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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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ようこそ☆ロキのロキによるお客様のための遊戯城へ~Ⅶ~

 
前書き
VS冥祭司プレンセレリウス戦イメージBGM
ECHO NIGHT#2眠りの支配者『Real Intention』
http://youtu.be/H54rpeaXtLc 

 
†††Sideアギト†††

幽霊の恐怖・・・いやいや、あたしは何にも怖くねぇっ!
えっと、幽霊が出てきた驚き・・・そう、驚きから解放されて安堵してるってことだだっていうのに、「やっぱ念話は通じないね。しょうがない。探索再開するよ、アギト」ってレヴィはサクサク進もうとする。本当はもうちょっと休みたかったけど、ルーとマイスター、特にリインとイクスが心配だから、んなこと言ってられねぇ。

「シグナムはともかくルー達が大変な目に遭ってるかもしれないしな」

「いやぁ、はやてさんも十分凄いから問題ないかも。でもリインやイクスは確かに大変な目に遭ってそう」

そんな事を話しながら立ち上がって、ルー達が居ないか捜索再開。一つ一つ部屋の扉を開けて、明かりが点いてなかったら幽霊出現の前に即スイッチ押し、ってのを繰り返す。

「あ、ちょっと待って。この屋敷の見取り図っぽいのが貼られてある!」

その内の一つの部屋の明かりを点けた時、レヴィが部屋の奥に突撃。よく見えたなぁとか思いながら続く。レヴィが「ふむふむ」って見取り図を眺めながら何度も頷く。あたしも見取り図を見て、この屋敷の全体図をようやく把握する事が出来た。

「てかさ、見取り図のこの点ってなんだ? 動いてるように見えるんだけど」

見取り図には七つの点がある。ただそれだけなら大して気にならない。でも動いてるんだよなぁ、どう見ても。レヴィも確認して「おお、ホントだ」って右人差し指でチョンチョン突く。

「これって、まさか・・・。アギト、一人で部屋を出てみて」

「は? なんでさ? 何か意味あんのか?」

「じゃあいいや。わたしが出るから、アギトはこの点を見てて」

レヴィは一つの点を指した後、そう言って部屋を出ていった。一体なんだよ。って思って見取り図をもう一度見てみると、点が二つ並んでる三組の点の中の一組に異変。並んでた二つの点が分かれて動いた。そういうことか! この点は、あたしとレヴィを示してるんだ。

「どうだったアギト。その点、動いたでしょ?」

「ああ! この点は、あたし達の現在位置を示してるんだ。じゃあ、他二組の点も・・・!」

「みたいだね。誰と誰が組んでるのか判んないけど、ちゃんと合流出来てるんだよ」

それを聞いて安心した。マイスター達は一人じゃない。でも気になる事も。点が一つだけのもある。それがいったい誰なのか。シグナムだったらいいんだけどなぁ。シグナムなら幽霊とか何とも思わないはずだし。

「さて。今、わたしとアギトが居るのがココ、西館三階の一室だね。で、このお題のクリア条件である屋敷の主は・・・ココ! 中央館四階の館主室! ココにこの屋敷の主が居る!」

レヴィが壁に貼られた見取り図のある一点を思いっきり指で突いて、人差し指がグキッた。「痛たたたた!」って人差し指を左手の五指でニギニギしてから、右手チョップで「痛いなぁコラッ!」と机を真っ二つに壊した。八つ当たりだぜ、あれ。おーい、見っともねぇぞぉ、レヴィ。

「もう行くぞぉ。一番先に主をとっ捕まえるんだから」

「おお、いきなり強気だねぇ。でもそれは難しいんじゃないかなぁ。この中央館に居る誰かが三階配電室を操作してくれたから、明かりが点いたんだよ」

「だったらその誰か(絶対シグナムだ。あたし達の中で一番幽霊とか無視して動き回りそうだし)が四階配電室に行くだろ? あたしらはそのまま館主室を目指せば――」

「いや、だからね? その誰かが操作するにしても、一番乗りを目指すってことは、明かりが点くまでわたし達は幽霊の出る闇の中に居る事になるんだよ。それで良いって言うなら行こう。今すぐ中央館四階へ」

それはちょっと嫌かもしんねぇ。またあんな思いして逃げねぇとダメってんなら、一番乗りはやめよう。だから「よしっ、中央館の四階に明かりが点いてから館主室ってとこへ行こう」と言う。レヴィがニヤァなんて嫌な笑みを浮かべやがる。

「アギトってば結構怖がりなんだね~♪」

「うっせぇよ! 別に幽霊なんか怖くねぇっ!」

「んっ。じゃあ行こう、今すぐ中央館へ!」

レヴィがあたしを脇に抱え上げて、中央館へ続く渡り廊下を目指し始めやがった。「降ろせ降ろせ!」って暴れるけど、レヴィの馬鹿力の前にそいつは無意味な抵抗だった。

「だって怖くないんでしょ? 怖くないんならサクッと進んだ方が良いって♪」

「やめろバカ! 案外一番乗りって言うのが好きそうなリインに譲ろうっと思ってんだよっ!」

「わたし、もう一度幽霊に遭ってみたいんだよね。なんかクセになっちゃった❤」

「レヴィのアホォォーーーーーーーーッ!!!!」

結局、あたしとレヴィはすぐに中央館へと移動することに。頼むから中央館に居るのがマジでシグナムであってくれ。そんで、あたし達が四階に向かってる間に、四階の明かりを点けておいてくれ(泣)。

†††Sideアギト⇒リイン†††

明かりが点いたことで、わたしとイクスは休憩がてら今後の事を話し合う事にしました。イクスは他人任せにせずに動こうという意見。わたしは正直もういやですぅ・・・。

「リインさん、怖いのは解りますけど・・・」

「イクスは感動していたですよね・・・?」

幽霊を見て感動って言ってましたし・・・解ります、なんて説得力が・・・。ですけど他人任せ、はやてちゃん達を放っておくのも嫌です。どんなに怖くて嫌でも・・わたしは夜天の守護騎士の一人なのですから。本当は今すぐにでも、こうやって悩むことなくはやてちゃんを捜さないといけないです。そう、ですよね・・・。わたしは・・・

「わたしは祝福の風リインフォースⅡ。はやてちゃん達、大好きな家族とお友達を守るのがお仕事ですっ」

そう意気込んで立ち上がる。イクスも「その意気です、リインさん!」って立ち上がる。そうして始まった探索。内心ビクビクしながらこのフロアのいくつもの部屋の扉を開けて、

「うふふふ」

「誰か笑ってるですぅーーーーーーーッ!」

「すぐに明かりをつけましょう!」

ということを繰り返して、辿り着いたある一室。そこで大切な情報源、この屋敷の見取り図を見つけました。それから手に入れた情報はかなり重大なモノで、お題のクリア条件である主の居場所と思しき館主室の場所、そのフロア全体に電力(魔力じゃありませんでした)を供給する配電室の場所、そして・・・

「この点は、たぶんわたし達を示していると思います」

イクスの指差す場所には黒塗りの点、全部で七つ。二人一組が三つ。単独が一つですね。その単独の点が中央館の三階配電室から移動始めました。他の組より動くのが速いですから、おそらくシグナムですねぇ。この迷いが一切感じられない清々しさのある行動の速さは。つまりはやてちゃん達は一人じゃなくて、誰かと組んでいる・・・? それなら安心できますね。

