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覇王と修羅王

作者:鉄屋
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合宿編
  十七話

 突如飛来したルーテシアとリオに、アインハルトは目を見張る。
 ただ、矛先はアインハルトではなく二人ともキャロに向いていた。

「キャロさん!」
「アインハルトはそこでじっとしてて、防護バリアで護るから」
「でも……」
「赤組メンバーは皆そう簡単に墜ちたりしないよ。後で出番が必ずくるから今は耐えて」
「……はい」

 モニタにもタッグで襲い掛かる面々が映っている。フェイトにはエリオとなのはが、ノーヴェにはスバルとヴィヴィオが。アレクにはコロナ自身も攻撃魔法を使い出し、二対一への状況へ移ろうとしている。元より数で勝っているので、赤組が一人減った時点で仕掛ける積もりだったのかもしれない。
 その中でも狙われていない者はアインハルトの他にもう一人、ティアナが居る。どうする積もりなのか、とティアナの方を見ると、景色に溶けていった。

(消え、た……?)

 複合光学スクリーンを展開し対象を透明に見せる幻影魔法、オプティックハイド。ただ、ミッド式の中でも珍しい部類に入る為、アインハルトには其処まで特定できなかった。
 だが、姿を消すということは、何かしようとしている事は明白だ。その意図を探ろうとした所で、音声が届いた。

『赤組各員に通達、戦闘箇所をなるべく中央に集めてください』


◆ ◇ ◆


集束砲(ブレイカー)で一網打尽にします!」

 意図を読み青組各員に通達するなのはに、フェイトは目を鋭くした。
 本気で打ち込んでも倒せなくなったエリオになのはも加わった今、撃墜する事は至難だ。
 だが隠れたティアナとは違い、一撃を狙う相手は目の前に居る。なのはを撃墜出来なくても、要足りえなくする事は……まだ出来る。

 ソニックフォーム!

 フェイトは防御を脱ぎ捨てた。しつこくも的確に狙い定める弾幕の中で装甲を薄くする事は賭けではあるが、その分スピードは格段に上がった。
 同時になのはの射砲撃が撃ち墜とさんと激しさを増し、その合間を縫ってエリオが飛び出してくる。当たれば墜ちると知っているからだろう。僅かでも気を抜けばすぐにでも墜とされそうだ。

(このまま……もう少し……!)

 何時までも逃げ切れるものではないが、もう少し釘づけて魔力消費を続けさせたい。温存に走ればすぐに斬り掛かる積もりだが、早々にチャンスは来ない。
 塞ぐ弾を斬り、時に建造物を盾にしながらフェイトは少しずつフィールド中央に向かう。
 だがその最中、建造物高峰からエリオが突撃してきた。

「しま――――」


◆ ◇ ◆


(……なるへそね)

 アレクは全体指示とは別の言付けに、だから治る訳か、と頷いた。これでゴライアスを如何にかできる。
 それに、リオが抜けてからコロナも攻撃魔法を使い始めたが、ゴライアスの操作をしてる上なので単調気味に成っていて幾分かは楽だった。
 そして何より、これ以上年下に弄ばれるような状況は、我慢ならなかった。

「ふははははっ! 逆襲しせしめる!」
「な、なんか悪者みたいで怖いですよー!?」

 残虐的な笑みを浮かべるアレクに、コロナは悲鳴染みた声を上げながらもゴライアスの巨拳を放つ……が、そう何度も通じない。
 潜るように躱したアレクはその勢いで突っ込み、ゴライアスの足に正拳を放つ。続き揺らぐ足にローを放ち、アッパーで足を跳ね上げる。
 次いで倒れるゴライアスの下に回り、覇気を球体状に形成し、巨大な気弾を作り上げた。

「ハアアアァァァッ!!」

 ゴライアスは端末(クリスタル)を核に魔力を込め練った物質。なのでその核を壊せば崩れ落ち、再構成も封じられる。そして核の在り処は、おそらく胴体。頭の可能性もあるが、何処も均等に操作する為に物質の中心に在る筈。
 ティアナの言付けを基に、アレクは倒れてくるゴライアスの胴体に気弾を当て、抉り削って行く。この方法ならば、再構成しようとも覇気が妨げ、出来ようも無い。

(――――アレか!)

 抉り減って行く胴体から黄色く輝く物体が見えると気弾を破裂させ、撃ち飛ばした。
 もう核の位置は掴んでいるので後は貫くだけだ。

 覇皇轟雷脚!

