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戦国異伝

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第百六十三話 紀伊での戦その二

「幕府が」
「幕府がどうしたのじゃ」
「はい、ここで仲裁に乗ろうとしているとか」
 この話を言うのだった。
「そうした話が出ております」
「公方様が織田家と我等の戦をか」
「仲裁しようとされているとか」
「ふむ。左様か」
「どうされますか」
「若しもじゃ」
 ここで顕如はこう言った、その話を聞いたうえで。
「ここで織田家に石山を攻められるとな」
「それで、ですな」
「陥とされる」
 そうなってしまうというのだ。
「陥とされずともな」
「それでもですな」
「受ける傷は途方もない」
 そのことがわかっているからだというのだ。
「ここで我等だけで戦おうとも」
「傷は深くなりますな」
「だからじゃ」
 それでだというのだ。
「ここは受けるべきであろうな」
「公方様の仲裁を」
「受けられますか」
「うむ、しかしじゃ」
 受けはする、だがそれでもだとだ。顕如は難しい顔になりそのうえで義昭、将軍である彼についてはこう言うのだった。
「今の公方様はどうにもな」
「よい方ではないと」
「そう思われますか」
「どうも周りによからぬ者がおる」
 まずはこのことを指摘したのだった。
「以心崇伝に南光坊天海じゃったな」
「今の公方様の左右の腕と言われておりますな」
「どちらも」
「もっと言えば最早数少ない幕臣ですな」
「あの二人が」
「そうじゃ、しかしじゃ」
 幕臣ではある、だがそれでもだというのだ。
「あの者達は何者じゃ」
「そういえば素性がわかりませんな」
「崇伝殿は南禅寺の住職ですが」 
 南禅寺といえば都でも名刹である、だがそれでもなのだ。
「その素性はどうにも」
「南禅寺に入られるまではわかりませぬな」
「天海殿もじゃ」
 もう一人の義昭の側近である彼もだというのだ。
「あの御仁もな」
「武蔵より来たそうですが」
「相当なご高齢だとか」
「しかしですな」
「あの御仁のご素性も」
「謎だらけじゃ。どうも怪しい」
 顕如もそう見ていた、彼等については。
「そしてそうした者達をお傍に置かれる公方様もな」
「よき方ではないと」
「そう仰いますか」
「よき者は近付けぬに限る」
 顕如は佞臣の類には気をつけている、このことは彼が読んできた書だけでなくこれまで本願寺の法主として多くの者を見てきてわかってきたことだ。
 それでだ、こう言うのだ。
「本願寺にも怪しい者は来たな」
「はい、どうにも」
「怪しい者が」
「何といったか」
 ここでだ、顕如は険しい顔になり述べた。
「公卿の高田殿の縁者であったか」
「そう言われていますな」
「どうも」
「うむ、公卿の方の縁者とは何かと思ったが」
 顕如は民を見ている、民を救うことが一向宗の教えだからだ。しかしそれでも公卿が門徒になりたいと言っても断らないのだ。 
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