ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
竜使い
「ギェアァァァ!!」
鳴き声なのか悲鳴なのかよく解らない声を上げつつ、Lv53モンスター『イビル・リスペクト』は、その竜戦士っぽい体を硬直、ポリゴンの欠片となって砕け散った。
同時に出現した獲得アイテム、加算経験値が記されたウィンドウを眺めながらレンは笑顔で言った。
「さてと、そろそろ帰ろっかなー」
鼻歌を歌いながら、その足はすでに現在の最前線である第五十五層主街区【キリ】へと踏み出していた。
第五十五層主街区【キリ】。赤レンガ造りの建物が、独特の雰囲気を醸し出している。
そんな街の大通りを歩きながら、レンは今日獲得したアイテムをどうするかを考えていた。
売るか、強化用素材として持つか。
たっぷり考えた─といっても数秒だが─レンは、結果、売り払うことにしよー、という結論に至り、早速もはや常連客になってしまった禿頭の黒人筋肉マッチョが運営している雑貨屋へ向かおうと転移門がある中央広場に入った。
その時──
「お願いです!誰か力を貸してください、仲間の無念を晴らしてください!」
転移門の前で、次々に通りすぎるプレイヤー達に半泣きで頼み込んでいる男性プレイヤーがいた。
通りすぎるプレイヤー達は、懇願している男を無視するか、憐れむような目で見て、足早に去っていく。
そんな光景をレンは遠目に見ていた。
恐らくあの男の言う「仲間」とは、ギルドメンバーのことだろう。
その仇というのは………だいたい予想がつく。
あの男は憐れだが、それを無視する攻略組プレイヤー達が薄情というわけでもない。
攻略組プレイヤーは、残念ながら人助けのためにレベル上げに心血を注いでいるのではない。彼らが日夜必死にレベリングをするのは、自分が生き残る確立を上げるためである。
最前線では1日、2日フィールドに出ないだけで、他人と無視できないくらいのレベルや経験値の差が開いてしまうこともある。
ましてや、ギルドなどはそれらで戦闘での役割、対応なども変わり、全体のレベルアップノルマに支障をきたすなど、協力したくなくなる理由が多すぎる。
──だが
「ねぇ、おじさん。どーしたの?」
思わずレンは声をかけた。
地面に点々と涙が落ちる。
フラグスは、それを泣きながら見ていた。
もう何日経ったのだろうか。
こうして転移門に張り付いて、やって来るプレイヤー達に頼み込んだ。
だが、相手にされないどころか、見向きもされない。
「ぐ……うぅ…………ちく……………しょぉ」
脳裏に、ギルド【シルバーフラグス】のメンバー達の顔が次々と浮かんでくる。
──諦めるしかないのか?──
フラグスが絶望的にそう思った時──
「ねぇ、おじさん。どーしたの?」
幼い声がかけられた。
フラグスが顔を上げると、目の前に、真っ黒なマフラーを首に巻き、真っ赤なフードコートを着た、どう見ても小学生低学年にしか見えない子供が立っていた。
「ねぇ、おじさん。どーしたの?」
聞こえなかったと思ったのか、もう一度その子供は聞いてきた。
その幼い声を聞き、フラグスの心に燻っていたものが爆発した。
それは、怒り。
メンバーを守れなかったこと、誰からも相手にされないこと、理不尽な怒りがフラグスの心の奥底に燻っていたのだ。
「うるさい!!ガキには関係のないことだ!!!」
つい怒鳴ってしまう。完全な八つ当たりだと解っているのに。
しかし、その子供はフラグスの怒声など空気のように受け流し、その場に依然として立っていた。
それどころか、その幼い顔には笑顔すらある。
「んー、でもさーこのまま何時間おじさんがこーしてよーが、誰も相手にしてくんないよ?」
正論だった。この上なく。
しかしその言葉でフラグスはかっとなる。
「うるせぇ!!ガキはとっとと──」
帰れ、と言いかけたフラグスの脳裏に、何かよぎるものがあった。
あれは──
「……黒マフラー………真っ赤なフードコート…………」
数秒間考えていたフラグスは、その答えが出た瞬間に膝から力が抜けて、石畳に尻餅をついてしまう。
「…お……お前。………《冥王》……なのか?」
フラグスの面白いほど震えた声に、赤いフードコートを着た少年は少し驚 いたように目を見張った。
その後、にっこりと笑い、天気の話でもするかのように
「うん。そーだよ」
言った。
シリカは、第三十五層フィールドダンジョン【迷いの森】、その一区画をとぼとぼと歩いていた。
肩の上に乗っている相棒が「きゅる」と心配そうに鳴く。
シリカは、アインクラッドでは珍しい《ビーストテイマー》だ。
ビーストテイマーとは、システム上で規定されたクラスやスキルの名前ではなく、通称である。
戦闘中、通常は好戦的なモンスターがプレイヤーに友好的な興味を示してくるというイベントがごくまれに発生する。その機を逃さず餌を与えるなどして飼い馴らしに成功すると、モンスターはプレイヤーの使い魔として様々な手助けをしてくれる貴重な存在となる。
そんな幸運なプレイヤーは人々から称賛とやっかみをこめてビーストテイマーと呼ばれる。
もちろん全てのモンスターが使い魔になってくれるわけではない。可能性があるのは、ほんの一部の小動物型モンスターだけだ。
