ジャンパー
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第一章
第一章
ジャンパー
その怪我は。突然だった。
練習中に飛んでいてだ。不意に身体のバランスを崩してだ。
体勢を崩しそのうえで落ちてしまい。身体全体を強く打ってしまった。
雪の上とはいってもだ。何十メートルの高さから落ちてはコンクリートと変わらない。
彼は肩を打ち骨折した。その他の部分も強く打ちだ。
すぐに入院した。その病室でだった。医師に告げられたのだ。
「全治三ヶ月です」
「三ヶ月ですか」
「幸い後遺症はありませんが」
彼、岩間朝彦にとってはだ。何とか救いになる言葉だった。
「しかし三ヶ月の間はです」
「わかってます。安静にですね」
「焦らないで下さい」
スポーツ選手である彼への忠告だった。
「いいですね」
「焦らずにですね」
「はい。怪我を癒して下さい」
こう言うのである。
「宜しいですね」
「わかりました」
朝彦はだ。とりあえずだった。医師の言葉を受けてだ。
大人しく怪我の回復、そしてリハビリに専念したのだった。
その結果だ。三ヶ月経つとだった。
「全快です」
「これでなんですね」
「後遺症もないです」
最初から言っていたがそれもないというのだ。
「御安心下さい」
「はい、それではすぐにでも」
「そのこともです」
ここでだ。また言う医師だった。
「ただです」
「ただ?」
「全快しましたが三ヶ月のブランクがあります」
言うのはこのことだった。
「ですからくれぐれもです」
「すぐには飛ぶなというのですね」
「はい。それにおそらく?」
「おそらく?」
「飛ぶのに。覚悟がいると思います」
だからだというのだ。ここでだ。
「ですからすぐにはです」
「飛べないというんですか?」
「そう思います」
「それはないですよ」
だが、だった。朝彦はそのことは笑って否定した。
そしてだ。医師に何故ないのかそのことを話すのだった。
「僕はジャンパーですよ」
「ジャンパーだからですね」
「それはありません」
また言う彼だった。
「決してです」
「だといいのですが」
「ジャンパーは飛ぶからこそジャンパーです」
その誇りもあった。ジャンパーとしてのだ。
「ですから」
「では。くれぐれも無理は為さらずに」
「大丈夫ですから」
こう言ってだ。彼は飛ぶことに何の不安も抱いていなかった。そのうえで退院してトレーニングに復帰した。まずはランニングや筋力トレーニングは。
「何かすぐですね」
「そうですか」
「はい、順調にできてますよ」
青いジャージを着て走ったり動いたりしながらだった。
一緒にいてトレーニングの状況を見守る医師にだ。話すのだった。
「こうして」
「それならいいのですが」
「はい、それにです」
「それに?」
「この調子ならです」
笑ってだ。こんなことを言う彼だった。
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