魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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ようこそ☆ロキのロキによるお客様のための遊戯城へ~Ⅱ~
†††Sideレヴィ†††
ミッドで過ごすのも今日で最終日。午前中は、コロナ達みんなと最後のショッピングへ、って事になってる。集合場所はクラナガン一のショッピングビル。だったんだけど、わたし達は今聖王教会に集合してる。イクスにお呼ばれしたからだ。イクスの部屋で紅茶を御馳走になりながら、
「これが、グロリアさんから送られてきた写真です♪」
「おお、綺麗に撮れてる☆」
アンティークテーブルの上にある、謎の女グロリアが撮った写真を眺める。初めて会った時に開催された撮影会の写真に昨日の演劇の写真。どれもこれもアングルバッチリな、プロが撮影したと言ってもいいくらい。ヴィヴィオ達が色々と写真を手に取って、昨日の演劇の思い出を喋り出す。
「うわっ、すごい。グロリアってプロのカメラマン?」
「私、こんな顔してたんですね演劇の時」
ヴィヴィオとアインハルトは主人公役だった。だからか写真も多い。というかどこから撮ったの?って思えるような写真もある。全然気付かなかった。完全に演劇に意識を向けてたし。むぅ、わたしとしたことが。
「ヴィヴィオとアインハルトは良いなぁ、ドレスで。私もドレスを着てみたかったなぁ。でも主役は恥ずかし過ぎだし。んー、そう言ったらラタトスク役でもよかったとも言える・・・?」
「あたしもフレースヴェルグ、だっけ? でよかったかな。練習の時、なかなかセリフとか憶えられなかったから。出番も終わりの方で、それに短かったからミスしなかった」
配役はくじ引きで決めて、コロナとアインハルトが主役の二人になった。で、コロナは主役として舞台に立った時の事を想像してセリフ練習をすると、緊張からかよくセリフを噛んでいた。結局治らなかったから、代役としてヴィヴィオと交代。出番とセリフの少ないラタトスクってことになった。
リオもおんなじで、セインと役を交代したんだよね。言っちゃ悪いけど、リオは演劇役者に向いてない。憶えない、噛む、動きカクカク。演じようとすると、どうも不自然になる。だから出番の少ないフレースヴェルグってことに。まぁ文句は無いようで、喜んでセインと代わってた(セインはおじさん役になってヘコんでた。合掌)。
「語り部でしたわたしもちゃんと撮ってくれたんですよ♪」
「イクスも頑張ったもんね♪ 語り部って重要な役だから」
「そうそう♪ 語り部って、ある意味主役だよ。さっすがイクス!」
わたしもルーテシアに続いて、イクスの活躍を称える。イクスは「あ、ありがとうございます」ってテレて、ほんのり頬を染めながら俯いた。わたしもみんなの写る写真を手に取った。う~ん、ベストアングルで撮られてるなぁ、わたし。
警戒すべきグロリアの写真だってことを忘れてニヘラって笑ってると、
――召喚されたし召喚されたし召喚されたし――
ドクンと心臓がハネた。視界がグラって揺れる。意識が遠のくのを耐えていると、ドタバタってルーテシアやヴィヴィオ達が倒れてくのが揺らぐ視界の中で見えた。
「グ、グロリア・・・! やっぱりあの女・・・!?」
アンティークテーブルに手をついて、倒れる体を支える。だけど力が抜けた足がガクガク震えて、へたり込むように床に座る。あーダメだ。座ってるのも難しい。コテっと横になるしかない。横になったら一気に意識が薄れ始めた。
「さい・・・あ・・・く・・・・」
グロリアに悪態をつくと同時に、完全に意識が途切れた。でもそれも一瞬のようで、すぐに視界が開けた。ポツンと立ってて、さっきまでのが夢のよう・・・・おおおう!?
「な、ななななな何!? ドコ!? って、ココは遊園地!?」
「あ、起きた? 声をかけても何にも言わないし。寝てるんじゃないかって思っても目開けてるし」
「目を開けたまま眠ってるレヴィ、ちょっと怖かったかも」
聖王教会から派手な音楽が鳴ってる遊園地のような場所へいつの間にか移動。驚いていると、ルーテシアとヴィヴィオがわたしの顔を覗き込んできた。見れば、イクスの部屋に居た全員がいきなりの異変に驚いて、唖然としてる。一体どうして? 決まってる。グロリアの仕業に違いない。あの写真に何か仕掛けを施していたんだ。
警戒していたのに! 一番大事なところで気を抜いた!
