IS学園潜入任務~リア充観察記録~
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リア充観察記録 前編
「し…死んじゃう……」
―――早速で悪いが、誰か助けてくれ…。
七月も残り半分となり、織斑一夏の奴も臨海実習から帰ってきた。それに伴い、IS学園の一年校舎はかつての賑やかさを取り戻しつつある。観察対象であるあんにゃろうがISを第二次移行させて戻ってきたが、どっちみちやることは変わらないので俺も通常の生活に戻る。
―――筈だった…
「ち、畜生…こんな、惨めな死に方って……」
この俺が終わる、のか?…よりによって自分のアジトで、しかもこんな形で……!?
ブリュンヒルデの秘密を手に入れ、IS学園生徒会長との鬼ごっこを制し、篠ノ之束の妹の密かな趣味を知り、イギリス代表候補性の地獄飯の制作現場を激写し、中国代表候補性の涙ぐましい努力を目にして、デュノア社の御曹司が娘であることを誰よりも先に確認し、黒兎隊の隊長…むしろ副隊長は腐女子である事実を手に入れた……あぁ、色々なことがあったなぁ…
「待て待て、いつのまにか走馬灯になってる!!」
いかんいかん気をしっかり保てセイス、“こんな理由”で亡国機業のエージェントが死んじまったら後世まで語り継がれちまうぞ!!うちの組織は無駄に歴史が長いんだから、一度伝説になっちまったら永遠に残っちまう…!!
「……でも、どうしようも無いんだよなぁ…」
まさか、こんな形で生命の危機に陥るとは考えていなかった。ましてや“味方のせいで”死にかけるなんて誰が予想できようか?
「…覚えてろよマドカあぁ……!!」
あのクソアマァ…次会ったらフルボッコにしてやるぅ…!!この前の任務で『サイレント・ゼフィルス』を手に入れたらしいが知ったこっちゃねぇ……ISごと粉砕してくれる…!!
「つーか普通に有り得ねぇだろ!! 休暇中、俺のアジトに滞在してる間に…」
―――食糧の備蓄ゼロにするとかさあぁぁ!!
「何で帰り際に『スマン…そして、死ぬなよ!!』って、言ったのかと思ったらあの野郎おおおおおおおおおおお!!」
基本的に部屋に籠りっぱの俺は支給されたり持ち込んだ食糧しか口に出来ない。現地調達は極々偶になら可能かもしれないが、あまり続けると楯無あたりに俺が学園に潜伏していることを勘付かれる危険があるので却下。一度学園の外に抜け出すことも考えたが、離れた時に観察対象の身に何か異変があったらと考えると躊躇ってしまった…。
―――そんなわけで、ただいま絶食生活1週間目を経験中である…
「つーか、マドカの奴……本人どう思ってるか知らんが、織斑千冬と大差無ぇじゃねえか…」
何だかんだ言って休暇中ずっと俺のアジトで過ごしてやがったな。その間、俺が用意した暇つぶしセットを手に取りながら食っちゃ寝ぇ食っちゃ寝ぇの繰り返しだったぞ…。
この前、いつだかの鬼ごっこの記憶を話したのも『暇だな、何か面白い話は無いのか…?』ってそこら辺の駄目オヤジみたいにゴロンと横になりながら言ってきたからなんだぜ…?
「…おや、何か見えるぞ?」
あの馬鹿に対して負の感情を抱き続けていたら、俺の視界に何かが映りこんだ。それは、この閉ざされた部屋には無い筈のもの……癒しと安らぎを感じさせ、思わず手を伸ばしてしまう…。
「わ~い、綺麗な“お花畑と小川だ”~~」
「セイイイィィスッ!? まだ逝くんじゃねええぇぇ!!」
フォレストの旦那からの命令を受け、支給品を手土産に現れた相棒の声を最後に俺の意識はブラックアウトした…。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ~、本気で死ぬかと思った…。んでハンバーガー超うめぇ…♪」
「本当によく生きてたな…」
生きている喜びを噛み締めながら、一週間ぶりのメシにガッツく俺を見て引きつった表情を浮かべる救世主、『橙』。
俺よりちょい年上だが、昔から仕事先でもプライベートでも一緒に馬鹿をやっていたせいで年齢差を気にするような間柄では無い。フランス出身で陽気な性格をしており、人付き合いも良いので好かれやすい。少々女好きなのがタマに傷だと思うが…。
「空腹は最大の調味料なり…とは、この世の真理だな!!さっきの俺ならイギリス代表候補性の手料理も美味しく召し上がる自信があるぜ!!」
「はいはい…」
この亡国機業で最も付き合いの長い相棒が気を使って買って来てくれたハンバーガーやポテト等のジャンクフードの山は、冗談抜きで神の味がした…。
ていうか本当に助かったぜ…目の前で引き攣った笑みを浮かべているコイツが来てくれなかったらと思うと地味にゾッとする!!
「それにしても、食糧なくなる前にさっさと連絡入れろよ…」
「馬鹿野郎、そんなもんエムが帰った時点でフォレストの旦那に入れたっつーの!!」
そしたら『三日(・・)待て、そうすれば増援と一緒に送りつけてやる』って言われけど、最終的に一週間も待たされる羽目になったんだがね…。部下との約束は基本的に守る事で有名な旦那にしては珍しいが、何かあったのか…?
