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少年の希望

作者:石尾意志
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石尾意志

 
前書き
少年はなぜ、希望を抱くのだろう。
そんなものに意味なんてないというのに・・・・ 

 
こんな、どうしようもないどうにもならない僕がぼくは・・・・大嫌いだ
あれは、いつだっただろうか・・・・・
少女は、その花を枯らし、少年は、その希望をゴミにだした。
きっと、これは、彼と彼女が特別だったわけではないのだろう。だれにもあてはまるし、だれにも起こしえるありきたりな話なのだろう…。
それでも僕は、あえて語ろう…。ぼくの物語を…。
さて、今日はいったいだれが生き延びて、だれが死ぬのだろう。
だれが喜び、だれが悲しむのだろう。
今日もどこかで誰かの終わりを告げる電子音が鳴り響いている。ぼくは、この音が本当に大嫌いだ。胸がしめつけられてどうしようもなく死にそうになってくる。
ぼくの父は県下でも随一の名医として名が知られている人だ。そんな父でも出来ないことはたくさんある。父はそれを自覚したとき人を救うことをあきらめ、こんなことを言うようになった。
「人は自分以外の人間を救うことはできない。」と…。
それを聞いて僕は父に尋ねた。
「それじゃあ、医者は何をしているの……?」
と、ぼくのその問いに対して父は
「私は人間をすくおうとしていない。私は人間に自分自身を救うように促しているだけだ。」
と、答えた。
この時のぼくは父の言っていることの意味がいまいちよく分からなかった。
でも、今は父の言っている言葉の意味そのものは理解した。しかし、それでも僕は父の考え方に納得できない。
それは夏休みのことだった。ぼくは鼓膜を破かんばかりの蝉の鳴き声で目を覚ました。この蝉の鳴き声によって目を覚ますのは最近のぼくの日課となっている。
さらに言えば「うるさい」といって体を起こすのも最近のぼくの日課だ。
昨日の夜は夏にしてはやけに乾燥していた。そのせいか、ぼくはいまとてものどが渇いていた。なので、ぼくは病院の一階にある自販機でお茶をかった。
自販機から買ったお茶を取り出した時、見かけない少女と目が合った。
ぼくは今この病院に入院している患者のことはだいたいおぼえているはずなのにぼくはこの少女にまったく見覚えがない。くわえて少女はこの病院の患者服をきていた。つまり、この少女はつい昨日救急車によって運ばれてきた子なんだろうと、ぼくは思った。
さて、ここで困るのはこの状況だ。しっている人ならもちろん、せめてお年寄りの方であったならば、
「今日はあついですね~」
といえばそれでいい。
しかし、あいては十五,六歳の少女だ。しかも松葉杖をついているところをみると・・・・・
と、ぼくがうだうだ考えているうちに少女のほうから
「こんにちは」
と、ぼくに挨拶をしてきた。なのでぼくも
「こんにちは」
と、挨拶をかえした。
「あなたはここの病院の院長さんの息子なのかな?」
と、ぼくは聞かれた。なぜ、彼女がぼくのことを知っているのだろうか。
「あれ、院長さんに顔がにているからそうなんじゃないかっておもったんだけど?ちがったかな?ごめんね。」
と、彼女はそう言った。
「いや、ちがわないけど。そんなに父さんの顔に似てるかな?」
ぼくは、自分の顔も父の顔もそこまで意識していないから父に似ているといわれてもそこまでピンとこなかった。
「顔じゃないんだけど・・・なんというか・・・雰囲気が似ているんだよね。」
「ふうん・・・」
ぼくは雰囲気が似ているといわれても、それこそピンとこなかった。
まあ、同じ地獄みたいな場所に生きている者同士雰囲気が似ていてもおかしくないともおもうけど・・・・
「君はいいお父さんをもってるね。」
はて、ぼくにはかのじょのいっていることの意味がわからなかった。
あの父をいったいなぜいいといえるのだろうか・・・・・。
「ぼくには父さんをいいとは思えないし、思いたくもない。」
あんな自分の苛立ちをはらすためだけに・・・八つ当たりのように人を救う人なんて、到底いいとはおもえない。
いや、父からすれば救っているのではなく、人に自分を救うように促しているだけなのだろうけど・・・・
「そうかな。私はそうとは思わないけど・・・・。私46病室にいるんだ。もし、ひまだったら来てくれない?」
私これからリハビリあるから。と彼女はそういってリハビリ棟の方に消えていった。
5年前からぼくの父は変わってしまった。
それはしかたがないことだったのだろう。なにしろ、父は最愛の人・・・・父にとっての妻。すなわちぼくにとっての母を亡くしてしまったのだから・・・・。
ぼくはその時、まだ小四だったから人が死ぬということがいまいちまだ理解していなかった。
あと、数日もたてば目をさますだろう・・・とそう思っていたし、それでも起きなければきっと父が起こそうとするだろうと・・・だって父は医者なのだから、医者は万能なのだから・・・・と、夢を・・・希望をいだいていた。
医者だからといって万能なわけがないのに・・・。そんな、あまい幻想を信じて、もう二度と母と話すことも、会うこともできなくなるという事実を疑いもしなかった。
母は、事故で死んだ。・・・正確に言えば、事故のあとに自殺をして死んだ。
母は、その死の前日までとても元気そうであった。しかし、翌日、突然母は病院の屋上から飛び落ちた。
それからというもの父は、何かに取り憑かれたように人を救おうとした。
より多くの人を救おうとした。その姿をみて、ぼくは八つ当たりのようだと思った。自分に対する怒りを他人を救うことで慰めているかのようだった。それはまさしく自罰のようだった。
その時からぼくは父のことが嫌いになった。
他人がいなければ自らの罪を償うことすらできない。そんなものはぼくが思っていた父の理想像とはちがった。ぼくは父がそんなにも醜いとは思っていなかった。
でも、所詮そんな理想像はぼくの勝手な押し付けなのだろう・・・それが分かっていてもぼくは父が嫌いだと思う。

