魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Epos24聖夜に舞え、幸運の追い風・夜天に謳え、祝福の詩~Ende Von Einer Reise~
前書き
Ende von Einer Reise/エンデ・フォン・アイナー・ライゼ/旅路の終焉
†††Sideはやて†††
融合騎としてのリインフォースとユニゾンとしたわたしは、「おかえり、そんでただいまや、みんな」側に居るシグナム達に笑顔を向ける。するとヴィータが「う、ぅぅ、うう・・・はやて、はやてぇぇーーー!」大声で泣き出してしもうた。抱きついてきたヴィータを受け止める。
「あの、はやてちゃん・・・」
「シャマル、おかえり」
「っ!・・ただ、いま・・・ただいま、そしておかえりです、はやてちゃん・・・!」
涙もろいシャマルもまたぼろ泣きや。シグナムも「ただいま、おかえりなさい、主はやて」挨拶を返してくれて、ザフィーラは頷きを見せてくれた。泣き止まんヴィータとシャマルをあやしながら、「ホンマにおおきにな。わたしらの為に」ずっとわたしらの再会を見守ってくれてたすずかちゃん達に振り向く。
「それにごめんなさい。みんなにも大きな迷惑を掛けてしもうた」
すずかちゃん達の魔力は“夜天の書”完成の為に蒐集された。いくらシグナム達がわざとやないにしても、許されることやあらへん。そやから深々と頭を下げて、「ほら、みんなも改めて。ほら」シグナム達を促す。次に会った時にはちゃんと謝るって言うてたし、謝ることも出来たって教えてくれた。それでも、もう一度や。
「申し訳なかった」
「すまなかった」
「ごめんなさい」
「ずびっ・・・悪かった」
シグナムとザフィーラはわたしと同じように深く頭を下げて、人差し指で涙を拭ったシャマルはしょんぼりと小さく頭を下げて、鼻を啜るヴィータは泣いてるところを見られてるのが恥ずかしいみたいで、ばつの悪そうに顔を逸らしながら謝った。
「うん。もう許してるよ。ね、みんな?」
「うん。ちゃんと襲われた後に謝ってもらっているし」
「はやてを助ける為だったって判っているから」
「そうね。今日この日、あんた達の笑顔を見る為だったって思えば、本当にちっぽけな問題よ」
笑顔を浮かべたなのはちゃんがみんなに確認すると、みんなも笑顔になって嬉しいことを言ってくれた。改めて思う。「みんなと出逢えて、友達になれて良かった」って。するとすずかちゃん達も「私たちも」って同意してくれて。うぅ、嬉しすぎて泣きそうや。
「元気そうで良かったよ、はやて。シグナム達も」
「シャルちゃん・・・! シャルちゃんにもお礼を言わなアカンな。もちろん、すずかちゃん達にも。外のアウグスタさんを倒してくれたからこそ、わたしとリインフォースは戻って来れたんや」
わたしとリインフォースは解放されたきっかけの1つは、シャルちゃん達が外側のアウグスタさんを倒してくれたからこそや。「どういたしまして♪」って笑顔で返してくれたすずかちゃん達と、「友達の為だもん。なんの苦もないよ」ってシャルちゃんは言ってくれた。ホンマに嬉し涙が出そうやったそんな時、シャルちゃんが「ほら」って、わたしらから離れてたルシル君の背を押した。
「ルシル君・・・」
「・・・はやて。その、なんだ・・・。すまなかった。俺がドジを踏んだばか――っ?」
「ルシル君のそんな顔、見たない。それにな、ルシル君が全部悪いわけやない。わたしが心の隙間を晒してしもうたことも原因や。ちゃんと強く在れば、みんながここまで苦労することなかった」
悲しそうな表情を浮かべて俯きかけたルシル君を正面から抱きしめる。みんなが見てる中やけど恥ずかしないよ。そんな感情よりもっと強い思いがあるから。そう、「ありがとう、ルシル君」感謝や。ルシル君の声もわたしが目覚めるきっかけやった。シグナム達を喪った絶望の闇の中、ルシル君の声が希望の光になった。
「はやて・・・」
「そやからそんな悲しそうな顔をせんで。わたしは、ルシル君の笑顔が・・・好きや」
言ってからちょう後悔。耳や顔どころか全身が熱くなって、ドバっと汗が吹き出しそうになる程に恥ずかしなってしもうた。こんなわたしらを見守ってくれてたシグナム達はなんや微笑ましそうで、すずかちゃん達はちょう頬を染めてて、クロノ君は「コホン」と咳払いひとつしながら目を逸らしてて、そんで・・・。
「ま、今だけは譲ってあげるよ」
シャルちゃんは刀を肩に担ぎながら笑顔でそう言った。あくまで余裕って態度を崩さへんようや。ええよ、わたしももう、「これからは一歩も引かへんからな」宣戦布告返しや。ヒュー♪と口笛を吹くシャルちゃんは「上等♪」って、声色とは違って凛とした表情を浮かべた。
「あー、すまないが、そろそろ本題に入りたいんだが・・・。まだ、なにも終わっていないからな」
そんなわたしらの間に割って入って来たんがクロノ君で、わたしらをぐるりと見回した後で足元、海面へ視線を移した。時計の文字盤の数字の位置と同じような場所から突き立ってる岩の柱の中心に、「ナハトヴァール・・・!」らしい真っ黒い闇が穴を開けてた。その闇の穴の中からアウグスタさんの呻き声が漏れ聞こえ始めた。
『ナハトヴァールの本体ですね。何かしらの形で実体化するのでしょう。お気を付けください、主はやて』
「おおう? 小っこいリインフォースや!」
半実体化してる妖精のように小さなリインフォースが現れた。あ、そうや「みんな。今日からこの子はリインフォースな。あと、もう闇の書、って呼ばんようにお願いするわ」このことを伝えとかな。