「えーと、ではまず中央館へ続く渡り廊下を目指しましょう。全館の三階には明かりが点いているようですし、中央館の三階から四階へと上がるのが一番です」

「そうですね。では行きましょう、イクス。みんなもきっと中央館を目指しているはずです」

わたしとイクスとは別の二人一組の点が、中央館へ続く渡り廊下を目指して動き出しているのが見て取れますし。イクスも「はいっ、行きましょう」って頷いて、わたしとイクスは中央館へ行くために・・・えっと、走るのはちょっとなので、歩きだします。部屋を出、廊下を歩き、辿り着いたのは中央館へ続く渡り廊下の扉。

「いくですよ、イクス。覚悟は決まっています・・よね?」

わたしはちょっぴり逃げ腰です。こ、怖いものは怖いですっ、これはしょうがない事ですっ。対するイクスは「いつでも大丈夫ですよ」ってニッコリ。ですが、どこか緊張しているのが判りました。三階の渡り廊下は屋外の石橋らしいですから、明かりが無いと思ってもいいです。
幽霊が平気であってもいつ現れるか、どんな幽霊かが判らない事に変わりないですから、やっぱり緊張くらいはしますよね。だからもう一度、今度はわたしの方からイクスの右手を掴み取ります。

「扉を開けたらすぐに走りますよ、イクス」

「はいっ。行きましょう、リインさん」

頷き合って、両扉を勢いよく開け放つ。って、覚悟していたのに石橋には明かりがありました。天井から吊るされたランプは屋内の明かりに比べれば弱々しいです。ですけど、それでも心強いのには変わりないです。ランプは確かに明かりになって、幽霊を近寄らせないのですから。

「やったですっ。明かりが点いているならラクショーですよ、イクス」

「そうですね、これなら幽霊も襲って来れないですね」

イクスの右手を引いて石橋の先にある中央館の両扉を目指します。ですが、やっぱりホラー映画やゲームで観たように一筋縄じゃいかないです。中央館まで残り半分というところで、背後からパリンパリンパリンってガラスの割れた音が連続で聞こえてきました。それはランプが割れた音だってすぐに理解したです。スタートから、そして頭上を過ぎてゴールまでのランプまで全部割れてしまいました。

「急ぎましょうリインさん!」

「はいですっ!」

一目散に走り出す。闇に包まれた石橋。それが示すのは・・・・

「ひっく、ままぁ・・・・ままぁ・・うっく・・どこぉ? こわいよぉ」

急ブレーキをかけて立ち止まり、最悪なことに中央館の扉の前に現れた幽霊を見詰める。五、六歳の男の子です。両手の甲で何度も両目を擦っては「まま、どこ?」ってすすり泣いてます。相手が人間の男の子でしたらすぐにでも駆け寄って、お話を聞くですのに。半透明のその姿が、その思いを問答無用で断ち切ってしまうです。

「リインさん、どうしましょうか?」

「えっと・・・どうしましょう・・・?」

男の子の幽霊が居なくならないと進めそうにないですし。うんうん考え悩んでいますと、「リインさん。わたしに何かあった場合、お気になさらずに先に進んでください」ってイクスがわたしの手を放して、男の子の幽霊に向かって行ってしまいました。

「ちょっ、危ないですよイクス! 確かに放っておけない気持ちは解るですけど、相手は・・・!」

「ですが、この子をどうにかしない事にはきっと先に進めませんから。そうなると、わたしかリインさんのどちらかが声を掛ける事になります。そこで考えますのは、どちらが先に進んだ方が今後のためになるか。わたしは補助一点の魔導師ですが、リインさんは攻防補助どれも扱えます」

「だからイクスひとりで犠牲になるということですかっ!?」

ちょこっと怒りモードに突入ですよ。ズンズンと大股歩きでイクスに追いついて、もう一度イクスの右手を取りました。

「わたしも一緒にですよ。もし何かあってもシグナムが、こういうのに強そうなレヴィも居るですし、はやてちゃんにルーも居ます」

ここで脱落する事になってもきっとみんながクリアしてくれます。ですから怖くなんて・・・やっぱり怖いですぅ~(涙)。

「ありがとう、リインさん」

「わたしはごめんなさいです。嫌な役をやらせてしまうところでした」

「いいえ。・・・では、いきましょう」

二人手を繋いで、嗚咽を漏らす幽霊の男の子に近づきます。襲われるかどうか心配ですけど。まず「どうしたの?」ってイクスが話しかけました。男の子は顔を上げずに「ままとはぐれちゃったの」とだけ言って、また声に出して泣き始めました。襲われることはなかったですが、これはこれは大変ですね・・・。どうしたものかとイクスと一緒に考えていた時、最悪な事態が起きてしまったです。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」

「「ッ!?」」

わたし達が出てきた南館の扉の前に、一人の女性の幽霊が出現しました(泣)。その女性霊は「私の子供を苛めたのはお前たちかっ!」なんて、とんでもない勘違いを起こしちゃってました!

「ち、違いますよっ! 泣いていたので、どうしたのかなって声をかけていただけ――って!」

気が付けば石橋の手摺の向こうに大木が四本浮いてました。根に泥が付いていますから、きっと勘違いをしていますお母さん霊が引っこ抜いたと思うです。まさかあの大木で攻撃をしてくる・・・・んでしょうね、やっぱり。

「ちがうよっ、まま! おねえちゃんたちは、ないてるぼくをしんぱいしてくれただけなんだ!」

「「え?」」

背後に居た男の子がいつの間にか目の前に現れていて、わたし達を庇ってくれました。あれ? あれれ? なんか良いお話になっていく予感が。お母さん霊が「ぼうや・・・」って浮かせていました大木をゆっくり降ろしていました。助かったって安堵の溜息。男の子はわたし達に振り向いて、

「ありがとう、おねえちゃんたち。おれいに良いことおしえてあげる。プレンセレリウスさまはおとなしくつかまらないから気をつけてね」

と言った後「バイバイ」とお母さん霊のもとに走っていって、わたし達に手を振りつつお母さん霊と一緒に消えて行きました。

「プレンセレリウスさんがこの屋敷の主なんですね」

「大人しく捕まらない、ということは・・・部屋から出て逃げる、ということでしょうか・・・?」

かなり重要なお話をしてくれた男の子に感謝しながら、わたし達は中央館三階に続く両扉を開けました。

†††Sideリイン⇒はやて†††

明かりが点いたことで楽に探索出来て、ある部屋でこの屋敷の見取り図を見つけた。で、今は中央館に続く渡り廊下を目指して走ってる。

「はやてさん、明かりを点けたのって・・・!」

ルールーは確信に満ちた目をしてそう訊いてきた。私もルールーとおんなじ事を思っとる。そやから「シグナムやろね」と答える。私らの中で一番動揺せずに真っ直ぐ行動するんはシグナムとしか考えられへん。

「やっぱり・・・。あ、あの扉の先にある渡り廊下を進めば中央館ですね・・・!」

両開き扉が見えてきた。これまた凝ったデザインドアやな。向かい合わせの男女の天使や。
扉の前で一度立ち止まって、

「ルールー、準備はええか?」

ルールーは強く頷いて応えた。よし、なら行こか。私も頷いて、一緒にノブに手を掛ける。見取り図からして、三階の渡り廊下は屋内の廊下やなくて屋外の石橋。つまり暗闇の中を進む事になる、ゆうことや・・・。そやで気を引き締めんとな。
扉を開ける。そこは案の定明かりの無い暗闇に包まれた全長30mくらいの石橋。石造りの天井にランプがぶら下がっとるけど、全部が割れて使い物になってない。両側の手摺の向こう側、鬱蒼と広がる森が見える。

