魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos25終宵は明けて、しかし黄昏は訪れる~Heil und Unheil~
前書き
Heil und Unheil/ハイル・ウント・ウンハイル/幸運と不運
†††Sideルシリオン†††
ナハトヴァールの弱りに弱ったコアを、シャマル達が衛星軌道上にて待機しているアースラ前へと長距離転移させた。先の事件では、コアの結末はシャルの真技での消滅だったが、今のシャルは真技が使えるほど余裕はないため、見送った。
僅かな待機時間の後、アルカンシェルにてコアを蒸発させることが出来たとエイミィから連絡が来た。ああ、終わった。あとは、リインフォースを天へと還す、というあのイベントをこなすのみ。
(嫌だな。はやての泣き顔を見るのは。今の俺にはキツイな。とは言え、ツヴァイが生まれる為に、どうしても消えてもらわなければ・・・)
ナハトヴァールの完全消滅を喜び合っているはやて達を見守りながら、この後に訪れる悪夢に頭を痛める。先の別離の時、はやてとリインフォースのやり取りの時には少々もらい泣きしそうだったことを思い出す。
しかし今回は、はやて達と深い関わりを持っている。しかも涙もろくなってしまっている今の俺に耐えられるかどうか不安を抱いていたところで「いやぁ、魔力がスッカラカンだよ」シャルが腹をくぅくぅ鳴らしながら側へとやって来た。あぁ、そうだ、コイツもどうにかしないと。
(ヘルシャー・シュロスを展開するためとは言え、前世シャルの人格を一時的にさらに強く表側に引っ張り出してしまった・・・)
シャルとのキスは、俺の神秘を使用してシャルの魂に眠っている神秘の塊を完全覚醒させる為のものだった。そうすることでシャルを魔術師へと昇華、俺の創世結界・“神々の宝庫ブレイザブリク”に眠る彼女の創世結界・“剣神の星天城ヘルシャー・シュロス”を展開させ易くした。結果は大成功だった。だが、喜んでばかりはいられない。イリスの本来の人格がシャルの人格に押し潰される前に、この手でシャルの人格を・・・。
「そうだな。俺も失いすぎてフラフラだ」
グッと握り拳を作って震えを無理やり止め、声を掛けてきたシャルへとそう返す。七美徳の天使アンゲルスと七元徳の使徒アポストルスの大半を奪われ失った。記憶も一緒に失わずにいるのは、未だに天使・謙譲インダストリアや使徒・知識サピエンチア、使徒側の節制テンパランチアの3体が残っているからだろう。その3体が記憶を補完してくれている。
「シャル。君はこれからどう――」
「主はやて!」「はやて!?」「はやてちゃん!?」
俺の言葉を遮ったのはリインフォースとヴィータ、シャマルの悲鳴だった。脳裏に過ぎったのは、はやてが気を失って倒れるシーン。いきなりの融合に強大な魔法の連続行使、これまでのナハトヴァール侵食による体力・精神の弱体化、当然すぎる結末だ。融合解除されたリインフォースに抱えられているはやては完全に意識を手放していた。
「クロノ! 今すぐにはやてをアースラに収容して!」
「あ、ああ! エイミィ!」
シャルがクロノに指示を出す。こうして俺たち全員は懐かしきアースラへと向かうこととなった。
アースラ到着後に俺たちを出迎えたのは、時の庭園崩壊時になのはの口から聴いた、「ティファ、お願い!」ティファレト・ヴァルトブルクその人。大戦時、治癒の騎士として名を馳せていた女騎士、その末裔だ。
シャルに対し「任せて、お嬢」と返したティファレトははやてを抱えたリインフォースに「まずはこちらへ」とはやてをストレッチャーへ乗せるよう促した。リインフォースは彼女に従い、はやてをストレッチャーに乗せた。
俺もついて行こうとした時、「ルシリオン。すまないが・・・」クロノに呼び止められた。そうだな。誰か1人は残っていないとダメか。蒐集行為の全権を握っていたランサーとして、最後まで責任を果たさないといけないよな。
「リインフォース達はそのままはやての側に居てやってくれ。俺は話があるから残るよ」
「あ、でも・・・」
