FAIRY TAIL 友と恋の奇跡
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第181話 True Love
前書き
紺碧の海で~す♪
今回も大魔闘演舞3日目の後の出来事です。
ナレーション風に書いていきます。
それでは、第181話・・・スタート♪
妖精の尻尾の魔道士達は、今夜もここ、森の小川で宴をしていた。遂に2位と3位に躍り出た妖精の尻尾。ナツは「明日は必ず銀河の旋律を抜いて首位に躍り出るぞっ!!」とすっかり目標を立ててしまっている。
バーカウンターのテーブルに座って、現妖精の尻尾ギルドマスター、マカロフと、妖精に尻尾初代ギルドマスター、メイビスが宴をしているクソガキ共達の事を見つめていた。
メ「明日はいよいよ、3つ巴の対決ですね。6代目。」
マカ「えぇ。いろいろトラブルに巻き込まれながらも、よくここまで辿り着いてくれましたワイ。」
メイビスは幽体。
ギルドの紋章を刻んでいる者にしかその姿は見えない。
だから森の小川のオーナー、マコトにはマカロフが独り言を言ってるようにしか見えない。マコトは洗い終わった食器を丁寧に拭きながらマカロフの方を見つめて首を傾げた。
メ「Aチームは流石ですね。圧倒的な力を全力で相手にぶつけ、仲間と協力し、仲間の応援に応えながらここまで辿り着いてきたんですもの。」
マカ「普段の行いには頭を悩ませるメンツばかりですが、戦闘や仲間に対しての思いは、誰にも負けないメンツばかりでもありますワイ。」
マカロフの返答に、メイビスは「ふふふっ」と笑う。
メ「Bチームも大したものです。初めて出場したとは思えないほどの凄まじい力を発揮し、洞察力、分析力、観察力を活かしてここまで辿り着いてきたんですもの。」
マカ「あの6人は不思議な奴等ですワイ。仲間が笑い、仲間が悲しむほど、奴等の魔力は増幅し、その魔力が尽きるまで、奴等は魔法を使い続ける。それが例え、自身の命の灯火が燃え尽きようと―――――。」
マカロフの脳裏に浮かぶのはマヤ、リョウ、ユモ、ショール、トーヤ、フレイの6人の笑顔。
6人は時には全力で笑い、時には何かを隠し通すかのように笑い、時には涙を堪えて笑う。
マカロフはそんな6人の笑顔を何度も見てきた。
そんな事を思い出しながら、マカロフはコップに注がれたビールを1口ぐびっと飲む。
メ「そういえば、大魔闘演舞出場メンバーが誰一人いませんね。」
メイビスが酒場全体をぐるりと見渡しながら言う。
マカ「奴等はリョウの様子を見に行きましたですぞ。」
メ「そういえば・・・あの者は、大丈夫なんでしょうか?」
マカ「な~に、心配無用ですぞ。あいつとは長い付き合いですが、あいつの根性と精神は底知れぬもの。そう簡単にダウンするような奴ではないのです。」
メ「それなら安心です。」
マカロフの言葉にメイビスは納得したように頷き微笑んだ。が、
メ「ですが、あの者に対して心配な事もあるんですね?」
マカ「・・・やはりお見通しでしたか。」
マカロフは観念したように話し始めた。
マカ「あいつは・・・リョウは、目標が高すぎるのです。」
メ「え?」
マカロフの言ってる意味が分からなかったのか、メイビスはこてっと首を傾げた。
マカ「あいつの目標は、「世界一の魔道士になる事」。もちろん高いを持つ事は良い事です。ですが、その目標を追いかけ過ぎて、間違った方向に進んでしまうんじゃないかと思うと・・・」
マカロフの話をメイビスは黙って聞いた後、マカロフに問い掛けた。
メ「なぜ、あの者は世界一の魔道士に?」
マカ「13年前に他界した、母親との約束だそうです。幼い頃から魔の道一直線でしたからな、あいつは。・・・じゃから、余計不安なのです。」
マカロフは一度そこで話を区切り、深く、長い深呼吸をすると、再び口を開いた。
マカ「いつか・・・プレヒトのようになってしまうんじゃないかと―――――。」
プレヒト。
バラム同盟の1角であり、闇ギルド最大勢力、悪魔の心臓のギルドマスターであり、2代目妖精の尻尾ギルドマスター。