「?? はやてさん、嫌な音がするから急いだ方が・・・」

確かにシャキンシャキンてゆう金属音がフェードインしてくる。どっかで聞き覚えのある音やな。えっと、どこでやったかなぁ・・・? まぁ今はとにかく中央館へ入った方がええな、今から行く中央館三階は明かり点いとるで安心出来る。

「はっはっはっはっはっはっはっ」

「「っ!?」」

いきなりの笑い声にビクっとなってしまう。う~ん、覚悟しとったのにな。考える間もなく中央館の入り口へと走り出しながら声のした方を見てみる。手摺の向こう側、宙に浮く作業衣の青年が居った。首が異様に傾いとって、手には大きな(140cmくらい)ハサミ。庭師さんやろか? 庭師さんの幽霊は笑い声を上げたまま私らへと突撃してきた。

「ルールーしゃがんでっ!」

しゃがんだ直後、開いとったハサミを私らの頭上で勢いよくシャキンと閉じた。追撃から逃げるために、立ち上がりの勢いで前へ前へと全力ダッシュ。というかな? あんなんに切断(チョン)されて、ホンマに防護服が斬られるだけで済むんか? 一応全力で逃げたおかげで追撃されることなく中央館に入る事が出来た。

「「はぁはぁはぁはぁ・・・・」」

二人して扉に背を預けて、息を整える為に何度か深呼吸。はぁ、明るいってええなぁ。改めて明かりのありがたさを思い知るわ。息も整って、いざ四階へゴーや。頭ん中で見取り図を展開して、四階へ上がる階段ホールを目指す事にした。

「シグナムさんはもう明かりを点けてくれているでしょうか・・・?」

「どうやろ。やっぱり館主が居る階やし、結構な幽霊が潜んでるかもしれん」

シグナムはその中でも突っ切って行くやろね、それはもう勇ましく。でも攻撃は通用せん。防御もまったくの無意味となると、やっぱり機動力重視の逃げ足が必要や。まぁシグナムは走るの速いし、頭の回転も速い。だからそんなに心配は要らんやろね。そんなこんなで辿り着いた階段ホール。四階に明かりはまだ点いとらんな。

「シグナムさん、大丈夫かなぁ・・・?」

ルールーがボソッと独り言を呟く。私らより最も早いうちに配電室に行けたり館主室に行けたりするシグナム。
それやのにまだっちゅうことは・・・なにかあったって思ってもええな。

「ルールー、まだ明かり点いてないけど行こう思う。残っとるか?」

「私も一緒に行きます。シグナムさん一人に任せておくなんて出来ませんし」

ということで、闇に包まれた四階へと上がった。その直後、早速幽霊のお出ましや。綺麗なダークスーツを着たなかなかのイケメンさん。閉じとったまぶたを開けて、濁った白目を向けてきた。あー、イケメンが台無しや。でもなんやろ、プレンセレリウスさんに似とるな、この人。

「来るか!?」

一旦階段を降りて退避か、踵を返して配電室とは真逆へ逃亡か。それとも幽霊の横をダッシュで通り抜けて、配電室にまで逃げきるか。幽霊がゆっくり手招きしてきた。いやぁ、そんなんに釣られて行くような子供やないよ?

「って、ちょおなんや!?」

「引き寄せられる!?」

踏ん張ってみても手招きされるたびに見えへん力で引き寄せられてしまう。そやったら、「ルールー。この力を利用して、一気に脇を通り抜けるで」って提案。ルールーは快く快諾してくれた。よしっ。タイミングを計る。

「いち」

「にの」

「「さんっ!!」」

同時に駆けだして、幽霊の左右からそれぞれ通り抜ける事に成功。

「ルールー、振り返らずに一気に距離を開けるよっ!」

そう言って、多少引き寄せられる感覚を得ながらも全力で足を動かす。そのおかげで幽霊の引き寄せる力から抜け出せた。

「よっしゃっ! このまま配電室に向かうよ!」

レッドカーペットが敷かれて、壁にズラリと絵画が飾られとる廊下をひた走る。にしても、絵画に描かれとるのってルシル君の記憶の中で出てきた、子供の頃のプレンセレリウスさんとフォルテシアさん、シェフィリスさん(の子供姿は初見やな)・・・そしてルシル君。
それだけやなくて、さっきのイケメンさんが、子供のプレンセレリウスさんと一緒に笑とる絵もあった。並べてみればやっぱ似とる。あ、そうか・・・ここは、スヴァルトアールヴヘイム。プレンセレリウスさんの家なんやっ!

「はやてさん! 配電室ですっ!」

ルールーに声を掛けられて思考を一旦停止。私らの前に重苦しい鉄扉が見えてきた。見取り図を思い出して、「間違いないな」と頷く。背後から「ま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」って苦悶に満ちた叫び声。って、随分とおかしな悲鳴やなぁ。脇目も振らずに鉄扉に突撃。蹴破るように鉄扉を開けた。まず最初に目に入ったんが・・・・

「シグナム!?」「シグナムさん!?」

配電装置と思しき装置の前に女の子座りしてへたり込んどるシグナムや。明らかに様子がおかしい。シグナムも一応(めっちゃ失礼やけど)女の子やけど、女の子座りだけは絶対にせん。元より“レヴァンティン”を手放すなんて。床に転がっとる“レヴァンティン”を見る。シグナムは戦いの場では絶対に“レヴァンティン”を手放さへん。

「どうしたんや! シグナム!」

急いで駆け寄って、シグナムの肩に手を置いた。するとシグナムはビクッとなって、

「ぃやぁだぁぁーーーーーっ!」

「「っ!!?」」

私の手を肩で振り払って大泣きし始めた。ルールーと二人して唖然となる。「やだぁ、もぉ怖いのやだよぉ~」ってグスグス泣きじゃくるシグナム。ルールーは何が起きたんか解らずに、ただ「どうしたんですか!」って混乱するだけ。私は何とか冷静でいられる。このシグナムの変わり様。プレンセレリウスさんの魔術にやられたんか? 深く考えようとしたところで、配電室の中に呻き声が聞こえてきた。

「アカン! ルールー、まずは明かりを確保やっ!」

装置に急いで駆け寄る。ルールーはこの配電室の明かりのスイッチを押しに行った。え~と、どれを操作すれば点くんや? あーもう、スイッチをポチッと押してからレバーを下げてみる。すると、パッと室内が明るくなった。

「なんとか襲われずに済んだなぁ」

「ですねぇ~。それにしてもシグナムさんは・・・」

シグナムは明かりが点いたと知るや立ち上がって「わぁ、明かり・・・やっと点いたぁ♪」ってくるくる回り始めた。プッ。アカン、笑ったらアカンよ私。あんな指を組んでお祈りポーズして回るシグナムはかなりレアやけど、忘れてあげた方がええモンや。ルールーもシグナムから目を逸らして「うぷぷ」って必死に笑いを堪えとるし。

「なぁシグナム。ちょっと聞きたい事があるんやけどええか?」

「聞きたい事? うん、いいよっ♪」

、ブフッ! シグナムだって女の子、シグナムだって女の子シグナムだって女の子。念仏のように繰り返す。うん、そうやもんな、シグナムは永遠の十九歳やし、おかしなとこはない、メッチャ可愛ええよ❤。
ルールーはもう限界なのか、笑いを必死に堪えるあまりに顔が酷い有様に。

「どうしてシグナムはここで怯えとったん?」

「えっとねぇ、明かりを点けようとして、そしたら幽霊が来たの。いきなり目の前に出てきて、何かをする前に身体に入ってきたのぉ。そしたら急に怖くなっちゃったの」

その事を思い出したんかまたグスって泣きそうになった。慌てて「もう大丈夫やっ! 明かり点いたから怖ないよ」って宥める。「うんっ、そうだよねっ」って満面の笑みに早変わりするシグナムに、「そうや」って微笑み返す。にしても今の話やと、シグナムには何かの幽霊が憑依しとる・・ゆうことやな。

「魔法に幽霊とかみたいなものを祓う術式なんて無いしなぁ」

ほぼ科学と化しとる魔法と神秘みたいな超常の魔術。こういう時は魔法の方が圧倒的に弱い。

「手っ取り早いんはプレンセレリウスさんの確保やな」

そう決断を下す。ルールーも「元に戻す方法がそれしかないなら捜しましょう」って賛同してくれた。シグナムにその事を説明すると快諾(メッチャ笑顔で頷いてくれた。写真欲しいな)。で、放置されとった“レヴァンティン”は待機モードにして、私が預かることになった。廊下を出てすぐに明かりのスイッチを押しに行く。幽霊に遭遇することなく明かりを点け、いよいよ館主室へゴー!

