紫炎の超能力者、彼の地へゆく
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第二話 「転移」
『聞こえているか』
『いや、恐らく聞こえていても返事はできないか』
なにを……いって……る……だ?
『君に僕から頼みがあるんだ』
たの……み?
『君の元いた世界には君がいなくなった数年後に人類、地球にとっての脅威がやってくる』
な……!?
『嘘ではないからね。ま、信じるも信じないも君次第だ。と、言っても今の君にはどうすることもできない』
『だから君に力を与える。正確には君に本来備わってる魂の力を使えるように』
『そして最初に言った頼みというのはね……』
ーーどうか私の可愛い可愛い人間こどもたちを救ってください。
######
「君、起きなさい」
女性の声が聞こえる。まあいいや……いや、良くないだろ俺。長年のいじめにより人の言葉を聞き流していたからか駄目な癖が付いてるな。
「早く起きないと……これだぞ?」
女性は人差し指に拳くらいの火を灯しそれを俺に向けている。
これはちょっとやばい。てっきり手品かと思ったら全然違う。理由は熱い、それに火を灯火するための触媒が無い。要するに得体が知れないのだ。
「お、起きますから! それを早く閉まってください!」
「む、起きたか。で、さっそくだが一つ質問がある」
指に灯した火が一層大きくなる。
「は、はい!」
「君はなぜ私の部屋で倒れていたのだ?」
「はい?」
わけが分からない。むしろ俺が聞きたい。
まず俺はあの崖から飛び降りたはずだ。なのになぜ生きていてこんなところにいるのか。
「わからないです」
「なに?」
彼女は火を消し怪訝な表情で見てくる。
「気づいたらあなたに声をかけられていて、その、自分もよくわからないです」
「ふむ」
少し考えているようなそぶりをして俺の方に向き直る。
「ところで君はここがどこか分かっているか?」
「いいえ全然。全くもって知りません」
ここはきっぱり言わせてもらった。俺が唯一自身を持って答えられることだからな。
「まあいい」
自分の事を説明してからここのことも聞いた。
で、女性または彼女改めアルミリアさんに説明してもらった。てか名前外人じゃん。
まず、今いる場所は【魔法魔術魔工総合学園】というところの教員寮らしい。ちなみに通称【魔総園】なんだとさ。
俺の世界には超能力はあっても魔法や魔術は存在しない。
ここからは俺の憶測だ。
最初にこの世界は元いた世界とは違う。これに関しては断言できる。
次に魔工という分野は魔力を利用した道具であり、聞いた話では機械の動力すべてが魔力らしい。
「そういえば君の名を聞いていなかったな」
「ああ忘れていました。守村もりむら 悟さとりといいます。基本的に悟でいいです」
「サトリというのか。とりあえず君の話を聞く限りでは別の世界から来たという認識でいいのかな?」
やけにあっさりとしてるなあ。こんな簡単に信じられるもんなのか。
「こんな話信じるんですか?」
「異世界からの転移者はそんなに珍しくはない。転移者の魔力は比較的多いたからむしろ大歓迎だしな。実際に魔総園に通っている者もいる」
俺と同じ境遇の奴がそれなりにいるってことか。なるほど、それなら信じてくれたことも頷ける。
これからどうすればいいんだろうな。ここにずっといるわけにもいかないし。
「アルミリアさん、俺、どうすればいいですかね」
「サトリはこの学校に興味はあるか?」
「というと?」
「要するに入学という形で学校にはいってみないかということだ」
「しかし住む場所や金銭的にそれは難しいのでは……」
「それに関しては大丈夫だ。転移者は衣・食・住が保証されているからな」
それなら願ったり叶ったりだ。やはり転移者が珍しくないというところからそういう処置もしてあるということか。
「入るなら魔工科にお願いできますかね」
「理由を聞かせてもらっても?」
「えー、まず一つ目としては俺自身の魔力の有無ですね」
魔力の有無。
これは非常に大事であると思っている。
元の世界では超能力があっても魔法または魔術という類のものは存在していない。
しかし今いるこの世界では科学技術はすべて電気ではなく魔力をを動力としているようだ。
要するに魔力をほとんど、いや持たない者は前提として魔法や魔術などは使えないし生活もままならないだろう。
「確かに魔力がなければ魔法や魔術は使えない。生活自体は別のところから魔力を引っ張ってきているから大丈夫なんだがな。サトリは魔力の無い世界からきているからそこは重要だな」
するとアルミリアさんは机の引き出しから携帯端末のようなものを取り出した。
「それは?」
「これは魔力測定用デバイスだ。画面のセンサー部分に手をかざせば魔力量が分かる。言語や文字に関しては測定者側の知識の中から自動的に読み取って表示されるから安心しろ」
これ、スマホだよな。この世界の技術は元の世界よりも高度なのかもしれない。
逆に安心した。これが中世レベルの文明だったらいろいろと不便だしな。
「えっとここに手をかざすと……おお?」
画面に数字が表示される。
「な!? これは……」
アルミリアさんは目を大きく開き、硬直している。
しかしまあ、これはさすがに驚きを隠せないな。
「ま、魔力がない、だと?」
「魔力が無い、か。予想はしてたしいいか」
のんきなものである。が、確かに一時は驚いたが無いなら無いでいいと思ってはいた。
そんなことよりアルミリアさんの様子がおかしい。
俯いて肩を震わせている。泣いている、ではなさそうだ。
そんな俺を尻目にして急に顔を上げた。
「アハ、アハハハ! 面白い! これは非常に面白いぞ。まさか魔力の無い者がいるとは、こんなケースは初めてだな。久しぶりに退屈な日々から脱出できそうだ」
突然笑い出したから壊れたかと思った。マジ焦った。
「ふう……よし。私が君の保護者になってやる。喜べ」
「は?」
「だから君の保護者になってやると言っている。そうすれば学園の方にもすんなり入れるしな」
「本音は?」
「この後めちゃくちゃ君を、サトリを研究したい。もちろん……いや、なんでもない」
今この人あからさまに目を背けたぞ。むしろなんでもなくないだろ。
保護者、ねえ。そうしてもらった方がいいかもしれん。八割方俺得だからな。
「そんじゃ、これからよろしくお願いします」
後書き
第二話です。頑張らせて頂きます。
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