イベントの発生条件は完全には判明していないが、唯一、《同種のモンスターを殺しすぎていると発生しない》というのは確実と言われている。考えてみるとこれはかなり厳しい条件だ。使い魔となりうるモンスターを狙って数多く遭遇を繰り返そうとしても、通常それらのモンスターはアクティブであり、戦闘になってしまうのは避けられないからだ。
つまりビーストテイマーになろうと思ったら、対象モンスターと数多くエンカウントし、イベントが発生しなかった場合は全て逃亡しなくてはならない。その作業の煩雑さは想像に難くない。
その点、シリカは途方もなく幸運だったと言える。
シ何の予備知識もなく、気まぐれで降り立った層の、理由もなく踏み込んだ森の中で最初にエンカウントしたモンスター『フェザーリドラ』に前日買ったナッツを何気なく放ったら、それがたまたまそのモンスターの好物だったというわけだ。
種族名『フェザーリドラ』、全身をふわふわしたペールブルーの綿毛で包み、尻尾のかわりに二本の大きな尾羽を伸ばしたその小さなドラゴンは、そもそもが滅多に現れないレアモンスターだった。
テイムに成功したのはどうやらシリカが初めてだったらしく、そのドラゴンを肩に乗せてホームタウンの第八層主街区【フリーベン】に戻るとたちまち大きな話題を呼んだ。
翌日から大勢のプレイヤーがシリカの情報をもとにフェザーリドラのテイムに挑んだらしいが、成功したという話はついぞ聞かなかった。
シリカは、その小竜に《ピナ》という名前をつけた。現実世界で飼っていた猫と同じ名前だ。
使い魔モンスターは直接戦闘力はそう高くないのが常であり、ピナもその例に洩れなかったが、そのかわりに幾つかの特殊能力を持っていた。
モンスターの接近を知らせる索敵能力、少量ながら主人のHPを回復させるヒール能力など、そのどれもが貴重なものであり日々の狩りは飛躍的に楽になったのだが、何より彼女が嬉しかったのは、ピナのもたらす安らぎと温かさだった。
使い魔のAIプログラムはそれほど高度なものではない。言葉はもちろん使えないし、命令も十種ほどを解するにすぎない。
しかし、わずか十二歳でこのゲーム、閉鎖世界SAOに囚われ、不安と寂しさに押しつぶされそうになっていたシリカにとって、ピナが与えてくれた救いは筆舌に尽くしがたいものだった。
ピナというパートナーを得て、ようやくシリカの《冒険》──それはつまりこの世界で生きることそのものなわけだが──が始まったと言ってもよい。
以来一年、シリカとピナは順調に経験を積み、短剣使いとしての腕も上がって、中層クラスのプレイヤー間ではそれなりのハイレベルプレイヤーとして名前が通るまでになった。
もちろん最前線で戦うトップ剣士達にはレベル的に及ぶべくもなかったが、実際のところ七千のプレイヤー中わずか数百人しかいない《攻略組》というのは、ある意味ビーストテイマーよりもレアな存在であって、その姿を目にする機会すらほとんどないため、主ボリュームゾーンを形成する中層プレイヤーの中で名前が通るということがすなわちアイドルプレイヤーの仲間入りをするということでもあった。
そもそもが絶対的に少ない女性プレイヤー、更には年齢のこともあって、《竜使いシリカ》が多くのファンを持つ人気者になるのに時間はかからなかった。
アイドルを求めるパーティーやギルドからの勧誘は引きも切らず、そんな状況で十三歳のシリカが多少舞い上がってしまったのも当然なのかもしれない。
だが、結局はその慢心が、どれほど悔やんでも取り返しのつかない過ちを犯させることになった。
きっかけはささいな口論だった。
シリカは二週間前に誘われたパーティーに加わって、三十五層北部に広がる広大な森林地帯、通称【迷いの森】での冒険に参加していた。
もちろん、現在の最前線は遥か上の五十五層で、フロアそのものはすでに攻略されている。だがトップ剣士達は基本的に迷宮区の踏破にしか興味を示さないため、【迷いの森】のようなサブダンジョンは手付かずのまま残されており、中層プレイヤーの格好のターゲットとなっている。
シリカの参加した六人パーティーは手練れ揃いで、朝から存分に戦闘をこなし、多くのトレジャーボックスを発見して、かなりの金額とアイテムを稼いだ。
周囲が夕刻の色彩を帯びはじめ、皆の回復ポーションがあらかた尽きたので冒険を切り上げることにして、主街区へ戻ろうと歩き始めた時だった。
細身の長槍を装備したもうひとりの女性プレイヤーが、牽制のつもりか、シリカに言った。
──帰還後のアイテム分配なんだけど。あんたはそのトカゲが回復してくれるんだから、ヒール結晶は必要ないわよね。
カチンときたシリカは、即座に反撃した。
──そういうあなたこそ、ろくに前面に出ないで後ろをちょろちょろしてばっかりなんだから、クリスタルなんか使わないんじゃないですか。
あとはもう売り言葉に買い言葉で、リーダーの盾剣士の仲裁も焼け石に水、頭に血が上ったシリカはとうとう言い放った。
──アイテムなんかいりません。あなたとはもう絶対に組まない、あたしを欲しいって言うパーティーは他にも山ほどあるんですからね!
