定年旅行
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第五章
第五章
少し苦笑いになってだ。こうも言うのだった。
「多いな」
「量がなのね」
「多いな、本当にな」
「そうね。スペイン人ってかなり食べるのね」
「イタリアもそうみたいだけれどな」
「そうらしいわね。イタリア人って凄く食べるらしいわね」
「それと同じなんだな」
パエリアを食べながら話す彼だった。しかしだ。
食べる速さがだ。少し鈍ってきていた。見ればパエリアも他の料理もワインもだ。かなり減ってきていた。二人はかなり食べているのだ。
そのうえでだ。二人は話すのだった。
「とにかく。パンと最後はな」
「デザートも食べないとね」
「かなり苦労するけれどな」
「それでも。食べましょう」
こんな話をしてだ。そうしてだった。
二人は食べていくのだった。何とかデザートまで全て食べた。
それが終わってからホテルに帰って休む。二人にとっては満足のいく一日だった。
次の日はサルエスラを観に行った。それはだ。
「スペイン語の歌なのね」
「ああ、つまりな」
「スペイン語のオペラ?」
「そう考えていいだろうな」
「そうなのね。スペインのオペラなのね」
「スペインは有名なオペラ歌手が多いしな」
慎太郎がこう言うとだ。早速だった。美和子は笑ってこう言うのだった。二人は今仲良く歌劇場の席にいる。そこで二人並んで座りながら話すのだった。
「カレーラスとかね」
「カレーラスか」
「私あの歌手好きなのよ」
美和子が言ったのは彼だった。スペインのバルセロナ出身のテノールだ。世界的に有名なテノールであり日本でも人気がある歌手だ。
その彼のことをだ。美和子は笑顔で話すのだった。
「美男子だし。歌い方もね」
「ドミンゴを言うと思ったんだがな」
慎太郎が出したのは彼あった。やはりスペイン出身で世界に名を知られているテノールだ。役のレパートリーが尋常ではない。
「カレーラスか」
「カレーラス好きだから」
「美和子の年代は皆そうだな」
「そうね。クラシックというかクラシックの歌手といえばね」
「カレーラスなんだな」
「何か放っておけない感じがするのよ」
カレーラスを見ればだというのだ。
「そうした外見だから」
「それでか。美和子の年代の女の人はカレーラスが好きなんだな」
「そういうことよ。とにかくね」
「ああ、サルエスラな」
「もうすぐ開幕よね」
「そうだな」
慎太郎は左手に付けている自分の腕時計を見てから答えた。
「本当にもうすぐだな」
「そうね。それじゃあね」
「観るか、サルエスラ」
「そうしましょう」
こうして二人は今度はサルエスラを楽しむのだった。スペイン語はわからない。しかしだ。その音楽も舞台もだ。心ゆくまで堪能するのだった。
そうしてだ。昨日と違うレストランでだ。二人はだ。
分厚い、濃厚な黒いソースをかけたステーキを食べながらだ。そのサルエスラについて話すのだった。
「オペラは何度か観たけれど」
「サルエスラもよかったんだな」
「ええ、よかったわ」
実際にそうだとだ。美和子はにこりとして夫に話した。
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