言い淀むシャマルに、「私も将だ、残ろう。主はやてのこと、よろしく頼みます」シグナムがティファレトに頭を下げた後リインフォース達から離れ、「我も残ろう」ザフィーラも遅れて俺たちの元へと戻って来た。
それで決まり、「判りました。それではご案内します」ティファレト、そしてヴィータとシャマル、リインフォースが医務室へと去って行った。彼女たちを見送った後、俺たちはリンディさんの待つという、ミーティングルームへと向かうことになった。
「そう言えばシャルちゃんとルシル君、すごく顔色が悪かったけど、もう大丈夫なの・・・?」
フェイト、アリサ、すずかと横一列に並んで前を歩くなのはがそう振り返って訊いてきた。俺は、俺の右隣を歩くシャルと一度顔を見合わせ、「大丈夫」と答えた。シャルは持前らしい回復力で、俺は海水の龍アルティフォドスから解放されたと同時に、大気中に満ちていた魔力素を吸収して回復させた。
「つうか、シャル。あんた、絶対おかしいわよ。明らかに魔法なんてレベルじゃない、あの別世界みたいなヤツを創るアレ!」
「それにルシル君も。なんかシャルちゃんを昔から知ってるかのように息の合った詠唱とかしていたし・・・。ルシル君ってもしかして・・・」
アリサがシャルに詰め寄って問い質し、すずかが疑念の視線を俺に向けて来て、「シャルちゃんと知り合いだったりする?」なんて核心をついて来た。鋭い、というよりは当たり前の着眼点か。あまりに馴れ馴れしかったからな、知己であると思われも仕方がない。どう誤魔化そうかと思案していると。
「ふっふっふ。何を隠そう今の私は――むぐっ?」
シャルが絶対に言ってはいけないことを言いそうだったため、口を手で塞いで、引き摺って来た道を戻る。通路の角を曲がり、「何を言おうとした?」と問い質すと、「馬鹿ね~。こんなことしちゃ余計怪しまれるでしょうが」そう真っ当なことを言われた。シャルのくせに。
チラッとシャルが角に目をやるから俺もそっちに目を向けると、シグナムとザフィーラ、クロノを除くなのは達がちょこっと頭半分だけを角から出して覗き見していた。目が合うとビクッとして頭を引っ込めた。バレているぞ、おーい。
「頑張って誤魔化すか、大人しく真実を語るか、あなたの魔術で記憶を改ざんするか、三択ね」
そっと小声で耳打ちされた。こういう場合は念話でいいだろうに。見ろ、なのは達が顔を真っ赤にしているじゃないか。絶対に変な誤解をされた。「ああもう!」と頭をガシガシ掻き、仕方ないと諦める。シャルを連れてなのは達の元へと戻る。
「あのな。・・・俺は先祖代々、今は失われた古代の魔法を受け継いできている。だからこんな子供でも、この前のようにフェイトやシャル、クロノにアルフを圧倒することも可能だったわけだ」
俺との戦闘を思い返したらしいフェイトとアルフ、戦闘記録を見たらしいなのは達も「あー」と納得を示した。
「あの、でもそれとシャルちゃんのあの魔法?に何の関係があるのかな・・・?」
「俺がなのは達の魔法を使った、と言えば関係が見えてくるだろ?」
ハッとしたなのは達。そして「あんたもナハトヴァールみたく他の魔導師の魔法が使える・・・?」と言ったアリサに俺は首肯した。そして説明する。俺の固有能力・複製を。一度見た魔法を覚え、いつでも好きな時に発動できる、と。
「じゃあなに? さっきあたし達が見せた魔法も全部使えるってこと?」
「ああ。使える。で、だ。ここでさっき話した先祖代々の云々。俺は先祖の魔法だけでなく、先祖たちが複製した魔法も受け継いでいるんだ。先ほどシャルが使ったのは、正確には俺の先祖がシャルの先祖から複製した魔法だ。名を、創世結界、という」
なのは達の興味が完全に俺の魔法の特異性に向いている。俺とシャルの仲の良さへの興味が薄らいでいる今、徹底的に逸らしてやろうと思ったところで「そうね。で、すずかの疑問。私とルシルのことなんだけど」シャルが蒸し返してきやがった。こんちくしょう。