『シュリエルリート改め、夜天の書リインフォース。皆、よろしく頼む。では、話を戻そう。主はやてに管制権限が戻り、私はナハトヴァールを切り離すことが出来た。しかし、これまで溜めこんできた膨大な魔力や狂ったままのプログラムは依然として残ったまま。それに闇の書としての特性を引き継いでいる』
「やはり、アレには世界侵食の特性が・・・?」
『ああ。触れたモノを際限なく侵食して自らの一部としていき、臨界点が訪れない場合、この世界を全てまるごと取り込むだろう』
世界まるごと。その言葉にすずかちゃん達が息を呑むんが判った。それほどまでに強力な闇。それを打ち払うために、わたしらが今ここに居る。すぐさますずかちゃん達が凛とした表情になって、わたしら八神家も戦闘準備オーケーを示すためにそれぞれ持ってるデバイスを握りしめる。
「ナハトヴァールの停止プランについてはこちらで用意してあるんだが・・・。ユーノの奴、遅いな。彼もプランに必要な要員なんだが」
ユーノ、ユーノ・スクライア君。確か考古学に詳しい男の子やったっけ。クロノ君が僅かに焦りを見せていると、『ユーノ君の到着だよ!』わたしらの前に展開されたモニターに映るエイミィさんからお知らせが来て、「ごめん、遅れた!」1人の男の子、ユーノ君が姿を見せた。
ゆっくり自己紹介と行きたいところやけど、そんな余裕がないことは承知や。そやから目が合った時、わたしは小さく会釈することにした。ユーノ君もまた会釈返し。全てが終わったらちゃんと自己紹介せやなアカンな。
すずかちゃん達とユーノ君が頷き合って挨拶してるのを眺めてる中、
――多層封獄結界――
今まで海鳴の街を囲ってた結界よりさらに大きな、海上一帯を封じ込めるように桃色の結界が展開された。それを見たルシル君が「これなら外界にまで戦闘の影響は出ないな」って安堵した。どうやらルシル君も認めるすごい結界みたいや。
「よし。準備は整った。あとは任せてくれ、と言いたいところなんだが。協力者は多い方が良いんだ。八神家の騎士たちにも協力を要請したいんだが」
「とゆうより、わたしら八神家がやらなアカンことや。闇の書としてのアレの幕引きは、夜天の書として生きてくリインフォース達と、その主のわたしのお役目や。な、みんな?」
「「「はい!」」」「うんっ!」『ええ!』
シグナム達の力強い返事を聴いた後、わたしは黙ったままなルシル君に目を向ける。目が合ったルシル君は「もちろん。八神家の一員として、力を貸すよ」って微笑んでくれたから、わたしも微笑み返し。うん、わたしはやっぱりルシル君のことがホンマに・・・。
そんでわたしらはクロノ君からナハトヴァール攻略案を聴いた。最後まで話したクロノ君は「防御力の異常さには焦ったが、イリスが居れば問題ないだろう」ってシャルちゃんへと目をやった。それに「そうよね。あんたの攻撃、アイツの防壁を無視してたし」アリサちゃんが呆れ口調で同意。
「そりゃね。どんな攻撃も防御もサクッと裂いちゃうから♪」
「頼もしい限りだ。・・・それではみんな。配置についてくれ」
クロノ君が懐から1枚のカードを取り出して「デュランダル」って一言。するとそのカードが1本の杖と4本の剣へと変わった。クロノ君の話やと氷結の杖で、侵食型の危険物や爆発物を凍結させて無力化させる目的で、凍結魔法強化の機能に特化されてるとのこと。今のナハトヴァールにはうってつけや。
「あ、ちょう待って。その前に。シャマル」
「あ、はい。なのはちゃん達の治癒ですね。クラールヴィント。出番よ」
≪Ja≫
「風よ、癒しの恵みを運んで」
――癒しの風――
シャマルの治癒魔法・癒しの風がボロボロやったすずかちゃん達の魔力とバリアジャケットを完全にまで回復させた。その回復量にみんなはホンマに驚いてて、「私なんかじゃこうはいかないよ」すずかちゃんが特に驚いてた。
「守護騎士ヴォルケンリッター、湖の騎士シャマルと風のリング・クラールヴィント。癒しと補助が本領です♪」
みんなの回復も終わって、クロノ君の指示の下にわたしらは散開。1つの岩の柱に1人ずつ降り立ってく。わたしが12時、1時にヴィータ、2時になのはちゃん、3時にシグナム、4時にアリサちゃん、5時にすずかちゃん、6時にザフィーラ、7時にアルフさん、8時にフェイトちゃん、9時にシャマル、10時にユーノ君、11時にクロノ君。そんでルシル君とシャルちゃんはと言うと頭上。言うなれば文字盤のど真ん中に居る。
『こちらアースラ! アルカンシェルのスタンバイオーケー! いつでもいいよ!』
『判った。こちらでもナハトヴァールの起動を・・・確認した! 各自、戦闘準備!』
振動が結界内を揺るがしたと思えば闇の中から12頭の龍の胴体が飛び出して来た。真っ先に『七美徳の節制!?』ヴィータが悲鳴のようなものを上げた。続けて出て来たんは西洋騎士の鎧姿の、50mはある巨人の上半身やった。右の前腕の先はチェスの馬の駒で、左の前腕の先は狼の頭が3つ。それぞれ頭の上には大きな黄金の魔法陣がある。
「ん?・・・あれってまさか、アウグスタさん!?」
巨人の鎖骨の中央部分からアウグスタさんの上半身が生えてた。でもそのサイズは心の世界で見た時より2周りほど大きくなってる。そんでいよいよ巨人の下半身も露わになった。そやけど人として有るべき足は無くてその代わりに「亀さん・・・?」が居った。
