魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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ようこそ☆ロキのロキによるお客様のための遊戯城へ~Ⅴ~
前書き
VS????戦イメージBGM
魔法少女リリカルなのはA’s PORTABLE -THE GEARS OF DESTINY
『フェイト・テスタロッサ』
http://youtu.be/xbRTfrTmBbY
†††Sideはやて†††
フェイトちゃんによる虐殺ショーも終わって、見せられないよモザイクってゆう処理を掛けられとるルシル君に合掌。
ルシル君を好きなだけ殴ったフェイトちゃんが「はっ、私は一体何を・・・?」とか言うて目をパチクリ。
ヴィヴィオ達はそんなフェイトちゃんにドン引き。フェイトちゃんもようやくルシル君のあり様に気付いて、
「ルシル!? すごい怪我! ひどい、誰がやったの!?」
お約束なことを素で言うとるし・・・怖いわぁ。フェンリルさんも最初の一発で気を失っとるし、こん中で最強なんはフェイトちゃんやな、間違いなく。そんなこんなで、シャマルとイクスの治癒魔法・静かなる癒しで復活を果たすルシル君とフェンリルさん。フェイトちゃんは「ごめんなさい、ルシル、フェンリルさん」て自分の暴走を恥じて謝る。
「まぁなんというか・・・全面的にフェンリルが悪いよな」
「ええー、マスターだって抵抗しなかったし」
「したっ! 離れろ、どけ、と言ったぞ確かに! もう抱きつくとかやめてくれ」
ルシル君は必死やなぁ。まぁこれ以上フェイトちゃんの逆鱗に触れたくないんやな。“バルディッシュ”を無言で振り回してルシル君をボコにしたフェイトちゃんは正しく金の悪魔。フェンリルさんは「だって嬉しかったんだもん」て俯いて、寂しさが伝わってくる声色で呟いた。あ、みんな(フェイトちゃんですら)が一斉にルシル君に非難の視線を・・・。「うぐっ」て、ルシル君が見とって可哀想になるほどたじろぐ。
「そろそろ戻ってはどうなのフェンリル?」
そんな中、セシリスさんだけが何も変わることなく口を開く。みんなの視線はルシル君からセシリスさんへ。フェンリルさんは「もう少しくらいいいでしょ、セシリー」って言いながらあっかんべー。セシリスさんは大きく溜息を吐いて、どうしてかルシル君を睨みつけた。何やろ、今日のルシル君には涙が出るくらい同情してしまう。
「好きにして。コホン。では次は黄チームでしたか。賽をどうぞ」
黄チームのリーダーであるフェイトちゃんがサイコロを受け取る。フェイトちゃんは一度みんなを見回してから、サイコロを放り投げた。私らはサイコロを固唾を呑んで見詰める。そんで出た数字は14や。ついさっきも出た数字や。そう、レヴィが出して、セシリスさんと戦うハメになったマス。
「ボーマスですね。とりあえず14マス目へどうぞ」
セシリスさんに促されて、フェイトちゃんたち黄チームが歩を進める。ボーマスは戦闘を行うためのマスや。そのエリアの管理人かゲストキャラ、そして仲間内からランダムで。勝ったらエリアクリア。負けたら・・・。シャマルとリインに抱っこされとる二頭身シグナムと二頭身アギトを見る。あんなふうに面白い格好にされる。見る分には可愛いけど、なるんはちょっと御遠慮や。
「えっと、じゃあ行ってきます」
私らは「いってらっしゃい」って見送るんやけど、みんなの声に覇気はない。ただのお題をしに行くんなら元気に送り出せるけど、戦闘しに行くのを、しかも相手がまたセシリスさんやったらと思うと、な。あと戦ってないんは、フェイトちゃん、シャマルとザフィーラ、スバルにエリオにルールー、そしてヴィヴィオ達やな。そんな中、ルシル君だけが「フェイト、君が戦えばどんな敵が来ようとも勝てる」って強く頷いた。
「えっと、それって喜んでいいのか怒っていいのか反応に困るんだけど・・・。でも、うんっ。ありがと、ルシル。それは、私を信じてくれてるって思っていいんだよね」
フェイトちゃんがニコッて笑う。重かった足取りが軽くなったなぁ。そして「頑張ろう、みんな!」と声を張り上げ、それに「おおっ!」と応えたメンバーを引き連れて14マス目へ向かった。その間、「マスター。彼女、シェフィに似てますね。そこに惹かれたんですか?」ってフェンリルさんがタブーに近い事をルシル君に訊いた。
シェフィリスさんの事を知っとる私らは硬直、知らんルールーやレヴィ、アギトにヴィヴィオ達は首を傾げる。フェイトちゃんとシェフィリスさんの外見はそっくり。性格もどこか似とる。
「いいや。確かにフェイトと初めて逢った時、シェフィの面影を重ねた。だがそれも数日の間。それからはきちんとフェイト個人として見ている。ハッキリと言えるよ。私は、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンと言う一人の女性に惹かれている、と」
聞いとるこっちが恥ずかしさで赤面モノやで、ルシル君。見ればシグナムとリエイスを除く全員が顔を赤くしとる。フェンリルさんはその答えに満足したみたいで、「そうですか。それは嬉しい事です」って綺麗な満面の笑みを浮かべた。
『おおっと! ラッキーチャンスなボーナス的なマス、ボーマスだよっ♪ 戦闘し勝利すればゴールすることなくエリアクリア♪ でもでも負ければじ・ご・く❤ さぁ、まずは運だめしのルーレットだ。それで対戦相手を決めちゃおう!』
陽気な女の人の声のアナウンス。その直後、胸元に数字の9が浮かび上がる。それより「一体誰の声やろ?」って無意識に漏らしてしまう。何気ない疑問。答えてくれたんは近くに居ったルシル君やった。
「あぁ、この声は私の姉ゼフィランサスだよ、はやて」
「そ、そうなんか!? なんやノリのええ人やなぁ・・・」
