戦国異伝
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第百六十二話 ならず聖その九
「百地家の場所に入った者もおりませぬ」
「入られぬか」
「噂では入って出て来た者はおらぬとか」
ここで滝川の言葉が剣呑なものになる、百地達に対して怪しむ言葉だ。
「そう聞いております」
「御主達でも入られぬか」
「元々忍は相当なことがない限りそれぞれの里には入らぬもの」
それでだというのだ。
「それがしも服部殿のところには用で行ったことがありますが」
「百地にはか」
「ありませぬ、あの者達は誰とも関わりを持ちませぬし」
「余計に面妖じゃな」
誰とも関わらないということからだ、信長はまた言った。
「忍は何処かの家に雇われるものだというのに」
「それでもどの家にも仕えぬとは」
「まずない」
このことからも言うのだった。
「だから余計にな」
「百地は怪しいですか」
「そしてその下におる石川五右衛門もな」
「そうなりますか」
「よし、ここはじゃ」
信長は少し考えてだ、それからだった。
滝川と蜂須賀に顔を向けた、そのうえでこう命じた。
「それぞれの手の者に敵陣を見させよ」
「敵陣をですか」
「そうせよと」
「そうじゃ、敵の将軍を見て来るのじゃ」
そうせよというのだ、
「わかったな」
「では」
「しかし陣に入ることはない」
それはいいというのだ。
「見るだけでじゃ」
「よいのですか」
「敵の将を見るだけで」
「そうじゃ、石川以外に誰がおるか」
それを見ろというのだ。
「わかったな、ではな」
「わかりました、それでは」
「そうしてきます」
「石川五右衛門だけではないやも知れぬ」
信長はその目を険しくさせて言う。
「他にもな」
「いると、誰か」
「百地の家の者は」
「百地の下には三人の上忍がおるという」
このことから言うことだった。
「石川五右衛門、その者とじゃ」
「楯岡道順ですな」
「そして音羽城戸ですか」
「二人共その姿は聞いておる」
このことは知られているのだ、天下にも。
「楯岡は着流しの長い髪の男、音羽は小柄と聞く」
「ではその二人がいれば」
「間違いなく」
「本願寺と伊賀はつながっておる」
そうなっているというのだ。
「そこに百地までおればな」
「それではですな」
「敵将を」
「見て参れ」
こうしてだった、信長は忍達に敵陣にいる敵将を見させた。しかしその一連の動きは松永も見ていた。そしてだった。
松永は密かにだ、己の家臣達にこう言った。
「このことはな」
「石川殿達のことですか」
「そのことですな」
「流石にここで知られてはな」
そうなってはというのだ。
「殿は伊賀を攻められる」
「そうなるからですか」
「ここは」
「石川殿にお伝えせよ」
こう密かに言うのだった。
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