巨人の腰から下には装甲に覆われた巨大な亀さんの甲羅。闇の穴から這い上がって来ようとしてる亀さんの尻尾、そこから12頭の龍・テンパランチアが生えとった。さらに。巨人の背中からバサッと光の翼が生えた。大きく羽ばたいて飛んで、その体の全てをとうとう穴の中から現した。
『綺麗なのに歪すぎて、すこし気持ち悪い・・・!』
『なんか、ああいうのゲームで見たことあるよ。キメラ、とかいうの』
『あー、確かにあんなの居るわよね。実験失敗で造られたとかなんとかで』
すずかちゃん、なのはちゃん、アリサちゃんがそう言う。わたしも洋画とかで観たことあるなぁ。でもソレらなんかよりずっと神々しい姿や。金銀の装甲に装飾、黄金の魔法陣。至る所に有る威厳に満ちた人の顔の石像。天使や神さまってゆうんがしっくりくる。
『ルシル。あの、やっぱりアレもルシルの使い魔だったり・・・?』
『する。ああ、全部おれの使い魔が使われている。騎士は七美徳の謙譲フミリタス。背中の翼は七元徳の愛カリタス。右手は七美徳の純潔カスティタス。左手は七美徳の慈悲パティエンティア。腰から下の亀は七美徳の忍耐フマニタス。尻尾は七美徳の節制テンパランチア。好き勝手持って行かれたよ』
ルシル君が心底呆れ果ててるって風にフェイトちゃんに答えて、『だからと言って遠慮はいらない。アレらはもう、俺の元へは戻ってこない、敵なのだから』そう寂しそうに締めくくった。それと同時、「素晴らしい! これほどの力があれば・・・!」自分の姿に歓喜しているアウグスタさんの声が聞こえてきた。
――我は顕現せり・聖なるかな・ 聖なるかな・聖なるかな――
ナハトヴァール全体に白い光の膜が張られると、『まずい、ひょっとすると今のナハトヴァールは、プラン通りに攻略できないかもしれない・・・!』ルシル君から不吉な思念通話が送られてきて、『どういうことだ!?』クロノ君が訊き返す。ルシル君がそれに答えるより早く。
「これにて閉幕よ。早々に撃ち墜してくれるわ!」
――ディバインバスター――
――ナイトメア――
――コード・バラキエル――
――バスターラッシュ――
3頭の狼の口からなのはちゃん、リインフォース、ルシル君の砲撃が放たれて、馬の額にある角からすずかちゃんの砲撃が放たれた。でもサイズが桁違い。太さが直径5mほどもある。直撃は撃墜確定や。標的にされたんはシグナムとザフィーラ、なのはちゃんとすずかちゃんで、急いで岩の柱から跳び上がって回避。
『今のナハトヴァールを構築している俺の使い魔にはある特殊な力が働いているんだ。なのは達の攻撃がアウグスタになかなか通用しなかったことにも関係している。だからクロノのプランはおそらく通用しない。おそらく魔法が効かないからだ』
『なにっ!? ではどうする? このまま手を拱いているわけにはいかないぞ!』
わたしらも狙い撃ちされへんように一斉に空へと上がる。そんで今度は12頭の龍の口に光が灯って、一斉に砲撃を放ってきた。それらを散開して回避するわたしらに向かって、「何を企もうとすでに手遅れ。天上の力の前に、人間・プログラム風情の魔導が通用するとでも思うか!!」アウグスタさんの言葉と一緒に、左手の狼の口3つから砲撃が一斉発射。
『ああもう、通用するかしないか、試せばいいじゃない!』
『バニングスの言う通りだ。ナハトヴァールという異物のおかげで、ルシリオンの言う特殊な力を失っているやもしれんぞ!』
『すずか、ユーノ、アルフ、それにザフィーラさん! 拘束をお願い!』
回避しきったアリサちゃんとシグナムが先行し始めた。アリサちゃんに名前を呼ばれた拘束担当のすずかちゃん達も思いは同じなようで、ナハトヴァールの包囲するかのような位置についた。
「ケイジングサークル!」
「アイシクルアイヴィ!」
「チェーンバインド!」
ユーノ君の輪っかのような檻に囲まれたナハトヴァール。続けてすずかちゃんの冷気のロープ、アルフさんの鎖が騎士の両腕と亀さんの四肢を拘束。そんで、「捕らえよ、鋼の軛!」ザフィーラの杭が12頭の龍を空から打ち抜いて拘束した。そやけど、「無駄よ、無駄!」一瞬にして砕かれた。
「如何なる者も私を害することは出来ない。そう。たとえフライハイトの騎士であろうと!」
シャルちゃんが証明するかのように「飛刃!」“キルシュブリューテ”を振るって真紅の斬撃を放った。アウグスタさんを一方的に傷つけてた攻撃やったはずやけど、今のナハトヴァールには通用せぇへんかった。当たる直前で消滅してもうた。それでチェックメイト。この中で唯一の希望やったシャルちゃんの攻撃は完全無力化。アリサちゃんが「じゃあ、どうしろって言うのよ!」って大きな声で叫んだ。
「さあ! 無様に踊り、そして死ねぇい!」
――O salutaris Hostia Quae coeli pandis ostium. Bella premunt hostilia; Da robur, fer auxilium/ああ救霊の生贄、天つ御国の門を開き給う御者よ、我らの敵は戦いを挑むが故に、我らに力と助けを与え給え――
龍や狼、馬の角から何十とゆう砲撃が全方位に向かって放たれた。避けることは出来るけど、こちらの攻撃が一切通用せぇへんとなるとジリ貧や。
『緊急! 武装隊の結界が破損! 残るはロードスター空士の結界だけ! 今すぐにナハトヴァールに魔法を使わせないようにして!』
エイミィさんから最悪な報告。ここで全部の結界が壊されてしもうたら、この状況が全部外の世界に見られることになる。そうなれば大混乱や。それだけは阻止したいけど、それを許してくれへんのが「踊れ、そして潰されろ!」アウグスタさんとナハトヴァールや。狙いをわたしらから外して、結界へと向け始めた。