「ね、ねぇっ。ここってどこ? わたし達、イクスの部屋に居たのに・・・?」
「そ、そうですね。おそらく強制転移・・・でもないようですし・・・」
「うん。魔法が発動した気配も全然なかったし・・・」
コロナとアインハルトとリオが今の状況を魔法に結び付けて、色々と考えを出してく。巻き込んじゃった。まったく無関係なコロナ達を。
『レヴィ。何か知ってるんじゃないの? なんか様子がおかしいよ・・・?』
ルーテシアが真っ直ぐわたしの目を見て念話で訊いてきた。隠していい情報じゃないよね。まずは神秘云々を知ってるルーテシアに話そう。
ある程度判っている事をルーテシアに教えた。グロリアがもしかしたら昔のわたし・・“大罪ペッカートゥム・許されざる嫉妬レヴィヤタン”と同じ、“絶対殲滅対象アポリュオン”の一体なんじゃないか?って。そしてこの異変もグロリアが何かしたんじゃないか、写真に何か仕掛けたんじゃないかって。
『グロリアが!?・・・・ルシリオンさんにこの事は?』
『うん、昨日の夜に話した。でももし仕掛けてきても対抗する術が無いって。わたしもルシリオンも、もう人間だし。対抗する守護神が現れるのを待つしかないって』
ルーテシアが『そんな・・・!』ってショックで俯いた。でもわたしは『大丈夫。きっと友達のアイツが来て、わたし達を守ってくれる』と手を握る。ルーテシアもわたしの言った、アイツ、が誰かを察して、
『そう、だね。うん、きっとシャルロッテが来てくれる!』
不安げだったルーテシアが安心したように微笑んだ。きっと必ずシャルロッテが来てくれる。だってこの世界と一番繋がりがある守護神はシャルロッテだから。
†††Sideレヴィ⇒なのは†††
今日半日頑張れば、ヴィヴィオの待つ自宅へ帰れると思うと嬉しさが込み上げてくる。それに、ルーテシアとレヴィにもお世話になったし、何かお礼が出来たらいいんだけど。私が自宅に帰る頃には二人はミッドを発ってるし。お礼の連絡くらいはしておかないといけないよね。ちゃんとしたお礼は後日って事で。
「なあ、なのは。聞いたか? 新世代アギラスの試作機が、近々現場で試験運用されるって話」
ヴィータちゃんがブラックのコーヒーが注がれた紙コップを私のデスクに置きながら、そう話しかけてきた。私は「ありがとうヴィータちゃん♪」とコップに口を付けて一口。
「おいしい。そうなんだ。上手くいくといいね。セレスさんの願いのためにも」
「だな。で、だ。噂じゃあたしら教導隊と一緒に飛ばせて、空戦のデータ収集をやりたいとかなんとかって」
「それって戦えって事? ただ一緒に飛ぶだけじゃ、旧世代からの引き継ぎデータで十分だし」
戦闘機アギラス。空戦魔導師の先遣として予定されてる、ある種のデバイス。犯罪者との戦闘機能はもちろん、自然災害現場での活躍を見通していろんな機能が積み込まれるって聞いている。
「人間は日々進化ってこったろ? アギラスも学習機能があるし、あたしやなのはのようなトップクラスと戦った方がレベルアップの工程が省ける。ってあたしは思ってる」
「あはは、自画自賛だねヴィータちゃん」
「当たり前だろ? マジなんだから」
そんな話をしていると、同じ部署のベルタ(三等空尉の二十一歳で、結構エリートだったり)が「なのはさ~ん、ヴィータさ~ん」と、私とヴィータちゃんの名前を呼びながら駆け寄ってきた。“機動六課”時代の私とヴィータちゃんに憧れて、教導隊の道を目指した女の子。何ていうかテンションがシャルちゃんぽくて、ヴィータちゃんもファーストネームで呼ぶくらいにすごく良い娘だ。
「おう、ベルタか。どうしたよ」
ベルタは右手に何か封筒を持っていて、「お届けモノですよ」と差し出してきた。ヴィータちゃんがソレを受け取って、カサカサと中身を確認する。
「ん? 写真だな。あたしとおまえのだ。つか、コレ・・・隠し撮ったやつじゃね?」
ヴィータちゃんの聞き捨てならない言葉を聞いて、「えっ? 隠し撮りっ?」と私も写真の内容を確認する。写真に写っていたのは、演習中の仮想敵役として空を飛んでいるところ。想像してたちょっといかがわしいモノじゃなくて心底安堵したけど、でも・・・
「確かにこれは隠し撮りだね。撮影許可も現像許可も下りてないし」
「ベルタ。コレ、どうしたんだよ」
「え、えっと、グロリア・ホド・アーレンヴォールっていう方からですけど。とても大切なモノで、絶対になのはさんとヴィータさんに渡してほしいと。あ、名刺もちゃんと貰ってますよ。さすがに誰か判らない人から受け取るほど間抜けじゃないですからね」
グロリア・ホド・アーレンヴォール。
つい一時間くらい前にルシル君から聞いた名前だ。“アポリュオン”かもしれない、正体不明の女性。その人からの写真。何かあるかもしれないからすぐに手放す。ヴィータちゃんも写真から手を離して、グロリアの名刺というのを警戒しながら受け取る。