ルシル君のお姉さんの事は名前しか知らんけど、かなり陽気な人らしい。ルシル君も「ゼフィ姉様はいつも陽気に振る舞っていたからな」と懐かしそうに遠い目をした。そんなルシル君から視線を逸らす。と、ルシル君の気配がフッと消えた。
「ルシル君が消えた!?」
なのはちゃんが慌てると、みんなも慌てだす。そんな中、毅然としとるセシリスさんが「どうやらルシルが、戦闘に繰り出されたようですね」と静かに告げた。
「では、私たちもバトルフィールドへ向かい、神器王ルシリオンと貴方たちの誰かとの戦闘を観戦しましょうか」
私らも転送が始まる。誰をルシル君と戦わせればいいのか考えながら、私の視界は白に染まった。
†††Sideはやて⇒ルシル†††
いきなり飛ばされたと思えば、何とも不思議な空間に独り佇んでいた。地平線まで広がる地面は、全てがステンドグラスとなっている。ステンドグラスに描かれているのは、私を含めた“アンスール”のメンバー、そして私とシェフィの子供である“戦天使ヴァルキリー”と“救済三女神ノルニル”。ヨツンヘイム連合の主力だった“四王”、“特務十二将”、“A.M.T.I.S.”、“星騎士シュテルン・リッター”の姿もある。
「上は・・・そうか、君たちか・・・」
そして遥か頭上には今現在の仲間、フェイト達が描かれている。それだけでなく今まで出会ってきた、プレシアとアリシア。グレアム提督にリーゼアリアとリーゼロッテ。スカリエッティと姉妹たち。セレス達“テスタメント”のメンバーの姿もある。足元は過去、頭上は現在未来というわけか。フェイトのステンドグラスを眺めていると、「ルシル!」と本人の声が。
「フェイト・・・。みんなも・・・。ハハ、私が君たちの相手にする事になってしまったよ」
苦笑しか出て来ない。フェイト達も戸惑っているようだ。しかし、これはある意味チャンスだ。私が負ければそれでこのエリアをクリア出来る。だがその考えが読まれていたように、「ルシル。何もせずにただ負けるような事があれば・・・解っているよね?」とセシリス。自然と舌打ちが出た。それもお構いなく、「ではメンバーの選出を」とフェイト達に告げる。
「ルシル。戦闘参加メンバーが決まるまで、貴方はそのまま待っていて」
セシリスがそう言うと、フェイト達は青い半透明の膜に覆われ、空へと上がっていった。ステンドグラスの地面に残る私とセシリスとフェンリル。
「ルシル。貴方が本気で戦って負けると思う?」
「誰が相手になるかによっては・・・判らないな」
「マスターが負けるわけないじゃん。馬鹿だなぁ、セシリーは」
フェンリルがそう言ってくれるが、私とて無敵じゃない。だから「負けるときは私も負ける」と言ってやる。それでもフェンリルは「でもマスターは無敵だもん」と聞かない。戦えるメンバーの中には、私が苦手とする機動力重視の近接タイプが二人も居る。
「どうやらメンバーが決まったようね」
私と戦う四人が四つの膜に入り降りてきた。メンバーの中には予想通り、私の苦手とするタイプの二人が居る。フェイトとエリオ。そして、シャマルとザフィーラ。おそらくフェイトが前衛のガードウィング。エリオが中衛のセンターガード。シャマルは後衛のフルバック。基本は回復役に徹すると見ていいだろうザフィーラは魔法からして固定ポジションにはおそらく就かないな。
「ルシル。貴方には悪いけど、これもルールだから」
セシリスがすまなさそうに顔を曇らせ、私の額に左手の人差し指と中指を当ててきた。見ればフェンリルも顔を伏せ、小さく「ごめんなさい」と謝ってきた。
「第二領域管理者セシリス・エリミング・ムスペルヘイム。プレイヤー、ルシリオン・セインテスト・アースガルドの精神にアクセス」
そこで、私の意識が途切れてしまった。くそっ、恨むぞ、セシリス。
†††Sideルシル⇒エリオ†††
今まで以上の不思議な空間の中で、僕たちはルシルさんと対峙する。けどルシルさんの様子がおかしい。セシリスさんに額を触れられてから、一度も喋らない。それに表情がまったくと言っていいほど変わらない。フェイトさんが「ルシル?」って呼び掛けても反応なし。セシリスさんに何かされた?
「それでは、神器王ルシリオンと、フェイト・T・ハラオウン、エリオ・モンディアル、騎士シャマル、騎士ザフィーラによる戦闘を、開始します」
セシリスさんがそう告げて、空へと上がる。フェンリルさんは一度ルシルさんを見て、次に僕たちへと視線を移した。
「今のマスター――ルシルは、過去のルシル。だから、手加減なんて期待しない方が良い。さすがに戦力バランスが崩れるから、20%程度にまで能力制限はしたけど、それでも本気で来るから・・・強いよ?」
信じられない事を言い捨てて、フェンリルさんも空へ上がって行った。フェイトさんが「待って!」と止めるけど、フェンリルさんは止まらない。
「テスタロッサちゃん・・・」
ルシルさんの瞳に光が戻る。だけど、その瞳には僕の知る優しさが無い。ルシルさんは自分の体の調子を確かめるように両手を見詰めて開閉する。「よし」と両拳を目の前で打ち付けて、ギラリと光る双眸を僕たちに向けてきた。
「来るぞ! こうなってはこちらも手加減無用で戦うしかあるまい!」
VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
其はアンスールが神器王ルシリオン
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS
頭上に人数分のライフゲージが表示される。
「四対一か。しかも異様に制限が掛けられているな。誰だ? こんな事をしたのは? まあいい。私はアンスールが神器王ルシリオン。すまないが、お前たちを墜とさせてもらおう」
――純陸戦形態・疾駆せし、汝の瞬風――
ルシルさんの背中から蒼く輝く魔力の剣翼が生えた。だけどいつものとは違う。いつもなら1mはあるのに、今回は30cmくらいで、数も十二枚じゃなくて半分の六枚。ルシルさんの体が数cmだけ浮いて停止。飛ぶんじゃなくて浮く魔術・・・?