「手始めにこの世界から支配――いいえ、呑み込んでくれるわ!」
ナハトヴァールから放たれる砲撃を必死に「やめろ!」ルシル君とシャルちゃんが魔法で相殺、または弾き逸らして海面に向けさせる。これをいつまででも続けられるわけない。どうすればええんや。わたしに出来ることを必死に考える。攻撃も拘束も今は通用せぇへんナハトヴァール。それの動きを止めるには・・・。
「汝の恐怖! さらに、汝の宵手!」
「ルシル君・・・!」
ルシル君が銀の巨腕を創り出してナハトヴァールを上から押さえ込んで、続けて影の触手を何十本と創って拘束した。暴れ出すナハトヴァールにまた巨腕は壊されたけど、影の触手だけは絶ち切れることなく拘束を続ける。
「破れない、何故だ! 下位存在であるお前たちの魔法を、上位存在である私が破れない!?」
「っ!・・・俺の使っている魔法が今、シャルよりちっとばかり深めにお前と同じ領域にあるからだ、アウグスタ!」
ルシル君が顔を歪めながら頭を押さえてそう言い放った。明らかにルシル君は無茶しとる。心配になったわたしは堪らずルシル君の元へ飛んで、「無茶はアカン!」そっと寄り添う。ルシル君は「無茶を通さないといけない状況なんだ」って聴いてくれへんかった。
「そうね、元はお前の力だったのだから、お前が使えるのは道理! ならば、我が庭に来たれ。これでどう!」
ナハトヴァールを拘束してた影の触手がアウグスタさんの発した白い光を浴びて溶けるようにして消滅した。
――天使舞いたる穢れ無き白の聖域――
ナハトヴァールから発せられた白い光。あまりの眩しさに堪らず目を閉じた。まぶたの裏からでも判る白い光が治まったのが判って、薄らと目を開けると「なんやこれ・・・?」目の前の光景に驚愕。一切の色が消えた世界。海も空も月も、全部が真っ白になってしもうた。色を持ってるんはわたしら人と、ナハトヴァールだけや。
「聖域を展開したわけね・・・!」
「よりによって魔道との関係に乏しいこの星で・・・、馬鹿が!」
なんやろ。ルシル君は兎も角としてシャルちゃんまでこのモノクロ世界を知ってるようや。わたしと同じように様変わりしたこの世界に呆けてるみんなも、ルシル君とシャルちゃんを交互に見詰める。
わたしは怒り心頭と言った風なルシル君の右手をそっと握る。するとルシル君の表情から怒りが消えて、その代わり「ありがとう、はやて」フッと消え入りそうな穏やかな笑みを浮かべた。いつもならドキッとするようなものやのに、その笑みには寂しさのようなものがあって、逆に心配が増してしもうた。
「ああもう、こうなったらアレをやるしかない! これから見せる魔法、一切の他言無用でお願い! クロノも報告書とかに記載しないでね!」
シャルちゃんが何かしらの決意をした。そんでシャルちゃんはわたしとルシル君の側へとやって来て「ルシル。サポートお願い!」そう言って、しょうがないって風なルシル君にキ、キキ、キ、キスした!
「あ、アカン、やめ、やめて・・・っ!」
慌ててルシル君(むぅ、なんで受け入れてるん!?)とシャルちゃんを引き離しにかかる。唇を離したシャルちゃんが「ごめん、はやて。でもこれは、そんなんじゃないから」そう言いながら浮かべた真剣な表情に息を呑んだ。可愛いやったシャルちゃんが今は綺麗、そんでカッコええ。
「剣戟の極致に至りし者モード・・・オン!」
「長くないか・・・?」
シャルちゃんがそう告げると同時、ものすごい魔力を全身から放出して「んなことより、ちゃんと発動してよ!」デバイスを頭上に掲げた。ルシル君が「ま、俺の失態だからな。尻拭いはするさ」シャルちゃんにそう言った後、わたしの頭をそっと撫でてくれた。
「ナハトヴァール! 天使を超える力を見せてやる!」
「覚悟しなさい!」
ルシル君の足元に十字架の魔法陣が展開されて、そこに降り立ったルシル君とシャルちゃんが顔を合わせて強く頷き合った。
「「其処は剣戟の極致に至りし者の君臨する世。風が鳴き、桜は舞い、陽の明かり、地を満たす。月が輝き、星は流れ、夜の蒼闇、空を満たす。いざ開かれよ、剣神の座する天城と俗世を隔てる聖門。流転する運命・織紡がれる絆に祝福された王の名の下に彼我を招き、その偉容を示せ」」
――剣神の星天城――
シャルちゃんが“キルシュブリューテ”を縦一線に振り降ろすと、刃が通った空間が真っ二つに裂かれて、その中からものすごい桜吹雪が噴き出してきた。「わぷっ!?」近くに居った所為でまともに桜吹雪に呑まれてしもうた。そんな中で聞こえて来るんは「俺たちの勝ちだ、ナハトヴァール」ルシル君の自信に満ちた声。恐る恐る目を開ける。
「・・・っ!?」
『これは・・・一体どういうことだ・・・!?』
わたしの中に居るリインフォースも驚いてる。モノクロ世界が消え去ってて、その代わりまったくの別世界へと変わってた。雲ひとつない夜空いっぱいに星の海、真ん丸な蒼い月、舞ってるんは夜桜の花吹雪。足元は変わらず海・・・とゆうか湖かな、畔が見える。四方八方には西洋のお城や塔が建ってて、この湖を囲ってた。そんで、その湖の真ん中にはナハトヴァールが居る。わたしらと同じように混乱してるんか動きを見せへん。
「なのは、フェイト、アリサ、すずか、ユーノ、クロノ、アルフ!」
「はやて、リインフォース、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ!」
