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大阪の妖怪

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第四章

「私もそうした耳を持ちたいです」
「そう思うか。それでじゃが」
「その噂をどうしようかとは」
「これも修行じゃからな」
「夜に忍術を使われて街を歩くことがですか」
「忍術も剣術と同じじゃ、使わねばな」
 どうなるかというのだ、使わないでいると。
「錆びて腕が落ちてしまうわ」
「だからですか」
「こうして日々鍛錬を積んでおる」
 そうだというのだ。
「夜にもな」
「では妖怪だのいう噂は」
「これまで気にしておらんかったがな。とはいっても問われれば隠すつもりもなかった」
「だから今もですね」
「こうして御主達に話しておるのじゃ」
 織田にも彼の妻の一枝にもだというのだ。
「こうしてな」
「そうですか」
「そうじゃ。それでじゃが」
 老人は織田達にさらに話す、その話すことはというと。
「わしは妖怪ではない、術は使うがな」
「その術はですか」
「忍術じゃ」
 それだからだというのだ。
「妖術ではない」
「しかし出たり消えたりするのは」
「ははは、簡単なことじゃ」
「簡単とは」
「ほれ、こうすればじゃ」
 老人は急にだ、姿を消した。そして彼が急に姿を消して目をしばたかせた織田と一枝に真後ろから告げた。
「ここじゃ」
「後ろですか」
「そこに」
「振り向いてみよ」
 実際に振り向いた二人だった、すると。
 老人は今度はそこにいた。そしてその狆そっくりの顔で言うのだった。
「これが忍術じゃ」
「あの、消えましたけれど」
「急に」
「違う、わしは素早く移動しただけじゃ」
 それに過ぎないというのだ、消えたのではなく。
「人が見える死角に入っただけじゃ」
「では急に出たり消えたりしたというのは」
「夜の街じゃ。余計に視界が悪い」
 暗く見えない部分も多いというのだ。
「それで出たり消えたり見えたのじゃ、わしの素早い動きがな」
「そうだったのですね」
「身のこなしもな。この歳で戦にも出られなかったが」
 それでもだというのだ。
「家の一階の屋根までは簡単に跳び降り出来て何処までも駆けていけることが出来るぞ」
「跳躍もですか」
「うむ、しかもどれだけ長く全速で走っても息切れせぬ」
 それもないというのだ。
「忍の鍛錬の賜ものじゃ」
「それが忍術ですか」
「そういうことじゃ。わしは妖怪でもなければ妖術使いでもない」
 そのどちらでもない、老人はこのことは断った。
「それはわかっておいてくれ」
「忍者なのですね」
「あくまでな」
 織田達にもこのことを話す。
「それだけじゃ」
「そうでしたか、いや私達も」
「妖怪と思い探しておったか」
「はい、そうでした」
 まさにその通りだった、彼にしても。
「まさか忍者だったとは」
「ついでに言うが犬でもないぞ」
 このことも断る老人だった。
「顔がそうでもな」
「いや、それは」
「信じられぬか」
「本当にそっくりですさかい」
 まさに何処からどう見ても狆である、夜の中に見えるその顔は配色までが狆の顔そのものである。それで織田もこのことは冗談めかして言うのだ。 
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