「ほら。私って前世の記憶がフラッシュバックしてるとかって言うじゃない。あれとは別かどうかは判らないけど、ご先祖様の記憶も引き継いじゃってるみたいなの。ランサーの正体がルシルだって判った時、私倒れちゃってさ。その時にこう、頭の中の噛み合わなかった歯車が正常になったって言うか。そん時に思い出したわけ。ルシルの先祖と会ったことがあるって。だからかな。このルシルにこれまで以上の親愛が生まれた」
シャルが虚偽と真実を織り交ぜた話を始めたため、『やるな』と念話を送ると、『あなたこそ』とそう返してきた。嘘を吐くのも、嘘の中に真実を隠すことも、息をするかのように当たり前になってしまっていた“界律の守護神テスタメント”時代。それは互いに今でも変わらず。子供を欺く程度、造作も無い。そして生まれる罪悪感もまた変わらずだ。
「ちなみに私たちの仲が良さそうに見えたのは、私からの一方的な感情だよ。だよね、ていうか、ごめんね?」
「あ、いや・・・シャルのノリはそんなに嫌じゃないからな、俺もノッたんだ。楽しかったよ、うん」
この説明で頼むから納得してくれよ、みんな。今回の俺には“界律”の加護が無い。つまり怪しまれたらとことん怪しまれる。その分、上級術式や創世結界などと言った反則級の術式を扱えるわけだが。
なのは達は顔を見合わせた後、「そうだったんだね」と納得してくれたようで笑顔になった。良し、と思う反面、ほーら、やっぱり生まれるどうしようもないこの罪悪感。シャルが『うわぁ、やっぱキッツイわ~』と溜息交じりでそう念話で言ってきた。俺は小さく首肯だけに留めた。
「おーい。話はもういいか。艦長を待たせているんだが」
そう言うクロノに俺たちは謝罪し、改めてリンディさんの居るミーティングルームへと歩き出した。
そしてミーティングルームに到着し中に入る。上座にはリンディさんが座っていて、「時空管理局・アースラ艦長として直接会うのは初めてね、ルシリオン君、シグナムさん、ザフィーラさん」と俺たちに微笑みを向けて挨拶した。
「このたびはご迷惑をおかけしたことを、蒐集行為全権を任されていたパラディース・ヴェヒターのランサーとして、そして八神家の1人として、お詫びします」
深々と頭を下げる。続けて右隣のシグナムと左隣のザフィーラも頭を下げた。対するリンディさんは「はい」と微笑みを返してくれた。そうして俺たちはそれぞれ席へと着き、簡単な事情聴取を受けることとなった。
内容はこれまでの蒐集行為に関して。蒐集活動の正確な始まりは何時、何処で。始めたのは誰。蒐集対象の選択は誰が、どうして犯罪者ばかりを狙ったのか。これまでなのは達と出会った時に話したことの再確認のようなものばかり。
「――では次に。ルシリオン君。あなたはどうやって魔導犯罪者の居場所を特定していたのですか?」
「中には公表にされていない連中もいた。それを知るなんてこと、局員くらいだ。だから僕たちは、局内に君たちへ捜査情報を流した者が居ると思っている」
クロノの言葉に息を呑むなのは達。ギル・グレアム提督、そしてリーゼアリアとリーゼロッテ。だが、「・・・俺に協力者はいない。俺が管理局のデータバンクをクラックして手に入れたんだ」と最初に取った手段だけを答えた。グレアム提督はきっとこれからも八神家の助けになってくれるはずだ。その為には先と同じように辞職させない。
「えっ!?」「なにっ!?」
リンディさんとクロノが椅子から立ち上がる程に驚いて見せた。遅れて「わ、わぁ、ビックリ~!」シャルも驚きを見せた。が、あまりにも棒読み。絶対にバレるだろ、と思ったが、リンディさん達はそれに気付かない程に驚いていた。
「そんなことが出来るなんて考えられないわ・・・!」
「・・・おいで、秘密を暴き伝える者達」
術式名を詠唱。テーブルの中央に1枚のモニターを展開。そこに三頭身の疑似天使、アメナディエル、ソレウイエル、マカリエル、メナディエル、ライシエルがそれぞれの返事で姿を現した。なのは達は三頭身な天使たちに「可愛い❤」と歓声を上げた。
「ねえねえ、ルシル君! この子たち、なに?」
「ソイツらが電子戦用の魔法、ステガノグラフィア。いかなるセキュリティ・トラップを自己判断で突破・解除し、相手側にクラックの痕跡を一切の残すこともなくデータバンクの中身を思いのままにする。試しに、アースラのシステム、乗っ取って見せましょうか・・・?」