シャルちゃんとルシル君がみんなの名前を大きな声で呼んで、「行こう!」号令を下した。わたしを含めたみんながハッとする中、シャルちゃんが「そりゃ!」斬撃を放った。さっきは掻き消されたけど、「ぐぅぅぅ!」通用した。尻尾から生える1頭の龍の胴体が絶ち切れて湖に落下、ファサッと無数の羽根になって霧散した。
「みんな聴いてくれ! まずは防御を削る! 出来るだけ奴の体を削るんだ! そうすれば奴を最後まで護る神秘は弱くなるはずだ!」
――女神の陽光――
――女神の宝閃――
そんでルシル君が2つに分けた“エヴェストルム”の先端から蒼い炎と光の砲撃を発射して、亀さんの前脚を撃ち抜いた。それで大きく前のめりに傾き始めたナハトヴァール。
「ザフィーラ、すずかちゃん、アルフちゃん、ユーノ君!」
シャマルが拘束班の名前を呼んだ。ザフィーラ達は頷き合って、さっきと同じ拘束の魔法でナハトヴァールを捕らえてく。さっきは簡単に壊されたけど、「破壊できない!?」アウグスタさんの驚愕が示すように今度は壊れへん。
「よしっ、これなら行けるな! つうわけで、合わせろよ、なのは!」
「あっ・・・! 私の名前、ちゃんと呼んでくれたね、ヴィータちゃんっ♪」
「ええい、今はそんなことどうでもいいだろ! 出来んのか、出来ねぇのか、どっちだ!?」
「にゃはは。もちろん出来るよっ♪」
ヴィータとなのはちゃんが仲良く空を翔ける。家族として、友達として嬉しい光景や。それを壊すんは「鬱陶しい!」アウグスタさん。亀さんの頭が甲羅の中に引っ込んで行って、別の「また変なのが!」出て来た。赤ちゃんの頭部のような石像が先端に付いてる植物の蔦のような胴体が8本。それらがヴィータとなのはちゃんへ向かってく。
「七元徳の正義!? なのは、ヴィータ!」
「大丈夫だよ、シャルちゃん!・・・えっと、ごめんね。アクセルシューター・バニシングシフト!」
なのはちゃんが放った8発の魔力弾が赤ちゃんの顔に直撃。なのはちゃんの攻撃でもちゃんと通用してよろめかせた。
「墜ちなさい!」
――ブルーティガードルヒ――
「っ! レイジングハート!」
――アクセルシューター――
短剣型の高速射撃魔法を40発ほど一斉発射したアウグスタさん。なのはちゃんの弾幕で数を10発くらいは相殺できたけど、残り30発はそのまま2人に向かって行く。アカン、当たる、って思うたとき。
――舞い降るは、汝の煌閃――
わたしの頭上から降り注いで行った蒼い光の何十本ってゆう槍が、ヴィータとなのはちゃんに迫ってた攻撃を全弾撃ち壊した。隣に居るルシル君が「行け、ヴィータ、なのは!」って青い顔して叫んだ。見ればシャルちゃんも青い顔してる。2人して無茶――とゆうより無理してる。
「ルシル君、シャルちゃん!?」
『お前たち・・・!』
「問題ない! はやて、リインフォース。各々がいま成すべきことの為に心血を注いでいる。俺とシャルはこれさ。ナハトヴァールの力を相殺し、みんなに天上の力を超える力を与える。その為の、創世結界。大丈夫だ。しっかり最後まで成す。そうだろ、シャル?」
「もち♪ 一生懸命頑張る乙女には勝利フラグが立つんだよ」
「しかし時には死亡フラグでもある」
「ルシル、シャラップ!」
息がピッタリ合うルシル君とシャルちゃんの様子に胸がチクッと痛む。そんな中でも「頼んだぜ、ルシル!」ヴィータ達は動く。ヴィータの“グラーフアイゼン”のヘッド部分が巨大化。
「この好機は逃がさねぇ!・・・轟天爆砕!・・・ギガントシュラァァァーーーークッ!」
さらに巨大化した“グラーフアイゼン”を振り降ろしたヴィータ。その一撃は騎士の頭を捉えたけど、当たるより早くアルフさんの鎖から逃れた右腕が頭を庇って防御。それでも「あたしとアイゼンの前に壊せねぇもんは・・・ねぇぇーーーー!!」ヴィータの一撃には敵わんくて、右肩からごっそり砕け散った。
「なのは!」
「うんっ、ヴィータちゃん! あっ・・・!」
なのはちゃんが“レイジングハート”をナハトヴァールに向けた時、海の中を潜って来たんかなのはちゃんの足元から赤ちゃんの顔の付いた1本の蔦が飛び出して来た。赤ちゃんの口が大きく開いてなのはちゃんを吞み込もうとしたけど、「テートリヒ・シュラーク!」なのはちゃんが呑み込まれるよりも早くヴィータの一撃が顔に入って、力なく海に沈んだ。
「今だッ!」
「うん! エクセリオンバスター・・・フォースバーストッ!」
なのはちゃんが放った4本の砲撃がナハトヴァールに向かってく。対するナハトヴァールはすずかちゃんの拘束を打ち破った左手――狼の3つの頭を砲撃に向けて翳して、負けじと砲撃を3本発射。なのはちゃんとナハトヴァールの砲撃が真っ向から衝突して拮抗、そんで僅かになのはちゃんの砲撃が押され始めた。
「シューット!」
そやけどなのはちゃんの攻撃は続いてた。4本の砲撃の中心、そこにさらに強大な砲撃が発射された。その砲撃は4本の砲撃を呑み込みながら衝突点へ向かって行って、ナハトヴァールの砲撃を押し返した。そんで直撃して大爆発。ナハトヴァールの左腕を肩までごっそり消し飛ばした。
両腕を失くしたアウグスタさんが「クソガキがぁぁぁぁぁ!!!」憤怒の叫びを上げて、ザフィーラの拘束をも粉砕した。自由になった11頭の龍が一斉にわたしらに向けて砲撃を発射しようとしてきたけど。
「砲撃はもう撃たせん!」
――鋼の軛・顎――
海面から突き出した杭と空から降り注がせた杭がまるで噛み付くようにして龍10頭の頭と喉を貫いた。すると口の中に溜まってたエネルギーが暴発して大爆発。龍10頭の頭を吹っ飛ばした。残り1頭は上手く避けて無事や。その龍の口が向くんはすずかちゃんとアルフさん。