「さぁ、武器を構えろ」
元より戦うしかないんだ。ここは全力の本気でやらないと、間違いなく負ける。それが判っているからこそフェイトさんも“バルディッシュ”を構えた。
「今度も私が勝つよ、ルシル・・・!」
「今度も? 良く判らないが、いいだろう。お前の魔道、私に見せてみろ!」
ルシルさんが地面を滑るように高速で後退しながら、体の周囲に小さなアースガルド魔法陣を七つ展開。フェイトさんがそれを見て、「作戦通りにお願いしますっ!」と僕たちに指示を出す。ルシルさん相手に時間を掛けるのは愚策。だから・・・
(短期決戦でルシルさんを墜とす!)
僕をチラッと見たフェイトさんに頷く。フェイトさんと僕は同時にブリッツアクションで突撃する。フェイトさんの“バルディッシュ”はハーケンフォーム、僕の“ストラーダ“はデューゼンフォルムだ。
「七天粛清!!」
――轟き響け、汝の雷光――
――凍て砕け、汝の氷槍――
――燃え焼け、汝の火拳――
――削り抉れ、汝の裂風――
――煌き示せ、汝の閃輝――
――呑み食せ、汝の夜影――
――穿ち流せ、汝の水瀑――
七つの魔法陣から、雷撃、氷雪、炎熱、風嵐、閃光、闇黒、水流だっけ?、七属性の砲撃が放たれた。ブリッツアクションの効果終了と共に、フェイトさんと僕は大きく横っ跳びで回避。七つの砲撃が向かう先にはザフィーラとシャマル先生が居る。でも心配は要らない。ザフィーラはシャマル先生の前に躍り出ていて、七つの内、直撃する光の砲撃に対して身構えた。
「ぉぉおおおおおおおおおおおッ!!」
――鉄壁の構え・烈鋼牙――
真っ直ぐルシルさんへと砲撃が反射される。僕とフェイトさんの間を通過して、反射されるなんて思わなかったらしいルシルさんに直撃する。僕は「ストラーダ!」とヘッドブースターと石突のリアブースターを点火、爆煙から飛び出してきたルシルさんへ突撃する。
「まさかシェフェ以外に私の魔道を跳ね返されるとは思わなかったよ、狼男君」
氷の上を滑るかのようにクルクル回って“ストラーダ”の刺突をかわしたルシルさん。すぐに斬り返す。だけどその一閃は当たることはなかった。移動が速過ぎる。そうか。足がついていないから摩擦が無い。だからあんな滑らかに、そして高速で動けるんだ。でも相手はフェイトさん。その速さにちゃんとついていってる。
「はぁぁああああッ!」
――ハーケンスラッシュ――
「むっ、この少年といいお前といい、疾いな・・・!」
高速で連続に振るわれる“バルディッシュ”を舞うように避け続けるルシルさん。僕はルシルさんを挟み討ちするように駆け、“ストラーダ”の穂先から魔力刃を伸ばす魔法シュタールメッサーを発動、フェイトさんの攻撃を避けたと同時に斬りかかる。ルシルさんは「楯」と一言告げて、僕とフェイトさんに向けて両手の平を向けた。よしっ、避けずに防御に回った。
――暴力防ぎし、汝の鉄壁――
“バルディッシュ”と“ストラーダ“の一撃を防いだルシルさんの蒼い光の盾。押し切ろうとするって見せかけるために僕とフェイトさんはさらに力を入れて、ルシルさんの意識を防御へ回させる。
「「はぁぁぁあああああああッ!!」」
今使っている魔法、フェイトさんのハーケンスラッシュ、僕のシュタールメッサーには障壁貫通の効果がある。だからか少しずつ盾にヒビが入って行く。これでさらにルシルさんの意識を僕たちに向けさせる事が出来るはずだ。
「多層甲冑が使えればこのような盾など要らないというのに・・・!」
ルシルさんが悔しそうに呻く。そこにシャマル先生から『テスタロッサちゃん、エリオ、行きます!』と合図が入る。
『いつでもどうぞ!』
『お願いします!』
このままルシルさんの動きを封じ続け、シャマル先生の魔法で決める。シャマル先生の魔法・旅の鏡。ルシルさんのリンカーコアを手中に収める事が出来れば、降参を促す事が出来る。だけど、ルシルさんは何かしらの違和感を感じったようで、僕とフェイトさんの攻撃を受けるのも構わずに盾を消した。
「うがぁっ・・・くぅ・・・!」
直撃だった。でもそのおかげで、シャマル先生の魔法を受けることはなかった。宙から伸びるシャマル先生の手を見て「肉体の一部転移だと!? 」って驚きながら、斬られた場所に手を翳すルシルさん。まずい。きっとラファエルを使う気だ。でも避けられた後の事もちゃんと決めてある。ザフィーラが「鋼の軛!」と幾条もの拘束条をルシルさんの足元から突き出させる。魔法を使う隙を与えない。ルシルさんが舌打ちして、間を縫うように避けていく。
「プラズマランサー・・・・ファイア!」
真っ直ぐ飛んで行く雷撃の槍が十六基。鋼の軛が射線を邪魔しないように、そしてルシルさんを逃がさないようにしながら行く手を開ける。僕は“ストラーダ“の全てのブースターを使って空へ跳び上がって、ルシルさんの頭上へと向かう。
――吹き荒べ、汝の轟嵐――
