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妖精の義兄妹の絆

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二つの卵

タクヤがギルドに入って1年がすぎようとしていた。
タクヤがギルドに入った時に出した依頼はまだ誰も成功させていない。
無理もない。この1年で挑戦した者は何人かいたが、その全てが失敗に終わり、
時にはガセネタをつかまされたこともあった。
よって、今有効な手がかりは掴めておらず、行き詰まっている状態なのだ。
「やっぱ、無理があんのかなー?」
「そうだねー。」
タクヤとウェンディはリクエストボードの前でたたずんでいた。
そこにローバウルがやってきた。
「なぶら焦ることはない。じっくりやっていけばよい。」
「マスター。」
「まっ、それもそうだな。いつまでもくよくよしてらんねーよな。」
タクヤは吹っ切ったようだ。リクエストボードの依頼書を1枚取った。
「えーと、なになに?‘あたしの店を手伝ってくださいな。’?
ってこれおばちゃんグループリーダーのナスカじゃねーか。」
「あ、本当だ。」
ウェンディがタクヤが持っていた依頼書を覗きこんだ。
確かに、依頼書の右下にナスカという名前が書いてあった。
「なぶら。そう言えば、織物を大量に作ったがいいが
街へ売りに行く日はバスクが仕事に出かける日と重なって困っていたのう。」
ナスカは普段織物を売りに街へ行くときは夫であるバスクを連れていっていた。
「どうする?お兄ちゃん。」
「どうするって、やっぱ困ってんなら仕事を受けるしかないだろ。」
「じゃあ、この仕事で決まりだね。」
そう言ってウェンディはタクヤが持っていた依頼書を取り、ローバウルに渡した。
「じゃあ、私達ナスカのお手伝いに行ってきますね。」
「あぁ、気を付けてな。おそらくナスカは家で準備してるじゃろうから。」
「はーい。」
ウェンディは元気良く返事をして、タクヤと一緒にギルドを後にした。







ナスカの自宅
「ナスカー。タクヤだけどー、仕事の依頼受けに来たぞー。」
タクヤが家のドアをノックすると、ダダダと走ってくる音がした。
「ありがとよー!!!」
いきよいよく開けられたドアから少し太った女性が現れた。
この人こそが、おばちゃんグループリーダーのナスカだ。
「あんたたちかい!仕事を手伝ってくれるのは、嬉しいねぇ。ダメもとで貼った依頼書なのに
来てくれるなんてぇ!」
ナスカはテンションをあげながら、タクヤとウェンディを抱き締めた。
「ナ、ナスカ…。」
「く、苦しいっての…。」
「おっと、そりゃすまなかったねぇ♪」
そう言ってナスカは二人を放した。
「ゲホッゲホッ、…ったく相変わらず力が強いなー。」
「それで、街に売りに行く織物ってどこにあるの?」
「あー、それなら裏のリアカーに乗せてあるのがそうだよ。ちょいと待ってな。
すぐ持ってくるからさ。」
そう言い残してナスカは裏庭へ行ってしまった。


5分後
「…。」
「…これがそうなの…?」
「そうだよ。これ全部街へ売りに行くのさ。」
ウェンディの質問にナスカは笑顔で答えた。
「いやいや、これはいくらなんでもつくりすぎだろ…。」
リアカーに積まれていた織物は高さ5mは軽くあるような山となっていた。
「さあ!街へ出かけるよ。タクヤはリアカーを連れてきてね。」
「えっ!?」
「それじゃ、出発しんこー!」
「あっ、おい!?」
ナスカはタクヤの声を無視して街へ続く道を進んでいた。
「…まじか。」
「お兄ちゃん!頑張って!」
「あ、あぁ…。」
タクヤは苦笑いをうかべることしか出来なかった。