「ちゃんと狙わないかい、ザフィーラ!」
――フォトンランサー・マルチショット――
「む、すまぬ・・・!」
アルフさんが放った魔力弾8発が龍の顎の下、海面を強く穿った。派手に上がった水飛沫が龍の頭を濡らすと、「すずか、頼むよ!」アルフさんが背後に居るすずかちゃんに声を掛けた。
「あ、はい! スノーホワイト!」
≪吹雪け、氷結の冷風≫
≪「リフリジレイト・エア!」≫
すずかちゃんと“スノーホワイト”の魔法、冷気に竜巻が水飛沫ごと龍の鼻っ面を凍結。口を開けることが出来ひん所為でその龍も暴発、頭が吹き飛んだ。
「そんじゃ次は、あたしとあんたよね、シグナム!」
「ふむ。同じ炎熱の騎士として、家族の為、友の為に、いざ・・・!」
アリサちゃんとシグナムがそれぞれ自分の展開した魔法陣の足場に立って、真っ直ぐナハトヴァールを見据える。そんで「先に行かせてもらうぞ、バニングス!」シグナムが“レヴァンティン”とその鞘を連結させて弓にして、矢を番う。アリサちゃんは赤く燃え上がる“フレイムアイズ”を頭上高く掲げた。そんな2人の元へ向かって行くんは赤ちゃんの顔のある蔦7本。
「もう遅い。翔けよ、隼!」
≪Sturm Falken≫
シグナムが射った矢は炎を噴き上げて火の鳥になって迫って来てた蔦を焼き払って行って、蔦の根元――亀さんの頭が出る穴の中にまで入り込むと甲羅の中で大爆発。頭や四肢、尻尾の穴から炎が噴き上がった。
「もしかしてあたしでトドメだったりしてね! フレイムアイズ!」
≪おう! 最大火力で・・・!≫
≪「ヴォルカニック・・・スカッシャァァァァーーーーッッ!!」≫
燃え上がる“フレイムアイズ”を伸長させて縦一閃したアリサちゃん。その刃は騎士の頭の上に浮いてる魔法陣を寸断して額に直撃。でもこれまでとは違ってやっぱ本体の頭やからかすぐには壊せへんかった。
「しっかりしろ、バニングス!」
――飛竜一閃――
シグナムが後頭部へ回り込んで“レヴァンティン”で攻撃した途端、アリサちゃんの攻撃は通った。フルフェイスの頭部が爆発炎上して消滅。神々しさと歪さを兼ね備えてたナハトヴァールは首・両腕を失って、見るも無残な姿へと変わり果てた。
「ルシリオン、今ならいけるか!?」
「・・・まだだ! くそ、また抜かれた!」
ルシル君がクロノ君にそう返した瞬間、騎士の両肩から龍の胴体が突き出て来て、何も無い首からは大きな紅い薔薇が生えて来た。
「頭だけだがあれは・・・七元徳の勇気!」
「うわぁ。あの薔薇って七美徳の救恤じゃん、懐かしい・・・!」
ルシル君とシャルちゃんが別方向の感情で名前を呼んだ。そんで「リベラリタスは私が殺る! 因縁あるしね」シャルちゃんがそう言って薔薇に向かって飛んで行って、「じゃあ、フォルティトゥードは俺だな。フェイト、頼む!」ルシル君はフェイトちゃんに協力要請。
「あ、うんっ! じゃあ、私が左腕を!」
「任せた。俺が右腕を落とす!」
――知らしめよ、汝の忠誠――
フェイトちゃんは放電してる“バルディッシュ”を携えて左肩から生える龍へ向かって飛んで、ルシル君は両剣形態の“エヴェストルム”に5mほどの魔力の刃を付加。フェイトちゃんの向かう龍の口からは直径4mほどの炎球が連続で6発と放たれて、ルシル君の向かう龍の口からは火炎砲撃が放たれた。
「撃ち貫け、雷神! ジェット・・・!」
「終わりだッ!」
フェイトちゃんの“バルディッシュ”は火炎弾を斬り裂いた。そして真っ直ぐに左肩口に向かってくけど、龍が真っ向から刃に噛み付いて防いでしもうた。そやけど「ザンバァァァァーーーーッ!」フェイトちゃんの一撃は止まることを知らへん。左の龍を横に真っ二つにして肩から斬り落とした。ルシル君の“エヴェストルム”は、右の龍を肩から斬り落とした上で縦に真っ二つに斬り裂いた。
「リベラリタス! 召喚早々、消えてもらうから!」
首から生えてる薔薇が開いて、その中から緑色した女性の上半身が出て来た。シャルちゃんは“キルシュブリューテ”の刀身に炎を噴き上がらせて、「また貴様か!」ってシャルちゃんに向かって敵意を剥きだしにしてるリベラリタスに向かって「ごめんね~♪」謝った。
「大炎牙・・・!」
曲線を描く炎の砲撃が刀身から8本と放たれて、薔薇に引火。リベラリタスは「またこの魔道・・・!」って慌てて両手や燃えてない花弁で扇いで消火しようとするけど、シャルちゃんは間髪入れずに“キルシュブリューテ”を十字に振って、炎の斬撃を十字型に放った。さらに×十字型に振るって炎の斬撃を放つ。
消えかけてた炎が再燃して、さらに斬られたことでリベラリタスは弱々しく萎れ始めた。ちょう可哀想に思えてしまうほどに一方的にして圧倒的。それが今のシャルちゃんやった。
「焼覇煉謳刃!!」
シャルちゃんは最後に突きをして、刀身の炎が槍のようになって放たれてリベラリタスを貫いた。それで終わりや。首から生えてた薔薇が一瞬にして炭化、ボロボロに崩れ去ってしもうた。
「こんな、こんな無様が、天上の力・・は、これほどまでに弱い、もの、なの・・・?」
アウグスタさんがぐったり項垂れながらブツブツ呟く。次の攻撃順で言えばわたしになる。そやから「ルシル君!」にこのまま魔法を発動してもええか確認した時、「いいえ、こんなものではないはず!」バッと顔を上げたアウグスタさんがそう叫ぶ。