でも断念せざるを得ないことに。ルシルさんを守るように蒼い竜巻が発生。フェイトさんのランサーもザフィーラの鋼の軛も全て粉砕されてしまう。僕も穂の両サイドにあるサイドブースターの左を点火させ反転、ヘッド・リアブースターを使って離脱して、地面に降り立つ。
『セインテスト君自ら閉じ籠ってくれて、チャンスかも。もう一度行くわ』
シャマル先生が“クラールヴィント”でもう一度旅の鏡を創り出す。竜巻の幅は人ひとりが立って入れるくらいの細さ。避けることは出来ない。
――旅の鏡――
シャマル先生がまた旅の鏡を使う。ルシルさんのリンカーコアが捕捉出来たようで、「捉えた・・・!」と右腕を伸ばして鏡の中に入れた。その直後、シャマル先生が「きゃ」って短い悲鳴を上げた。シャマル先生が鏡の中に引っ張り込まれようとしていて、引っ張り込まれないように踏ん張って耐えていた。
「シャマル!」「「シャマル先生!」」
一番近かったザフィーラがシャマル先生の後ろからお腹に腕を回して、それ以上引っ張り込まれないようにする。なら僕たちのすることは、未だに発生している竜巻をどうにかして、ルシルさんを墜とすこと。フェイトさんが“バルディッシュ”を大剣形態のザンバーフォームへと変える。
「ジェット・ザンバァァーーーーッ!!」
そして大きく伸ばした黄金の雷の刃を竜巻に振り下ろす。衝突。斬り裂こうとしてるザンバーと、耐えようとしてる竜巻が拮抗して、衝突点で激しい火花を散らしてる。僕はどうする。ザフィーラを手伝うか。フェイトさんが竜巻を破った時の事を考えて待機するか。
一度シャマル先生とザフィーラへ視線を移す。余程強い力で引っ張られているのかなかなかシャマル先生が自由にならない。次にフェイトさんを見た瞬間、僕はブリッツアクションでフェイトさんに跳びかかって突き飛ばしていた。
フェイトさんの足元に小さな黒い水たまりの様なモノが生まれて、そこから六つの平たい影の手が出てきてフェイトさんに絡みつこうとしていたからだ。
――闇よ誘え、汝の宵手――
突然突き飛ばされたことでたたらを踏んだフェイトさんが、「エリオ!?」と驚いていた。だけどすぐに事情を察してくれて、
「バルディッシュ!」
僕の両脚に纏わりついてる平たい影の手を、ハーケンフォームに戻した“バルディッシュ”で斬りつけようとしたとき、ルシルさんを守っていた竜巻が爆ぜた。不意を衝かれたフェイトさんが耐えられずに吹き飛ばされる。僕は影の手に捕まっていた事で吹き飛ばされることはなかったけど、“ストラーダ”を手放すことに。
「だったら、これでどうだ!」
――紫電一閃――
両拳に雷撃を付加させる。“ストラーダ”に付加させるのが一番いいんだけど、手元に無い以上は仕方ない。腰にまで絡みついていた影の手を両手で鷲掴んで放電。だけど、まるで影が雷撃を全部吸収しているみたいで・・・まったく通じてない!? とそこに『一人目の脱落者は君か、エリオ』って少し呆れている声色の念話が。
「ルシルさん・・・!?」
視線の先、宙から伸びるシャマル先生の右腕を影の手に引っ張らせているルシルさんが居て、ただじっと僕を見ていた。その優しい目は知っている。僕たちと一緒に過ごしてきたルシルさんの目だ。フェイトさんは僕に意識が向いている所為かルシルさんが元に戻った事に気付かず、僕を解放しようと駆けてきていた。
「エリオ、今助ける!」
放電しているハーケンフォームの“バルディッシュ”を振り降ろす。
――知らしめよ、汝の力――
ガキィンという音と一緒に“バルディッシュ”が弾き返された。弾かれたことで上手く姿勢が整わない状態のフェイトさんに、新たな影の手が伸びる。影の手は真っ直ぐ“バルディッシュ”に絡みついて、フェイトさんの動きに制限を掛けようとした。
「甘いな。私の魔術の中に術式強化があったことを忘れたか? フェイト」
「え? ルシル、まさか元に戻ってるの・・・?」
「つい今し方な。まったく、どうしてこう私は誰かに操られるというパターンが多いんだ? 前の契約先でも、そのずっと前でもあったぞ。私はそんなに軽い男じゃ――」
ルシルさんが何か悲嘆に暮れ始めたとき、それは起こった。ルシルさんの隣でシャマル先生を引っ張っていた影の手が、ようやくシャマル先生を引っ張り込む事に成功した。けどあまりに勢いが強かったせいで、飛び出してきたシャマル先生がルシルさんと激突。
「きゃっ?」「ぐわっ?」
倒れ込むルシルさんとシャマル先生。あ、フェイトさんから何か冷たい空気が漂ってきた。シャマル先生はルシルさんを押し倒しているような体勢で、「痛たたた」とシャマル先生が僅かに頭を起こす。そして気付いた。自分がルシルさんの上に居る事。自分の胸でルシルさんの顔を押し潰している事。
ハッキリと判るくらいに顔を赤くしたシャマル先生は「いやぁぁーーーーーっ!」と往復ビンタ。偶然の事故なのに・・・。理不尽過ぎてルシルさんが可哀想だ(涙)。しかも今のビンタで、ルシルさんのライフゲージがまた減って、いよいよ半分以下になっていた。
(シャマル先生、つ、強い・・・・?)
