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化野衒は流されない。

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一人目。〈恐怖と違和感〉

 
前書き
どうも違法建築と言います。
この作品はフィクションであり現実世界とは切り離されております。
一話一話は短く書いていくつもりです。
話の辻褄が合わない場合がりますがご了承ください。 

 
――化野衒(あだしのてらい)は殺人鬼である。
それは天性のものではなく、いつの間にやら人を殺すことが日常生活の一部に成り果ててしまったという奇々怪々な理由で、彼は殺人鬼となってしまった。
殺人鬼と成り果ててしまった彼は、殺人行動に及ぶ癖がついてしまっているために、彼はどうしても人を殺す。
息を吸うように人を殺しては、息を吐いてからまた人を殺す。
止めようと思えばいつでも止められるのだが、殺人行為をしない日常が続くと息を自分で止めているかのような状態に陥り、ふとしたはずみで息を吸い込んでしまうかのように人を殺してしまうのだった。
これは最早対処の仕方がないと気づいた彼は、下手に我慢するのを止めてまるで息抜きをするかのように人殺しをすることにした。
息抜きをしながら考えた、そうだ殺す人に条件を付ければいいと。
曰く、名前を知らない人は殺さない。
曰く、同じ月生まれは殺さない。
曰く、仕事をしている人は殺さない(休日は除く)。
etc.
この作戦は功を奏し、彼は一般人として上手く社会の中で暮らすことに成功した。
もともと、性格は捻くれているものの、明るく前向きなためにコミュニティに入りやすかった。
殺人鬼であるということに目を瞑れば彼はそこそこに真面目で明るい青少年である。信頼も集まった。ボロアパートの大家である老夫婦からは管理人を任されているし、バイト先では真面目で勤労なために正式に採用されることとなり、友人も多くできている。最近では彼も気付くほど露骨に好意を寄せていく後輩の女子がいる程である。
順風満帆であり調子が良い――とはいかない、もう一度言うが彼は殺人鬼だ。
平日は人との関係のために殺人行為ができないため、休日はそれに目一杯に使うのが日常だ。
もちろん、彼が人殺しということがバレた時点で彼の関係は一瞬にして崩壊するが、彼にとっては危機感でも何でもない。
罪悪感もなければ、スリルや満足感を得るために彼は人を殺さない。
彼にとって殺人は癖であり呼吸や心臓の鼓動のようなものであるからだ。