「ヴァイゼンの写真家みてぇだな。こっちの確認はあたしが取るから、なのははセインテストに連絡入れとけ」
「判った」
すぐさまルシル君に通信を繋げようとして・・・
――召喚されたし召喚されたし召喚されたし――
視界がグラっと揺れた。デスクに両手をついて、椅子から転げ落ちる無様は免れた。ヴィータちゃんも私と同じようにデスクに手をついて、朦朧とする意識を覚まそうと頭を振ってる。ベルタが何か言ってる? あぁ、大丈夫ですか、って心配してくれてるんだね。でもごめん。これは結構キツイ・・・。でもこれだけは伝えておかないと・・・。
「ルシ・・・ル、君・・に・・・連絡・・・」
「ルシル君・・・、セインテスト施設長ですか!?」
それが精いっぱいだった。完全に意識が落ちる。と思ったら、すぐに目を覚ました。だけど、やっぱり異変は起こっていた。ぼけーっと佇んでいる私は、煌びやかな場所――何かに例えるなら遊園地のような場所に居た。
本局からいきなりこんな場所に移動するなんて、何も知らない一般人ならパニックになるだろうけど、私は今まで散々こういう不思議体験をこなしてる。だから冷静に辺りを見回して・・・・ヴィータちゃんを発見。「ヴィータちゃん!」と駆け寄って、放心状態のヴィータちゃんの肩を揺する。
「んあ? なのは?・・・あっ! おい、なんだこりゃ!?」
「よかったぁ。私もさっき気が付いたんだけど、妙なところに飛ばされちゃったね」
陽気な音楽が流れるここは、どこをどう見ても遊園地。ここに連れてくるのがグロリアって人の狙いだとしたら、一体何を企んでいるのかサッパリだ。とりあえず「帰る方法を探さないと」と歩きだす。ヴィータちゃんも「まぁた妙な事になっちまったな~」と嘆息してついてきた。
†††Sideなのは⇒はやて†††
「主はやて。顔色があまり優れないようですが・・・」
「そうか? 朝寝坊もしたし、そんなことないと思うんやけど?」
自宅で休日を家族と過ごす(ヴィータがおらんのは寂しいなぁ)そんな幸せの中、シグナムがそう心配してくれた。体調は悪ぅないけど、頭を悩ませる問題を抱えとるんは事実やな。そこに、「じゃあ今日のお買いものは、はやてちゃんはお留守番しててくださいね」とシャマルが私の額に手をやりながら言う。
「マイスター、風邪かっ? 頭痛いのかっ?」
「シャマル。はやてちゃんは風邪なんですか? 喉は痛くないですか?」
アギトとリインが、私とシャマルに詰め寄る。シャマルは私の額から手を離して「はやてちゃん、あーん、してください」って。
「だ、大丈夫やって。ダルくもないし、頭と喉も痛ないしな」
「ダメですよ、はやてちゃん。本人が気付かないだけかもしれませんし」
有無を言わさん真剣な表情で私を見てくるシャマルに、私は「了解や」て口を大きく開ける。なんや。視線が集中して小恥ずかしいなぁ。もう子供やないんやで私。結局は健康体やってゆうのが判ってみんな安堵する。心配されるんは家族としては嬉しいんやけど、ちょお大げさやったかな・・・?
「う~ん、顔色が良ぉないように見えたんは、きっとアレの事で考えごとしとったからやな」
みんなでソファに座ってお茶しとる時にする話やないけど、これ以上私の体調がって心配させるのも気が引ける。だから今朝から悩んどるアノ問題に触れる。そう、グロリア・ホド・アーレンヴォール。テルミナスやペッカートゥムと同じ“アポリュオン”の一体かもしれへんてゆう存在。
今朝早くにルシル君から連絡を貰った。ヴィヴィオ達とその要注意存在が接触した、と。でも対抗策が無い、守護神に任せるしかない、って。指をくわえて待つしかないってゆう事や。
「ルシリオンの記憶で何体か見ましたが、私独りでは戦いにならないと解ります。人間となってしまっている以上、私とユニゾンして魔術を扱えたとしても今のルシリオンでは手も足も出ないでしょう」
「う~ん、テルミナスってどんな奴かは知らねぇけど、あたしはそんなに心配しないかな・・」
リエイスが重苦しい事を言った後、アギトは両手を頭の後ろで組んで、そう言った。リインも「わたしも、です。だってわたし達にはとても心強い仲間が居ますから♪」って笑う。強いなぁ、二人は。でも二人の言う通りや。私らには、同じ世界に居らんくても心で繋がった仲間が居る。
「ふむ、そうだな。もしそのアーレンヴォールという女がアポリュオンであったなら、それを討つ守護神が必ず来る。その守護神は十中八九・・・」
「シャルちゃんやな」「フライハイトちゃんね」
この世界と一番繋がりが、絆があるんはシャルちゃんだけ。もしかすると、守護神としてのもう一人のルシル君が訪れたりしてな。もしシャルちゃんが来たら、ほんの少しでも話し出来たりするんやろか? 出来たらええな。そう強く思う。今度のシャルちゃんはどれだけの時間を過ごした後のシャルちゃんやろ? また忘れたフリとか、の心配はいらんな。またしたら今度は怒るよ?