†††Sideエリオ⇒フェイト†††
そう、あれは事故。だからルシルを責めるのは筋違い。シャマル先生も「ごめんなさい!」って謝りながら、慌ててルシルの上から退いた。むぅ、ここまで独占欲が強いのは自分でも引いちゃうなぁ。もっと余裕を持たないと、うん。
――牙獣走破――
――暴力防ぎし、汝の鉄壁――
シリアスムードが粉々だったその時、ザフィーラの遠距離からの突撃飛び蹴り。ルシルも咄嗟にシールドを張って防御。ザフィーラはすぐに後退して、
「おおおおおおおおッ!」
――双破壊壁打――
間髪いれずに弓を引く構えを見せ、引いていた左腕を突き出して左拳打を放つ。その一発でルシルの盾にヒビを入れ、すぐさま踏み込みからの右拳打を放って、盾を粉砕した。ルシルの表情が驚愕に染まる。
「これはレヴィの技!?」
そう、レヴィの格闘魔法はザフィーラと一緒に編み出したものだ。だから似ていて当然。ルシルはこの事に関しては未だに知っていなかっただけだ。後退しようとしたところで、シャマル先生の魔法が発動。
「ごめんなさいね、セインテスト君」
――戒めの鎖――
“クラールヴィント”の魔力ワイヤーが、ルシルの四肢をギリギリで捕まえていた。そこに、ルシルへと決まるザフィーラのアッパー気味のフック。呻き声を漏らしてルシルが大きく体を折った。やっぱりルシルが戦って傷つく姿は見たくない。エリオもシャマル先生もザフィーラもそう。ルシルと戦うのにとても嫌な顔をしている。
「げほっげほっ、これはある種の試合だ。手加減は無用!」
――吹雪け、汝の凍波――
ルシルの周囲から、大小さまざまな宝石のような透明感のある氷柱が突き出してきた。シャマル先生の戒めの鎖には、捕縛対象の魔力発露を阻害する効果もあるのに、ルシルはそれを力づくで破った。という事は、それなりに強力な術式で間違いないという事。
すぐに離れたいけど、“バルディッシュ”とエリオが影の手に捕まったまま。ザフィーラが引き千切りにかかるけど、なかなか影の手は壊れない。ルシルが指を鳴らす様に構えた。やっぱり氷柱の攻撃はまだ完成してないんだ。
「拘束が解けないならば、セインテスト自体を墜とせばいい!」
冷気によって凍結粉砕されたワイヤーの拘束から解き放たれたルシルが、ザフィーラの迎撃に入る。足元からの鋼の軛と、ザフィーラから放たれる拳打と蹴打を、ルシルはまた舞うように避けつつ魔力で創った長槍を振り回して捌く。その間に私とエリオはシャマル先生の助力で何とか抜け出そうと頑張る。ここで、私は自分の間抜けさを呪った。
「バルディッシュ、スタンバイフォーム!」
一度待機モードに戻して影の手から逃れ、そしてまた起動、ザンバーフォームとする。これでエリオに専念出来る。と思った矢先、「お仕置き執行」と小さいながらもルシルの判決を下す声が聞こえた。氷柱へ視線を向ける。けど、あれ? 何も起ってない・・・?
「え? なに? ちょっ、やめ、あははははははははは!」
いきなりのエリオの笑い声にビックリ。見れば、影の手がエリオの体中を這い回ってくすぐっていた。シャマル先生と一緒にガクッと脱力。でも笑い話にならなかった。エリオのゲージがどんどん減っていってる。
「え、ええーーっ? くすぐられてもダメージを受けるのっ?」
「シャマル先生! 今はエリオを助けてあげないと笑い死んじゃいます!」
涙をポロポロ流しながら笑い続けるエリオ。必死に影の手をどうにかしようと試みるけど、ビクともしない上にこっちにまで伸びてこようとした。それでシャマル先生が若干引いた。もし捕まったら、自分たちもくすぐられる可能性大。保身か特攻。まさにデッド・オア・アライブ。
さっきみたいにハーケンフォームに変えて、影の手の切断に掛かるけど、なかなか刃が通らない。ザンバーだと大き過ぎてエリオを傷つけるかもしれないし。闇黒系の術式は随分と柔軟性に優れているみたい。もう、面倒だなぁ。そして、「はい、エリオが脱落だ」とルシルが告げた。と同時にザフィーラの拳打を受けて吹っ飛んだ。
「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・ご、ごめんなさい、僕は、ここまで、はぁはぁ、のようです・・・」
笑い過ぎて呼吸困難に陥ってるエリオが球状の膜に包まれて空へと昇っていく。エリオのゲージが黒に染まっていた。エリオ、くすぐりで敗北・・・プッ。ダメダメ。笑う事じゃない。それにしても、ルシルも随分と性質の悪い攻撃をするものだ。もしかして、さっきの事を根に持っていたりして・・・・?
「くっ、痛つつ。まずは一人だな。次は、そうだな・・・シャマル、君に決めた」
ルシルに標的とされたシャマル先生がビクッとする。だけどザフィーラが「もう誰一人として墜とさせん!」と突撃を掛ける。私も攻撃に参加するために、
「ソニックフォームで決める・・・!」
完全機動力重視の戦闘スタイルへ。防御力は無に等しいけど避ければいい“バルディッシュ”も二刀一対のライオットザンバー・スティンガーへと変える。そう、この形態でルシルと戦って勝ったんだ。今回もきっと勝てる。だって一人じゃないから。ルシルも私のスタイル変化に気付いて、しまった、っていう表情になった。ふふん、陸戦では負けないよ、ルシル。
『シャマル先生はここで待機していてください』
――ブリッツアクション――
ザフィーラの攻撃を捌き続けては受けているルシル(やっぱり近接格闘戦だと下位グループだね)に最接近。安堵の溜息と一緒に『判ったわ』と言うシャマル先生に苦笑。
「はぁぁぁあああああっ!」
左のスティンガーでまずは様子見。ルシルは右手にも魔力槍を創り出して防御。私とザフィーラの攻撃を二槍で防いだルシル。でも、少し余裕というか何かを企んでるような表情を見せた。ザフィーラは気付かない。あぁ、私にしか判らない、ルシルの僅かな表情の変化なんだ。
『ザフィーラ、ルシルから離れて。何か企んでる!』
『承知した』とザフィーラが答えて、一緒に離脱した瞬間、二槍が爆発。小さな魔力の短剣となって周囲に拡散した。危なかった。あのまま気付かなかったら、今のでザフィーラが墜とされていたかも。
「さすがだな、テスタロッサ。セインテストの表情の僅かな変化でも読み取ったのか?」
「そんなところ・・・!」
――咲き乱れし、汝の散火――
ルシルは両手に蒼炎の塊を生み出し、放つ直前に合一してから私たちへと放ってきた。明らかにただの魔力弾じゃないのが判る。案の定、それは普通じゃなかった。「爆散粛清」と指を鳴らすと大きめの炎塊が爆散、無数の炎弾となって襲いかかってきた。
――鋼の軛――
――ディフェンサープラス――
幾条もの拘束条が盾になるように突き出して、私は半球状のバリアを展開。それにしても鋼の軛って汎用性が高いからいいなぁ。攻防縛、三つの効果を持ってる。ルシルの攻撃は全て鋼の軛によって防がれた。ディフェンサーを解除した直後、
「真技!」
この戦いの中で一番聞くことのない単語が、鋼の軛の向こう側に居るルシルから聞こえてきた。うそ・・・。だってルシルの誇る二つの真技は、“神槍グングニル”とルシルの全力であるEXランクの魔力が必要なはず。
じゃあ今のは聞き間違いなの? そう思った直後、向こう側から強烈な雷撃が空へと上がった。上から雷撃を落とすつもり? バッと上を見上げる。だけど何も無い・・・? 混乱していると、鋼の軛の根元が蒼い雷撃で吹き飛んで、真っ直ぐこっちに飛んできた。
(雷撃砲!?・・・じゃない! ルシルが蒼雷を纏って突進してきたんだ!)