 足裏から覇気を勢いよく噴き上げ一直線に跳び、雷のような音を轟かせゴライアスの核を蹴り抜く。
 核を失ったゴライアスは土に還るがアレクは其処で止まらない。真の標はその向こう、驚愕するコロナだ。
 アレクは笑みを濃くしながら、思いっきり蹴りを叩き込む。

「うそぉっ!?」
「ふはははははぁっ! ぶっ飛びやがれぇっ!!」

 声高々に笑いながらコロナを中央方面に蹴り飛ばす。コロナのLIFEは430ほど残ったが、後は向こうがなんとかするだろう。
 そう判断を下したアレクは、建造物の間を進みながら次へ向かう。ティアナの言付けは終わったが、他からも援護要請が来ている。
 ただ、何故俺なのか、と進みながら戦況をモニタしてみると、ああ俺に頼む訳だわ、と納得出来た。フェイトのLIFEは340でエリオとなのはに挟まれて劣勢、ノーヴェもスバルとヴィヴィオに挟まれて、今し方LIFEが240まで減らされた。若しかしたら、コロナを中央方面に蹴り飛ばしたのは失敗だったかもしれない。
 だが今はこっちが優先、と指定ポイントに急行する。

「到着しやしたよキャロロさん」
『じゃあ……準備お願い!』
「へーい!」

 建造物の影から状況を窺いながらアレクは撃墜できるよう準備をする。ただ、キャロが相手するルーテシアとリオを此処から同時に倒しきるには、一つしか思い付かない。未だ完成には程遠い業であるが、此れしかないと、覇気を練る。

 アルケミック・チェーン!

 召喚した錬鉄が相手を絡め取ろうと鎖を伸ばすが、中距離を保つルーテシアとリオは錬鉄の軌道予測を十分にすることが出来、軽々と躱される。
 そして、捕まえる迄は、と錬鉄を執拗に追わせるキャロをおちょくる様に飄々と避け続け、終には煽りだした。

「じゃあ、そろそろトドメといっちゃおっかなー?」
「隠れたティアナさんとアレクさんを探さないといけないしー?」

 ねー、と余裕を見せつけながらもルーテシアとリオはキャロに狙いを定める。現在キャロのLIFEは1650で、一気に削りきる事は可能だ。
 だが、その思いはキャロも同じ。漸く二人が近寄る状態まで持って行けた今なら、纏めて撃墜できる筈。

「――――アレク、お願い!」
『……へ?』

 ルーテシアとリオはキャロの視線を辿って行くと、構えるアレクが目に入った。其々違う色の覇気の玉を七つ浮かび上がらせ、円を描かせながら拳に宿らせようとしていた。
 なんかヤバ気……、とルーテシアとリオは退こうとするが錬鉄に絡め取られ、其の場に揃って並ばせられる。

 覇皇終極波動覇(擬き)!!

 突き出した拳から発生した波動に、死刑台の様に吊るされた二人は成す術も無く呑まれ、揃って流されて行く。ただ、縛られた状態だったので、錬鉄が千切れるまで暫く当てられて続け、オーバーキルで撃墜された。

「やったね、勝利のブイ!」
「逆襲のブ――――」

 二本の指を高々に掲げるキャロに、アレクも応え様と同じくポーズを取る――――所で何か見えた。ピンク色の弾が、キャロすぐ後ろまで迫っていた。

「へうーっ!?」
「ぷぷっ」

 パカーンと間抜けな音とは裏腹に、ピンク色の弾はキャロのLIFEを0まで一気に削る。ただ、あまりに間抜けな悲鳴と顔と音に、アレクはついつい噴出した。
 だが、そんな隙を見せれば、容易に捕らえられる。同じピンク色のバインドがアレクを縛り上げた。

「おおぉっ!?」
「はい、キャロ撃墜でアレクちゃ――――くん捕獲!」

 見上げたアレクの前に、フェイトの相手をしている筈のなのはが居た。

「あれ? あちらでエリオの相方をしてたような?」
「戦況ってね、ちょっと目を離した隙に凄く変わったりするんだよ」
「……なるへそ」

 戦技教導官のなのはとアレクでは視野の広さが大幅に違う。ルーテシアとリオの撃墜を知ると、即座に此処へ飛来した。
 キャロの撃墜を優先したのは、集束に入っているティアナにブーストを掛けさせないようにする為。

 ブラスター1!