妖精の尻尾を引退した後、魔の道を深く探りすぎたせいで『闇』に落ち、天狼島でゼレフによって殺された。
メ「―――――――大丈夫です。」
マカ「!」
マカロフが顔を上げ、メイビスを見つめる。メイビスの瞳は正面に向けられており、口元には小さな笑みが浮かんでいた。
メ「今日のあの者の様子を見て、私は、あの者が『闇』に落ちる事はないと思います。目標は『光』。常に『光』を持ち続けている者は、決して『闇』になど落ちないのです。それに―――」
そこまで言うと、メイビスは首を動かしマカロフを正面から見つめた。
メ「あの者は、妖精の尻尾で育ち、妖精の尻尾の仲間に囲まれて、今日まで生きてきたのです。あの者に『光』を与えているのは・・・仲間なんですから。」
メイビスの言葉に、マカロフは言葉を失った。
すると、メイビスの頭に付いている羽のようなものがピクッと動いた。
メ「・・・と、噂をしたら、その仲間が帰って来たみたいですよ。」
マカ「お?」
メイビスとマカロフが森の小川の入り口に視線を移した直後、バァン!と凄まじい音を立てて勢いよく扉が開いた。
ナ「よおーっ!」
ハ「あいさーっ!」
マ「たっだいまーっ!」
フ「まだ宴やってたのか。」
ウェ「遅くなってすいません。」
シャ「相変わらず賑やかね。」
ト「ふわぁぁぁぁ・・・」
ナツ、ハッピー、マヤ、フレイ、ウェンディ、シャルル、トーヤが帰って来た。
ロ「お帰りナツ兄、ハッピー、マヤ姉、フレイ兄、ウェンディ姉、シャルル、トーヤ兄。」
ロメオが真っ先に4人+2匹+1匹を迎える。
マカ「リョウの様子はどうじゃった?」
ナ「案外元気そうだったぞ。」
マ「傷はまだあまり塞がってないけど、命に別状は無いから大丈夫だって。」
ナツとマヤはそう答えると、すぐに酒場内で暴れ始める。
メ「大魔闘演舞には出られるのですか?」
ハ「う~ん・・・まだ何とも言えないよ。」
シャ「本人は「絶対に出る!」って言ってるけど・・・」
フ「あの状態じゃ、難しいだろうなぁ。」
メイビスの問いにはハッピー、シャルル、フレイの順に答えた。
マカ「ところで、他の奴等はどうしたんじゃ?」
マカロフは酒場内をぐるりと見渡すが、ルーシィ、グレイ、ユモ、エルザ、ショールの姿がどこにも見当たらない。
ウェ「皆さん、途中で別行動をとる事になったんです。」
ト「僕達は酒場に来ましたけど、ルーシィさんとグレイさんは宿の方へ行きましたよ。ユモさんとエルザさんとショールさんは分かりませんが。」
もしこの場にジュビアがいて、この話を聞いていたら、また妄想が爆発していたであろう。だが、今この場にジュビアはいない。
マカ「まぁ今日はいろいろあって疲れたのじゃろう。お前達もゆっくりと休むと良い。」
ウェ&ト「ありがとうございます。」
シャ「でも、こんなうるさい所で「休みなさい」って言われても・・・」
フ「不可能だな。」
ハ「あい。」
森の小川では、今夜も妖精の尻尾の魔道士達が飲めや歌えや騒げの宴を開いていた。
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Aチームのメンバーが泊まっている宿、『蜂の骨』の1室にルーシィとグレイがいた。
ルーシィは5つあるベッドの内1つに腰掛け俯いており、グレイは頭の後ろで腕を組みベッドの上で大の字になっている。
グ「まだ気にしてんのか?リョウの事。」
ル「・・・・・」
グレイが話し掛けても、ルーシィは俯いたままで何も答えない。グレイは「はぁ」と息を吐くと体を起こし、ルーシィに背を向けてベッドの上で胡座を掻いた。
グ「あいつの性格、ルーシィはもちろん知ってるだろ?あいつはあの状態でありながら意地でも大魔闘演舞に出場する気だぜ。怪我なんて、あいつにとっちゃどうでもいい事だからな。」
ル「・・・・・」
まるで自分に言い聞かせるようにグレイは話し始める。ルーシィは相変わらず何も言わないが、グレイの声にはちゃんと耳を傾けていた。