「標的変更だ。まずはザフィーラ、君を墜とすッ!」
蒼雷を纏った目にも留まらない右フックがザフィーラのお腹に直撃、背中から蒼雷が突き出る。普通なら今の一撃で決まってた。でもザフィーラは咄嗟に魔力障壁を纏っていた。咽ながらもルシルの右腕を掴んで、至近距離からの右拳打を入れようとする。でも、また見えない左拳打がザフィーラのお腹にヒット。重量のあるザフィーラの体が浮く。
「天環・・・」
ルシルの連続打撃がザフィーラに入っていく。術式名からしてルシルのモノじゃない。複製? でも今は使えないはずなのに。ううん、そんなことよりザフィーラを助けないと。ブリッツアクションで最接近。
放電されている空間の中を突っ切って、スティンガー二刀を同時にルシルへと振り下ろす。戦って傷つくのが辛いとか言ってる場合じゃないほどに、今のルシルは危険だ。ザンッとなんと抵抗もなく刃が通った。苦痛の呻き声も漏らしたし、効いてないわけじゃないのに・・・
「どうして!?」
ルシルの連続打撃は止まらない。最後に強烈な蹴り上げが決まる。ザフィーラが勢いよく空高く舞い上がった。遅れてルシルも跳び上がる。ルシルが通過した宙には大きなアースガルド魔法陣が展開された。ルシルはザフィーラを追い越して、蒼雷を纏った踵落としを決めた。蒼雷を引いてアースガルド魔法陣に落下するザフィーラへ、ルシルもまた落下し始めた。
「襲雷華!!」
――真技・天環襲雷華――
魔法陣に叩きつけられて仰向けに倒れていたザフィーラに右拳打を打ち込んだ。と同時に、轟音が世界に響き渡る。ザフィーラを襲った雷撃がまるで花が咲いたように周囲に拡散していく。魔法陣の真下へ突き抜ける蒼雷はまるで花の茎。あまりの事態に思考が止まる。でも、魔法陣が消えたことで落下し始めたザフィーラを見、シャマル先生の「ザフィーラ!」という悲鳴に再起動。
――ソニックムーブ――
一気に空へと上がってザフィーラを担ぐように抱える。チラッと見えたルシルの顔はいつも通りのもので、さっきみたいに操られてない。そのままシャマル先生の元へと向かい、ザフィーラを預ける。
「むぅ、今のは効いた。気を付けろ、テスタロッサ」
「「ザフィーラ!?」」
アレだけの攻撃を受けてもなお意識がある事に驚いた。間違いなく今ので決まったって思ったのに。ザフィーラのゲージを見る。目を疑った。大ダメージは確かだけど、それでも完全に黒に染まってなかった。5分の1くらいがギリギリで残ってる。
「一体どういう事・・・・?」
「真技とはいえ、それほど威力が高くない、という事だ。シャマル」
シャマル先生の疑問に答えたルシル。ルシルは続ける。ルシルの真技>上級術式>謎の真技=中級術式という構図だって。
「ちなみに今のは雷滅の殲姫プリメーラ・ランドグリーズ・ヴァルキュリアの真技の一つだ。ヴァルキリーの扱う魔術は、もともと私の未完成魔術式や試験的に組んだ術式をインストールしたもので、その後、彼らが独自に昇華したものなんだ。だからその気になれば、複製が扱えなくても発動出来る。まぁその分未完成のままだから劣る、つまり威力が無い、ということだな」
ルシルはそう説明した後、「真技」ってまた告げた。もうさせない。ブリッツアクションで最接近を試みる。
「この短い剣翼、純陸戦形態のヤエルというんだが、これもまた未完成なんだ。だと言うのに、よくもこんな過去の失敗作を仲間の前で晒してくれたなぁ、昔の人格」
自分自身に対して呆れ果てているルシル。まぁ未熟な昔の自分を、自分の知らないところで知られるっていうのは嫌だよね。そんなルシルはコード・ウルのような蒼い魔力弓を作り出す。
――プラズマランサー――
「ファイア!」
姿勢を変えられないルシルに向けてランサーを十二基射出。ルシルは弓を構えたまま滑るように避ける。アレが未完成? 十分役に立ってるよ。ランサーよりは威力が劣るし遅いけど、そのかわり誘導性能が良いプラズマバレットを十五基射出する。それとほぼ同時に、弓に番えられる蒼く細長い暴風の矢。
「蹂躙せし螺旋角!!」
放たれる小型の竜巻。バレットが竜巻に巻き込まれて消滅する。ブリッツアクションで全力回避。そのままルシルへと突撃する。突撃の最中にも私の周囲にランサースフィアを八基展開。
「おおおおおおッ!」
スティンガー二刀で連続斬り。ルシルを、スティンガーといつ放たれるか判らないランサー両方に意識を割かないといけない状況に追い込む。ルシルは必死に斬撃を避け続ける。なら避けられないように、
「ファイア!」