すると背中に生えてる光の翼が大きく羽ばたいてナハトヴァールを浮かせた。それだけやない。騎士の腰から下に有った亀さんが無数の羽根となって霧散、その代わりに騎士本来の下半身、両足が出て来た。正座の体勢から片膝立ち、立ち上ろうとしてるのは明白。
「やれ、はやて! 今なら君の魔法も通用するはずだ!」
「うんっ! リインフォース!」
『はい、我が主はやて!』
“夜天の書”を開いて、これから使う魔法のページを開く。
「彼方より来たれ、やどりぎの枝」
『銀月の槍となりて、撃ち貫け』
リインフォースと一緒に詠唱。“シュベルトクロイツ”を掲げて、「『石化の槍・ミストルティン!』」振り下ろすと一緒に術式名を告げる。ミストルティンは遠隔発生型の石化砲撃魔法や。わたしの頭上に展開された魔法陣の周囲に8本と発生した槍を一斉発射。
ミストルティン8本に貫かれたナハトヴァールが貫通点から石化を始めて、「馬鹿な・・!」アウグスタさんの体をも完全に石化させた。騎士の背中から溢れ出る光の翼が消えて、両足も体を支えることが出来ひんようになったんか崩れて、騎士の体は海に沈んだ。
「クロノ! 今だ!」
ルシル君に「ああ!」って応えたクロノ君が“デュランダル”を掲げると、側に浮いてた4本の剣――凍結魔法を反射して効果を高めるためのリフレクターが、石化を少しずつ解除してるナハトヴァールの四方に配置された。
「・・・悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ。凍てつけ!」
≪Eternal Coffin≫
掲げてた“デュランダル”が振り下ろされると、その先端から強力な冷気が放たれて海を、そんでリフレクターの力もあってナハトヴァールを凍結した。その間にわたし、なのはちゃんとアリサちゃんとフェイトちゃんが、ナハトヴァールよりさらに上、四方の位置に付いた。そんで、「ルシル君、ホンマに大丈夫なん?」わたしらの中心、ナハトヴァールの真上にルシル君が付いた。
「問題ないよ、はやて。ほら、始めるぞ。嫌な予感がする。残りの使い魔が召喚される前に、一気に叩く! なのは!」
「うん! レイジングハート、全力全開で行くよ!・・・スターライト・・・!」
「フェイト!」
「うん。バルディッシュ! 雷光一閃!・・・プラズマザンバー・・・!」
「アリサ!」
「いつでもオーケーよ! 行くわよ、フレイムアイズ!」
≪不浄の闇を断ち払うのは太陽の現身。輝ける炎の聖剣!≫
「ガラティーン・・・!」
なのはちゃんは下方に巨大な魔力球を創って、フェイトちゃんは空から降り注いできた雷を吸収して激しく放電する“バルディッシュ”を掲げて、アリサちゃんは足元の魔法陣から噴き上がる炎を全て吸収して完全に炎と化してる“フレイムアイズ”を脇に構えた。
「はやて! リインフォース!」
「うんっ!」『ああ!』
ルシル君に呼ばれて返事したわたしとリインフォースも、“闇の書”としての闇――ナハトヴァール、そんでアウグスタさんを見る。何百年とリインフォース達を傷つけてきた。許せへんかった、憎らしかった。それでも今、ああして氷漬けにされてる姿を見ると、ちょう哀れで。
『主はやて。参りましょう。ここで幕を引くことが、アウグスタやナハトヴァールにとっても救いとなりましょう』
「リインフォース・・・。うん。・・・響け、終焉の笛! ラグナロク!」
前面に展開した魔法陣三方に魔力球を発生させる。
「「ルシル君!」」「「ルシル!」」
「ああ! 崇め讃えよ・・・汝の其の御名を!」
ルシル君は背から22枚の翼を離して、それらの先端をナハトヴァールへと向けた。これで準備は万端。わたしらは顔を見合わせて頷き合って、そして・・・。
「「「「「ブレイカァァァァァーーーーーーッッ!!!」」」」」
一斉に発射。五方向からの大火力砲撃。それらを一斉に受けたナハトヴァールが砕かれて消滅してく。あとは、シャマルやアルフさん、ユーノ君の出番や。衛星軌道上で待機してるアースラの前へと3人の長距離転送魔法でナハトヴァールのコアを転送。そんでアルカンシェルってゆう艦載砲撃で消滅させる、ってゆう。
『・・・そんな! ダメ、ナハトヴァールのコアが見当たらない! どうして!?』
未だにわたしらの魔法の影響で爆発に呑み込まれてるナハトヴァールからコアを取り出す役のシャマルから、そんな悲痛な思念通話が送られてきた。それに返事しようと思うた時。
――セヴァー・ディメンション――
なにか、細い光線・・・ううん、剣のようなものが閃いた。と思えば、シャルちゃんとルシル君が協力して創ったらしい、この別世界が音を立てて崩れ去っていった。一瞬の視界の暗転。気が付けばそこは海鳴の海、その沖合やった。
「ルシル!?」「シャルちゃん!?」
耳に届くアリサちゃんとなのはちゃんの悲鳴。見れば2人が力なく海へ向かって落下してく最中やった。わたしは慌てて2人を追おうとしたけど、それよりも早くフェイトちゃんがシャルちゃんを、なのはちゃんとアリサちゃんがルシル君を抱き止めた。
「いったい・・・どうなっているんだ・・・!?」
クロノ君の発した疑問には誰も答えることが出来ひん。上手く行ってた。うん、それは間違いないんや。それやのに、最後の最後で何かされた。
――アルティフォドス――
状況を上手く理解できひん状況でそれは起きた。海面からいくつもの海水で出来た龍がわたしら人数分突き出して来た。この混乱の所為で避けることが出来ず、わたしら全員は呑み込まれしてもうた。言うなれば海水の檻に閉じ込められた感じ。
「寄越せ・・・寄越せ、寄越せ・・・闇の書を・・・寄越せ・・・!」
(アウグスタさん!?)