事実であることを伝えるためにリンディさんとクロノと真っ向から見つめ合う。先に目を逸らしたのはリンディさんで、残念そうに僅かに俯いた。クロノがそれを見た後、改めて俺を見た。
「・・・ルシリオン。それが事実なら、君の罪状はさらに重くなる。本局のデータベースへの不正アクセスなど、第一級の犯罪だぞ。・・・だと言うのに、君は本当に優しい」
「優しい? なにを言って・・・?」
「ルシリオン、君は・・・協力者を庇っているんじゃないか、と僕は思っている。正直、同じ局員を疑うのは気持ちが良いものじゃない。だが、もし居るのなら・・・答えてほしい」
クロノめ。大人しく俺の言うことを素直に聴いていればいいものを。俺はそれでも「協力者はいない。あと、全て俺の独断だ。はやてはもちろん、シグナム達も知らなかった」とあくまで俺ひとりの罪だと証言する。俺の両隣に座るシグナムとザフィーラがピクッと反応した。
『すでに将としての権限はないけど、頼む。俺の話に合わせてくれ』
『しかし・・・! それではお前の罪状が我々以上に――』
『シグナム!・・・頼む。最後まで、君たちを守らせてくれ』
『っ!・・・お前は何故そこまで・・・』
『決まっているだろ。家族じゃないか、俺たちは』
シグナムと念話で話をしていると、「ギル・グレアム提督」クロノが俺の心を読んだかのようにその名前を口にした。当てずっぽうかと思えばクロノの目が、確信を以ってその名を告げた、と言っているのが解った。それはつまり「知っていたのか・・・!」だ。知りながらも俺へと問うた、ということは俺を試した・・・!
「ごめんなさいね、ルシリオン君」
「すまないな。リーゼ達が君と接触し、グレアム提督が君へ捜査情報を流すなどの協力関係を結んでいたこと、提督本人から伺っている。この、氷結の杖・デュランダルを受け取った時に」
クロノが“デュランダル”を手にしていたのを見た時、グレアム提督と会ったのだろうとは思っていたが、まさか自首していたとは。クロノは続ける。グレアム提督“側”から俺へ協力を持ちかけたこと。グレアム提督がその罪を償うために管理局を辞職すること。“デュランダル”で俺やはやて達の力になってほしいとクロノに頼んだこと。
「待ってくれクロノ! グレアム提督からじゃないんだ、協力を持ちかけたのは俺か――」
「ルシリオン君。グレアム提督は、あなたに感謝していたわ。はやてさん達を犠牲にすることなく闇の書の旅路を終わらせてくれたことに。そして提督は、あなたのことも助けたい、とも言っていたわ。あなたがその小さな体に背負い込もうとするものを少しでも軽くしたいって」
先の次元世界で直接会った時に見せてくれたグレアム提督の優しい顔が脳裏を過ぎった。お見通しだったと言うわけか。俺がこの一件での全ての罪を背負おうとしていたことを。敵わないな。
「そういうわけだ。これまで君ら守護騎士が行ってきた蒐集行為は、魔導犯罪者ばかりを標的にし、結果魔法による犯罪率を減らした功績がある。民間人であるなのは達を襲った件に関しては本人たちが被害届を出さないこともあり、罪には問われない。データベースへの不正アクセスの件は、グレアム提督が背負ってくれた為、それも罪には問われないだろう」
「はやてさん、人ひとりの命が懸かっていた状況でもありますし。特に犯罪者逮捕率・犯罪率の減少という功績が大きいから、余程のことがない限りは罪に問われないはずです。まぁ、確実に保護観察処分は受けてもらいますけど」
それがリンディさんとクロノの見解だった。概ね俺の計画通りだ。シグナム、ザフィーラと共に「ありがとうございます」と礼を言う。そして話は俺個人のこととなった。まず、俺のプロフィールの確認。クロノが言うには、俺の個人情報をグレアム提督は明かさなかったそうだ。協力者としての守秘義務。知りたければ本人から聴いてほしい、そう言っていたそうだ。
「ルシリオン・セインテスト。出身世界は第12管理世界フェティギア、サンクト・アヴィリオス」
