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飛頭蛮

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第四章

「それは飛頭蛮じゃな」
「それは妖怪ですか」
「妖怪かというとそうではない」
 このことは否定した張昭だった。
「夜以外は普通に暮らしておるな」
「よき者です」
「そうした者達なのじゃよ」
「人ですか」
「南越の方にそうした者達がいるのは聞いておった」
 やはり張昭は知っていた、やはり呉きっての学識の持ち主だけはある。
「しかし実際におるとはな」
「このことは張昭殿も」
「うむ、呉におるとはな」
 張昭にしろ思わなかったとだ、彼は朱桓に真顔で話した。
「思わなかったわ」
「そうでしたか」
「そうじゃ、それでじゃが」
「それでとは」
「御主はその者をどうしたいのじゃ」
 張の処遇だった、張昭が朱桓に問うたことは。
「飛頭蛮をな」
「どうするかですか」
「そうじゃ、どうしたいのじゃ」
「そう言われますと」
 朱桓は張昭の問いに袖の中で腕を組み難しい顔をして首を傾げさせて答えた。
「どうにも」
「悪い者ではないな」
「はい、よき者です」
 実にだというのだ。
「素直でよく働いてくれます」
「暇を出す理由もないな」
「特に」
 問われてみればだ、そうする理由もなかった。
「首が飛ぶことを除けば」
「そうじゃな、ではな」
「はい、それでは」
「このままでよいと」
「そこは御主が決めよ」
 他ならぬ朱桓自身がだというのだ。
「わしが口出しすることではない」
「左様ですか」
「しかしな」
「はい、それにしてもですな」
「面白い話じゃな」
 張昭は興味深げな顔で朱桓に言った。
「夜に首が飛ぶ者がおるとは」
「そうですな、化けものかとも思いましたが」
「しかしじゃ。そうした者もな」
 いるというのだ。
「世の中には」
「そうしたことを知っていればですな」
「うむ、驚くこともない」
 張昭はこう朱桓に言うのだった。朱桓は張に暇を出すことなくそのまま雇い続けた。その為朱桓の家では夜になると人の首が家の外を飛んだがもうそのことに驚く者はいなかった。戦乱の三国時代の中にある興味深いがあまり知られていない逸話だと思いここに書き残した。


飛頭蛮   完


                          2014・1・31 
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