せめて森を脱出して街に着くまでは一緒に行こうと引き止めるリーダーの言葉にも耳を貸さず、シリカは五人と別れて枝道に飛び込み、ムシャクシャした気分のままにずんずん歩き続けた。
たとえソロでも、短剣スキルを七割近くマスターし、ピナのアシストもあるシリカにとっては三十五層のモンスターはそれほどの強敵ではなかった。
労せず撃破し、主街区まで到着できる──はずだったのだ。道にさえ迷わなければ。
【迷いの森】というその森林ダンジョンの名前はダテではなかった。
巨大な樹々がうっそうと立ち並ぶ森は碁盤状に数百のエリアへと分割され、ひとつのエリアに踏み込んでから一分経つと東西南北の隣接エリアへの連結がランダムに入れ替わってしまうという設定になっていた。森を抜けるには、一分以内に次々とエリアを突破していくか、主街区の道具屋で販売している高価な地図アイテムによって四方の連結を確認しながら歩くしかない。
地図を持っているのはリーダーの盾剣士だけだったし、迷いの森では転移結晶を使っても街には飛べずランダムで森のどこかに飛ばされる仕様になっているので、シリカはやむなくダッシュでの突破を試みなければならなくなった。
だが、曲がりくねった森の小道を、巨木の根っこをかわしながら走り抜けるのは予想以上に困難だった。
まっすぐ北に向かっているはずが、エリアの端に達する直前で一分が経過してしまい、どこともしれぬ場所に転送されることを繰り返しているうち、だんだんシリカは疲労困憊してきてしまった。夕陽の色はみるみる濃くなり、這い寄る宵闇に焦るほどにエリア脱出はうまくいかなくなる。
やがてシリカは走ることを諦め、偶然森の端のエリアに飛ぶことを期待して歩き始めた。
だが、なかなか幸運には見舞われず──。
とぼとぼ進むうちにも、容赦なくモンスターは襲いかかってくる。レベル的には余裕があるとは言え、周囲が暗くなるにつれて足場もよく見えなくなる。ピナの援護があっても無傷で全ての戦闘を切り抜けるというわけにも行かず、ついに残りのポーションから非常用の回復結晶までも使い果たしてしまった。
シリカの不安を感じ取ったように肩に乗ったピナがくるるる、と鳴きながら頬に頭をすり寄せてくる。相棒の長い首筋をなだめるように撫でながら、シリカは自分の短気と増長から窮地を招いてしまったことを悔やんでいた。
歩きながら、神さま、と心の中で呟く。
──反省します。二度と自分が特別だなんて思いません。だがら、次のワープで森の外に出してください。
祈りつつ、陽炎のように揺らいでいる転送ゾーンに足を踏み入れた。一瞬の目眩に似た感覚のあと、眼前に広がったのは──当然のように、今までと何ら変わらぬ深い森だった。木立の奥は夕闇に沈み、森を包んでいるはずの草原はかけらも見えない。
げんなりしつつ、再び歩き出そうとした時──。
肩の上でピナがさっと頭をもたげ、一声鋭く、きゅるっ! と鳴いた。
警戒音だ。
シリカはすばやく腰から愛用の短剣を抜き、ピナの見据える方向へ身構えた。
数秒後、苔むした巨木の陰から、低い唸り声が聞こえてきた。視線を集中させると、黄色いカーソルが表示される。
その数は二……、いや、三匹。
モンスターの名前は『ドランクエイプ』
迷いの森のなかで最強クラスの猿人だった。
後書き
なべさん「始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「いえーい(棒)」
なべさん「まずはすいません!ここんところ更新遅れちゃって」
レン「あー、なんかちょくちょく遅れてたね。何で?」
なべさん「深夜アニメ見てたから♪まじまじと」
レン「お前を激しく殴りたいな♪ぼかぼかと」
なべさん「だってさぁー、最近のアニメは面白いんじゃよ~」
レン「だってじゃない!はっ!お前が眠そうなのも…」
なべさん「当ったり~!いやー、中〇病でも恋がしたいって面白いね♪」
レン「目が充血しすぎて写〇眼みたいだぞ」
なべさん「(無視)はい、自作キャラ、感想をガンガン送ってきてくっださいね~!」
──To be continued──
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