妖僧
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第二章
誰もが彼は死んだものと考えていた。
しかしだ、ある日のこと。
修行中の若い僧侶が瞑想をしている時に気付いた。何と。
彼の右隣にサッチャラーンがいた、死んだ筈の彼が。
見れば身体が透けている、その彼を見て言うのだった。
「馬鹿な、貴方は」
「修行中だ」
ここでこう返したサッチャラーンだった、その透き通った身体で。
「私は瞑想している、話掛けないで欲しい」
「ですが」
「言った筈だ、瞑想中だ」
またこう返した彼だった。
「今は話さない」
「何と・・・・・・」
若い僧侶は絶句した、それは確かにサッチャラーンだった。しかもサッチャラーンの姿を見たのはこの僧侶だけではなかった。
他の僧侶達もだった、修行中のサッチャラーンを見たのだった。
「あの人は死んだんじゃないのか」
「何で瞑想されているんだ」
「確かに火葬して骨を埋めたが」
「どうしてなんだ」
「ああして」
彼等はそのことがわからなかった、だが。
彼が出て来たのはこの時だけではなかった、何とだ。
他の修行中にも出て来て熱心に修行した、経典や書もこれまで通り積極的に読んだ。しかも今は寝ることもなく。
朝も夜も修行し学んでいる、ここで多くの者が彼が今は身体が透けていることからもこう言ったのだった。
「まさかと思うが」
「ああ、あの人はな」
「お身体はない」
「確かにな」
このことは間違いなかった。
「火葬したしな」
「身体が残っている筈がない」
「しかも身体が透けている」
「ということは」
こうしたことからだ、彼等はわかったのだった。
「あの人はもう死んでおられるんだ」
「このことは間違いない」
「あの人は魂だけだ」
「残っておられる」
「実体はないがな」
「魂が出ておられる」
「そういうことだな」
このことがわかったのだった、彼は確かに死んでいる。今の彼は魂だけが出て来ている状態なのだ。
しかしだ、何故魂だけが出て来ているかということも問題だった。寺の僧侶達はこのことについても考えた。
だがこのことはだ、今の彼を見ればすぐにわかることだった。
「いつも修行し学ばれている」
「生きておられた頃と同じくな」
「では、だな」
「悟りを開かれようとしているのだ」
このことはすぐにわかった、何しろ彼は今では眠ることがなくこれまで以上に修行と学問に励んでいるからだ。
それでだ、このことがわかって話すのだった。
「次の生に入られるのではなく」
「今悟りを開こうとしておられるのだ」
「そういうことなのだな」
「あくまで悟りを目指されているのだ」
「魂の状態で」
留まりそうしている、そのこともわかった。
全てはわかった、しかしそれで何もかもが終わりではなかった。むしろここからはじまることであった。
誰もがだ、このことがわかったがだった。
難しい顔のままでだ、こう話すのだった。
「しかし。身体がない状態で動いてもらうとな」
「ああ、寺にいてもらうとな」
「それはどうか」
「ここは生者の場所だからな」
寺にしろ他の場所にしろだ、生者の住む世界であるから生者がいるのが道理だ。だから今のサチャラーンはというのだ。
「魂だけになって留まってもらうことはな」
「問題だな」
「そこは何とかしてもらわないと」
「そうだ、駄目だ」
「このことはな」
こう話す、それでだった。
サッチャラーンが書斎で書に読み耽っている時に彼のところに行って話したのだった。僧侶達が集まって。
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