ここはラルークの街
ここは商業の街として知られ日々商人が行き交っている。
そのほかにも、遠路はるばるやってくる商人のための宿屋なども連なっておりここは終日大変な賑わいを見せている。
その一角にはナスカと手伝いに来たウェンディとバテバテのタクヤがいた。
「もぉ!だらしないねぇ。シャンとしな!」
「ゼェ…ゼェ…、誰のせいでこうなってると思ってんだよ…。」
化猫の宿からラルークまでは歩いても1時間以上かかってしまう上にこの織物の量、
さらに森の中を通るので余計に体力を使ってしまうのだ。
「大丈夫?お兄ちゃん。」
ウェンディが体力を回復しようとしたが、タクヤはそれを遠慮した。
「こんくらいのことで魔力使ってたら最後までもたねぇぞ。」
そうなのだ。ウェンディの魔法は大量の魔力を消費してしまう。
そのため、1日に使える数も限定されてしまうのだ。
「なら、これを飲みな。」
ナスカが差し出したのは小瓶に入った液体だった。
「ナスカ特製のスタミナドリンクだよ!」
「…ほんとに効くのかよ、これ。」
見るからにドロドロしていかにも魔女が作ってそうなものだった。
「見た目はあれだが、効果は絶大だよ!バスクで実験済みさ。」
「実験っていうんじゃねーよ。」
「さっ、騙されたと思って飲んでみなって。」
タクヤは観念して小瓶の栓を抜き、一気に飲み干した。
「…。」
「…どう?お兄ちゃん…。」
「…すげー、さっきまでの疲労感が嘘みたいに消えてる。しかも、普段より力が湧いてきたぞ!」
「だろー?私が作るものにハズレなんてないのさ!」
「よーし、これなら店の手伝いもやれるぞ!」
「じゃあ、ナスカの織物店開店だよ!!
「「おぉぉ!!」」
3人は息を揃え掛け声をあげた。





「いらっしゃいませー!化猫の宿名物の織物はいかがですかー?」
「どれも丈夫で長持ち!それでもっておしゃれな品になってますよー。」
「はーい、毎度ー。またお越しくださーい。」
ナスカの大繁盛していた。化猫の宿はギルド全体が集落となっており、
織物の生産が盛んなのだ。
「ナスカ残りの織物が200まで来たぞ!」
「あと少しだ!もうひと踏ん張りだよ。あんたたち!」
「「おう!」「うん!」」
二人は、大きな声で返事し、残りの織物を売りにさばき始めた。
「すいませーん。」
「はーい。」
一人の女性客が訪れ、その人をウェンディが対応した。
「どの織物がいいですか?」
「あら、今日は可愛らしい子がいるのね。偉いわ~。」
「えへへ…。」
「じゃあ、お嬢ちゃんのためにいっぱい買っちゃおうかしら。」
「本当ですかぁ!ありがとうございます。」
「えっと、これとこれ、ついでにそこの洋服を2着貰うわ。」
「ありがとうございます。合計で12780Jになりまーす。」
女性客はお金を渡して商品を受け取った。
「ありがとうございましたぁ。またおこしくださーい。」
「またね~。」
女性客は手を振り、店を後にした。
「ウェンディ、すごいじゃないのさ!あんた素質あるよー。」
ナスカはウェンディを抱き締めながら誉めた。
「えへへ、そうかな?」
「タクヤも負けてられないよ~。」
「わかってるよ!」
そうやってふざけながらも順調に残りの織物を減らしていった。