「明かりも点いた事やし、そろそろリイン達と合流出来るかもしれんなぁ」

「そうですねー。レヴィはこういうの強そうだし早く合流したいかも」

試しに思念通話をリイン達に通してみたんやけど通じん。ま、中央館の四階に来たんなら自然と合流出来るか。で、結局誰とも逢わんと館主室に到着してしもうた・・・・。

「もしかしてシグナムさんに丸投げするつもりでいるんじゃ・・・・?」

「んな不吉なこと言わんといてルールー。少しでも戦力がほしいんやし。プレンセレリウスさんが大人しく捕まってくれると限らんからなぁ」

私にべったり腕を絡めて引っ付いとるシグナムの顔を見上げると、シグナムはきょとんと首を傾げるだけ。うん、シグナムに戦力外通告を出そうな私。シグナムはちょこっと・・というか全く役に立ちそうにない。

「合流するんを待つか、それともこのまま突入か、二つに一つ」

私とルールーの二人でどうにか捕まえられるか? でも逃げるとも限らんし、大人しく捕まってくれるかも。あーでも今までの事からして一筋縄じゃいかんのが“アンスール”や。頭を抱えそうになっとると、館主室の豪奢な扉の奥から物音がした。

(もしかして逃げ出そうとしとる!?)

もしそうならこれ以上は待てん。ルールーに視線を移す。ルールーは察してくれて強く頷いて応えてくれた。するとシグナムも空気を察したんか「怖いけど、私も頑張りゅ!」ってメッチャ噛んだ。

「「ブフッ!」」

もう。こんな時に緊張感が何もあらへん。でも、助かった、今ので無駄な力みが消えたわ。三人で頷き合って、扉を勢いよく開け放った。

「逃がさへんよプレンセレリウスさん!」

かなり広い煌びやかな館主室。その奥の豪華な執務デスクに、プレンセレリウスさんは居った。

「いやぁ、女の子に逃げさないって言われると困るなぁ」

プレンせレリウスさんがセリフとは反対に何も困ってへんような顔して椅子から立ち上がった。

「よくここまで来たな。歓迎するよ。ようこそ、我がエノールの屋敷へ」

私らの前にまで来て、仰々しくお辞儀して迎え入れてくれた。適当に受け取っておき、早速本題に入らせてもらう。

「私からの願いは二つ。まずはシグナムを元に戻してくれるか?」

「それは出来ないなぁ。それを含めてのゲームだから。あぁでも何も心配は要らないよ。オレの泣き虫な妹が憑依してるんだ。別に害もないし、時間が経てば勝手に出ていくだろ」

「ホンマに何も悪影響は無いんやな?」

「ルシルの友に嘘は吐かないって」

「・・・・・その目、信じるよ?」

「信じていいぜ。絶対の敵以外には嘘を吐かないのを信条にしてるしさ」

オレンジ色の双眸からは嘘を吐いとるような意思は見られへん。害がない事だけでも良しとしよ。次いで「じゃあもう一つ」と言い、“シュベルトクロイツ”を握る右手に力を込める。

「このゲームをクリアする条件。プレンセレリウスさんを確保する事」

ルールーとシグナムと一緒にプレンセレリウスさんににじり寄る。すると「それも聞けないなぁ。もっとオレ達と遊ぼうぜ♪」って気楽に言ってきた。プレンセレリウスさんの足元にミッドナイトブルーの魔力光に輝く魔法陣が展開された。二重円の中に正五角形と逆五角形を合わせた十角形、その中に円、また中に六角形とゆう魔法陣。

VS―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦✛
其はアンスールが冥祭司プレンセレリウス
✛―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS

ガシャァン!と天井に吊るされてたシャンデリアが粉々に砕け散った。室内が暗闇に満ちる。と、廊下からもガラスが砕ける音が連続で響いてきた。

「この暗闇の中、オレを抜けだす事が出来ないほどに捕縛するか。または倒す事が出来ればクリアってことにしよう」

――騒がしき我が友よ(ブリュイヤン・ファントム)――

室内に置かれとる机や椅子、書棚がガタガタ震えだしてフワッと浮いた。世に言うポルターガイスト現象や。生で見んのは初めてやなぁ。
ってそうやなくて! 相手はプレンセレリウスさんで、生身?の人間や。幽霊やないって事は攻撃は通じるはず。

「ルールー!」

「はいっ!」

「「先手必勝!」」

――トーデスドルヒ――

――バルムンク――

多方向からの同時射撃。そやけどプレンセレリウスさんの周囲に浮いとった物が一斉に間に割って入って来て防いだ。爆発による煙幕と残骸が室内に満ちて、視界を悪くしてしまう。

「ルールー、シグナム。部屋を出て!」

そう指示を飛ばして、「クラウ・ソラス!!」と砲撃を煙幕の中に撃ち込む。さらに爆発。手応えは感じられへんかったから避けられたな。二人が部屋を出たんを確認してから私も後に続いて部屋を出る。

「ダメ、はやてさん!」

ルールーにドンと突き飛ばされる。尻餅をついて、なんや?と確認して状況を理解した。明かりが無い。つまり、敵はプレンセレリウスさんだけやのうて・・・

「逃げ場の少ない屋内戦、しかも脱出不可となれば・・・オレ、結構強いんだぜ?」

――暗闇に踊る亡霊(アルメ・オプスキュリテ)――

十何人という幽霊が居った。15mは離れとるけど、それはもう怖い光景。で、ルールーが私を突き飛ばしたんは、その内の一人が私にナイフを投げたから。ゴツゴツと靴音を鳴らして館主室から出て来るプレンセレリウスさん。

(逃げ道は・・・・。やれるか? いや、やるんや!)