「おはよーございまーーーすっっ!」
いきなり元気いっぱいな声が。この声はミウラやな。今年もインターミドルに向けて、ザフィーラやシグナム、ヴィータと特訓中。シャマルが「いらっしゃーい♪」って玄関へパタパタ駆けてゆく。そしてリインとアギトがテキパキとお茶やお菓子を準備してく。んー、この手際の良さ。さすが八神家の家族やな。
「おはよーございますっ。はやてさん、師匠、シグナムさん、リインさん、アギトさん、リエイスさん!」
「朝からテンションMAXですねー、ミウラ」
「そこが好ましくもあるんだがな」
ミウラはあれよあれよと迎えられて、リインとアギトが用意したお茶とお菓子を食べていく。でもふと「あ、忘れるとこでしたっ」ってポケットから封筒を取り出す。白い封筒で、八神家様へ、と綺麗な手書きの文字が。ミウラから一番近かったリエイスが受け取る。
「差出人は書かれていないな。ミウラ、これは誰から・・・?」
「ここに来る途中に、綺麗な、でも子供っぽい感じの女の人からですっ。なんか、大事なモノだとか」
んー、大事なモノやったら直接持ってきてほしいなぁ。リエイスがカサカサと封筒を開け始めて、中身を私たちに晒した。
「写真やな」「「「写真ですね」」」「「「写真だな」」」
この場に居る一人につき一枚の写真が七枚。ヴィータのは無い、な。私とリインとリエイスのは事件解決会見を開いた時の。シグナムとアギトはどっかの現場での。シャマルとザフィーラは本局の医務局での。私たちのはまぁ撮られとっても不思議やない場面やけど、シグナム達のはありえへん。捜査時に一般人が写真は撮るのはアカンことになっとるからな。
撮るにしても局から許可が下りとる特別な人(記者とか)だけとかやし、現像する際も事件の重要な――まだ公に出てほしくない部分とかが撮られてないか確認されやなアカン。それやのに、シグナムとアギトの写真は明らかに無許可かつ隠し撮り。
「ミウラ。コレを渡してきた人の名前、判るか?」
意識を休日モードから仕事モードへ切り替える。ミウラも私らの雰囲気から察してくれたんかお菓子を食べる手を止めた。
「えっと、長い名前で・・・グロリア・ホド・・・ごめんなさい、あとは・・・」
「十分や、ミウラ。ありがとな!」
グロリア・ホド。それだけ判れば十分や。ヴィヴィオ達と接触しただけじゃ飽き足らず、私らにも手を伸ばしてきたな。ここからは迅速に、や。すぐさまルシル君に連絡を。たとえ何も出来んくても、接触を図ろうとしとる事実だけでも伝えとかな。ルシル君に通信を繋げようとしたとき、
――召喚されたし召喚されたし召喚されたし――
ガシャン!とティーカップが割れる音と、何か重いモノが倒れるドサッとゆう音。
「リインさん!? アギトさん!?」
リインとアギトが力無く倒れとった。意識が無いのが見てくらい判るほどにグッタリ。
「っ・・・な・・・!?」
私にも強烈な視界の揺れが起こって、倒れそうになる体を何とか踏ん張って堪える。ミウラの悲鳴がどこか遠い。あぁ、あんなに戸惑って可哀想に。シャマルが二人に駆け寄ろうとしたところで、シャマルがグラっと揺れてそのまま倒れた。
ザフィーラが「シャマル!」ってシャマルに駆け寄る。でも、ザフィーラも「なんだ・・・これ・・は・・・」って言って倒れた。攻撃? ううん、ちゃうな。もっと別な“力”で強制的に意識を刈り取られとる。まるでテルミナスがやったように。アカン、私ももうそろそろ限界や。頭が重い。見ればシグナムもリエイスも片膝をついて、それでも倒れようとはせん。
「はやてさん!? シグナムさん! リエイスさん!」
いきなりこんなん見せてもうてミウラには悪いことしたな。なんとか笑みを浮かべて、「ごめん、な・・・管理局・・ルシリオン・・に・・・連絡・・・」と残す。私らが倒れたことを知ってもらっとかなアカンやろ。
ミウラが「ルシリオンさんに連絡すればいいんですか!?」って訊き返した事に対してうんと頷く。それを見て、私は意識を手放した。んやけど、うたた寝して急にハッと起きた感じで目を覚ます。
「あれ・・・? なんやこの妙な感じ・・・」
さっきまで眠ってて夢を見とったみたいな・・・寝起きでふわっとした浮遊感。って、ちゃうやろ私! 辺りをよぉ見回してみ!
