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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十三章 幕間劇
  闇夜×褒美

俺は夜の散歩をしていた。見上げる城壁は、大きな穴が空いていた。補修工事で櫓が建っていて足場が組まれている。激戦とは思わないが、ひよ達にとっては激戦だったのだろう。この城壁の修理は見るだけで優秀かは分かる。

鬼はいつ来るか分からないが、トレミーや衛星カメラから監視してるから大丈夫だろうと思う。少し離れた場所に、普請用の資材があったがよく見ると小波がいた。見慣れた背中が、資材の影に隠れるようにして丸太に腰をかけていた。様子を見ていると巾着袋の中から取り出していた。

「・・・・様、どうぞ」

んー、他に誰かいるのか。話しかけてるようだけど、ここからでは分からんな。

「もぐもぐ。美味いな。ほら小波も、あ~ん」

小波は何かを差し出しながら口を開けていた。

「え、そんな・・・・もったいない」

何かの練習でもしてるのか?身体をくねくねしているが、くねくねといえば貂蝉を思い出すな。初めて会った時は気持ち悪かった。とりあえずよく分からないので声をかけると同時に、驚かすのもいいか。幸い、まだあちらは気付いていないようだ。足音を忍ばせながら、こっそりと背後に行く。そして手を伸ばせる距離まで接近して、名を呼ぶと共に両肩を掴んだはずだった。