“シュベルトクロイツ”の先端を床に向ける。なのはちゃん程やないけど、床を撃ち抜いて階下へ一旦離脱――でいこう! 「クラウ――」って砲撃を撃とうとしたところで、

「ブリーゼ・ケッテ!」

フォゲットミーノットに輝く風のバインドがプレンセレリウスさんを捕縛。引き千切りに入ろうとしとったプレンセレリウスさんへ間髪いれずに、「捕らえよ、凍てつく足枷!」とリインの、

――フリーレン・フェッセルン――

凍結捕縛する魔法が発動。二重の拘束に捕らわれてしもうたプレンセレリウスさん。

――紫光破(ハーツイーズ・ストライク)――

さらに幽霊たちの背後からすみれ色の砲撃が来て、幽霊たちをすり抜け私らの居る足元の床を撃ち抜いた。

「はやてさん! ルーテシア!」

リインとイクスが来て、レヴィとアギトも続いて来てくれた。全員集合やな。でも再会を喜んどる暇さえない。プレンセレリウスさんを捕縛しとる氷にヒビが入ってくし、幽霊たちも呻き声の合唱をしながら近づいて来る。

「みんな、一旦階下へ離脱! 作戦を練るよ!」

「「「「「了解!」」」」」「はーいっ♪」

シグナムだけはニッコニコな笑顔でバンザイしながら応えた。事情を知らんリイン達が「え?」ってシグナムを見る。私は「話は後やっ!」って、レヴィが撃ち抜いた穴から三階へと飛び降りる。

†††Sideはやて⇒レヴィ†††

「じゃあシグナムは幽霊に憑依されてあんな・・・・」

一階まで降りて、中央館の中心にあるダンスホールに一時避難。ここだけはミラーボールや床に置かれたライトが壊れずに残っていて、ダンスホールを明るく照らしていた。そのおかげで幽霊が出る事がない、ということで避難所に決定。直に床に座って、作戦会議を焦らず行える事になった。

「そうなんや。プレンセレリウスさんの妹さんが憑依しとるらしいわ」

アギトの何とも言えない問いに応えるはやてさん。シグナムさんはミラーボールの七色の光にキャッキャッ騒いでる。クールなシグナムさんがなんて・・・なんて面白い事に!
動画を撮影しようにも上手くいかずに断念。デバイスの機能は戦闘関連だけの事にしか働かない事に気付いた。しょうがない。脳裏に焼き付けるか。

「プレンセレリウスさんは結構厄介や。アンスール最弱ってのも嘘みたいにな。一切の攻撃が通用せんくて、私らの防御を無視する攻撃が出来る幽霊。そんな厄介な幽霊を自在に操れる」

「幽霊は確かに厄介だけど、プレンセレリウスさん本体さえどうにかすればいいんだよね?」

「ルーテシア、言うのは簡単だけど幽霊の壁の中に避難されたら・・・ん?」

そこまで言って、あれ?と首を傾げる。はやてさんは言った。捕まえるか倒す事が出来ればクリア、だって。攻撃は幽霊をすり抜ける。じゃあ捕まえるじゃなく倒すって事になったら、幽霊の壁なんて何の障壁にもならない。

(遠距離からデカイ魔法を撃ち続ければ、きっと届いて、倒す事が出来るんじゃ・・・?)

ヒットアンドアウェイ作戦。幽霊の攻撃に当たらないように撃っては逃げ撃っては逃げ。この事をみんなに伝えてみる。はやてさんも同じ考えに辿り着いてた。でも・・・

「プレンセレリウスさん自身の戦闘能力が曖昧すぎて、ホンマにこれで上手くいくんか判らん」

「シグナム。ルシルさんの記憶の中で出てきたプレンセレリウスさんの戦い、憶えてますか?」

「えー?・・・・ううん、憶えてないですからぁ~、残念!」

リインに尋ねられたシグナムさん。結局、シグナムさんは役立たず、と。この時の事、シグナムさんが元に戻っても憶えてるなら、一体どんな反応を示すかすごく興味が。っとと、今はそんな場合じゃないんだよね。よしっ、判んないなら判るようになればいい。

「とりあえず。はやてさん、まずわたしが一人で行ってきます。プレンセレリウスの実力――というか防御力を調べて、この作戦が上手くいくかどうかを確認してきます」

「は? ちょっ、待ちぃレヴィ。一人は危険すぎや。私も――」

「ううん、一人で行きます。瞬走壱式がありますし、簡単に逃げれますよ」

陸戦機動力が高いわたしが一番適任だ。撃って逃げ回って、プレンセレリウスの戦力調査。

(うん、楽勝♪)

それを判ってくれたからこそ、はやてさんも「任せてもええか?」って言ってくれた。「はいっ」と頷いて、みんなに「んじゃちょっと行ってきます」と告げてダンスホールから出た。

「早速出たね!」

数秒と走らない内に老若男女の幽霊が五人。全員が執事服とメイド服って姿だ。プレンセレリウスはっと。魔力探査を行って、魔力の高い位置を探る。発見。二階をゆっくり移動中。頭ん中に屋敷の見取り図を思い浮かべて・・・・。頬を両手でパチンと叩いて気合を入れる。幽霊の頭上を飛び越えるために、まずは壁を蹴って天井へ。すぐさま天井を蹴って幽霊の背後に着地、一気に距離を開けるために、

――瞬走壱式――

陸戦高速移動魔法を発動。一足跳びで15m移動する。このまま階段ホールを駆け上がって、プレンセレリウスの背後に回る。で、攻撃を決めて観察。反撃を喰らう前にトンズラ。はやてさん達に報告。というわけだ。

――お間抜けには(ストゥピッド・)無様な踊りが(マレディ)似合いだぜ(クシオン)――

「うわっと、何っ!?」

階段ホールに着いた途端、上の階から光の尾を長く引く光弾が六つ飛んできた。よく見れば光の先端は口を大きく開けた人の顔をしてる。ギリギリで回避できたけど、追尾性能があるようで「ああ・・・あああ・・あ・・」って呻きながらまた飛んでくる。アレくらったら絶対ヤバい。そう本能が告げてくる。だから全力で引き離そうとするけど、懲りずについて来る。

――トライシールド――

通用しないって解っていてもベルカ魔法陣のシールドを展開。案の定人の顔をした光弾はシールドを難なく通過。面倒だなぁ、もう!
じゃあこのままついて来ればいいよ。光弾を引き連れてU字階段を何段も飛ばして二階へ。二階の廊下に足がついた瞬間、光弾がわたしのお腹を背後から貫いた。全身に奔る悪寒。光弾はわたしを通過したあと霧散して消えていった。

「・・・・ん? んん? あや、なんともない・・・?」

嫌な感じはしたけど、体のどこにも異常が無い。じゃああの光弾は何だったんだろ? ううん、それより今はプレンセレリウスだ。魔力探査を行って、プレンセレリウスが未だに二階をうろうろしてるのを確認。罠か? 誘ってるのかもしれないけど、今はやるっきゃない。

「って、うわぁっ!?」

走ろうとした時、自分の足に躓いて転んでしまった。なんてドジ。急いで起き上がって走ろうとして、今度は何も無いのに転んだ。「こんにゃろぉっ!」って自分のドジさにイラつきながら疾駆再開。今度はレッドカーペットの折れ目に躓いて転んで鼻を強打。鼻血ブー。

「お、おかしい・・・いくら何でも転び過ぎだコレ!」

鼻血を親指で拭いとって、この超絶ドジに疑問を抱く。あの光弾を受けてからだ、こんなに転ぶようになったのは。まさか相手のドジを誘発する術式? そんなバカな・・・。今度は自分の足元を最大で注意しながら疾駆再開。

(意識を向けたらどうってことないみたいだね・・・)

何とか転ばずに、徐々にプレンセレリウスの魔力反応の近くにまで来れた。視線の先に曲がり角。その先に居るはず。走るスピードを落とそうとして、

「みぎゃっ!?」

また転んだ。意識が足から曲がり角に向いた瞬間に足がもつれた。直後、すぐに起き上がらないといけない状況で周囲から笑い声が聞こえたと思ったら、幽霊数人に包囲されてた。バッと勢いよく立ち上がって、でも最悪なことに「あうちっ?」右足首をグキッた。痛いけど座り込むのだけは耐えて、前方に居るコックコートを着たシェフの幽霊を睨みつける。