「遊園地・・・!?」
陽気な音楽が鳴り響いて、煌びやかな装飾が施された建物がズラリと並んどる。それだけやない。シグナム達が放心状態で突っ立っとる。シグナム達の名前を呼びながら駆け寄る。そやけど反応なし。まるで蝋人形のようやけど、触れると柔らかいし温かい。
ジィーッと見とると、「主はやて・・・?」とシグナムがようやく反応を示してくれた。シグナムを皮切りとして、シャマルにザフィーラ、リインにアギトにリエイスと次々と起きてく。この異変の中でも冷静に(もう慣れた感やしな)一か所に集まって、
「それじゃ、現状確認や。と言うても意味解らん、としか言いようないけどな」
円陣を組んで八神家家族会議を開く。まぁどんだけ考えても現状打破する術なんて判らへんし、そやけど何もせえへんわけにもいかんしなぁ。で、結論としては、「とりあえず動く、やな」と奥に続く道を指差す。
「私とシャマルが先頭を歩きます。リエイス、ザフィーラ。おまえ達は殿だ。頼めるか?」
「そうね。はやてちゃん達は真ん中で。何があっても私たちが守りますっ!」
「ああ。ザフィーラ、何があっても主はやて達を守るぞ」
「無論だ。如何な事態が起ころうとも守り抜く」
ホンマに頼りになる家族やなぁ。家主として誇らしいわ。
「わ、わたしもはやてちゃんを守れますっ!」
「あたしだって守れるぞっ! リインは後ろな、あたしはシグナムとシャマ姉と一緒に前だ!」
「やってやるですよ!」
アギトもリインもやる気満々で私の護衛を買って出た。えーっと、まぁお願いします・・・としか言えへんよねもう。やる気に水差すのもなんか悪いしな。SPに囲まれた要人気分を味わいつつ、私ら八神家は先へ進む。
†††Sideはやて⇒ティアナ†††
「そう言えばルーとレヴィ、こっちに来てるんだけど。知ってた・・・?」
「うん。ヴィヴィオからメール来てたよ。昨日、聖王教会で演劇やったって」
あたしはミッドに降りて、スバルと一緒に休暇を過ごそうと思ってた。思ってたんだけど、スバルのやつ、今日の午後から先端技術医療センターでの定期検診の予定を入れていた。だから午前中しか遊べない。まったく。そうゆう大事な用事を今朝まで忘れてるってどうゆうこと!?
まぁ明日の夕方まではいるつもりだから、今日明日の半日ずつでも十分か・・・?
「そうそう。画像も添付されてたのよね~」
「コロナとリオの着ぐるみ姿可愛かったな~♪」
「セインのおじさん姿には笑ったわ、あははは!」
そんな話をしていると、突然スバルの表情が険しくなって、「ティア、あれ」ってある場所を指差した。指先を追ってみると、一人の女性が数人の男性に囲まれていた。友達同士で楽しく喋ってるって感じでもない。ピリピリしてる空気を感じる。
管理局員として見過ごすわけにはいかない。何かの事件に発展する前に止めないと。スバルと頷き合って、その集団の元へ駆け寄る。男性の一人から、「あ゛?」と睨まれる。
「管理局執務官ティアナ・ランスターです。どうなさいました?」
最初はあたしとスバルの登場にイラッとしたような顔をしたけど、あたしが名乗ると一気に恐縮して、「え、いや、何でもないっすよ? 本当に何でもないんで」と慌て始める。さっきまでの凄んでたのに。まぁその方がやりやすいからいいけど。
チラッと女性とスバルを横目で見る。スバルは女性が乱暴を受けてなかったか体を注視して、ほっと小さく安堵の溜め息、そのまま「何かありました?」と女性に訊ねる。
「クフフ。いやいやぁ。大したことはないよ? ちょっと絡まれたけど、乱暴とかは今のところ受けてないから気にしてない」
変わった笑い方する女性だな~。じゃなくて、ジロッと男性たちを見る。男性たちの表情がヒクッと引き攣った。どうせこの後、疚しい事しようとしてたんじゃ? さらに詳しい事情でも、と思ったら、「だから何もされてないとおんなじ。とゆーことでその人たちは解放してもオッケー♪ クフフ❤」と女性が笑う。