グ「あいつには、あいつなりの『正義』がある。どんな『正義』かは俺にもよく分からねぇけど・・・自信持って言えるのは、あいつは妖精の尻尾を、仲間を、お前を・・・全力で愛してる。」
ル「!」
ルーシィが俯かせていた顔を上げた。
グ「伝わってくるんだよ。あいつの気持ちが、気の流れと一緒に。」
ル「リョウの・・・気持ち?」
ルーシィは鸚鵡返しで聞き返す。
グ「ギルドで宴をしている時、仲間と一緒にクエストに出かける時、お前と話してる時―――――。不思議と、全部伝わってくるんだよ。あいつはいつも、1人で頑張って、精一杯生きてるんだ。」
そこまで一気に話すと、グレイはベッドから下り、立ち上がった。
グ「あいつの前ではそんな顔するなよ。・・・笑顔で、見守ってやれ。」
そう言うと、グレイはドアに向かって歩き出した。
ル「・・・・ユモには、『心』がある。」
グ「!」
ルーシィの声にグレイは足を止める。
ル「ユモには、ユモなりの『心』がある。どんな『心』かは私にもよく分からないけど・・・確信持って言えるのは、ユモは妖精の尻尾が、仲間が、グレイが・・・心の支えになっている。」
グ「!」
ルーシィの声にグレイは振り返る。ルーシィはベッドに腰掛けたままだったが、顔を上げていて口元には笑みが浮かんでいる。
ル「可笑しいって思うかもしれないんだけど、時々聞こえるの。ユモの、心の声が。」
グ「ユモの・・・心の、声?」
今度はグレイが鸚鵡返しで聞き返す。
ル「傍にいる時はもちろん、別々の場所にいても、大魔闘演舞の時も―――――。時々、聞こえてくるのよ。「大丈夫」、「頑張って」、「ありがとう」って。ユモは少し控えめだから、あまり気持ちを正直に伝えられないのよ。」
そこまで一気に話すと、ルーシィはベッドから下り、立ち上がった。
ル「これからも、ユモを支えて、守ってあげなさいよ。」
そう言うと、ルーシィは窓の方へ行き、カーテンを開けた。夜空には金銀に光り輝く星々が夜のクロッカスの街を照らしていた。
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下に川が流れている石造りの橋の上。そこにユモは1人、佇んでいた。
水面に映る自分の顔をキッと睨み付ける。すると、人の気配を感じ顔を上げるとそこにはエルザが立っていた。
ユ「エルザ。」
エ「ユモじゃないか。奇遇だな。こんな所で何してたんだ?」
ユ「別に何も。エルザはどうしてここに?」
エ「特に意味も無い。」
簡単に言えば、2人は何の目的もなしにここに来たと言う訳だ。
エルザはユモの隣に来ると、橋に体を預け空を見上げた。ユモも同じように空を見上げる。
2人はしばらく黙って空を見続けた。聞こえるのは、川のせせらぎと、時々吹く夜風の音だけ。
エ「・・・ユモは良いよな。」
先に口を開いたのはエルザだった。ユモはエルザの顔を覗き込む。エルザの瞳は空から離れる事はない。
エ「誰にでも優しく接し、素直で、真っ直ぐで、思いやりがあって―――――。ほんと、羨ましいかぎりだ。」
ユ「そんな事ないよ。私はエルザが羨ましいよ?美人だし、頭良いし、強いし―――――。」
そこまで言って、また沈黙が流れた。
エルザはさっきから何か言いたげな表情だが、なかなかその口が開かない。ユモは何も言わずにエルザから話し始めるのを空を見つめながら待ち続けた。
エ「・・・・なぁ、ユモ・・・」
ユ「何?」
ようやくエルザが話し始めたのは随分時間が経ってからだった。沈黙が続く中でも、ユモは黙って待ち続けていた。
エ「・・・も・・もし、も・・・もしも、だぞ・・・・?」
ユ「う・・うん。」
エルザの言葉が妙に歯切れが悪い事に気づいたユモは曖昧に小さく頷いた。
エ「もしも・・・私達の中の、誰かが死んだら・・・・どう、思う・・・?」
ユ「・・・・え?」
突然の事にユモは素っ頓狂な声を上げる。
エルザは言い終わった後で不味いと思ったらしく口元に右手を当てていた。