逃げ道を四基のランサーで防ぐ。ルシルが一瞬硬直する。その隙を見逃すほど私は間抜けじゃない。スティンガーを十字に振るいながら、残りのランサー四基を射出。
「っぐぁぁぁっ」
斬撃は避けられたけど、四基のランサーの直撃に成功。よろけるルシルへ左のスティンガーを横薙ぎ。ルシルはその一閃を、新たに創りだした魔力槍で受け止めた。
「今のは効いたよ・・・テスタメント事件の決戦を思い出すな・・・!」
「そうだね。だから今回も私が勝つんだよッ!」
「それは無理だな。あの時は大半の魔術を使えなかったが、今はそうじゃない。真技」
三度目の真技発動宣言。ルシルの足元にアースガルド魔法陣が展開される。どんな攻撃が判らないから困る。仕方なしにルシルから大きく距離を取る事にした。“バルディッシュ”・ライオットザンバー・スティンガーを、大剣のライオットザンバー・カラミティへと変形させる。そしてステンドグラスのフィールドに変化が起きた。
「水!?」
どこからともなく水が溢れてきて、数秒で足首くらいにまで水位が上がってきた。
「大戦当時、水流系という属性を使うのは後にも先にもたった四人だけ。私、シェフィ、そして、凶狩の蒼水ナーティア・ヒルド・ヴァルキュリア、湖麗の妖精ミオ・ランドグリーズ・ヴァルキュリアだな。で、今から発動するのは、水流系完全機ナーティアの真技だ・・・」
水がチャプチャプ揺らめきだす。次第に波が生まれて、所々から水柱が立ち昇って竜巻となった。まさかあの竜巻で攻撃をするの!? あんなものに呑み込まれたらきっと無事じゃ済まない。ルシルがスッと左腕を空へと掲げたのを合図としたように水で構成された蛇の様なモノが竜巻に纏わりつく。
――旅の鏡――
「セインテストォォーーーーーーッッ!!」
――守護の拳――
シャマル先生の転移魔法・旅の鏡で転送されたザフィーラの奇襲。でも読まれていたようにルシルとザフィーラの間から水柱が噴き上がって壁となり、ザフィーラの攻撃を防いだ。
「これで我を封じたつもりか? 神器王よっ!」
――牙狼鋼破陣――
ザフィーラの右腕を呑み込んでいた水柱が弾け飛ぶ。ザフィーラの右拳の先端から二の腕まで削岩機のような螺旋状の魔力が纏わりついてる。ルシルがそのまま右拳を突き出してきたザフィーラから距離を取ろうとする。私を、そしてシャマル先生を忘れちゃダメだよ。カラミティで攻撃を加えようとしたところで踏み止まる。水と電気。誰もが判るこの二つの属性の危険性。急いで“バルディッシュ”を魔力刃無しの戦斧形態アサルトフォームへと変える。
「引いていろ、テスタロッサ。この状況でお前の魔法やデバイスは危険だ」
そうか。ルシルは私の攻撃を封じるために・・・。でも、それはちょっと甘い考え。アサルトフォームでも十分戦えるって事を忘れているんなら、思い出させてあげる。
――ブリッツアクション――
「これでも十分!」
†††Sideフェイト⇒ルシル†††
ザフィーラが厄介過ぎる。私の一手一手を潰してくる。だからプリム(プリメーラの愛称)の真技で一気に決めようとしたんだが、倒し切れなかった。全ては振り出しに戻り、フェイトのアサルトフォームによる通常打撃、ザフィーラの効果も判らない打撃。そして、一発逆転を行えるシャマルの旅の鏡、そのすべてに警戒しながら事を進めることに。
「「はぁぁぁあああああああッ!」」
二人の攻撃を高水圧の壁で防ぐ。そして二人の背後から水の砲撃。水のフィールドを作り、全ての水を攻防に使い敵対者を確実に倒す。
これがナーティアの真技・瀑波大帝国だ。戦術としてはカーネルの陸地操作と同じで、水がある限りいつまででも戦える。そして水は、万物の中で最も流動し、形を変えやすい至高の属性。その分、操作するのにかなり集中力が要る。水面に両手を突っ込み、ただグッと水を掴んで引っ張り上げる。
「きゃぁっ」「むおっ」
それだけで波が発生する。フェイトとザフィーラは波に足元を掬われ転倒。もう一度、ブーツ裏にパチャパチャ当たる水面へと左手を突っ込み、掬うように前方へ振り抜く。いくつもの水弾となり、起き上がり途中のフェイトとザフィーラを襲う。が、
――風の護楯――
シャマルの障壁が割って入り、水弾を全て弾き返した。
「これ以上好き勝手させないわよ、セインテスト君!」
私からもっとも離れているシャマルが勇ましく言い放った。左右の“クラールヴィント”から伸びる計四つのペンデュラムが高速で飛来。障壁が消えたと同時に、ザフィーラが突撃してきた。もう一度、押し流してくれる。両手を突っ込み、術式計算・・・・術式完成。水を掴み引っ張り上げ・・・られない!?