「襲って来ない・・・?」

幽霊たちは包囲するだけで何もしてこない。けどそんな疑問はすぐに解消。曲がり角の先から、さっきの人面の光弾が九つ飛んできた。

――お前に憂鬱を贈るぜ(デプレシオン・ファントム)――

ドジを誘発されて、攻防無視する幽霊による包囲されてる今・・・避けきれない。
すぐそこまで迫って来ていた光弾を睨みつけ、九つ全てをこの身に受けちゃった。
視界が傾く中、曲がり角から姿を現したプレンセレリウスを見た。左手には、はやてさんの“シュベルトクロイツ”の様な黄金に輝く十字杖?・・・ううん違う、十字槍を持ってた。


†††Sideレヴィ⇒イクス†††


レヴィさんが偵察に出て数分。静まり返っていましたダンスホールの扉がガチャっと開きました。一斉に身構え、扉の陰に隠れて見えない相手に警戒します。ルーテシアさんが「レヴィ?」と声を掛けますと、レヴィさんが無言で姿を露わにしました。この時点でわたしは、もちろん皆さんも気付きました。レヴィさんが異常なのを。

「レヴィ? 何かあった・・・?」

「おい、レヴィ。だんまりじゃ判んねぇよ」

「んー? ねえねえ、レヴィどうしたの?」

ルーテシアさんとアギトさんとシグナムさんに声を掛けられても返事をせず、ただ俯いたままフラフラとわたし達のところにまだ歩み寄ってくるだけです。確定。レヴィさんはプレンセレリウス殿下に、もしくは幽霊たちの攻撃を受け、シグナムさんのように・・・。

「イクス。レヴィを捕縛してくれるか? プレンセレリウスさんに操られとる可能性がある」

はやてさんは苦々しくわたしに指示を出しました。わたしは「判りました」と頷いて応えます。まさかこんな形で友達を拘束することになるなんて思いもしませんでした。

「ティファ。シュテーレン・フェッセルン」

レヴィさんに両手首と両足首、両腕ごと胴体をリングで拘束します。シュテーレン・フェッセルンは名の通り、魔力生成を妨害する拘束魔法です。患者さんが苦痛に耐えられずに魔力運用で暴れるのを防ぐための魔法。シャマル先生の戒めの鎖ほどの効果はありませんが。

「イクス、ヤな役させてごめんな」

わたしは「いいえ」と首を横に振り、ダンスホールの床に横たわるレヴィさんに駆け寄るルーテシアさんとアギトさんを見、遅れてわたし達も駆け寄ります。わたしも含め皆さんが思い思いにレヴィさんに声を掛けますが、

「もうダメだよ・・・あんなのムリだよ・・もう喋んのもヤだよ・・・てゆうか全部が面倒くさいんだよ・・・あの人の魔術・・・ふざけ過ぎだよ・・・」

レヴィさんは後ろ向きな事しか言ってくれませんでした。話し合いの結果、レヴィさんは底抜けに明るいシグナムさんに任せる事にし、

「まさかこん中で一番速いレヴィがあんな事になるなんてな」

「プレンセレリウスさんの攻撃みたいなことは教えてくれましたけど。でもどういった攻撃なのかは言ってくれませんでしたね」

「しかもレンジも判らねぇ。近距離か遠距離か」

「推測になるけど、たぶん遠距離からの攻撃だと思う。レヴィはモード・コンバットのままで戻ってきたし。近接ならまず遅れは取らないから」

わたし達はプレンセレリウス殿下の攻撃について話し合う事になりました。ですがやはり情報不足という事もあり、すぐに暗礁に乗り上げる事に。思考の迷路に迷い込んでしまっている中、

「ねぇレヴィ、何かお話ししようよぉ」

「喋るなんて面倒くさい・・・あー何かもう起きてるのも面倒だよ。寝よ」

ニコニコ笑顔のシグナムさんと、ずーんと暗い影を落とすレヴィさんの会話が聞こえてきました。見ればシグナムさんは「つまんなぁ~い!」とプクゥと頬を膨らませていて、お話してくれないレヴィさんにご立腹のご様子。レヴィさんは本当に寝るつもりなのか目を瞑っていて、シグナムさんに揺すられても反応しません。

「・・・しゃあない。リイン、私とユニゾンや。デアボリック・エミッションで墜とす。これで決まるとは思えへんけど、少なくとも多少のダメージは与えられるはずや」

「了解です」

「アギト、ルールー達はここで待機しとってな。巻き込んだら笑い話にもならへんし」

はやてさんがすまなさそうにそう指示を出してくれた。お役に立てないのは心苦しいですけど、適材適所という言葉くらいは知っています。ですから「判りました。御武運を」と了解の意を示す。

「了解、マイスター。はぁ。あたしの出番はなしか」

「しょうがないよ、アギト。ここははやてさん達に任せよ」

ルーテシアさんとアギトさんも了承し、はやてさんはリインさんを呼びます。そして「ユニゾン・・・イン!」とユニゾンを終え、

「それじゃ行ってくるな」

『いってきますっ!』

はやてさんとリインさんを見送り終え、手持無沙汰になってしまいました。

「ねえねえ! 誰かお話してよぉ~っ!」

シグナムさんがピョンピョン跳ねながらわたし達のところへ来ました。どうやらレヴィさんが完全に自分を相手にしてくれないと解り、諦めたようです。

「シグナム・・・・お前、もう少し幼い外見だったらよかったのにな・・・(涙)」

アギトさんはただ人差し指で目元を擦る仕草をするのみでした。

†††Sideイクス⇒はやて†††

幽霊が一人も居らん事を疑問に思いながら、飛んで(いつの間にか飛べるようになっとった)プレンセレリウスさんの捜索を開始。まずは一階。天井に釣られとる小さなシャンデリアは全部砕けて使い物にならんなぁ。一階をぐるりと一周してプレンセレリウスさんが居らんのを確認。

『幽霊が出ませんね・・・』

「そうやな。まぁ出てくれへん方が都合がええわ」

なんの妨害もなく二階へ続く階段ホールに到着。っと、階段の踊り場に出たわ、「あはは」って笑う、フリルの多いドレスを纏った女の子の幽霊が。
止まるか? いや、このまま突っ切って二階へ進入するっ。飛行速度を上げてU字階段前半を飛行、少女霊の頭上で反転、壁に両足をついて三角蹴りして後半を飛行、二階の廊下へ。止まらんとそのまま二階の探索を開始する。

『はやてちゃん、いつの間にあんなアクロバットな飛行が出来るように・・・?』

「ん? たまたま出来たんよ?」

親友(なのは)ちゃん達の飛ぶ姿を見とったら、私も出来る気がしたんや。まぁ、もう一度やってって言われても出来るかは微妙に怪しいけどな。廊下をひたすら飛んでプレンセレリウスさんを捜索しとると、

――亡者境界(カオ・ムル)――

大小さまざまな幽霊の顔だけで構成された壁が、前方の廊下いっぱいに作り出された。

『はやてちゃんストォォーーーーーップ!!』

急ブレーキ。なんとか顔の壁に突っ込むことなく止まれて安堵。というかな・・・

「リ、リイン・・・、あのな、もうちょい声のボリュームを下げてくれるか?」

『ごめんなさいです、はやてちゃん。でもでも、突っ込んだりでもしたらもっと大変なことになってましたよ絶対!』

そこはまぁ同感やな。床から生まれては天井で消えるいくつもの苦悶に満ちた顔の壁に、『ですからはやてちゃん、早く離れた方が良いですよぉっ!』ってリインがそう涙声で訴えてくる。確かに見てて気分のええモンやないな。何か気分的に攻撃も撃ち難いし。来た道を戻るために反転しようとしたとき、全身に悪寒が奔った。考える間もなく飛行魔法をキャンセルして降り立ち、その場に頭を抱えて蹲った。