エ「・・・すまない。今言った事は、全て・・忘れてくれ・・・・」
そう言い残すと、エルザは駆け足でその場を走り去って行った。追いかけようとしてユモは1歩足を踏み出すが、すぐにその先から動く事が出来なくなってしまった。
エ『もしも・・・私達の中の、誰かが死んだら・・・・どう、思う・・・?』
頭の中でエルザが先程言った言葉が何度も何度も巻き戻され、その言葉がユモの頭の中にしっかりと焼き付いてしまった。
ユ「(い、いったい・・・どういう、事・・・・?私達の中の、誰かが・・・“死ぬ”って、事・・・?)」
ユモの心の奥に、妙な違和感が生まれた。
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月明かりが窓から射し込む妖精の尻尾専用医務室。そこにあるベッドにいるリョウは聖剣、『竜風剣』を磨いていた。
丁寧に、優しく、慎重に磨く。時々月明かりに照らすと、銀色の刃が眩しいほどに光り輝く。
リョウは磨き終えた『竜風剣』を見て満足そうに微笑むと、『竜風剣』を鞘に戻した。
リョ「聖剣の手入れを黙って見てて何が面白いんだ?」
医務室の外に聞こえるようにリョウは喋る。
リョ「何で隠れてんだよ?ショール。」
キィと音を立てて医務室のドアが開く。ドアの前に立っていたのはショールだった。
ショ「やっぱり気づいてたか。」
リョ「当たり前だ。もう少し気配を消してれば、気づいてなかったかもしれねぇけどな。」
ショールは「敵わないなぁ」と呟きながらリョウの方に歩み寄り、近くにあった椅子に腰掛けた。
リョ「さっき皆と帰ったのに、1人でまたここに戻って来たっていう事は・・・俺になんか用があるんだな?」
ショ「・・・そこまで、お見通しだったか。」
ショールは観念したように1つ息を吐いた。そして―――
リョ「!」
鮮血のような赤い瞳に、鋭い光を宿してリョウを真っ直ぐ見つめた。その瞳にリョウは息を呑む。普段は穏やかに見えるショールの瞳だが、この時ばかりはその瞳が恐ろしく見えた。リョウはショールの瞳から目を逸らす事が出来なかった。
ショ「お前は・・・何で、聖剣を・・持ち続けて、いるんだ・・・・?」
リョ「・・・・へっ?」
思いもしなかった問いに、リョウは理解するのに時間が掛かった。
リョ「いきなり何を言い出すかと思えば・・・俺はただ。聖剣を全」
ショ「そんな単純な事じゃないはずだ。」
リョ「!」
リョウが言い終わる前に、ショールがその言葉を遮った。
ショ「聖剣は、戦う為の“最強の魔法道具”にもなり、人を殺す為の“最強の兵器”にもなる。この事は、実際に聖剣を所有してるリョウが、一番分かってる事だろ?一言で言えば・・・聖剣は、危険物だ。」
リョ「!」
リョウの茶色い瞳が見開かれた。次の瞬間、リョウがショールの胸倉を掴んだ。
リョ「聖剣が危険物だ?アァ?お前の事はずっと冷静沈着で頭が良くて、「超」が付くほどのキレ者だと思ってたけどよ・・・どうやら俺の解釈は間違ってたみてぇだな。」
リョウはショールの胸倉を掴む手に更に力を入れる。
リョ「俺が契約してる聖剣は、全て『光』を纏っている。聖剣が“最強の兵器”になるのは、『闇』を纏った時だけだっ!!俺はぜってぇ~に、聖剣に『闇』を纏わせねぇし、自分自身も、ぜってぇ~に『闇』になんか落ちねぇ。聖剣使いを、舐めんじゃねぇぞぉっ!!!」
リョウは至近距離からショールを睨み付ける。対するショールも、胸倉を掴まれた状態からリョウを睨み付ける。
リョウとショールはしばらくお互い睨み合ったが、
リョ「・・・うっ!ぐっ・・・・!」
急にリョウが腹部を押さえて苦しみ出した。傷口が開いてしまったようだ。ショールは「はぁ」と小さく息を吐くと、自分の胸倉をまだ掴んでいるリョウの手を解き、ゆっくりとリョウをベッドに寝かせる。
ショ「安静にしてろポーリュシカさんに言われただろ?それに・・・」
そこで一度話を区切ると、ショールは鮮血のような赤い瞳でギロッとリョウを睨み付けた。
