戦国異伝
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第百六十一話 紀伊へその十三
信長もだ、満足した声でこう言った。本陣には今も諸将が揃っている。
「よし、それではじゃ」
「高野山は攻めませぬな」
「うむ、囲みを解く」
実際にそうするというのだ。
「そしてじゃ、一応目付を置く」
「高野山が約を違えぬかどうかですか」
「それは見させてもらうがのう」
「それ位ならよいかと」
これは当然のことである、実は延暦寺にもそうしている。約を違えず僧兵や荘園を確かに手放すかどうかを見届ける目付が置かれることはだ。
「高野山も」
「そうじゃな、ではな」
「はい、それでは」
「高野山のことはこれでまずは終わりじゃ」
信長は満足した顔で言った。
「ではな」
「高野山の囲みを解き」
「門徒達に向かう」
紀伊にも多くいる彼等にだというのだ。
「そしてそのうえでじゃ」
「あの者達を倒しますか」
「そうじゃ、急ぐぞ」
信長の顔に緊張が走った。
「わかったのう」
「はい、では」
「うむ、それではな」
こう話してだった、そのうえで。
信長は約束を守った、高野山の囲みを解かせてだった。
兵を門徒達に向ける、法主達はその織田家の軍勢を見て山の中で話した。
「右大臣殿は兵を退かれましたな」
「うむ」
法主は高僧の一人の言葉に頷いた。
「今な」
「では右大臣殿はやはり」
「無駄に血を流す御仁ではないな」
こう言うのだった。
「雪斎殿の言葉通り」
「そうですな」
「それではじゃ」
「我等もですか」
「空海上人からの御教えじゃ」
佛の教え、それだというのだ。
「御仏に仕える者が人を騙してはならぬ」
「では」
「我等も守る」913
約束をだというのだ。
「僧兵も荘園もな」
「手放してですか」
「そうじゃ、そうせよ」
こう言ってだった、法主は高野山から僧兵も荘園もなくすことを決めた。だがここで不穏な動きも出た。
何とだ、僧侶や聖、それに僧兵達の一部がそれに反対したのだ。それで山を降りて織田の軍勢に向かいだしたのだ。
法主はそのことに驚いた、それでだった。
すぐにだ、織田家から目付に来た者、前田玄以にこう言ったのだった。
「申し訳ないが」
「寺の決めたことを不服としてですか」
「うむ、勝手に寺を出てな」
そしてだというのだ。
「勝手に右大臣殿のところに向かった」
「その数は」
「それ程おらぬ」
数は大したことがないというのだ。
「数百程か」
「わかりました、では殿にお伝えします」
玄以は何でもない様に粛々と法主に答えた。
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