清廉潔白
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第一章
第一章
清廉潔白
この国の政治は腐敗していた。
政治家も官僚も殆どが賄賂を取り私腹を肥やしていた。そしてそれが横行しだ。極めて深刻な社会問題とさえなっていた。
誰もがこの状況を何とかしたいと思っていた。
「もう汚職はな」
「ああ、沢山だ」
「新聞を開いてテレビをつけたら汚職の話だ」
「他に話はないのか?」
「全くだよ」
国民達はうんざりとしていた。そうしてであった。
彼等は望むようになっていた。清潔さをだ。
「汚職を一切しない政治家な」
「そんなのいないか?」
「誰かいないか?」
「そうだよな」
こう言って憚らない。そうなるのは当然だった。
汚職に膿み清潔な指導者を求めていた。その中でだ。
彼が出て来た。その名はクリスト=クロムウェルという。謹厳実直にして厳格極まる人物である。そしてこの人物はだ。
汚職とは縁がなかった。それも全くだ。
家は小さく粗末なものだ。着ている服も粗末な古いものだ。蓄財もなく愛人もいない。そうしたことは一切なかった。
しかもだ。極めて優秀であった。統率力がありしかも政治家としてのビジョンもあった。部下もよくまとめていたのである。
こうした人物が出ればどうなるか。最早自明の理であった。
特に清廉潔白なところがだ。国民から注目を浴びた。
「おい、クロムウェルってな」
「ああ、凄いよな」
「賄賂は絶対に受け取らないらしいな」
「しかも愛人もいないしな」
「親戚を要職につけたりしないし」
「蓄財もないってな」
その清潔さが国民の人気を集めた。そうしてである。
「あの人ならな」
「俺達の大統領になれるな」
「そしてこの国を変えてくれるぜ」
「清潔な国にな」
こうしてであった。彼は周りから大統領に推された。そして彼もそれを受けたのである。
「わかった」
まずはこう言って頷いた彼だった。岩の様なその顔には何の笑みもない。身体は引き締まり贅肉も一片もなかった。
「それではだ」
「受けてくれますね」
「大統領選挙」
「是非」
「国民の為に、この国の為に」
彼は言った。
「我が身を捧げましょう」
「クロムウェル万歳!」
「クロムウェル万歳!」
すぐに彼を讃える声があがった。
「この国を救って下さい!」
「是非!」
こうして彼は選挙に出た。彼はあらたな政党を率いて出馬したがそれは圧倒的な支持を得た。
その同志達も皆清廉潔白で精悍な者達だった。人気が出ない筈がなかった。
彼は選挙に勝った。国民の票は九割近くが彼に集まった。そしてその政党もだ。議会の四分の三を制したのであった。
まさに圧勝だった。それからだった。
彼は大統領になり宣誓を行いだ。すぐに政治をはじめた。
汚職を禁止し厳罰まで定めた法案が議会を通った。実際に収賄やそういうことをしていた政治家や官僚は次々と逮捕された。
そのうえで政治改革を行い統治システムはかなり合理的なものになった。政治家の権限も大きくなり官僚は厳しく監視されるようになった。
その政治家もだ。少しでも汚職やミスがあれば大統領に即座に罷免されるようになった。極めて中央集権的なものになった。
国民はそれを見てだ。素直に喜んだ。
「クロムウェルはやってくれているな」
「ああ」
「全くだ」
こう言って笑顔で彼を讃えていた。
「彼が知っていればな」
「それで問題ないよな」
「頼りになるよ」
「俺達の為にしてくれてているしな」
確かに彼は私がなかった。あくまで国民の為、国家の為に考えており動いていた。しかしであった。その彼がなのだった。
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