そして何で俺から目を逸らすんだ、オランジュ…?
―――待・て・よ・?
「おい、オランジュ…」
「な、何だ…?」
キョドってんなぁ…この野郎……。
「お前、旦那にこの用件いつ頼まれた…?」
「えっと…一週間前、かな?」
ほほう、つまり旦那は連絡入れたその日の内に行動してくれたんだな?ということは…
「何で一週間も掛かったんだ…?」
「いや、色々とトラブルに巻き込まれてな…」
オランジュく~ん?人と話す時は目と目を合わせようね~?
「正直に話せ、そうすれば…」
「正直も何も俺は最初っから本当のことしか…」
「シャルロット・デュノアのブロマイド三枚」
「ナンパした可愛い子ちゃんとイヤッフーしてたらお前のこと忘れた」
「…(゜◇゜♯)」
「……あ、やばっ…」
流れる気まずい沈黙。とりあえず俺は、近くに置いてあったソレを静かに手に取り…
「き~み~の~ひ~と~み~に~断罪のペプ○コーラあぁ!!」
「ちょ!?目に炭酸とか洒落にならなっ……!!」
良い子も悪い子も真似しないように♪
「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一瞬でもコイツを救世主と思った俺が馬鹿だった。本当は目の前で目を押さえながら悶えるこの馬鹿にもう二,三発恨みをぶつけてやろうかと思ったが、これから共に潜伏生活を送ることになるし、流石に可哀相なので勘弁してやろう…。
「おぉう…死んだ筈の兄弟たちが見えたぜ…」
「お前、一人っ子だろ…」
あ、復活しやがった。何気に生存能力は俺並だよなこいつ。だから旦那は増援として送って来たんだろうな…。
「つーか口軽いな、お前…」
「馬鹿野郎!! 我らが『シャルロッ党』のシンボル、シャル様のブロマイドだぞ!?そのためなら例え火の中水の中だ!!お前には分かるまい、この俺を通して溢れるt…」
「代わりに一週間断食する苦痛を分からせてやろうか…?」
「サーセン…」
何度も言うが、俺の任務は世界唯一の男性操縦者『織斑一夏』の情報を集めること。しかし日に日にあいつを慕う者が増えていき、その中には国の重要人物が混ざってたりもする。この前の臨海実習の時なんかアメリカのテストパイロットにキスされたらしいし…。
そんなこともあるので最近は織斑一夏だけではなく、奴に関わる者たちの情報も送るようになった。場所が場所なんで奴の周りには女しか居ないのだが、それがいけなかったのかもしんない…。
「オランジュ、お前まだ続けてたのか……シャルロッ党…」
「あたぼうよ。なんせ俺と同じフランス人、彼女の愛機はオレンジ色で俺のコードネームの意味もオレンジ!! そして何よりあの健気で儚い可愛さ!! あれで好きにならないわけが無い!!」
「あぁ、そう…」
亡国機業の男性陣に『IS少女・ファンクラブ』なんてもんができてしまったのだ…。現在、亡国機業では毎日のように『俺嫁布教』による派閥争いが繰り広げられているとか。
そして、オランジュは見ての通りフランス代表候補性『シャルロット・デュノア』のファンである。本人曰く『彼女に『あーん』するかされるまで俺は死なん!!』とのことだ。
「ところで、丁度そのシャルロット・デュノアに動きがあったぞ…?」
「何だと!?」
オランジュがシャルロットへの愛を語り始めた辺りからパソコンに向き合っていたのだが、丁度彼女が自室を出てどこかへと出かけるらしい。
「おや、黒兎隊の隊長も一緒か…」
「何、ラウラ・ボーデヴィッヒだと!?」
「知ってるのか?」
「ブラック・ラビッ党」
「しばらく黙ってろ…」
VTシステム暴走と男装暴露の一件以来、あの二人は一緒の部屋割になった。そして現在では同じ男を愛す恋敵であり親友のような関係を築いてるらしい……たまに微笑ましい光景を目にすることも…。
「どこに行くんだ…?」
IS学園に初めてやって来たオランジュに彼女たちの行き先は皆目見当もつかないだろうが、俺には手に取るように分かる。ていうか、毎日見てたら嫌でも分かる…。
「この時間、この方向……間違いなく織斑一夏のとこだな…」
「何だと!?こんな朝っぱらから!?」
ぶっちゃけ言うと朝に一年生の代表候補性が食堂以外に行くのは織斑一夏の部屋ぐらいである。四組の『更識簪』だけは一夏に惚れてない+諸事情により例外だが…。
「う~ん…多分、いつものモーニングコールじゃね?」
「いつもの!?」
おいおい、これくらいで動揺してどうするんだ。モーニングコールどころかラウラに夜這い紛いのことされてた時もあるんだからな、あのハーレム王…。
「それ以前に奴は二人の女子と同棲も経験してるし…。」
「なん…だと…!?」
「因みその一人はシャルロット・デュノア…」
「よし、ちょっとアイツ殺してくる…」
暴走し始めたオランジュをレバーに一撃与えて沈黙させる。ていうかファンクラブの奴らは何も知らないのか?彼女たちの日頃の生活を…。
―――これから目撃するであろう光景に、オランジュが耐えれるのか不安になってきた…
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