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ロウきゅーぶ ~Shiny-Frappe・真夏に咲く大輪の花~

作者:46熊
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Five

「ん……」

 熱に浮かされ目を覚ます。そう言えば今日から8月だったか。

 気だるい体を起こし、冷蔵庫に入っていた麦茶を飲む。何だか苦い、この時期のお茶の日持ちの悪さは本当に何とかしてもらえないものか。

 愛莉がグラビア関係の撮影で南の島にロケに行っている間、私はひたすら自堕落に(バイトは行ってるし自主的にトレーニングも欠かしていない……ん、何でこんな事をしているのやら)生命を繋いでいた。

 今日も何度か電話が来ているが、大抵美星からなので完璧に無視し、身だしなみを整えその辺に折り畳んであった衣服から薄めのTシャツとショートパンツを引っ張りだしドレスアップ、物が散乱した1Rにさよならを告げ外出する。

 今日はこの前帰ってきたサキこと永塚紗季(ナガツカサキ)と会う手はずになっている。

 奈良の大学に行ってしまったため(お好み焼きは関係ないと信じたい)高校卒業とともに疎遠になってしまった訳だが、久々会えるのだからこの機会を逃す手はない。


 「ふう……危ない危ない」

 噴水の前で一息入れる。時間は9:54ジャスト。これなら文句を言われることも……

 「ふひゃっ!!!!」
 「ちゃんと五分前行動守れるようになったみたいね、マホ」
 「ちょっ、なにすんだよ!!?」

 妙ちくりんな声を上げて振り返った先には爽やかに頬を緩める蒼髪の幼なじみのすgべしっ。

 「とりあえずその幻想(微笑み)をぶち壊させてもらった」
 「その読ませ方無理矢理じゃないの!? 何はともあれ……久しぶり、マホ」
 「おう……久しいな」

 最後に出会った時と比べてもさほど何かが成長しているわけでも無かったのだが、一年半と言う時は彼女を確実に大人にしていた。

 先月の頭(7/1)に誕生日を迎え二十歳を迎えた彼女、その次の日に誕生日を迎えた自分だったが、一日とは思えない程遠く突き放された感覚をずっと拭えないでいた。それは今も変わらないまま、言いようのない感覚に支配されている。

 彼女がくれたのは、私とサキ両方が大好きな飲み物『メロンコーラ』、とりわけ振ってもいないのにプルタブを勢いよく引くと飛沫(しぶき)がスプリンクラーのように噴き上がり弾ける。

 「んくっ、んっ……っ、ぷはぁっ!!!!!」
 「ふう、折角暑いんだもの、こういう粋な飲み物で一息つきたいじゃない?」

 激しく同感だった。だがそれは此処まで走ってくるだろうと言うことを見越してのことだったのかと思うと少し腹が立つ。

 いやいや、彼女の行為には素直に甘えておこう。これが皮肉だったら皮肉と分かっているけど甘んじて受けています的な何かが必要だと思うんだ。

 「んで、動きやすい格好でって言うからそうしてきたけど、一体どうしたわけ?」
 「まあ、久々会ったわけだけど……ほら、これ」

 サキは水色のワンピースを着て、浅めのキャップを被っていた。ただそんな格好で走り回ったり跳ね回ったりしたら色々残念なものが見えると思うのだけれど。

 と思って何かのチケットを受け取る。バスケの試合か、うちの県と隣の県のバスケチームの試合、公式の試合でも結果を出している二チーム……

 「うおっとと、マホに預けると風で飛ばされるから私が持っておく」
 「信用ねぇな私……ま、いいか」

 今日は風が強い、責任はサキに全部押しつけるとしてだ。たまにはバスケを見る側に回るのもいいかもしれない。


「ちょっと昴、来てるなんて全然知らなかったんだけど!!!?」
 
 夏にも関わらず少しばかり肌寒い廊下に甲高い声が響く。
 長い髪を後ろで一本にまとめた、勝ち気な瞳を湛えた大人っぽさの中にも幼さを残す彼女は、薄く白い頬を桃色に染めながら膨らませ、きっ、と猫のように睨む。

 「ふう……まあ、ごめんな、葵」
 「ごめんなじゃないわよっ!!!! 美星さんが教えてくれなきゃ気づかなかったんだから、また私の事なんてほっぽってどっかいく……」

 昴は頭を掻く。上下共にバスケの試合着に着替え体も温まっている。

 「……ま、まあ良いけどさっ。折角なんだから格好いいとこ見せなさいよねっ!」
 「まあな、しっかり決めてやるさ」

 笑顔を返し、昴は控え室へとつま先を向け足を踏み出す。
 その時だった。

 「す……」
 「あ、マホちゃん」
 「あっ……」


 出会ったのだ。私とサキは、すばるんとあおいっちに。今のサキの一言は残念ながら聴き逃せなかった、聴き逃せなかった……!!

 「久しぶり、マホちゃんも試合見に来たんd」
 「こう言うことかよ、サキ」
 「マホ……」
 「久しぶりじゃんすばるん、元気そうで何よりだよ」

 血が下唇から滲んでいるような錯覚すら覚えた。顔の筋肉がうまく働かない。自分はものすごく変な顔をしているのではないだろうか。

 「今日の試合、すばるんも出るんだ? すげぇじゃん、ファン想いの立派なスターだ、最高のプレー期待してっかんね」
 「マホ……行きましょう」
 「……………」

 すばるんは何も言わないでいた。私も何も言わない。何も言わずにきびすを返す。

 「……すいません、長谷川さん」
 「……今日のところは、試合を楽しんでくれると嬉しい」

 サキは走っていく私を追いかけてきた。絶対に追いつかせまいと思っていたら、段差に足を引っかけバランスを崩し、左手を強く床に付く。それが決定的に二人の距離を縮めた。

 「あのさぁサキ、休養思い出したんだけど、帰っt」

 パチン、乾いた音が響く。眼鏡越しに滲む涙に自分は気づいていなかった。

 「何も言わないのは悪かったって思ってる、でもあんただって……っ!!!!」
 「そう熱くなるなって……もうあの時の私じゃない、私だって大人になった、世辞の一つくらい繕える」
 「……………」

 嫌な奴だった。こうして、下らないことばかり覚えて汚い大人になっていく。
 サキは何も答えなかった。私はサキに背を向け走っていく。追ってくるかこないかは知らないが、別にどうでもよかった。
 
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