浮舟
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第一章
第一章
浮舟
船は難破した嵐によってだ。
イシュメールとクイークェグは海に投げ出された。だが何とか小舟を手に入れてそこに乗った。
嵐が去り二人は大海原に取り残された。しかもである。
「水はないか」
「食べ物もな」
そんな状況だった。しかもだ。
「この小舟もな」
「ああ、かなり傷んでいるな」
「相当な」
二人が乗るその小舟もだった。相当だ。
イシュメールは中肉の白人でクイークェグは日に焼けた肌をしている。彼は南方から来たらしい。それでその肌はそうした色であった。
イシュメールとクイークェグは人種こそ違うがそれでも船の中では付き合いがよかった。親友同士とも言ってよかった。そうした間柄である。
その二人が今小舟の中に一緒にいる。しかし今二人は二人だけでいるのではなかった。もう一つの存在と一緒に乗っているのであった。
「まずいな」
「ああ、小舟も今にも沈みそうだ」
「危険だな」
「全くだな」
二人で話す。今彼等は危機と共に小舟の中にいるのだ。
そしてだ。二人はそれをはっきりと感じていた。そのうえで今いるのだ。
だがそれでも生きなくてはならない。まずはイシュメールが言ってきた。
「なあ」
「何だ?」
「まず水は雨を待とう」
水について話すのだった。周りは大海原で見えるのはその青い海と空、そして白い雲だけだ。そうしたものの他は何も見えはしない。
「水筒はあるしな」
「そうだな、水はそれでいいか」
「そして」
クイークェグに対してさらに話す。
「食べ物だけれど」
「それはどうする?」
「魚を釣ろう」
そうしようというのだ。
「それで手に入れよう」
「わかった。それなら」
ここで彼は海の中にさっと手を入れた。そしてそのうえでだ。
小舟の中にあるものを入れた。それは一匹の魚だった。
そしてまた手を入れてだ。もう一匹入れたのだった。
「これでいいな」
「もう獲ったのかい」
「これ位俺の国じゃ普通のことだからな」
笑ってこうイシュメールに言ってみせたのである。
「こうして魚を獲るのも」
「普通なのか」
「ただ。捌くのはイシュメールの方が上手いな」
「まあ俺は元々厨房にいたからな」
見れば彼はその魚をすぐに持っているナイフで捌きだした。その手捌きはかなり鮮やかだ。鱗を取り身と骨を切り離してだ。そのうえでクイークェグに対してもその身を差し出した。
「じゃあ食うか」
「悪いな」
「気にするな。しかし」
彼はここで困った顔になってクイークェグに話した。
「困ったことになったな」
「今か」
「ああ。今俺達は何処にいるんだ?」
「さてな。それが何処かさえもわからない」
「まずは夜になるのを待つか」
イシュメールは今度はこう話した。
「それで星を見るか」
「それでおおよそのことがわかるな」
「場所はな。それでな」
「そうだな。それじゃあそれまでは待つか」
「ああ。それでだが」
「んっ?どうした?」
「雨が降らない場合はどうする?」
クイークェグに対してこのことを問うたのだ。
「すぐに振らない場合はだ。それはどうする?」
「血がある」
彼はこうイシュメールに答えた。
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