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少年少女の戦極時代Ⅱ

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禁断の果実編
  第65話 希望の担い手、夢の担い手


『だが諦めよ。“知恵の実”がお前たちの手に渡ることはない』
「何だと……? 何故っ」

 貴虎がロシュオに詰め寄るのを、咲は不安を隠して見上げるしかなかった。

「人間のために用意された知恵の実を、そいつが横取りしたからだ」

 咲は驚く。枯葉を踏みしだく音を石壁に木魂させながら現れたのは、古代の民族衣装のような出で立ちのサガラだった。

「なあ、ロシュオ。同じ種族が知恵の実を二つ手に入れようなんて、そりゃルール違反だよ」
『黙れ、蛇。彼女にはそれだけの価値がある』
「え、なに、なにっ? どーゆーこと?」
「そいつはな、Super Girl、たった一人の愛する者のために、人類70億人に滅べって言ってるんだよ」
「なにソレ!」

 ヘキサが当てたから、ロシュオに大切な人がいたのは咲も分かっていた。だがロシュオがその大切な人のために人類を見捨てようとしているとまでは、発想が追いつかなかった。

「――そんなに愛してるんですね、その人を」

 咲とは反対側にいたヘキサが、憂いを湛えてロシュオを見上げた。

「お前たちフェムシンムは、力に溺れ、強さを信奉する奴ばかりが勝ち残ってきたよな? だが人類には、まだ希望の担い手が残ってるぜ」

 希望、と聞いて咲が真っ先に思い浮かべたのは、紘汰だった。彼なら。

『それはこのジュグロンデョのことか』

 ロシュオの視線が咲に流れた。視線だけでも、つい竦んでしまう圧力だ。

「いいや。そこの娘が担うのは希望じゃない。夢だよ」
『夢だと』
「そうだ。人類も、フェムシンムも、地に足着けて生きる全てのものが最初に見る夢。お前たち流に言うなら、ダボリャだ。こいつらをジュグロンデョと呼ぶお前になら分かるだろう?」

(ユメのにない手? あたしが?)

 人生でこれ以上なく大きく持ち上げられ、咲は戸惑うしかなかった。

『――何故そこまで肩入れする』
「大人げないズルはやめろって言ってんだよ。新たな挑戦者に何のチャンスも与えないってのは、フェアじゃないだろ?」

 不意にロシュオが立ち上がり、壇から降りた。ロシュオが掲げた手の中が金色に光った。
 金の光はゆるやかにリンゴのような果実の形を描いた。その神々しいまでの輝きに、咲はぽけっと見惚れた。

 ロシュオは金の果実の一部から何かをくり抜いた。
 それはロックシードに似た形をした、鍵、だった。

『これもまた人を惑わす力の一つ。使い方を誤れば、滅びに至る。そのちっぽけな希望とやらが本物かどうか、この力をもって計るがいい』
「まあ、落とし所としては、妥当かもな」

 サガラはロシュオから“鍵”を受け取ると、踵を返した。咲は思わず前に踏み出していた。

「まって! 紘汰くんのとこに行くんでしょ?」

 サガラが足を止めて咲をふり返った。

「あたしもつれてって。あたし、どうしても紘汰くんに会わなきゃいけないの」

 咲は紘汰を裏切った。一緒にがんばろう、と約束したのに。勝手に悲劇のヒロインぶって、紘汰を遠ざけた。咲はそれを謝らなければならない。

「お前さん方はどうする? 一緒に来るかい」
「わたし、のこります」

 ヘキサがきっぱりと言い切った。

「事情を知らない人が王さまにヒドイことしちゃわないように。だめですって言う人がいないと」
「うん……わかった。気をつけてね。ムリだと思ったらすぐにげてね。ヤクソクよ」
「うん。ヤクソク」

 咲はヘキサと両手の平を重ね合せ、指を繋ぎ合った。

「碧沙が残るなら俺も残ろう」
「ごめんね、貴兄さん」
「妹を一人置いて行けるわけないだろう」

 咲は駆け戻り、貴虎にチューリップのロックビークルを渡した。いざ戻ることになった時、クラックを開ける手段が兄妹に必要だ。

「貴虎お兄さんも、気をつけて」
「ああ」

 咲はサガラの横に戻った。

「そんじゃ行くかね。――戦場へ」

 サガラに手を取られた咲は、サガラともども光粒子となってその場から消えた。 
 

 
後書き
 貴虎さん参戦ならず。残念!
 ですがこの後に貴虎さんには重要な役どころを担ってもらいます。

 この辺はほぼ原作通りですね。そして人類滅ぼすと聞いてもやっぱり憐憫の情を捨てきれないのがヘキサです。
 「夢の担い手」の意味は地上でのデェムシュ戦あたりで明かされます。

 余談。咲とヘキサの約束は指切りでなく、互いの手を握り合う行為です。 
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