まるでゾンビみたいなアウグスタさんが海面から這い出して来た。所々が砕けてたり半透明になってたり。酷い有様やった。あと、心臓付近にシャマルが見つけられへんかったコアが弱々しく点滅してた。
「・・・貴様たち・・・魔力を・・体もろとも・・吸収・・て・・復活・・して・・る・・・」
ギラリと妖しく光るアウグスタさんの瞳。ゾワッと悪寒が奔った。このまま捕まってると確実に最悪な結末を辿ることになる。急いで脱出をしようと頑張っても水中ってこともあって体が上手く動かへんし、魔法も使えんくなってる。それに、なんや眠くなって・・・。
『主はやて! いけません、目を瞑っては! 気をしっかり保ってください!』
リインフォースの必死の呼びかけに応えたいけど、これはアカン。どんなに目を開けようとしても・・・どんどん閉じて・・・。
『主はやて!』
ああ、そんな悲しい顔をさせたないのに。でも、アカンのや。眠気に抗えへん。
――吹雪け、汝の凍波――
「『っ!?』」
そんな時、それは起こった。わたしを捕らえてた海水の龍が一瞬にして凍結されて粉砕。わたしはなんとか外に出ることが出来た。見れば、「はやて!」「はやてちゃん!」「主はやて!」「我が主!」ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラも脱出できてた。
「みん・・な!・・・っ、ルシル・・君・・・!」
ふと、視界に入った捕らえられたままのルシル君と目が合うた。その目には、君たちが幕を引け、って強い感情が表れてた。そやけどすぐにルシル君は力なく目を閉じて、そのままプカッと全身から力が抜けてグッタリした。見ればみんなもそんな感じや。
「いま助ける!」
慌てて助けに行こうとした時、「はやて!」ヴィータに腕を力強く引っ張られた。直後、わたしが居った場所を海水の龍が突き上がって来た。それだけやなくて、ルシル君たちみんなを呑み込もうとさらに龍が突き上がって来てた。
「はやてちゃん! ルシル君たちを助けるなら・・・!」
「アウグスタを、ナハトヴァールを停止させる方が・・・」
「早い! だから!」
「我が主!」
シャマル達に見詰められる。わたしは強く“シュベルトクロイツ”を握り直して、「うん!」頷き返した。今わたしらが出来ることはナハトヴァールを完全停止させること。ルシル君たちを救うにはそれが一番早く、効率的や。
「行くよ、夜天の主とその守護騎士の名の下に!」
「「「『はい!』」」」「うん!」
わたしらは、海草のようにユラユラ揺れてるアウグスタさんの元へと一気に翔ける。アウグスタさんはわたしらに気付いたようで「寄越せぇぇぇーーー!」狂声を上げて、周囲に展開したミッドの魔法陣4枚から砲撃を放ってきた。
わたしらがそれらを避けた後、「眠れ、ナハトヴァール! 鋼の軛!」ザフィーラが発動した杭がアウグスタさんを背中から貫いた。そんなアウグスタさんへ「お前はもう、居ちゃいけないんだ!」ヴィータの「テートリヒ・シュラークッ!」が振るわれた。
「あなたの旅路も、今日これまでよ!」
ヴィータの一撃でさらに体を崩したアウグスタんさんが弾き飛ばされる中、「戒めの糸!」シャマルの“クラールヴィント”のワイヤーがアウグスタさんを拘束。
「終わらせてもらう、この歪みきった呪いの運命を、ここで! 紫電・・・一閃!」
シグナムの炎の斬撃を受けたアウグスタさんは力なく海面へ落下。そやけど落ちる前に「オオオオオオオオオ!!」吼えて、わたしに向かって飛んで来た。
「アウグスタさん・・・。もう、お休みな」
『夜天に爆ぜし極光。受けよ、ナハトヴァール』
わたしの頭に向かって来てたアウグスタさんが懐にまで届く前に“シュベルトクロイツ”の先端を向ける。
「『ポラールリヒト・・・ノーヴァ!』」
わたしを中心にして広がる夜天空間。わたしとアウグスタさんの間に純白に光り輝く閃光が発生。それが爆ぜた。視界いっぱいに広がる白の魔力爆発。それがわたしに届く前に夜天空間が収縮して、アウグスタさんと魔力爆発だけを閉じ込めた。
「・・・さようならや。アウグスタさん。ナハトヴァール」
目の前の空間が爆発。そこから現れたんはアウグスタさんやなくて、ナハトヴァールのコアだけ。そのコアを、無事に解放されたアルフさんやユーノ君、そんでシャマルの3人による「長距離転送!」で、軌道上で待ってくれてるアースラの元へと転移させた。
『こちらアースラのエイミィ! みんな・・・お疲れ様! 無事にナハトヴァールのコアを、アルカンシェルにて蒸発させることに成功したよ!!』
エイミィさんから届いた連絡は、あまりにも長かった呪われた旅路の終焉を伝える報告やった。
後書き
フーテ・モールヘン。フーテ・ミッターフ。フーテ・ナーフオント。
お~わった~、お~わった~♪ 闇の書事件がお~わった~♪
長かった闇の書を巡る一件もこれにて終了・・・とは参りません。とりあえず次回は後日譚。その後に、+αストーリーである、アノ話をやっていきたいと思います。
というか、あまりに突貫執筆だった所為もあり、所々おかしなミスがあるかもしれません。しかし、直すにはちょっと気力がありません。本当にご迷惑をおかけします。
ページ上へ戻る