「まあ。とにかくですね」
琴乃も面倒臭がりなところがない訳ではない、しかし幾ら何でもそこまで掃除をしない訳ではないのでこう言うのだ。
「お掃除はちゃんとしないと駄目ですよね」
「そう、寮もね」
「そこは厳しいから」
衛生的なことはというのだ。
「さもないと最悪ね」
「もっと怖いことになるから」
その怖いこととはというと。
「ペストとかね」
「なるわよね」
「ペストって」
この病気の名前を聞いてだった、琴乃は眉を曇らせて先輩達に返した。
「そんな病気実際になります?」
「昔のヨーロッパだと?」
「流行してたわよね」
歴史にあるペストの大流行だ、この大流行で人口の三分の一が死んだと言われている。その際ペストはユダヤ人が流行らしたというデマも流れて惨たらしい惨劇も起こっている。歴史にある悲劇の一つである。
「あんまり不潔だとね」
「なるわよね」
「鼠のダニから流行る病気だから」
「鼠が汚い場所を走り回ったらね」
当時の欧州の都市部は糞尿、汚物の処理は道の端に捨てるだけだった。それで欧州の都市部は極めて不衛生だったのだ。
「ペストになるわよね」
「とんでもないことだけれど」
「そこまで日本ではならないですよ」
これは現代だけでなく過去の日本でもだ。
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