インセクトサモナー
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1話
月明かりに照らされた薄暗い森のなかを一人歩く。幾らレベルの低い森でも夜になると不思議な不気味さが漂う。
至るところから聞こえる鳴き声もそれを肥大させている。
ゴツゴツとした山道を歩き続ける事数分、樹が開けた広場のような小高い丘に出る。
「この辺りの筈なんだが……」
丘から前方見渡しながら誰に言うでもなく呟く。
闇に染まる森の中、月の明かりとは違う淡い光を見つける。
「……あれか」
深い森の中、一軒だけポツリとある建物を見つけ再度歩き出す。
森の中の道を明かりもつけずに歩く。
レベルの低い――正確には分布している魔物の位が低いという意味である――この森、通称『広がりの森』何の捻りもない名前だが只々広いだけの森を如実に表している。
只広いだけの森だ、誰も好き好んで道を整備しようとは思わない為道がなく歩くだけでも体力を消費する。
少し休憩しようかと手頃な岩に腰かける。
すると、ガサリと何かが動いたような音が聞こる、周りを見渡すと近くの草から一匹の黒い狼が姿を現す。
その生き物は『ダークウルフ』低位の魔物で位は2だ。
右手に持っていた杖を構えながら左手を腰の本に手を伸ばす。だがすぐに本から手を引く、ダークウルフの数は三体、この程度なら呼ぶ((・・))までもない。
狼でも低位は2、その目には理性の色が映っている。
夜目が効くのだろう、ハッキリと僕を目指しながら駆けてくるダークウルフ。
だが僕にもその姿は見えている、杖を突きだし魔力を籠める。
駆けてくる狼に先手をとる魔法を放つ、放ったのは闇を貫く雷サンダーボルト。
三体の内の一体に当たり狼を焦げ付かせる。残りの二体は減速せずにそのまま接近してくる。
ぐんぐんと埋まっていく距離、再度魔法を放つ、今度は三発の水弾、だが一発も被弾せずにそのまま通り過ぎる。
加速して爪を振り上げた狼を上に跳躍して回避する。すれ違い様に水の弾を打ち出し一体を仕留める。
着地した僕を狙い攻撃してくる最後のダークウルフを周りに雷を放つことで仕留める。
「…………油断した」
少し危なかった、三体の内の二体は位が3に近かい物を感じた。
狼の素材は採らずに炎で燃やしてからまた歩き出す。
位とは最大7まである魔物のレベル付けであり1~3が多く4からはめっきりと数が減る。
位の1や2はゴブリンやスライムなど弱いもので3~5迄はギルドに登録した冒険者達が狙う魔物達だ。
この広がりの森は位が3迄の魔物が確認されているが3は多くはない筈なのだが……。
ダークウルフとの戦闘の後はこれといって問題はなかった。
そうしていく内に建物は近づく。
建物に近づくにつれ森のゴツゴツとした道が段々と獣道のような道に変わる。
腰に下げた魔法の鞄から方位磁石を取り出し現在地を確認しながら歩く。方位磁石を取り出すと共に鞄から出した飴を口に含む。
それから数分もしない内に建物が視認できる距離まで近づく。
建物、小さい木で作られたログハウスの窓からは光が漏れ玄関には明かりが灯っている。
そのログハウスの前に一つの人影が見える。
どうやら気がつかれていたようだ。
「…………」
無言で人影に近づいていく、お互いの顔が見える位置まできた時に人影が口を開く。
「今晩は、こんな遅い時間に何か御用ですか?」
玄関の灯りに照らされ人影の全容が見える。
白衣を着た長身の男性、髪は男性にしては長く肩に掛かるほどだ。年は見た目20代後半、少し汚れた白衣と白髪が混じった髪で少し老けて見える。
「貴方がアンスティーさんですか」
僕は青年の質問を無視し逆に問いかける。
僕の回答になってない問いかけに苦笑しながら返事を返してくれる青年。
「ああ、僕がアンスティーだ。君は協会の使者かい?」
やはり僕の招待には気づいていたようだ。
「はい、ハーティア協会から貴方に出頭命令が出ています」
「……出頭か。まぁ、行く行かないは別にしても此処は冷える、中に入って話をしようか」
そう言ってログハウスの扉を開き手招きしてくる青年、アンスティー。
「……では御言葉に甘えて」
正直寒かったから助かる。
ログハウスの中は暖かく柔らかい光に包まれていた。
綺麗に整頓されているというより物自体が少なく小ざっぱりしている。
アンスティーに促され椅子に座る。
「正直、何時かは来ると思っていたがここまで早く来るとは思っていなかったよ」
そう言って笑いながら紅茶を淹れるアンスティー。
「……そう言えば自己紹介がまだだったね、てっ言っても既に知ってるだろうけど僕はアンスティー。魔物の中でもスライムの研究をしている」
紅茶を僕と自分の前に置いた後、手を差し出す。
それを答ながら僕も名乗る。
「初めまして、僕はハーティア協会、サモン部隊のホーネットです。好きに呼んでもらって結構です」
「サモナーか、若いのにハーティア協会に入れるなんて優秀なんだね」
ではホーネと呼ばせてもらうよ、と最初に言ってから話すアンスティー。
「自慢じゃないけど僕を迎えに来るのは二つ名持ちだと思っていたよ」
謙遜する僕にさらにそう言い、優秀なんだね、と繰り返す。
「本来ならばその予定でしたが別の案件が入ったらしくて」
「そうなのか……でも二つ名持ちの代わりに選ばれたのだやはり」
優秀だね、としつこいアンスティーにめんどくさくなり取り合えず頷く事で終わらせる。
「……話を戻します、アンスティーさん僕と一緒に協会までご足労願います」
「…………そうだね、出頭、というには行かなければ相応の手を打つということだね?」
僕の顔を覗きながらそう問う。
「はい」
即答した僕に驚くアンスティー。
「答えるんだね……意外だよ、普通は誤魔化す所じゃないかな?」
「さぁ、どうでしょう。僕は協会に入ってまだ数ヶ月ですし分かりません」
「ははは、そうなのか」
「僕の任務は途中までの護衛なので割りといいです、どうでも」
どうでもか、と笑うアンスティー、その背後の扉が開き紅い人形のスライムが姿を現す。
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