カウンターテナー
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第四章
第四章
「十八世紀のね」
「また随分と昔の人みたいですね」
「けれど名前が残っている」
歌唱力も見事だった。彼はそれも確かに聴いていた。そして言葉を出していくのだった。
「それが今ここにいたんだ」
「彼がですか」
「そう、彼だよ」
そのマクドネルこそまさに、というのだ。
「彼こそがね。そのファルネッリなんだよ」
「何かよくわからないですけれど凄いってことですよね」
「うん」
その通りだというのだ。
「間違いない、これで大きく変わる」
そして言うのだった。
「オペラ界が」
白い上着と青いジーンズでその逞しい身体を見せながら歌い続けている彼を見ながら言うのであった。そこに確かなものを見てである。
マクドネルはステージを終えるとまた休憩所で仲間達と一息ついていた。そしてそこで談笑しているとであった。
「いいかな」
「むっ!?」
「どうしたんだ?」
マクドネル達は突如としてやって来た二人を来て顔を向けた。
「誰なんだあんた達」
「ちょっと見ない顔だけれどよ」
「さっき歌ったのは」
怪訝な顔をするバンドの面々に対して言った彼だった。
「誰だったかな。ああ、君だ」
「僕ですか」
「そうだ、君だよ」
マクドネルを見つけて言うのであった。
「君だけれど。名前は」
「ジャッキー=マクドネルです」
自分の名前をそのまま名乗った。
「それが何か」
「私はジョージ=オコンネル」
ここで自分の名前も名乗ってみせたのであった。
「それが私の名前だよ」
「ジョージ=オコンネルさんですか」
「ジョージでもオコンネルでもいいよ」
気さくな笑みを浮かべての言葉であった。
その言葉を出したうえで。さらにマクドネルに対して告げた。
「君の歌声だけれどね」
「ああ、これですか」
それを言われてまずは何もない様子で応えるマクドネルだった。実際のところ歌声についてあれこれ言われるのはもう慣れていた。
「まあこれはですね」
「その声だよ」
オコンネルは言った。
「その声こそなんだよ」
「!?」
今のオコンネルの言葉に妙なものを感じ取った彼だった。
「その声こそって」
「いいかい、その歌声はね」
歌声とそのまま直接語ってきていた。
「あれだよ。オペラ界を変える声なんだよ」
「えっ!?」
「オペラ!?」
オペラと聞いてマクドネルだけでなく彼の仲間達も一斉に驚きの声をあげた。彼等にとっては全く縁の世界だからだ。それも当然のことだった。
「オペラって」
「何でここで!?」
「実は私はね」
今度は己の身元について話すオコンネルだった。
「クラシック界の人間で」
「クラシックですか」
「そう、君の声だけれど」
「生憎ですけれど僕はテノールじゃないですよ」
オペラではまずテノールが人気なのはマクドネルも知っていた。彼にしても三大テノールの存在は聞いているからである。もっとも詳しくはないが。
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