「おわっだぁぁぁ。」
夕暮れ時、とうとう最後の1枚を売ったタクヤはその場に倒れた。
「疲れたー。」
「ごくろーだったね、二人とも!今夜はお礼に私が晩飯をごちそうしてあげるよ。
もちろん、報酬は別に出すから心配しなさんな。」
「やりー、ナスカの飯はうめぇんだよなー!」
「ありがとう、ナスカ!」
「じゃあ、帰ろうか?」
そう言って3人は化猫の宿へ続く道を歩き始めた。
その帰り道、タクヤたちはは森の中で二つの大きな卵を見つけた。
「なんだろう?これ。」
「卵だろ?」
「何の卵かってこと!」
ウェンディは頬を膨らませてタクヤに怒鳴った。
「卵にしちゃでかいねぇ。」
「怪物の卵だったりして。」
「もぉ!怖いこと言わないでよ。」
「でも、ホントに何の卵なんだろうな?変な模様も入ってし。」
二つの卵にはそれぞれ違う模様が入っていた。
左の卵には純白の翼をイメージさせる模様が、
右の卵にはベージュがかった茨のような模様がそれぞれ刻まれている。
「…なぁ、これもって帰ろうぜ?」
「え?でも、これ怪物の卵なんじゃ…。」
「さっきはあぁ言ったけど、なんかの動物の卵ならこんなとこに置いといたりしねぇよ。」
「たしかに…。」
ウェンディが納得するとタクヤはナスカに言った。
「なぁ、持って帰っていいだろ?ちゃんと育てるからさ。」
「ナスカ!お願い!」
タクヤとウェンディはナスカに必死に頼み込んだ。
「…本当にちゃんと育てるかい?」
「絶対にする!約束するよ!」
「ならいい!その卵を持って帰るよ!」
「「やったー!」」
タクヤとウェンディはハイタッチした。
「さぁ、日も暮れかかってるしさっさと帰るよ。」
「「はーい。」」
二人は元気に返事をし、帰路についた。






その日の夜
ナスカの自宅で夕食をごちそうになったタクヤとウェンディは自分達の家に帰ってきた。
「ただいまー…って誰もいないんだった。」
「もう、お兄ちゃんったら。」
「それよりさ、ウェンディ!どっちの卵がいい?」
そう言ってタクヤは二つの卵をウェンディの前に出した。
「うーんとねー…、じゃあ私はこれがいい!」
ウェンディが選んだのは白い卵だった。
「ウェンディがそれなら俺はこっちだな。」
タクヤは残ったベージュの卵を自分の所に持ってきた。
「この中から何が生まれるんだろうねー、楽しみだなー。」
「よし!どっちの方が先に産まれるか競争しようぜ!
勝った奴は負けた奴になんでも1個お願いをきく!どうだ?」
「うん、いいよ!お兄ちゃんには負けないからね。」
「望むところだ!」
二人は火花を散らしながら笑っていた。
「でも、今日はもう寝るかー。」
「…そうだね。おやすみ、お兄ちゃん。」
「おやすみ~。」
それから二人は深い眠りへとついたのだった。







翌日
タクヤとウェンディは卵をギルドへ持っていき、どうやったら産まれるのか
みんなに相談していた。
「やっぱ、温めるんじゃないか?」
誰かがそう言った。
「温めるか…。それなら俺が熱湯出してやるよ!」
タクヤは口から熱湯を出し、持っていた卵にかけた。
「お兄ちゃん!それじゃゆでたまごになっちゃうよ!」
「あっ、それもそうか…。」
「こうやって毛布にくるんだりしたら温めるんじゃない?」
「なるほど、そういうことか。」
タクヤも卵に毛布をくるんでやった。
「なぶらこう見てると二人とも良い顔になったもんじゃ。
命を育むという体験は将来きっと役に立つじゃろう。」
「マスター…。」
「なぶら頑張りなさい!」


ゴパァァ


そう言った瞬間、口から大量の酒が吐き出された。
「マスター!いい加減飲んでから喋ってくださいよ。」
「なぶらすまぬのう。」
ウェンディはローバウルの、酒の後始末をしながら注意した。


ピクッ


「!今卵が動いた!」
そういってタクヤは自分の卵を見つめた。


ピクッピクッ


「やっぱり動いてるって!」
「あ!私のも動いたよ。お兄ちゃん!」
「なぶらどうやらもうじき産まれるようじゃのう。」
「もうじきっていつ?」
「それはわからんのう。」
ウェンディの問いにローバウルはたじたじした。
「楽しみだなぁ。」
そういってウェンディは卵に抱きついた。
「あなたたちが産まれてくるのを楽しみにしてるよ。」
このとき、卵が動いたような気がしたのだった。