「しまっ・・・・!」
「うぉぉおおおおおおおおッ!!」
ズドンと腹に入るザフィーラの強烈な拳打に、意識が揺さぶられる。間髪入れずにシャマルのペンデュラムが四連ヒット。大事なところで術式をミスった。水フィールドの維持だけにして、攻防は扱いやすい他の属性にしておけばよかった。が、それも後の祭り。ザフィーラは拳を組んで、下あごを打ち上げるように振り上げてきた。
今ので完全に脳が揺さぶられ、平衡感覚を失ってしまった。だが何とか踏ん張って転倒阻止。さらにミスに気付く。どうして今までダメージを受けて早々にラファエルを発動しなかったのか。ライフがもうない。あと数発、何らかの攻撃を受ければ負ける。
「クラールヴィント、お願い!」
――戒めの鎖――
今使われてほしくない魔法が発動した。強力な拘束力を有するシャマルの捕獲魔法・戒めの鎖。シャマルのマシンガントークも苦手だが、この地味に嫌がらせじみた補助魔法の数々も苦手だ。水のフィールドが消え去っていく。この状況で維持できるほど器用じゃない。フェイトとザフィーラとシャマルに包囲される。何かをしようものならすぐさま魔法を使うだろう。
「ルシル。どうする、まだやる?」
“バルディッシュ”をハーケンフォームにし、雷撃の刃を突きつけてきた。結構容赦ないな。だが、それが当然の処置だよ、フェイト。
「私の負けだ。さぁ、私のライフをゼロにしてくれ。そうでないと終わらない」
「・・・・判った。少し痛いけど、我慢してね」
――プラズマバレット――
フェイトの周囲にスフィアが九つ展開される。そして「ファイア」と一発一発、間を開けて、バレットを放ってきた。その都度に、「痛い」と言う私の心情を察してくれないか? ひと思いに砲撃で決めてほしい。こんなイジメみたいな終わり方・・・・あんまりだ(泣)。九つで終わらなかったため、さらにスフィアを展開して、結局十四発目で私のライフがゼロになった。
「この勝負、フェイト・T・ハラオウン、エリオ・モンディアル、騎士シャマル、騎士ザフィーラの勝利とします!」
セシリスがそう告げたことで、ようやく終わりを迎えた。転送が始まる。バトルフィールドからボードフィールドへ行くために。視界が白に染まり、目を開けた時にはセシリスとフェンリルの姿は無く、2ndエリアの景色でもなかった。それはともかくさっきまではボロボロだったのに、ボードフィールドに戻ると完全に回復するんだな。この仕様は素直にありがたいな。戦いのダメージをここにまで持ってきたくない。
「ここ、まさか3rdエリア・・・?」
私のところに駆け寄ってきたフェイトが辺りを見回す。カーネルのエリアは夜の遊園地。セシリスのエリアは昼間の遊園地。で、今度は夕陽の遊園地だ。間違いなく三つ目のエリアだろう。にしても、セシリスに文句が言えなかったな。
ルールかは知らないが、人を勝手に操作するなど言語道断。途中で自我を取り戻せたから良かったものの。あまり気分は晴れない。
「ねぇ、ルシリオン。さっきから人の声がするんだけど・・・」
レヴィが周囲を見回しながら、そう報告してきた。私も耳を澄ましてみる。しかし聞こえない。
「私は聞こえないな」
「私も聞こえないけど・・・。みんなはどう?」
なのはにも聞こえないようだ。なのはの確認によって、聞こえる者と聞こえない者が居ることが判明。聞こえる者と聞こえない者。それぞれ共通点があった。
「聞こえるのは、ヴィヴィオ、アインハルトちゃん、コロナちゃん、リオちゃん、イクスちゃん」
「うん、微かにだけど聞こえるよ、なのはママ」
「何でしょう? 会話と言うよりは何か呻いているような・・・?」
「アインハルトさん、怖いこと言わないでくださいぃ~(怯)」
「もしかして透明人間の声かなぁ?」
「透明人間、ですか? 居るのでしたらお会いしてみたいですね」
ヴィヴィオ達はいつもの調子だな。何もおかしなところは無い。
「それに、エリオにキャロもだね」
「はい。大人の様な声と」
「子供の声も聞こえます」
「んで、ヴィータとリインとアギト、ルールーとレヴィも聞こえとるようやな」
「なんかイラつくよな、こういうの。もっとハッキリしろってぇの」
「ちょ、ちょっと怖いかもですね。不思議現象には慣れてるとはいえ」
「こんなんでビビってんなよ、リイン。あたしらは最強のメンバーの中に居るんだぜ」
「アギトの言う通りだよ。ルシルさんはもちろん、なのはさん達も居るんだし」
「そうそう。わたしだって居るんだから、なんにも心配要らないって」
聞こえない者はヴィヴィオ達以外。そう、共通点は・・・・
「二十歳以上が聞こえず、以下が聞こえる、ということのようだな」
「ちょっと待てよ。あたしだって二十歳は軽く超えてんぞ。なのになんで聞こえてんだ?」
「それはヴィータの外見が子供だからだろう」
ということだ。子供には聞こえて、大人には聞こえない声。一体何だ? 声などは無属性音波系となるが、“アンスール”の中にその属性を扱う魔術師は居ない。なら・・・・あ、似たような事が出来る奴が居る。私の幼馴染で親友、そして戦友でもある男・・・名は・・・
「よく来たなっ! ここは3rdエリアだっ!」
頭上からよく知る声が響いてきた。見上げると、人影が降ってくるのが判る。ソイツは地面に叩きつけられる前に、ソイツ自身の固有能力によってフワリと浮き、静かに着地した。
「オレがここのエリアマスターだ。名前は、プレンセレリウス・エノール・スヴァルトアールヴヘイム、よろしくなっ!」
やっぱりお前だったか、レン。
†◦―◦―◦↓レヴィルーのコーナー↓◦―◦―◦†
レヴィ
「そこに居るのに、出番が無いって一番つらい現実だよね」
ルーテシア
「そうだよね。セリフはあったけど、あれだけじゃ・・・・」
ルシル
「おいおい。それを言ったらイクスはどうなるんだ? 君たち以上に出番が無いぞ?」
レヴィルー
「あ」
ルシル
「それに、ちゃんと安心しろ。次回ははやて率いるチームの出番。つまり――」
レヴィルー
「わたし達にもようやく出番が!!」
ルシル
「ま、レンのエリアだから、一筋縄じゃいかないと思うけどなぁ」
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