「あら?変わり身の術か」

いつの間にか、小波ではなく木とすり替わっていた。

「失礼しました!ご主人様でしたか!?何故このような時刻、このような場所に?」

「散歩してたら小波の姿があった」

「聞かれましたか?」

「何が?」

「い、いえ、何でもありません!」

「あーんと口を開けてたのは見えていたが」

「あ、あああ、あれは欠伸・・・・です!」

「そっか」

「・・・・(コクコクッ)」

「それにしても本物の忍者は凄いな」

「凄い、ですか?」

小波のきょとんとした顔に頷く。

「自分にはこれより他に取り柄がありませんので・・・・」

「大した取り柄だよ。黒鮫隊の者は忍者みたいになれないし、俺の妻の一人も凄いけど小波も凄いよ」

「・・・・ありがとうございます。その妻の一人とは?」

「ああ、妻の中に小波と同じくらい忍術が得意なのがいたから」

妻の一人というのは、分かる人はいると思うが思春と明命だ。格好から忍者だなと思った。

「ところで小波、食事は?夕食の席で姿がなかったから気になっていたんだが」

「えっと、ちょ、ちょうど今、頂こうと・・・・」

「ここで?しかも一人?」

「その・・・・はい」

何ちゅうもの食ってるんだか。小波の分も用意してあるのにな。

「もしかして、いじめられ・・・・」

「ち、違いますっ!皆さんよくして下さいますっ!」

両手を派手に振って否定をする。しかも聞くと斥候任務中は一人だったが、今は任務中じゃないだろうと言った後に、何食べてたんだ?と聞いた。

「あの・・・・これを」

小波は懐から巾着袋を取り出す。さっき見たものだが、袋の口から掌にざらっと白い粒がこぼれる。

「これって保存食って奴?」

「・・・・(コクッ)」

恐らく干飯だろう。これは炊けた米に水にさらしてから、天日で乾燥させたもの。所謂忍者の為の飯だけど、今は戦中でもなければ任務中でもない。

「小波、明日から一緒に食べよう」

「えっ、自分がご主人様と一緒に食事・・・・ですか?」

「うむ。俺と一緒は嫌か?」

「い、嫌ではありませんっ!むしろ食べたいっていうか!あ~んとか・・・・」

「あ~ん?」

「い、いえ、何でもありませんっ!」

まあ、俺にとっては丸分かりだけどな。

「なら一緒に食べよう」

「ですが、草が主人と食事の席を同じくするなど・・・・」

「相変わらずなのだな。だが戦なら規律はあると思うが、ここは戦場ではない。頼むから一緒に食事をしてくれ」

「あわわわっ!頭をお上げくださいっ!もったいない!」

「部下と一緒に飯を食うぐらい頭を下げるが・・・・」

「どうか、お願いはお許し下さいませ。せめてご命令を頂けましたら・・・・」

「また命令か。では小波よ。明日、俺と一緒に食事をする事・・・・。これでいい?」

「承知致しました!小波、明日の夕餉のご相伴仕ります」

丁寧に頭を下げたが、俺的には今一納得がいかない。

「そういうもんなのか?」

「・・・・(コクッ)」

まだ納得していないが、夕食の席に小波がいるのは大事だ。仲間と一緒に食べるのもいい事だし。

「とりあえず、一緒に温かい物を食べような。そんな保存食じゃないもので」

「畏まりました」

とりあえず、厨房に温かいおにぎりを作ってくれと注文した。塩味で。数分後に出来上がったので、空間から手を突っ込むと皿の上におにぎりが二つ。しかも海苔付きで。

「とりあえず、これでも食ってからにしろ」

「は、はい」

と言って無言で食べ始めた。俺はもう食い終わってるからな。小波が食い終わった所で、皿を空間に突っ込んで厨房にいる者に渡した。

「夕食もそうだが、戦の労もまだ何もしていない」

「お気遣い無用です。一葉様を始め方々の華々しい活躍に比べれば、自分など取るに足りません」

「戦場でも言ったかもしれんが、小波の働き無しでは二条館は守れなかったんだぞ」

「自分は繋ぎを行っていただけです」

「小波のお家流無しでは連携出来なかった。あの戦は、俺達は数で劣っていた。例え一葉達が、一騎当千の強者であったとしてもバラバラに応戦してたら、押し切られていただろう」

「それはご主人様の作戦があるからこそ・・・・」

「逆だ。ここの兵達を纏めるのには、小波のお家流が不可欠だった。だからあの作戦をしたのさ」

俺達には通信機があるから、離れていても連携出来る。が、ここのはそれがない為、連携が出来ない。

「とにかく。あの戦に勝てたのは小波のお陰だ」

「やらなければならない事をやっただけ・・・・」

「ありがとう、小波」

俺は小波の手を取った。お家流だけではなくて、鞠を影から守ってくれた事もだ。

「本当によくやってくれた。あの戦は一番の手柄を取ったのは小波だと思う」

MVPと言っても分かんねえだろうからな。

「も・・・・もったいないお言葉にございます」

「どうかこれからも力を貸してほしい」

「そ、それは・・・・もちろんに・・・・ございます」

「一真隊には・・・・いや俺かな?小波が必要なんだ」

「あ・・・・あ・・・・ありがたき・・・・幸せ・・・・」

今気づいたが、耳まで真っ赤になっているな。

「おっと、悪かったな」

握り締めていた手を解放させる。手を放しても視線は合せてくれない。

「い、いえ・・・・ご主人様との、距離に・・・・慣れてなくて・・・・」

「葵はどうなんだ?」

「・・・・いつも過分にお褒め頂いております(ただ、葵様とこのような)」

小波は黙って自分の手に目を落とした。余り手を握られるのは、慣れてなかったのかな。

「そうか」

その一言だけでも、小波にとって葵が素晴らしい主君というのはよく分かる。問題は隣にいるあの女狐だな。アイツさえいなけれないいが、俺と葵では月日の差もあるだろうし。

「なあ小波」

「はい」

小波がやっと顔をあげてくれる。

「俺の事、主人と呼んでいるよな」

「はいもちろんですが・・・・ご主人様?」

「なら主人として俺なりの接し方、報い方をさせてくれないか。俺は小波と特別な関係としてな」

「特別な関係・・・・ですか?」

俺は頷くが、小波は黙る。

「(ご主人様はもう自分にとって特別な御方なのですが)」

「俺は、主従関係という堅苦しいのは好きではないのさ。仲間ではダメか?」

「もったいないお言葉でございますが、自分はご主人様の臣にございます」

「俺から禄をもらっている訳でもないし、報いもなければ恩義もないだろう。いきなり主人だ、家来とかはどうにもしっくり来なくてな」

「自分は、葵様よりご主人様に従うよう命を受けております」

「それもだな。小波には葵という主人がいるが、複数主人を持つのは辛くないのか?」

「自分は均しく忠義を誓っているつもりです」

「そうか。ならばもう問わん」

今の関係もいいが、葵とは別の関係を作りたい。急げば関係が無くなるかもしれないし、ここは冷静にいかないと。

「ご主人様?」

「小波に褒美をやろう」

「ふえ?」

「主人なら、部下の手柄に褒美を与えないとバチが当たりそうだ」

「と、とんでもない。先程より頂きましたる数々の労いのお言葉だけで、既に小波、身に余る光栄でございます」

「遠慮するな。これも上司から部下に褒美を与えるのは良い事なのだから」

何かを呟いた後に手を見ていた。俺はその辺りに転がっていた、掌サイズの木っ端を拾うといつも持っているナイフを取り出す。丸太の上に腰を下ろした。

「一体何をされるおつもりですか?」

「まあそれは完成してから、それより立ちっぱもよくないからここに来い」

「じ、自分はこのままでも・・・・」

「おいでってば。すぐには出来ないから」

小波はしばらく黙っていたが、俺の隣に腰を下ろした。まずは大きく削ってと。俺のナイフはよく切れる物だ。サバイバルナイフと同等ぐらいのかな。

「何か作られているのですか?」

「んー・・・・まだ内緒」

「はぁ・・・・」

何度か刃を滑らす内に、木っ端が次第に思うような形になってきた。創造神でもあるからこういうのはすぐ創れちゃうけど、手作りの方がいいと思った訳だ。頭の中に、設計図があるからそれの通りに削って行く。そうやってるとだんだん出来てきた。

