騎士道精神
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第一章
第一章
騎士道精神
ロビン=ロットナー卿は貴族である。爵位は伯爵だ。
その誇りを常に胸に抱いている。
仕事は政治家であるが元々スポーツマンでラグビーをしていた。ラガーマンとしても有名でありオックスフォード時代はそちらでも有名な人物である。
しかしである。この彼はだ。非常に古い人物として知られていた。
「もう二十一世紀なのにな」
「全く。古いっていうかね」
「本当にな」
周りは彼を苦笑いと共にこう評する。
「今時騎士も何もないだろう」
「ドン=キホーテみたいだよな」
「そうだよな」
これが彼への評価であった。
「まさに現代のドン=キホーテだよ」
「ああいう御仁がまだいるのって我が国だけだよな」
「ああ、それは間違いないよな」
「イギリスだけだ」
「だからか?」
そしてだ。こんな言葉が出るのであった。
「我が国がアメリカや中国や日本に遅れを取るようになったのは」
「ヨーロッパの中でもドイツやフランスに押されてるしな」
「大英帝国も今は昔だしな」
歴史の流れはだ。これはどうしようもなかった。
「けれどあの方だけは相変わらず」
「正々堂々と騎士道だ」
「それで政界も国際社会もやっていこうとする」
「本当にドン=キホーテだな」
「そうだよな」
こう言われていた。その彼はというとだ。
こうした話を聞いてもだ。全く意に介さない。こう言うだけだった。
「言いたい者には言わせておくのだ」
「はい、わかりました」
執事のアルマーは彼に長年仕えている。姿勢のいい端整な執事だ。もう髪は白髪だがそれを丁寧にオールバックにしている。
ロットナー卿もブロンドに黒が入ったその髪を丁寧に後ろに撫でつけている。そして彫が深い整った顔をしており口髭をたくわえている。目は青で強い光を放っている。
常にスーツを着ておりフロックコートも愛する。ラグビーをやっていたことがすぐわかる長身で引き締まった身体をしている。彼は今日も議会で言う。
「その様なやり方は卑怯である」
母国の通商政策についての議論の時の言葉だ。
「それは我が国の名誉を傷つけるものであるから私は反対する」
「いや、そうは言っても」
「それでも」
「ここは」
その彼に対してだ。相手だけでなく彼の所属する政党の間からも戸惑いの声があがる。彼が所属しているのは保守党である。実に彼らしい。
「それが一番でしょうに」
「それに外交ではやはり駆け引きは必要だ」
「この位はいいのでは」
「取引材料としては」
「弱みに付け込み我が国の商品を高く売ろうというのはだ」
確かにどの国でもやっていることではある。アメリカや中国に至ってはこれどころではないかも知れない。それが政治というものである。
「騎士道に反する」
これを聞いてだ。皆思った。
「またか」
「またそれか」
「騎士道か」
いささか呆れた。しかし彼は本気であった。
「相変わらずだな、全く」
「それを出すか、ここでも」
「それで言うのか」
そしてだ。彼はそんな周囲に構わず言うのであった。
「ここは売るべきではない」
「ではどうするというのですか?」
相手の労働党から意見が出た。
「ここは」
「どうしてもというのなら安く売りだ」
そうせよというのである。
「そしてかの国が今の様に窮状に陥っていない時に売るべきだ」
「それでは国益を損ないますぞ」
その労働党の議員は政治の本質を出した。
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