マリアに用意されたプロフィールを言うと、リンディさんが「エイミィ」と呼ぶ。すると彼女の側にエイミィの映るモニターが展開され、『ちょっとお待ちくださ~い』エイミィが陽気な声で応じた。
10秒と経たずに『お待たせしました~。ルシリオン・セインテスト君。確かにフェティギアに戸籍があります』と、さすがの腕前で俺の戸籍を調べ上げた。エイミィから俺のプロフィールが改めてここミーティングルームに居るみんなに伝えられる。
『ルシリオン・セインテスト君。性別はやっぱり男の子。誕生日は2月5日。年齢は8歳。ご家族とはすでに・・その・・・』
言い淀んだエイミィに「続けてくれ」と促す。とは言っても、家族のことで言い淀んだという時点でなのは達は感づいているようで表情に暗い影を落としている。エイミィは渋々『死別しています』と続けた。
そしてセインテスト家の財産を受け継ぎ、今は行方を晦ませている、と。エイミィが『以上です』と締め、リンディさんに「間違いありませんか?」と訊かれた俺は「間違いありません」と返した。
「では本題だな。君はどうしてこの世界に居る? あと、どうやって来た? いかなる理由であっても、君に科される罪状がコレだ。不法入界と不法滞在。こればかりは庇えないぞ」
「判っている、それは償うつもりだった、初めから。俺がこの世界を訪れた理由、それは・・・セインテスト家の悲願。エグリゴリという兵器の破壊の為に、個人転移魔法で訪れた」
“堕天使エグリゴリ”の救済。それが、俺がこの世界に居る理由、そして俺の存在意義だと語った。
†††Sideルシリオン⇒はやて†††
「・・ん・・・ん、ん・・・ここは・・?」
とゆうより、いつの間に眠ってたんやろ。ちょう頭の中がボヤ~ってしてる。それに知らへん天井や、自宅やない。今の状況を整理しようとしたところで、「はやて!?」ヴィータがわたしを覗き込んできた。
「ヴィータ・・・?」
「はやてちゃん! 良かったぁ。あの、体は何ともないですか・・・!?」
「シャマル・・・。・・・あっ! 思い出した!」
ガバッと上半身を跳ね起こす。わたしの眠ってたベッドの周りにはヴィータとシャマル、それに「リインフォース」が居って、他に白衣を着た女の人がわたしを見てた。一気に蘇るナハトヴァールとの決戦。なんとか作戦通りにナハトヴァールのコアを倒すことが出来て、その後、安心したからか急に眠くなって、それで・・・わたしは倒れてしまったんやな。
「主はやて。お疲れ様でした。ご加減のほどはどうでしょうか?」
「あ、うん。えっと、痛いところも無いし、大丈夫や。ヴィータとシャマルも心配かけてしもうたな」
わたしの腰に抱きつくヴィータの頭を撫でる。そこに「ちょっと失礼するね」わたしに近付いてきた白衣の人がそっとわたしの頭に手を置くと、温かくて優しい黄緑色の魔力がその手から発せられた。
「はじめまして。私はティファレト・ヴァルトブルク。本艦アースラに配属されている医師。少し容態を見るから、ジッとしていて」
言われたとおりにヴィータの頭を撫でつつジッと待ちながら、「アースラ?」って訊いてみる。ティファレトさんが言うには、今わたしらが居るこの艦の名前がアースラで、時空管理局の艦やとゆうこと。艦長がリンディ提督って聴いたとき、すずかちゃん達と初めて図書館で会った時のことを思い出した。
――リンディ提督が買ってくれるって約束してくれたから――
あの後、みんなが必至に誤魔化してたけど、こうゆうことやったんやなぁ。確かにリンディさんは提督で艦長さんやった。軍やなくて管理局のやったけど。それからクロノ君とシャルちゃんは正式な局員で、フェイトちゃんとアルフさんは非常勤の魔導師。すずかちゃんとなのはちゃんとアリサちゃんが民間協力者、とのことや。
「・・・うん。もう大丈夫そう。私は席を外すので今はご家族とゆっくり休んでて」
「ありがとうございます」
「お大事に」
ティファさんが部屋を出て行くんを、頭を下げて見送る。それじゃあ早速「シグナムとザフィーラ、ルシル君は?」って訊く。さっきから気になってた。3人が居らんことに。答えてくれたんはリインフォースやった。