ショ「人の話を最後まで聞かないで、勝手にキレるな。」
リョ「!」
口調も声色も変わっていないのに、ショールの睨みには迫力があり、リョウは再び息を呑んだ。そして気づいた。
リョ「ま、まだ・・・続きが、あるのか?」
リョウの問いにショールは黙って頷くと続きを話し始めた。
ショ「またリョウがキレると困るから言い方を変えよう。聖剣は、危険な物だ。」
リョ「(そのまんまじゃねーか・・・)」
リョウは心の中でショールに突っ込みを入れる。
ショ「その危険な物を、リョウは今まで手に入れ続けてきた。それには何か理由があるんじゃないのか?」
リョ「!」
ショ「俺が聞きたいのはそれだけだ。」
話の続きはそこで終わった。
ショールの話が終わってリョウはしばらく無表情だったが、「ふっ」と鼻で一度笑った後、
リョ「お前もお見通ししてるじゃねぇか。」
笑った。笑ったが、その笑みはどこか悲しそうな笑みでもある事にショールは気づいた。
今度はリョウが話し始めた。
リョ「俺が始めて聖剣を手に入れたのは6歳の頃だった。6歳の頃、『銀覇剣』と契約した俺は、ますます世界一になりたいという願望が強くなり、更に7本の聖剣を全て集めるという目的も出来た。」
過去を思い出すように、リョウはゆっくりと語る。
リョ「そして10歳の頃、『天力剣』と契約して、俺は更に力をつけた。それからとんとん拍子のように、俺は13歳で史上最年少の聖十大魔道の1人になり、15歳で序列6位にまで上りトップクラスになった。だけど、1年前に父さんが死んだ。」
リョウの顔から笑顔がふっと消え失せた。
リョ「泣いたよ、一晩中。あんなに泣いたのは母さんが死んだ時以来だったなぁ。父さんが死ぬ直前に言ったんだ。「リョウ、聖剣にも『光』と『闇』がある。お前は聖剣使いとして、『闇』の聖剣を救ってやれ」ってな。それからは俺は、『闇』を纏った聖剣を救う事を決意したんだ。と言っても、今回が初めてだったんだけどな。」
実際にリョウは、『花錦剣』、『竜風剣』、『妖魔剣』を『闇』から救ったのだ。
リョ「その決意をした時に、俺は気づいた事があった。」
リョウは医務室の隅に立て掛けられている6本の聖剣に視線を移した。
リョ「俺は聖剣を『闇』から救える。聖剣は俺を援護出来る。でも・・・」
そこで一度話を区切ると、リョウは空を仰いだ。
リョ「俺も聖剣も、大切な人を、笑顔にする事が出来ないんだ。」
ショ「・・・・えっ?」
リョウの言葉を理解するのに、ショールにしては珍しく時間が掛かった。
リョ「今日だってそうだ。皆に迷惑を掛けちまったし、ルーシィには涙を流させちまった・・・俺は今まで、何度もルーシィの心に傷を刻んじまった・・・・時々思うんだ。「俺が、ルーシィを愛してて良いのか?」って・・・」
ショ「!」
ショールの鮮血のような赤い瞳が見開かれた。
リョ「だから俺は、大切な人を笑顔にする為に、聖剣と共に強くなっていくんだ。もちろん、これからもな。」
次の瞬間、今度はショールがリョウの胸倉を掴んだ。
リョ「ぐふっ・・・!」
傷に激痛が走りリョウは呻き声を上げるが、ショールは手を離さない。
ショ「人の笑顔は、聖剣でつくるものじゃないだろっ!!!」
リョウの胸倉を掴む手に更に力が入る。
ショ「俺が、こんな事言うのも・・どうかと思うが・・・良いに、決まってるだろ・・・・」
リョ「え・・・」
リョウの角度からはショールの表情が見えないが、胸倉を掴んでるショールの手が小刻みに震えているのをリョウは感じ取っていた。
ショ「ルーシィは、お前のせいで、今までたくさん涙を流してきた。ルーシィの心に傷を刻んだ事には、まず間違いない。それでも!ルーシィがずっとお前の傍にい続けているっていう事は・・・!ルーシィは、お前の事を心から愛してるっていう証拠だっ!!いとことか関係ないっ!ルーシィは、お前の事を本気で愛してるんだよっ!!!」
リョ「!」
ショールはそこまで一気に言うと、リョウの胸倉から手を離し、ドアに向かって歩き出した。
リョ「ショール。」