ぼくは、その後、各病室を見舞いにいった。これもまた、夏休み中のぼくの日課だ。
ぼくがなぜそんなことをしているかというと、この病院に入院してる人を元気付けるため・・・というのももちろんあるのだが、なによりもぼくは父が何をしているのかが知りたかったのだ。
父が何を思っているのか探りたかったのだ。
一~二十病室まで回って、昼食をとった後にまた二十一~四十四病室を回り、次はあの子のいる病室に向かった。
彼女はそこで本を読んでいた。
その姿が異様ににあっていてしばらく見惚れて声もでなかった。そうして、突っ立っている間に彼女はぼくにきずいて
「こんにちは。来てくれたんだね、ありがとう。」
と、声をかけてきてくれた。
「そこの椅子に座って。」
とすすめられるままぼくは彼女がいる介護用ベットの側においてある椅子に座った。
「元気そうだね。」
と、ぼくは当たり障りのないことを言ってみた。
それに対して彼女は
「うん。君のお父さんのおかげでね。」
と、答えた。
父ならば、ここで「君が助かったのはあくまで君の力のおかげだ。」とでも言うのだろう。
だけど、やっぱりぼくはそうは思わない。
人はその力によって他人を救うことができる、とぼくは思う。
ぼくは、彼女にいろいろな質問をした。
なぜ、ここに来たのか、好きな食べ物は何か、好きなことは何か。
それによると、彼女は、事故に遭って救急車によって運ばれて来たらしい。そして、クレープと読書が好きらしい。
その様子を見ると事故のことなど気にしていないようであったが・・・・しかし、ぼくの母のような例もある・・・・
気にしていないように見せて実は気にしているのかもしれない。
これから、ここに来る時はクレープをもってこようと思った。
ぼくは、彼女のいる病室を出て次の病室へと向かっていった。

ぼくは日課を終わらせた後、ノートを開いてそこに今日あったことを書いた。
新しい入院患者である彼女のことや昨日亡くなった患者さんのことなどを書いた。
次の日も、その次の日もそんなことを繰り返していた・・・もちろん、彼女の病室へと向かうときはクレープを持っていった。
彼女と話をしていくうちにぼくは彼女に魅かれていくようになった。