それから1週間
タクヤとウェンディはギルドの近くの川で釣りをしていた。今晩の夕食を捕獲するためだ。
「はぁ、全然釣れないね。」
ウェンディのかごには魚は一匹も入っていなかった。
「ん、そうか?」
それに対してタクヤのかごには魚が5,6匹入っていた。
「お兄ちゃん釣り上手だねー。」
「こうゆうのはな、ただ闇雲に投げれば良いって訳じゃないんだ。
川の、水の流れを感じて釣り針を添える感じでやるんだよ。」
「へぇ。」
「まぁ、今日は充分釣ってるからそろそろ引き上げるか?」
「次は絶対お兄ちゃんより釣るんだから。」
「その調子、その調子。」
タクヤたちが引き上げようとしたとき、
「おーい!タクヤー、ウェンディー!」
そう呼ぶのはバスクだった。
「どうしたの?」
ウェンディがバスクに尋ねると、バスクは息を切らしながら言った。
「卵の様子がっ…!」
「「?」」
タクヤとウェンディは言ってる意味がわからず、とにかくバスクに連れられギルドに向かった。





ギルドの中
タクヤとウェンディはバスクに連れられやってきた。
「おぉ!来たか。もうすぐ産まれそうじゃぞ。」
「本当か!?」
タクヤがそう言うとローバウルは卵の前まで案内した。
たしかに、もうすぐ産まれそうだ。常に卵が動いている。
「わぁ…!」
ウェンディは気持ちを高まらせながらじっと卵を見つめた。
その時、


ピキッ


二つの卵にヒビが入った。
「産まれるよ!」


ピキッ、ピキピキッ、パカッ


先に産まれたのはウェンディの卵だった。
「……。」
卵から産まれたのは、なんと白い猫だった。
「「ネコォォォォォォォ!!??」」
「「可愛いぃぃぃぃぃ!!!」」
おばちゃんグループが歓喜の声をあげた。
みんなが仰天した。その理由はもっと違う生き物を想像していたからだ。
まさか、卵の中から猫が産まれてくるとは誰も思わない。
「もしかして、お兄ちゃんの卵も猫が産まれるんじゃない?」
「てか、猫って卵から産まれるんだっけ…?」
「「たしかに。」」
みんなも納得する疑問だった。
すると、タクヤの卵もいきよいよく割れた。


ピキッ、バキッ、パカッ


「おぉ!」
「…ふぁぁ…。」
産まれてきたのはベージュがかった猫だった。
「やっぱ、こっちも猫かぁ。」
「「こっちも可愛いぃぃぃぃぃ!!!」」
おばちゃんグループがまた歓喜の声をあげた。
ベージュがかった猫は背中から羽を出現させた。
「お、おい!飛んだぞ!」
「猫って飛ぶんだっけ?」
あちこちでそのようなことが聞こえた。
ベージュがかった猫はフラフラ飛んでタクヤの頭の上に乗った。
「おっ。」
「そうじゃ。その子達に名前をつけてやらんとな。」
「そうだね。何にしようかな?」
ウェンディは白い猫を抱えて名前を考えた。
「う~ん…。」
タクヤもうねりながら考える。
「…決めた!この子の名前はシャルル!」
「シャルルか…、じゃあ俺は…、」
タクヤは頭の上に乗っていた猫を抱えて見つめた。そのとき猫は軽く頭を下げた。
「エマ…。この猫の名前はエマだ!」
タクヤはエマを抱え上げて言った。
「これからよろしくな、エマ!」
「ふぁぁい…。」
「これからはずっと一緒だよ。シャルル!」
ウェンディはシャルルを抱き締めそう言った。
「…。」
こうしてタクヤたちに新しい仲間が出来たのであった。
 
 

 
後書き
4話完了でーす。今回の話でシャルルとオリキャラのエマを出させていただきました。
シャルルの方の性格は皆さんご存知でしょう。エマの性格はおしとやかで礼儀正しいお嬢様のような性格です。
オリキャラを出すとちゃんと受け入れて貰えるのかとかの不安がよぎります。
読んでくれるみなさんのためにも自分の全力を出したいと思います!
それでは5話もよろしくお願いしまーす。 
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