「ルシル、シグナム、ザフィーラの3人は今、管理局員から事情聴取を受けているはずです」
「事情聴取って。わたしも行かなアカン・・・!」
八神家として、“夜天の書”の主として、事情聴取を受けるべきはわたしや。急いでベッドから降りようとしたけどわたしの移動の手段、車椅子が無い。そやから「リインフォース、抱っこ!」リインフォースに両腕を伸ばす。リインフォースにお姫様抱っこしてもらって、いざ、ルシル君たちのところへ。そう意気込んで部屋を出ようとした時、「ルシル君、シグナム、ザフィーラ・・・!」会いに行こうとしてた3人が来てくれた。
「主はやて。もう起き上がってよろしいのですか?」
シグナムにそう訊かれたわたしは「もう大丈夫やよ」って笑顔で答える。ベッドに降ろしてもらいながら、ルシル君たちにリンディさん達とどんな話をしてんかを訊いてみた。ルシル君が一度みんなを見回した後、話してくれた。
「――う~ん。とゆうことは、わたしらはそんな重い罪にはならへん・・・?」
ルシル君の話やと、魔法を使って悪いことする人たちを徹底的に狙ったおかげで次元世界の犯罪率が一時的とはいえ下がったことが高評価やったみたい。それはルシル君の狙い通りでもあって、ルシル君のすごさに改めて舌を巻く。
「ああ。リンディさんとクロノの計らいでね。ま、保護観察は確定だ。俺や守護騎士は管理局従事、早い話が管理局に入って仕事すれば許される、みたいな」
「じゃ、じゃあわたしは? わたしも一緒にやるよ? ルシル君やシグナム達ばかりに迷惑を掛け・・・、どないしたん・・・?」
ルシル君を含めたリインフォースら全員が一様に沈んだ顔を見せてるのに気付いた。もう一度「何かあったん?」って誰とも言わずに訊いてみたところで、「あっ」ある考えに至った。
「た、確かにわたしはルシル君に比べて半人前、むしろド新人やけど。そこは頑張って、みんなのお荷物にならへんようにするから。あ、そうや。みんな、わたしに魔法を教えて。飛び方とか色々」
リインフォースとユニゾンせななんも出来ひんようなわたしが、みんなと一緒に管理局のお仕事なんて夢のまた夢や。そやけど、そこは努力でなんとか・・・。でもみんなに教えてもらいながら成長するとゆうのも悪ないな、うん。
「いいえ、そういうわけではないのです、主はやて」
リインフォースがポツリと漏らしたから、「じゃあなんや?」訊き返す。
「ナハトヴァールを切り離す際、管制プログラムの根幹部分と防衛システムを切り離しました」
「え・・・?」
なんや今すごいこと言わへんかったか? 根幹部分を切り離したって、それって切り離したらアカンやつやないの? シグナム達が悔しげな、そんで悲しそうに顔を歪めたのが判った。
「ナハトヴァールを切り離すにはどうしても必要な処置でした。根幹部分を失ってしまった私は、保ってあと半年の命かと思います」
「半・・年・・・? え、何を言って・・・?」
頭の中が真っ白になる。「なんかの冗談やんな? なぁ、みんな?」リインフォースに、シグナムに、ヴィータに、シャマルに、ザフィーラに問う。ルシル君も信じられへんって顔でリインフォースを見てる。わたしの問いには誰も答えてくれへん。そやから「嘘やんな!」声を荒げてしまう。
「・・・嘘でも冗談でもないのです。夜天の書リインフォースに残されている時間は半年なのです」
ハッキリそう言うたリインフォースを「なんで・・・なんでや!」問い質す。勢い余ってベッドから転げ落ちそうになるんをそのリインフォースに助けてもらった。温かく、柔らかく、優しい感触。それらが消える、あとたった半年で・・・。わたしの右肩と左腕を掴むリインフォースの両手が震えだす。さらにポタポタッとわたしの頬に落ちてくるリインフォースの涙。
「夜天の書の闇からあなたを救う為には、管制プログラムである私と深く繋がっている防衛システムも切り離さなければならなかった。ですから――」
「自分を犠牲にしたってゆうんか! そんなん嬉しない! やっと、やっと・・・みんなをなんの心配も無く、幸せに出来るって・・・!」