 なのははビットを展開し、自己ブーストを掛ける。
 フェイトの奮闘で魔力の残りも少なくなっているが、一網打尽のタイミングは今しかない。
 よってシフトは分割多弾砲(マルチレイド)。相殺すると同時にビットを多方向に配置し、残った赤組メンバーを撃ち落す。なので当然ビットの一つは、アレクへと向いている。

「……あの、ヴィヴィお嬢のママさん? なんで目の前に設置するんでヤンス?」

 ――――アレクの眼前に設置して、だが。

「だってアレクちゃ――くん、ちょっと離れると如何にかしちゃいそうなんだもん。確実にいかないとね」
「確実って……」

 ニッコリと笑って言うなのはに、アレクの頬は引き攣った。
 本人が直接放つ集束砲に比べ威力は落ちるものの、同じ集束砲には違いない。ビットから放ったものでも、人一人は軽く撃ち飛ばす。
 学業の成績が悪いアレクでも、目の前のモノがヤバイと何となく解かる。ギュインギュイン溜まって行くピンク色が凄まじくヤバイと、本能的に解かってしまう。即座に離脱したいが、強固なバインドで早々には動けない。逃げたいが、逃げられない。

『なのはさん中心に広域砲を撃ち込みます。生存者一同は合図で離脱を!』

 アレクが逃亡手段を考えている間にティアナも発射態勢に入ったらしく、通信が飛んできた。
 ただ、着弾地点が此処な上に動けないので、アレクの背に嫌な汗が滝の様に流れる。同じチームなのでダメージこそ無いが、余波は発生する。それも一網打尽と言い占めるシロモノならば、間違いなく被る。

「あ、姐さん! 動けない俺はどげんしたら良かとバイっ!?」

 最早悲願とも聞えるアレクの叫びに、ティアナは応えた。

『……目を閉じて眠りなさい。あんたは、本当に良くやったわ』
「うそぉん」

 ――――とても優しい囁きで。
 だが、言っている事は死亡通告である。アレクの脳内警報がレッドゾーンを振り切り、デットゾーンに入った。
 ティアナは当てに成らないのならば、自力で乗り切るしかない。アレクは覇気を練って練って練り上げて、更に此れでもかと練り上げ、頑固な壁を作っていく。例え非殺傷という前置きがあって身体は無事でも、他が殺されそうな気がしてならない。
 だが、なのははその作業を待つ訳が無く、そしてティアナも待つ訳が無い。アレクの耳に、なのはとティアナから同じ死刑勧告が届いた。

 スターライト・ブレイカー!!(×2)

 視界が先ずピンク一色に染まり行くアレクは、腹の底から咆哮を轟かす。

「俺は生きる! 生きて自由を掴み取るぅぅぅぅううううっ!?」


◆ ◇ ◆


「……これ、なんて最終戦争?」

 集束砲同士の激突地点から発生した余波が全方位に広がって行く様を見て、セインが引き気味に呟いた。
 建造物を薙ぎ倒し、または吹き飛ばし、次々と瓦礫に変えて行く様は試合という概念をセインから簡単に奪っていった。それ程迄に眼下の光景が凄まじかった。

「まぁーブレイカー同士がぶつかれば派手になるわねぇ~」

 メガーヌもセインを肯定に呟くが、何処か軽い。
 前回はやて率いる守護騎士一同も参加した時は、これに更なる広域砲撃も加わり凄まじくド派手だった。それに比べれば、単発の激突はまだ大人しいと思えてくる光景だった。ただ、なのは等の仲間内に限り、という大前提だが。

 ともあれ、食らった面々はどうなったのか。メガーヌは状況を映し出す。
 モニタに映る面々は、その殆んどが双方のSLBで撃墜されている。僅かにLIFEを残し行動不可で済んでいる者も居るが、もう回復手は無いので撃墜と大差無い。
 横から覗いていたセインが、その中に映し出されない一人に気付く。

「……ねぇ奥様、修羅っ子は?」
「アレクくんは……あら?」

 一番被害を受けただろうアレクは何処に行ったのか、とモニタで捜索するが見つからない。
 ほぼ零距離でSLBを受けたので、何処かにぶっ飛んでいったのだろうか。非殺傷なので死ぬ事は先ず無いだろうが、この光景を見た後では流石に心配になってくる。

「……死んでないよね」
「非殺傷だから……その心配は無いわよ」

 そうだよな、とセインも笑って流すメガーヌに同意した。
 が、セインはメガーヌの頬に流れる汗を確かに見た……。
 
 

 
後書き
SLB合戦終了。
アルケミック・チェーンをアレクに繋いでジガンデ・ンギャー☆でもやろうかと思ったけど、キャロも巻き添えになるので断念した也。
次回で試合は終わる予定です。 
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