「本当にそれでいいの? もしかしたらまた・・・」
「クフフ。問題無しっ。別に力づくでどうにか出来たし。こう見えて、結構強いんだよ? 男数人に囲まれても十分殲滅出来るくらいに、ね❤」
「「っ!」」
悪寒。解る人には解る、妙な威圧感がその女性から放たれた。ニコニコな笑顔で、すごく可愛いのに、一瞬・・・死を感じ取った。そうゆうのに慣れてるあたしやスバルでも数歩後ずさった。だったら一般人の男性たちは? 見れば顔面蒼白で、ガタガタ震えてる。
「クフフ。これでも魔法に自信はあるのだっ♪ 一人旅が多いからさ、鍛えているってわけ♪――って、ごめん、なんか加減知らなくて。だいじょぶ?」
ペコって頭を下げて、本当にすまなさそうに謝った。顔をあげた時には、もうさっきの威圧感はなくて、ぽわわんとした空気を放ってた。とりあえず危険人物じゃないのよね? その女性がいいと言うのだから、男性たちを解放、改めて女性に向き直る。
「一般人に“力”は振るわないよぉ、さすがに。人を傷つけてもいいよって許可も貰ってないし。というか“守る側”だしね。そーゆうわけで、アタシは話し合いであの場を切り抜けようとしたんだよ。クフフ」
そんな傷つけてもいいって許可を出すような人が居るっていうのが信じられない。それに、守る側? そう言えばこの人、何やってる人なんだろう? それに名前もまだ聞いてないな。名前や職業を、好奇心と警戒心から訊ねようとしたところで、
「おお、そうだそうだ。有名人と出逢った記念に写真撮ってもいい?」
その女性は肩から提げてたトートバッグからカメラを取り出した。スバルが「有名人?」と首を傾げると、女性は特徴的な「クフフ」と笑う。
「えっとえっと・・・数年前に、聖王のゆりかごを墜とした機動六課? テスタメントってゆう組織を数日で壊滅させた特務六課?の一員・・・。うん、ちょー有名人じゃん。スバル・ナカジマちゃんとティアナ・ランスターちゃんでしょ?」
(ちゃん付けされたのっていつ以来だろう?)
そんな明後日な事をふわっと考えていると、スバルが「お願いしますっ♪」ってあたしの腕に絡みついてきた。「ちょっと、くっつき過ぎっ、離れなさい!」と語調を強めて言うけど、「いいじゃん」って、聞く気はないようね。
「そうそう、スバルちゃんの言う通り。仲が良いんだから、そのくらいの密着くらいどうってことないない♪っと、そこのベンチに座ってもらおっかな、クフフ❤」
近くにあったベンチに二人で腰かけて、こっちに向けられたレンズを見詰める。パシャっとシャッターが切られる音。カメラの下部から、ジー、とプリントされた写真が出てくる。その女性は「やっぱモデルが良いと華やかだね~、クフフ♪」とニコニコ写真を見て笑みを浮かべる。モデルが良い。それはつまり容姿が褒められてるって事で。今まで生きてきて、容姿を褒められた事なんてないから、かなり嬉しかったりする。
「ありがとうございます♪ えーと、そう言えば名前聞いてませんでした」
スバルが申し訳なさそうに言う。あたしも「よろしければ職業の方もお聞かせください」と続ける。
「お? 職質ってやつだね♪ 良き哉良き哉、クフフ」
もう数回パシャパシャと写真を撮って、「よしっ。このくらいで十分でしょ」と満足げにカメラをしまい込むと、ベンチに座るあたし達のところまで来て写真を差し出してきたから、受け取る。
「おお、すごい綺麗に撮れてる! もしかして職業ってカメラマンとかですかっ?」
「クフフ。アタシの名前は、グロリア・ホド・アーレンヴォール」
「「っ!!」」
(今朝、ルシルさんから届いたメールにあった名前・・・!)