ここまで言ったところで、「シグナム達はどうなるん・・・?」それに気付いた。リインフォース・・・“夜天の書”の死。それってつまりその一部のシグナムら守護騎士も一緒に・・・。ハッとしてみんなを見る。さっきからみんなが浮かべてる表情の意味がようやく解った。
「はやて。大丈夫だよ。はやてにはルシルもいるし、なのは達もいる」
「そう、ですよ。もう寂しくありませんよ、はやてちゃん」
無理して笑ってる感がありありのヴィータとシャマル。
「な、な、何を言うてんのや! 大丈夫なわけないやんか! 寂しくないわけないやんか! リインフォースが居らんくなって、シグナムもヴィータもシャマルもザフィーラも・・みんなが居らんくなったら、それのどこが幸せや! 認めへん、そんなん認めへん!」
わたしも涙が溢れてきた。すると「あたしだって、あたしだって嫌だよ! 離れたくない、ずっと一緒に居たいよ、はやて!」ヴィータも大泣きし始めた。シャマルも「う、う、うぅぅ、わ、私だっで~~~!」両手で顔を覆ってへたり込んでしもうた。見ればシグナムも少し涙を浮かべてて、ザフィーラもホンマに辛そうな表情や。それが余計にわたしに涙を流させる。
「すまない、言い忘れていた。守護騎士プログラムも同様に私から切り離した。だからお前たちはこれまで通り、主はやてやルシルと共に生きていくんだ」
リインフォースが涙を零しながらも優しく微笑んだ。シグナム達はもちろん、わたしも息を呑んだ。
「それだけではない。主はやて。防衛システムを失ったことで私からの侵食も止まり、あなたの下半身麻痺も時を置けば快方に向かいます。ですから以前のように自らの足で立ち、歩けることが出来ますよ」
「そんなん・・・そんなん、リインフォースが居らんくなるくらいなら、ずっと歩けんでもええ・・・!」
「主はやて。そんな悲しいことを仰らないでください。あなたは夢見ていたはずです。己の足で立ち、歩き、ルシルやシグナムら家族と遊びに行くことを。それが叶うのですよ?」
「そやからって、素直に喜べるはずないやんか! リインフォース、なんとかして戻せへんの!? わたし、なんでもするから! 管制権限が使える今なら、新しく機能を作って追加できたりするんやないの!?」
「・・・もう、戻りません。半年間と掛けて緩やかに崩壊します。それは覆すことの出来ない、運命です」
ギュッと抱きしめてくれるリインフォースに「なんで、そこまで・・・」ホンマは解ってることを訊く。
「私はあなたの魔導書です。新たに祝福の風リインフォースという美しい名を頂き、止めてほしかった呪いの旅路を終わらせて頂いた、とても幸福な魔導書。ですからその力を以ってあなたを、そして騎士たち家族を守らせてください」
リインフォースの決意は固かった。それやったら、「残り半年間、うんと幸せにするからな・・・!」リインフォースが居なくなるまでの短い時間、わたしは、わたしらはリインフォースの為になんだってする。リインフォースの人差し指で涙を拭ってもらった目でみんなを見回す。シグナムとザフィーラは真っ直ぐリインフォースを見詰めて、ヴィータもシャマルも涙を袖で拭って、強く頷いた。ルシル君も頷いてくれた。
「リインフォース。シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、そしてルシル君。この半年間。精一杯みんなで生きて、幸せになろうな」
「ああ!」「うんっ」「「「「はいっ!」」」」
八神家の再出発や。リインフォースが笑顔で旅立ってくれるように、うんと幸せな時間へ向かって、な。
後書き
ジェアグゥィチエルモジン。ジェアグゥィチトロノーナ。ジェアホナグゥィチ。
アニメ原作とは違い、リインフォースを期限付きで残留させました。そう、原作のIFストーリー「THE BATTLE OF ACES」です。+αストーリーは、PSP版2作となります。
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