――全霊突撃せよ(トゥース・シャルジュ)――

その瞬間、頭上を飛び過ぎ去ってく無数の幽霊の顔。気付かんとおったら間違いなく食らっとったわ、あんな受けたらアカンもんを。立ち上がって振り返ってみれば、さっきまであった顔の壁が無くなっとった。

「おお、今のを避けるんだ。気配察知はなかなかなもんだな、はやてちゃん」

『「プレンセレリウスさん!」』

20m先の曲がり角から、私の“シュベルトクロイツ”に似とる黄金に輝く十字槍を手にしたプレンセレリウスさんが出てきた。十字槍は、“シュベルトクロイツ”の先端をもっと長くしてもっと装飾に彩った感じ。

「オーッス。今度はあんたが来たのか~。さっきの娘もなかなかだったが。さて、あんたはどこまで避けられるのか・・・見せてもらうぜ。さあ行くぜ、ミスティルテイン」

プレンセレリウスさんが十字槍(ミスティルテインゆう名前みたいやな)をクルクル回して先端を向けてきた。

――先駆けし者らよ(キャヴァリエ・エキップ)――

プレンセレリウスさんの前に、馬の幽霊に乗った槍騎士霊が縦列で六騎現れた。踵を返して飛行再開。直後に「突撃(トゥース)!!」と号令が掛けられて、騎兵隊が無音で駆けてきた。

「リイン!」

『はいですっ!』

――クラウ・ソラス――

砲撃を騎兵隊の奥、プレンセレリウスさんに向け発射。砲撃は騎兵隊をすり抜けてそのままプレンセレリウスさんへと向かっていって・・・・爆発。結果を見る前に曲がり角に来た事で減速、さっきみたいに壁に一度着地して、壁を蹴って飛び立つように飛行再開。
チラッと後ろを見ると、騎兵隊は律義に一度止まってから方向転換、んで疾駆再開。プレンセレリウスさんはどうなんやろ? あの場に留まっとるか移動しとるか。留まっとるんならこのまま二階を一周すれば背後に回れるけど・・・。

――お間抜けには(ストゥピッド・)無様な踊りが(マレディ)似合いだぜ(クシオン)――

前方からミッドナイトブルーに光る魔力弾・・・って、何や顔が飛んで来たッ!?
人の顔した光弾が六。リインが『ぎゃあっ、なんか来たですぅーっ!?』ってパニック。とりあえず落ち着こな、リイン。軌道を見極めて・・・・急速バレルロール。全弾回避して「どんなもんや!」ってガッツポーズ。

『今日のはやてちゃんはアクロバットが冴えてますねっ』

「現実に戻ったら出来んかもしれへんけどな・・・!」

曲がり角が見えてきた。減速して反転、壁に両足をつき、方向転換を終えて飛行再開。来た道を見れば騎兵隊もちゃんと迫って来とる。壁とかすり抜けて来ればええのに、ホンマに律義やなぁ。まぁそんなことされるのも困るんやけど。騎兵隊から逃げてもう一度曲がり角を曲がる。次を曲がればプレセレリウスさんが居るはず・・・。

「って、新手か・・・!」

――弓引きし者らよ(アルシェ・エキップ)――

弓兵五人が横列に並んで弓を構えとった。そして放たれる矢。さっきの光弾より直線的やで避けやすい。速度を落とすことなく弓兵隊の頭上を通り過ぎる。

「おお? なんやすごい事になったな・・・!」

騎兵隊と弓兵隊が衝突してめちゃくちゃに。幽霊同士やのにぶつかるみたいやね。そして騎兵隊と弓兵隊は解けることなく消滅してった。最後の曲がり角を曲がって・・・って、プレンセレリウスさんはどこにも居らんかった。

「移動したんか・・・。でもどこに・・・?」

『・・・・っ! はやてちゃん!』

――パンツァーシルト――

リインが私の背後にシールドを展開。遅れて振り向くと、いつの間にかプレンセレリウスさんに回り込まれとって、“ミスティルテイン”による刺突を繰り出しとった。穂先が触れとる地点からシールド全体にヒビが入ってく。シールドが破壊される前に急速後退してすぐに、

「ブリューナク!」

魔力弾を高速連射。プレンセレリウスさんは“ミスティルテイン”を前面で回転させて弾いてく。そやけどそれは隙を作る事になる防御方法や。この隙を見逃すほど馬鹿やないよ?

「ブラッディダガー!」

『撃ちます!』

多方向からの高速多数射撃。プレンセレリウスさんの表情が焦りに滲む。振り払っとった“ミスティルテイン”の防御を抜いて直撃、爆発を起こして私との間に煙幕が出来た。さらに距離を開けて、ブリューナクを連射。

「うふふふ」

っと忘れるとこやった。相手はプレンセレリウスさんだけやないんや。真横から現れた女性霊の抱擁をクルリと舞うようにして回避。すぐさま煙幕の中にクラウ・ソラスを撃ち込む。そやけど、

「痛っった~~~~~。お返しだっ!」

――お前に憂鬱を贈るぜ(デプレシオン・ファントム)――

あの顔の光弾が煙幕の中から何の前触れもなく飛んできて、クラウ・ソラスをかき消した。しかもその数が今までの比やない。廊下いっぱいにブワッとや。これはアカン。踵を返して飛行、全速離脱。呻き声を上げながら迫ってくる無数の人面光弾。

『追いつかれちゃいます!』

判っとるけど、これでも今まで以上に速く飛んでる。「アカン・・・!」追いつかれる・・・。と諦めようとした時、通り過ぎようとしとった階段ホールから伸びてきた腕がお腹に回って、私を階段ホールへと引っ張り込んだ。全力飛行の途中にそんな事されたから「うげっ?」って呻き声を出してまう。

「って、シグナム!?」

私を引っ張り込んだんはアギトとユニゾンを果たしたシグナムやった。それに「主はやて。みなは中央館より避難しました」って元に戻っとるし。迫って来てた人面光弾をシグナムのおかげでやり過ごす事が出来、リインは『何とかなってみたいですね』と安堵。で、私はと言うと、

「シグナム、ホンマにいつものシグナムなん?」

「申し訳ありません、主はやて。その話はもう忘れていただいてもよろしいでしょうか・・・」

『元に戻った瞬間のシグナム、マイスターとリインにも見せたかったぜ』

「アギト。今すぐその口を閉じなければ・・・・斬る」

『面白かったのになぁ~』

どうやら憑依されとった間の記憶があるみたいやなぁ。“機動六課”ん時もリインと精神が入れ替わってとんでもない目に遭ったし。シグナムはこうゆう不幸な目に遭いやすい星の下に居るんかも。まぁ、シグナムの元に戻った時の事も気にはなるんやけど、今はプレンセレリウスさんの事や。

「そうやな。で、さっきの話やけど・・・」

「はい。デアボリック・エミッションを使うという話は聞き及んでいます。ですので発動の邪魔にならないように、みなを中央館から北館へと避難させました」

「そうか、うん、それなら気にせんでええな。じゃあシグナムも避難してな」

みんなは避難したようやけど、このままやとシグナムとアギトも巻き込んでまう。シグナムは少し逡巡したあと、「いえ、私とアギトは残ります」って首を横に振った。

『デアボリック・エミッションって発動まで結構時間が掛かるから、あたしとシグナムは、プレンセレリウスさんの足止め兼マイスター達の護衛ってこと』

「ええ。そのためにアギトとユニゾンをし、戦闘力を強化したのですから」

『ですけどシグナム、アギト。エミッションに巻き込まれたら、さすがに無傷じゃ済まないですよ』

そう、デアボリック・エミッションはバリア発生阻害効果のある魔法や。いくらユニゾンして強化されとっても巻き込まれたら軽くない被ダメージは必至。シグナムとアギトもそれは承知やった。巻き込まれてもええ覚悟。二人はそれを持っとった。