要注意人物。その正体、下手すれば“アポリュオン”かもしれないっていう。グロリアは続ける。「職業は、ヴァイゼンの風景写真家。だったらいいなぁ~♪」と。
――召喚されたし召喚されたし召喚されたし――
視界が揺れる。意識が飛ぶ・・・!? もう喋ることも動くことも出来ないほどに頭が重い。スバルがコテッとあたしとは反対側に倒れて、「ティア・・・」って呻く。あたしは気丈にグロリアを睨みつけ、何が目的?と、声が出ないから口の動きだけで問い質す。
「クフフ。秘密♪ ただ、これがあなた達の為だっていうことは忘れないでもらいたいかなぁ~」
グロリアの満面の笑み。最後に「ちょっとだけおやすみ~」と聞こえた。視界が暗転。耳に届く陽気な音楽があたしの目を覚まさせた。閉じたまぶたの裏からでも判るほどに周囲が明るい。ゆっくりと目を開け、驚き・・・はもうなかった。あぁ、またこうゆう不思議体験か、みたいな事が頭に浮かぶだけ。グロリアに襲われなかっただけマシというものだ。
「スバル!」
少し離れたところで呆然と佇んでいるスバルを見つける。駆け寄って肩を揺する。最初は一切の反応が無かったけど、何度目かの「スバル!」で、「ティア?」と返してくれた。安堵の溜息。意識もハッキリとしたスバルと、この遊園地内に在る街のような場所を見回す。
「とりあえず」
「動くっきゃない、だね」
じっとしてても始まらない。ただ陽気な音楽が流れるだけで状況の変化なし。もしかすると他に誰かいるかもしれないから、脱出方法と並行して知り合い捜し。あたしとスバルだけにちょっかい掛けてくるなんて思えない。
「ねぇ、ティア。ヴィヴィオ達も来てたりして」
「コロナとリオとアインハルトは魔術とかそうゆう超常事象を知らないから、もし連れて来られていたらパニックを起こすかもね」
そんなあってほしくない事を、もう起きているかもしれないと思いつつ話しながら、あたし達は先に進んだ。
†††Sideティアナ⇒エリオ†††
キャロと二人で、ルシルさんから送られてきたメールの内容に目を通す。グロリア・ホド・アーレンヴォール。もしかしたら“アポリュオン”かもしれない存在。僕たち人間が戦って――ううん、戦いにすらならない相手が、またこの次元世界に訪れているかもしれない。
「でもどうしてヴィヴィオのところに来たのかな・・・?」
「テルミナスのようにルシルさんを狙って、親しい関係者から攻めていく・・って考えられるけど」
だけど、ルシルさんはもう“界律の守護神”でもない、僕たちと同じ人だ。だから今さら手を出してくる事なんて有り得るんだろうか・・・? 目的が判らない。僕はまだ十数年しか生きてないんだから、ルシルさん達のように数千数万年と存在してきた人の目的が判るわけもなく。ただ警戒しておくように、と。断定出来ないからこそ、そして対抗出来ないから警戒に留めるしかない。
「今は・・・うん、僕たちの仕事をやろう。何も起きてないからどうする事も出来ないし」
「うん。フリード、お願い」
自然(動植物含めてだ)の観測・保護、密猟者の逮捕など。それが自然保護隊の仕事だ。そしてここ最近、ある希少な花の密漁者が現れる事が多くなってきた。だからこそ今日もパトロールに出ないと。いつ来るか判らないから。フリードに乗って、希少花の生息地へ空から向かう。上空からならすぐに密猟者を発見できる。
「あっ、エリオ君! あれ・・・!」
今日に限って現れる密猟者が数名。僕は「フリード!」と手綱を握る手に力を込める。フリードはそれだけで察してくれてすぐに急降下、密猟者に向けて突撃する。ある程度高度が下がって、フリードから飛び降りながら“ストラーダ“を起動。
「動かないでくださいっ! 保護観察隊所属、エリオ・モンディア・・・ル・・・?」
密猟者へ“ストラーダ“を突きつけながら、所属と名前を告げて・・・って。キャロが「エリオ君、これ、いつの間に・・!?」密猟者の状態を見て驚いている。空から見た時、密猟者は確かにバラバラに動いていたのに・・・「一体何が起きて・・・?」と戸惑うしかない。
何故なら密猟者は全員倒れていて、しかもバインドのようなもので拘束されていた。空から地上に降りるたった数秒の間、その間に僕やキャロに気付かれないように密猟者を拘束した。誰が?ということもあるけど、その、誰が、が今どこに居るのか、だ。
「キャロ、注意して。誰か隠れてる・・・!」
「強化しとこうか、エリオ君・・・?」
お願い、と言おうとしたところで、ガサガサとすぐ後ろの草木を踏む音、そしてパシャっと何かの機械音が。気配が一切なかったのに。そんな驚きをねじ伏せて、
――ブリッツアクション――
距離を開けると同時にキャロを庇うように移動する。“ストラーダ”を構えて、その誰かを視認する。女の人だ。オレンジ色のセミロングヘア。黄金の瞳はまるっとしていて、優しい顔立ち。真っ白なロングフレアワンピース。色んな十字架のアクセサリーを身に付けてる。手にはカメラを持っていて、カメラの下部から出てきた三枚の写真をニコッと眺める。
「クフフ。あー、彼らは貴重な自然を害そうとしたから、ちょっとお仕置きしたのよね。ごめんね~。人を守るのも仕事なんだけど、こーゆう自然を守るのも個人的な仕事なんだよ♪」
ネックレスがキランと光る。確か、黒のケルト十字?と白の葡萄十字?だ。ルシルさんとシャルさんが守護神として持つ武器と同じデザイン。その女の人が人差し指と中指に挟んだ写真をピッと投げ飛ばしてきた。一枚は僕へ、一枚はキャロへ。もう一枚もキャロへ。すごいコントロールで、苦もなく受け取る事が出来た。僕のは、地上に降り立って“ストラーダ”を構えた瞬間のもの。キャロのはたぶん、キャロ自身とフリードのモノだろう。
「あ、自己紹介しとこっか。グロリア・ホド・アーレンヴォール。よろしくっ☆」
まさか本当に来るなんて。戦う!? 無理だ、まともに戦えるわけがない。どうにかして逃げる? 追いつかれるに決まってる。ダメだ、何をやっても。
(でも・・・!)