前向きな彼は殺人をしているときにいつもこう考える、殺人鬼を理解してもらえないまでも許容してくれる人間がいるのならばそれはとても面白そうだ、と。





そんな彼が日本の土地から姿を消して異世界に飛ばされたのは、一月も昔の話である。



「……というわけでね、この道を通るねお兄さん。」
アルトよりも高い男の声が薄暗い路地裏に響く。
その声の主である化野衒はニコニコとした何とも迫力や緊迫感が抜けるような笑みで言った。
「おい、お前聞いてなかったのか?この先は関係者以外は立ち入り禁止だ言ってんだろう。さっきか散々何度も忠告してるのにまだわからねぇのか。」
「分かってるよ。」
「ならさっさと帰れガキ。ここはお前のようなガキがのこのこと来るところじゃない。」
「ふうん、優しいねお兄さん。流石それだけ背が大きいことはあるね。身長の大きいさに比例して心の器の大きさも決まっていると思うんだよね。実際、俺なんてものすごっく捻くれているわけだしさ。」
 こう見えても、二十二なんだよ、と衒は呟いて目の前にいる190cmを近い長身の男を相変わらずの笑みで見上げる。
「……ちっ!全く気持ち悪い笑みを浮かべる野郎だな。いい加減に失せないと潰すぞ。」
「男性器を?」
「何で男性器限定なんだよ!?そんなことしねぇよ、流石に外道が過ぎるだろうが!」
「ですよね~。」
 凄みを掛けても全く態度変えず、寧ろ毒気が抜かれるような受け答えで調子が狂わされた男はもう一度舌打ちをしてから、衒のことを鋭い目つきで睨む。
「これが最後だ。ここから先は関係者以外は立ち入り禁止だ、これ以上うだうだ言い続けるつもりなら二度と朝日を拝めない体にしてここから追い出す。」
「そうかい。わかったよ。お兄さん。」
 どすを聞かせた深く低い声で最終警告を男が言うと、衒にも流石に男が本気で伝えていることが分かったのかあっさりと問答を止めた。
 ニコニコとした笑みも抑えて真剣な目つきに変わり、右手で口を抑えて考え込んだ。
 まるで別人のように雰囲気が変わった衒を見て、男は面を食らって思わず茫然とした。
 なんせかれこれ二十分ほど衒と問答を続けていたのである。
 その間に一度たりともニコニコとした笑みを衒が絶やさなかったし、言いくるめて通り抜けようとする衒を咎めても捻くれた答えで流されていたのだ。
 この変わりようには衒のことをほとんど知らない男ではあるが、拍子抜けというか違和感というか、奇しくも出し抜かれたかのように完全に先ほどまで溜まっていたイライラや殺意などがすかされてしまった。
 やはり調子が狂う。男は改めて衒のことをそう認識した。
「うんうん、お兄さんも仕事かなんかでここにいるわけでしょう?だったら、いつまでもここに居続けるわけにもいかないか。あんまり人に迷惑をかけるのは好きじゃないし。俺が物心つく前に死んだお祖母ちゃんがそんなことをいっていたかもしれないしな。」
「絶対に言ってねぇよ、それ。」
「仕事は邪魔しちゃいけない。これはある意味真理だよね。」
「いや、別に仕事をしているわけじゃねぇがな。」
「あれ、仕事じゃないの?」
「少なくとも本業じゃない。こんな事はもっと下っ端の奴に任せる者だろうに。あの腐れビッチめ。」
「ふうん、でも任されたなら仕事じゃないの。」
「拒否ができない仕事は労働というよりは義務みたいなもんだろ。」
「確かにね。お兄さんも中々に大変だね。」
 労いの言葉掛けられ、何故か同情をさせられる。
 見ず知らずの奴がそんなことをしたのだから男は当然戸惑った。
「いやね、俺も今かなり面倒な仕事を押し付けられてさ。拒否しても良かったんだけど、ウチの上司がこれまた面倒な人でね、嫌がらせの達人で給料減らすだけでなく仕事の斡旋も減らすぞとか脅しを掛けてくるし。」
 お互い大変だよね、と肩をすくめて衒は言う。
「ほんと、周りの人たちは皆が皆勝手なことばかりしやがるものだから、こちらは面倒ことを処理しなくちゃいけなくなるしやんなっちゃうよ。」
 あんまり好き勝手やっていると十六連打するぞ、と衒は付け足す。
「ああ、そうだお兄さん。そういえば、まだお兄さんの名前を聞いていなかったよね。教えてよ。因みに俺の名前は化野衒。あっくんでもてーらでもどっちでも好きな呼び方をしてくれて構わないよ。」
 そういって、そういって。
 男は何故か不安を覚えた。
 おかしい、なんだ目の前にいるコイツは。こんなにも笑わない奴だったか?そう思った。
 違和感がひしひしと男の脳内に湧き上がった。
 気が付けば衒は両腕をポケットの中に突っ込んでいた。
「ねえねえ、お兄さんの名前はなんていうの?」
「……グラン、グラン・ロータスだよ。」
「あれ?お兄さん横文字使用の名前なの?へえ、黒髪だから東洋系かと思ったら、以外にも北陸とか西洋群の出身?」
 なんだこいつはおかしい。男はそう思うが理由は分からなかった。
 正体不明、原因不明の感情が心の中から湧き出てくる。
「まあ、出身とかどこでもいいか。初対面の俺には関係ねーや。ナンパしているわけじゃないし。ていうか、男相手にナンパする勇気はないけど。興味もないし。」
 気が付けば手にいやな汗が握られているの分かった。
 しかし、決して熱くはない、寧ろ背筋には寒気がはしっている。

「うん、頃合いかな。お兄さん、ごめんね長話して。」

 あれ、コイツこんな近くにいたっけ。
 気が付けば衒は目と鼻の先に迫っていた。
 男が気付かないうちにその右手には鋭利な刃渡り二十センチ以上のナイフが握られている。
 
「じゃあね、グラン・ロータス。また、どっかで会おう。」

 男の首筋に冷たい物が当てられ、同時に熱が広がった。
 そしていつの間にか自分の視線は衒を見上げるように低くなっており、視界が朱く染まっている。


「うんうん、今日はまた一人殺せた。面白くもつまらなくも、何ともないや。」

 結局、男は衒へ抱く感情の正体が分からないままにその意識はブラックアウトした。
  
 路地裏には流血と人間の成れの果てが転がっている。

「――それにしても、お兄さんは凄いね。全くちっとも死ぬことを怖がらずにいられるなんて。」




【条件その一・仕事中の人は殺さない(ただし、意志にそぐわない労働は除く。休日も除く。)】 
 

 
後書き
本当に怖いときってむしろ訳が分からなくなることってありますよね。

――次回:二人目。〈好奇心と未知〉

 
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