「これは人形・・・・ですか?」

「小波にも分かるか」

「はい。とてもお上手です」

俺よりも春蘭の方が上手い。何せ華琳が瓜二つの人形を作っていた時期があった。しかも等身大で本人と見比べても、偽物と判断しにくかった。

「そういえば、小波にも師匠はいたのだろう?あれだけの術を学んだのだから」

「半蔵の名を継ぐ者として剣術、体術、戦術、閨房術、お家流に至るまで。草働きに関する全てを叩きこまれてきました」

「全て修行の賜物だな」

閨房術って確か、くノ一が身体を使って敵を誑し込むっていうあれか。座学だけだろうなと思いながら、聞くのをスルー。後程聞いたが、閨房術は淫術と交接術がある。淫術は、相手をその気にさせて籠絡する、所謂ベッドテクニック。交接術は交わりの中で相手を倒すという妖しい術の類なんだと。

ちなみに倒すというのは、交わったまま抜けなくして動きを封じてしまう玉女貝の術と果てしなく精を搾り取って廃人にしてしまう棒涸らしの術なんだと。棒涸らしの術ってサキュバスのシャムシェルやシャハルみたいな感じ。その場合は死んでしまう。それと交接術は、女にならないといけないらしいからまだ小波はまだあれなんだなと。

「閨房術については、出来れば小波にはやらせないよ」

「草の身はご主人様のものですから、命じられれば・・・・」

「俺は絶対に命じないな」

「・・・・ご主人様」

黙っちゃったけど、まあいいとして。仕上げとして紙やすりをだして磨いていく。

「よし、こんなもんかな。どうかな?」

「これは・・・・自分でしょうか?」

手渡された木彫りを眺める小波。これでもよくできてる方だけど。

「うん。上手く彫れてよかったけど」

笑っている小波を想像して作ってみたんだけど。

「・・・・自分はこのような顔をして笑っているのでしょうか?」

「これは俺の想像だ。嬉しい事があった時はこんな風に笑っているのかな?とな」

「・・・・」

「俺はいつか、小波の笑顔が見たいのさ」

「ご主人様は、自分に、笑え・・・・と仰るのですか?」

「何か可笑しい事でも言ったかな?」

「心凍らすのが草。泣くな、笑うなと言われて育ちましたので」

「相変わらず厳しい環境で育ってきたんだな。でもここは戦ではない。たまには、自然と笑みを浮かべてほしいと思っている。気持ちを素直に出せばよいのさ」

黙ってしまったな。何を考えているのだろうか。

「(出来ない。ご主人様への気持ちを素直に出してしまったら・・・・)ご主人様の命令なら、努力は、その・・・・してみます」

「努力はしてみろ」

一歩ずつだけど、それしかないな。

「ご主人様より賜りし褒美の品、小波、終生大切に致します」

木彫りを恭しく懐にしまい、深々と頭を下げる小波。

「余り大したもんではないけどな」

「そ、それでは・・・・その、失礼します」

再び一礼すると、小波はまるで逃げ出すかのように背を向けた。

「明日の夕食の事は忘れるなよー」

あっという間に闇の中に消えていく小波の背中に声を投げる。

「畏まりましたー」

声が遠ざかっているが、聞こえていたようだ。命令ではないけど、これから徐々に慣れさせれば命令じゃなくて自然になると思う。さてと地上の散歩を終えたら、今度は空での散歩でもしようかな。

一方小波はと言うと。

「あの方はいとも容易く、人の心に忍び込む。自分などより遥かに腕利きの忍びだ」

風を切り、闇を抜け、振り払うように私は走る。

「ああ、惑うな小波!弁えよ小波!あの方は大名の恋人であり、名だたる武将の恋人・・・・それに引き替え、自分はただの草、想いを募らせてよい相手ではないのだ。少しばかり優しくされたからといって勘違いするな。それはあの方の大らかな御心によるものに過ぎないのだから。そして自分は一真隊の一員である前に、松平家の家臣。泣くな!笑うな!心凍らせ、ただ任務を遂行せよ!」

なのに・・・・。懐にことりと揺れる温もり一つ。私は褒美の木彫りを握りしめる。

「月よ嗤え、自分は未熟だ・・・・」 
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