腐敗
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第五章
第五章
「だからこそです」
「ここは我が朝売の総力を挙げて」
「ネットを潰しましょう」
こう言って彼等は早速大々的にネットへの規制に乗り出した。しかしそれに乗った政治家も官僚も少なかった。彼等も既にネットで情報を手に入れていてそこから朝売の現状もこれまでの嘘も知ってしまったのだ。もっと言えば信用を失ってしまっていたのだ。
「もうあの新聞は駄目だ」
「嘘ばかりついていたのがばれた」
「脅迫してきたら公に出せ」
「ネットに流せばいい」
乗る人間は少なく乗った人間はネットで叩かれる始末だった。中にはブログに批判記事が殺到しそのブログを閉鎖するしかなくなった議員までいた。
そして挙句にはネット規制の後ろに井上がいることもわかった。それによりネットでの彼への批判、それに朝売不買運動は頂点に達した。
「駄目です、もう」
「発行部数の低下は底を割りました」
「テレビの視聴率も全てドン底です」
「チームの観客動員数も水増ししても最早」
「どういうことなんだ」
井上は取り巻き達の報告に苛立つばかりであった。
「何故どいつもこいつも」
「わかりません」
「ネットの勢いは止められません」
「ネットが何だっていうんだ」
井上は歯軋りしながら呻く様に呟いた。
「規制に乗り出してるのに全然利かなねえしな」
「発行部数は何とか止めたいのですが」
「どうしましょう」
「しかもです」
まだあるのだった。井上にとって忌々しいニュースは。
「広告も次々に撤退していっています」
「新聞の広告もか」
「はい、それもです」
「そちらも歯止めが効きません」
「政府に言えっ」
怒鳴り声に近かった。
「新聞を支援しろとな。このままでは本当にまずいぞ」
「え、ええ」
「それでは」
「新聞は絶対だ」
井上の目は最早血走ったものになっていた。
「俺の朝売、絶対に潰させんぞ」
こうして彼は最後の手段とばかりに政府に支援を要請した。しかしこれもまた彼等に対する集中豪雨的な批判になるのだった。
「はあ!?政府に支援要請!?」
「金出せってか」
「どっかの銀行への支援とどう違うんだよ」
誰もがこれには呆れ果ててしまった。
「おい、政治家に働きかけるか」
「朝売の前でデモやるか」
「賛成する政治家いたらリスト作れ」
今回もネットにおいて対策が講じられていった。
「ビラ作ってわざとどっかに置いておいてな」
「海外にも広めるか」
「どんどんやってやれ」
こうして次々に作戦が講じられ実行に移されていく。政治家はおろか広告を出している企業にまで電話やメールが入れられ送られる。そうして遂にこの支援の話も潰れた。発行部数はさらに激減し遂に朝売は悪夢とも言うべき大赤字に陥ってしまったのであった。
「最早これでは」
「破産申請するしか」
相変わらず朝売には抗議の電話が連日連夜鳴り響いている。最早それで仕事にならない程である。朝売新聞は今まさに崩壊しようとしていた。
「どうしようもありません」
「我が社はもう」
「おのれ、何故だ」
井上もまた憔悴しきっていた。その痩せこけた顔で言うのだった。
「何故こうなったんだ」
呻いていた。
「新聞は絶対の権力だった筈なのに」
そう呻く彼の後ろの窓から見えるのは今日も会社の巨大なビルの前に集まる群衆だった。彼等は口々に叫んでいた。
「破産したそうだな!」
「自業自得だ!」
「そのまま潰れろ!」
「地獄に落ちろ井上!」
彼等は垂れ幕や抗議のプラカードを持って口々に叫んでいた。
「自分が一番偉いと思っていたからだ!」
「俺達を馬鹿にするな!」
だがその声はもう井上の耳には届かなかった。彼は憔悴のあまり空虚な抜け殻になってしまっていた。間も無く朝売新聞社は破産申請手続きに入り遂に倒産してしまった。
井上は失意のうちに死んだ。その時日本中が祝杯をあげ葬式場の前では大歓声が起こった。その時蓄財や汚職、工作の数々も公になり今度は朝売新聞社に地検から強制捜査まで入った。その時国民はわかったのだった。本当の腐敗とは何であるのかを。
腐敗 完
2009・8・26
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