そんな、ある日、彼女は手紙を一通残して病室から消えた。
ものすごく嫌な予感がした・・・
その予感が当たらないことをただ祈ってぼくは病院の屋上へと向かった。
残念ながら、ぼくの予感は的中することとなった。
つまり、そこに彼女がいたのだ。フェンスを乗り越えて少しでも風が吹いたらそのまま落ちてしまいそうな体勢で彼女はそこにいた。
ぼくは叫んだ、やめろ、と。
ぼくが叫び続けていると、突風が吹いた・・・その突風に押されて彼女は落ちていった。
彼女は最後に
「私は君のことが・・・・・。」
彼女の言葉は風にかき消されて聞き取ることができなかった・・・
彼女は、最期にぼくに何を伝えたかったのだろうか・・・・
ぼくは父を呼びにいった。
彼女を助けて、とそう泣きながら叫んだ。
緊急手術が行われた、しかし、彼女は目を覚まさなかった。
植物状態が数日続いた後、彼女の病室で、ピーピーと電子音が響いた。そして、父が残酷に現在の時刻を告げた・・・
「なんで・・・なんで、彼女を・・・」
とぼくは・・・力なく嘆いた。
「だから、言っただろう、人は自分以外の人間を救うことはできないと」
そう言って父はぼくの前から消えた。 
数日後、ぼくは彼女の遺した手紙を読むことにした。彼女がいったい最期になにを言っていたかを知るために。
手紙にはこう書いてあった。
あなたがこの手紙を読むときに私はいったいどうなってるんだろうね。
きっと死んじゃっているのかな?
それならそれで良いけど、だって生きてたって・・・
じゃあ、なんで自殺したか、説明するね。君はきっとこれが知りたかったんでしょ?
じゃあ、まず、なんで私が事故に遭ったか説明するね。
私は、死にたかった、だから私は信号が赤なのに・・・車がたくさん走っているのに・・・横断歩道を渡った。
そして、私の望みどうり私は車にぶつかった。
だけど、私の望みと違って私は助けられてしまった。あなたの父親にね。
だけど、私は助けられたくなんてなかった。
どうせ、生きていたって辛い事しかない・・・・
そう思っていた時あなたに出会った。
あなたと話しているのはとても楽しかった今までの嫌なことなんて全部忘れてしまうほどに・・・
でも、私は気づいてしまった。こんなのはずっと続くわけがないことに。
退院したらまたあのつらい日々が戻ってくることに・・・
だから、私はもう一回死のうと思った。
それから、君に悟られないように私は常に笑顔で明るく振舞った。
そして、これから私は予定どうりにこの病院の屋上から飛び降りて死ぬ。
さようなら。そして、ありがとう。
私は、あなたの事が・・・好きだった・・・。
と、そう書いてあった。
ぼくは泣いた。
そして、理解した。父の言っていたことの本当の意味を・・・。
人は自分以外の人間を救うことはできない。ということの本当の意味を・・・
人がいくら他人の体を直したところで最終的生きるか死ぬかを決めるのは、その人自身なんだ。
だから人は他人を救うことなんてできない。
僕はそれを今始めて理解した。
父はきっとあの時こんな気分だったのだろう。
僕はなぜ、いままでこんなことにすらきずかなかったのだろうか・・・。
少し考えれば分かることなのに僕は、それを考えようとさえしなかった。
そんなことも考えずに僕は希望を抱き続けたのだろう。
そして、その希望が打ち砕かれて初めて僕は考えたんだ。
絶望をしって初めて僕は知った。
人は他人を助けることなんて絶対にできない。
僕はぼくが嫌いだ。なんで、いままでこんなことにすら気づいてなかったのだろう。
いや、本当は、気づいていたのかもしれない、それは考えてはいけないということに・・・・
僕はただ逃げていただけなのかもしれない。
僕は・・・・ぼくが嫌いだ・・・本当に・・・大嫌いだ。

 
 

 
後書き
学校の部活用の作品をそのまま使いまわしました。
先生の評価で言えば、先輩よりも上手いそうです。 
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