「我々諸共で構いません。プリンセレリウスは思っていた以上に強敵――いえ、難敵です」

だからシグナム達ごと撃て、言うんか?
私の心情を察してかシグナムは「ご安心を、主はやて。私とアギトとて簡単に墜とされるつもりはありません。デアボリック・エミッション、耐えきってみせます」って笑った。私が何か言う前に、「行くぞ、アギト!」と階段ホールから飛び出して行った。

『はやてちゃん・・・・』

「しゃあない、シグナムとアギトを信じるしかない。下に降りて、発動の準備に取り掛かるで!」

『・・・・はいですっ!』

信じとるよ、シグナム、アギト。

†††Sideはやて⇒シグナム†††

「ん? 実妹(テッサ)に憑依されてた娘じゃないか。もう解放されたみたいでなにより」

主はやてとリインと別れ、対峙するのは冥祭司プレンセレリウス。こう言ってはなんだが、先程戦ったセシリス殿に比べれば彼自身の戦闘能力は低い。しかし亡霊を操り、憑依させ、その効果で相手を無力化する。絡め手を得意とする術者だ。私の様な真っ直ぐな戦い方をする騎士にとっては厄介この上ない。が、引いてなるものか。

「ああ。随分と恥をかかせてもらった。私の痴態の目撃者が少なかったことが不幸中の幸いだ」

テッサという少女の霊に憑依されていた間の記憶はある。今すぐ消し去ってやりたい。ようやく解放された時、私はアギトとルーテシアとイクス、四人で手を取って円陣を作り、スキップしながらクルクルと回っていた。思い出しただけでもこう・・・なんだ・・・叫びたくなるほど恥ずかしい。

「あんな恥をかかせてもらった礼を貰ってくれ、冥祭司プレンセレリウス殿」

“レヴァンティン”のカートリッジをロード。刀身に火炎を纏わせる。プレンセレリウス殿との距離は約10mもない。一足跳びで十分間合いに入れる距離だ。半歩前に進み出ると、プレンセレリウス殿の周囲に、五つの人面の光弾が光の尾を引いて周回。遅れて元に戻ったレヴィの話によれば、ドジを誘発、もしくは憂鬱になるとのことだ。憂鬱に関しては憑依されている間にもレヴィの事を見ていたから判る。

「紫電・・・!」

――お間抜けには(ストゥピッド・)無様な踊りが(マレディ)似合いだぜ(クシオン)――

一気に間合いを詰める私へ飛来する人面光弾。複雑な軌道だが、そういう手合いとは今までに幾度と剣を交えてきた。なのはのシューター然りセインテストの射撃然り。複雑さの中で見える確かな道筋。それを見つけ、

「一閃!!」

「うおっ!?」

合間を縫ってプレンセレリウス殿に肉薄。“レヴァンティン”を振り下ろし、叩き伏せる。が、十字槍を水平に構え、紫電一閃を防ぐ。衝突面から激しい火花が散る。このまま押し切るのもいいが時間がかかり過ぎる。そう判断し、“レヴァンティン”を引き、だが距離は開けずにすぐさま横薙ぎの一閃を振るう。
それをバックステップで回避し、今度はプレンセレリウス殿が刺突を放ってきた。穂に何かしらの付加効果があるのか、ミッドナイトブルーの半透明な渦が出来ていた。念のために受けに回らず回避を選択する。大きく後退したその直後、

――デアボリック・エミッション――

主はやての広域殲滅魔法デアボリック・エミッションが発動。咄嗟に床より離れ飛行、全力ですぐ側の階段ホールから階上を目指す。

「なっ!? なんだコレ!? 障壁が貫かれる!?」

姿は見えないが、確実に巻き込まれたようだな。そう言う私もデアボリック・エミッションの効果範囲に巻き込まれそうだ。

『パンツァーガイストで全面防御! シグナムは飛行に集中してくれ!』

『了解した。防御はお前に任せるぞ、アギト』

――パンツァーガイスト――

全身を覆う魔力の障壁。その直後に完全に効果範囲内に入ってしまった。荒れ狂う魔力流の中、何とか防御を貫かれんように頑張ってくれたアギトのおかげで効果範囲より離脱出来た。結局は四階の天井にへばりつく様な情けない格好となったが、墜ちるよりはマシだろう。

†††Sideシグナム⇒はやて†††

私を中心として発動させたデアボリック・エミッションの効果が切れる。
プレンセレリウスさんがどうのと言う前にシグナムの事の方が気掛かりや。
たぶん完全に効果範囲から出るんは不可能やから巻き込まれとる可能性の方が高い。

「リイン、シグナムとアギトが心配や。二階へ行くけどええか?」

『もちろんです! 何かあってからでは遅いですし、すぐにでも行きましょう!』

リインの了承も得たことで、急いで二階へと上がろうとした時、視界が真っ白な光で覆われる。これ・・・転送が始まる合図や! ということは・・・

「プレンセレリウスさんを墜とせたゆう事か・・・!?」

『もしくはシグナムがプレンセレリウスさんを逃げれないように捕まえたか、です!』

答えは判らんけど、このお題をクリアしたとゆう事だけは判った。次に視界がクリアになった時、そこはプレンセレリウスさんの管理する夕暮れの遊園地やった。ぐるりと見回せば、リイン、ルールー、レヴィ、イクスはもちろん、シグナムとアギトもちゃんと居った。

「シグナム! 大丈夫やった? ケガとか残ってへん?」

「はい。御覧の通り私もアギトも無事です」

「ちょっと危なかったけど、でも無事だよマイスター」

二人の笑顔に、ようやく心配が無くなる。

「ルールー達も何ともないな・・・?」

「はい。結構際どいところまでデアボリック・エミッションが迫ってきましたけど、なんとかみんな無事です」

ルールー達も大丈夫そうや。まぁ巻き込みそうになった事にはゴメンやな。そしてイクスが「プレンセレリウス殿下・・・」ってスタート地点の方を見て呟く。見れば、ルシル君たちとなんか話をしとるプレンセレリウスさんの姿があった。




†◦―◦―◦↓レヴィルーのコーナー↓◦―◦―◦†


レヴィ
「わたし達の出番が終わっちまったい!」

ルーテシア
「今回も始まりましたレヴィルーのコーナー」

レヴィ
「わたしの最後って何!? とんでもないダメ人間だったじゃん!」

ルーテシア
「喋るのも面倒だから寝ようって発想はすごいなぁ」

レヴィ
「あんなのわたしのキャラじゃな~い」

ルーテシア
(確かに常に元気いっぱいで猪突猛進的なのがレヴィだし)

レヴィ
「にしても今回のアンスールはホントに厄介だったね」

ルーテシア
「あー、色んな精神干渉を付加された幽霊を憑依させるってやつ。
ドジに憂鬱。まだありそうだよね。でもこの二つを戦場で食らったら最悪だね」

レヴィ
「確かに。好き勝手蹂躙されちゃうね。ドジは致命的な隙を生むし、憂鬱はもう論外」

ルーテシア
「本当にゲームの中だけで助かったぁ。命を懸けた実戦だったら全滅してるよきっと」

レヴィ
「だねぇ。それじゃ、今回はここまで!」

ルーテシア
「次回、最終エリアに突入。管理人はあの人!」



 
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