リョウが呼ぶと、ショールの足の動きが止まった。
リョ「・・・やっぱり、俺の解釈に間違いはなかったみてぇだ。お前は正真正銘の、冷静沈着で頭が良くて、「超」が付くほどのキレ者だ。」
ショールはその場から動かなかったが、しばらくしてから再び歩き出し、医務室を立ち去った。
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ここは銀河の旋律が泊まっている宿、『激情の白兎』。
クロッカスの街にある宿の中では高級ホテルのような所で、1階にある部屋が大広間となっている。その大広間に、100人は優に超える銀河の旋律の魔道士全員が集められた。魔道士達の先頭に立つのは、大魔闘演舞に出場しているキース、カオリ、レヴル、ルチーア、アンナの5人。
そして、大広間の中央にある玉座に座っているのは、銀河の旋律のギルドマスター、シルファ。長い銀髪と長い髭が特徴的な老人だ。右手には先端に六芒星を模ったものが付いている杖を握っている。
シ「銀河の旋律は52ポイントで1位。妖精の尻尾A・Bは46ポイントと38ポイントで2位と3位。妖精の尻尾を潰す事が目的である我々が、妖精の尻尾共にここまで追いつかれるとは・・・キース、どういう事だ?」
ギロリと深い青色の瞳がキースを捉える。
キ「そ・・それは・・・」
キースはシルファから視線を逸らし、言葉に詰まってしまう。
銀河の旋律の魔道士達は皆、シルファに睨まれると何も言えなくなってしまう。それほど目力が強いのだ、シルファは。
シ「カオリ、レヴル。」
深い青色の瞳が今度はカオリとレヴルを捉える。
カ「え・・えっと、そのぉ・・・・」
レ「・・・・・」
カオリとレヴルもシルファから視線を逸らし、言葉に詰まってしまう。
シ「ルチーア、アンナ。」
深い青色の瞳が今度はルチーアとアンナを捉える。
ルチ「ぼ・・ぼぼ、僕は・・・」
ア「わ、私、は・・・」
ルチーアとアンナもシルファから視線を逸らし、何か言いたげな様子だが、やはり言葉に詰まってしまう。
シルファの「はぁ」とため息をつくと、杖を支えにして玉座から立ち上がった。
シ「やはり最初からあ奴等を出場させるべきだったか・・・」
シ以外全「!!!??」
シルファの言葉にその場にいた人間全員が反応する。
キ「か・・帰って来たんですかっ!?」
シ「あぁ。大魔闘演舞の最中にな。」
?「本当は1日で終わる仕事だったけど・・・」
?2「ちょっといろいろ梃子摺っちゃったのよね♪」
?以外「!!!」
背後から2人の男女の声が聞こえた。振り向くと、左側に逆立った茶髪に青い吊り目の男と、若葉色のカールが掛かった髪にアホ毛、睫が長いオレンジ色の瞳の女が宿の入り口の前に立っていた。
キ「コ・・コグレ、さん・・・」
カ「ナナヨ・・さん・・・」
レ「・・・・・」
キース、カオリは2人の男女の名を呟いた。
コグレ・ファラス、ナナヨ・リーブル。この2人は銀河の旋律最強の魔道士だ。本来大魔闘演舞に出場するはずだったのだが、急に仕事が入りしょうがなく仕事を優先する事になったのだ。
シルファが杖の先端をコグレとナナヨに向けた。
シ「メンバーチェンジ!ルチーア・ジェマニーとアンナ・ワンスと、コグレ・ファラスとナナヨ・リーブルを交代だあっ!!」
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ドムス・フラウの地下深く。
銀色の台座に置かれた黒い大砲。黒い大砲の中央部に書かれている赤い術式は休まずに刻々と時を刻み続けていた。
『『極悪十祭』まで、残り4日 96時間15分33秒』
後書き
第181話終了~♪
突然ですが新キャラ登場!銀河の旋律に属する最強魔道士、コグレとナナヨ!この2人なかなか手強いですよ。
次回は大魔闘演舞4日目の競技パートです!
それではまた次回、お会いしましょう~♪
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