キャロをどうにかして逃がさないと。出来れば僕も。フリードに視線を送る。僕が少しでも時間を稼いで、フリードはキャロを逃がす。フリードが小さく頷いたように見えた。
「ストラーダ、いくよっ!」
――ルフトメッサー――
“ストラーダ“を振るって、グロリアに向けて真空の刃を四つ放つ。少し魔力が残ってしまうから、僕の魔力光である黄色が目立つ。視認出来ると言う事は、それだけで回避や防御のタイミングも計られえると言う事。でもそれがどうした。本命じゃなくて布石にすればいいだけの事。
≪Load cartridge. Form Drei. Unwetter form≫
――ブリッツアクション――
“ストラーダ”を電気変換資質を最大限に強化するための形態ウンヴェッター・フォルムへ。そこから高速移動。背後から「ダメっ、エリオ君!」僕を呼ぶキャロの必死な声が聞こえた。グロリアがルフトメッサーを避けるようとするのを確認。ここで想定外のことが。グロリアはその場から動かずに上半身だけを動かして避けた。左右どちらかに大きく避けると踏んでいたのに、だ。
「ちょっと! アタシに戦闘の意思はないんだけどっ!?」
そう言いつつも僕へと真っすぐ伸ばす右腕。先端の手の平は開いていて、僕の首を鷲掴みしようとしているみたいだ。グロリアと僕の間にトライシールドを展開、直撃だけは免れようとした。でも、そう、始めから解っていた。相手が人間じゃなかったら、魔法なんて役に立たないって。ちょんと触れた指先がシールドを容易く粉砕した。
(やられる・・・!)
そのまま僕の首へと向かってくる右腕。“ストラーダ”のブースターでの方向転換するには遅すぎる。なら、このまま交差法で、通用するかもどうか怪しいけど紫電一閃を・・・!
――アルケミックチェーン――
地面から幾つもの鎖が噴き出してきて、僕を宙に押し上げた。グロリアが鎖の壁に突っ込む。「むぎゃっ!?」って呻き声が。
「エリオ君!」
頭上からキャロの声。見上げてみれば、フリードから身を乗り出して、僕へと手を伸ばすキャロが居た。僕はその手を取って、フリードへと移動する。と同時にアルケミックチェーンが吹っ飛ばされる。グロリアだ。
こっちを見上げて「降りてこ~~い!」ってピョンピョン跳ねていた。本当に“アポリュオン”?とか思いたくなるけど、実際に知っているのはペッカートゥムとテルミナスの二体だけ。あんな陽気な人?が居ても・・・おかしくない・・・?
――召喚されたし召喚されたし召喚されたし――
突然だった。視界が揺らぐ。さらにガクンと振動が。フリードが気を失っていた。キャロは悲鳴より先に「起きてフリード!」って叫んだ。でも起きない。背中にトンと軽い衝撃。キャロも意識を失っていた。僕ももう限界だった。声も出ない、体も動かない。このまま何もしないと地上に叩きつけられる。
(グロ・・リアの・・・仕業・・・!?)
受け止めてあげるという風に両腕を大きく開いてるグロリアを見た。それで視界が暗転。気を失ったと自覚できた。でも、すぐに意識を取り戻す。だけど、そこはさっきまで居た場所じゃなくて・・・・。
「遊園地・・・? キャロ! フリード!」
離れたところにポツンと佇んでいたキャロ。側にはいつもの小さな姿に戻ったフリードが床で丸まっていた。急いで駆け寄って、何度も名前を呼ぶ。
「エリオ君・・・?」
ようやく反応が返ってきたことで安堵が胸に満ちる。フリードも遅れて「きゅくるー」と鳴き声をあげた。僕たちは少し見回って状況を確認。強制転移させられたか、もしくは夢のようなモノに引き摺り込まれたか。僕たち人間の常識なんて通用しない事が出来る連中だ。いろんな可能性が考えられる。
「エリオ君、どうするの・・・?」
「うん。このまま動かないでいても埒があかない。だからとりあえずはこの道を真っ直ぐ行ってみよう」
僕たちは歩き出す。この先に何が待っているかも判らないけど、動かなくちゃ始まらないから。
†††Sideエリオ⇒ルシル†††
最悪だ。朝からなんでこう苦しまなければならないんだ。隣に居るフェイトが覗きこんできて、「ルシル」と心配そうにしている。君とて私に気を遣っている余裕はないだろうに。
先程から私の元へ来るある連絡が、私とフェイトの心に軋みをあげさせる。ヴィヴィオ達が倒れた。なのはとヴィータが倒れた。はやて達が倒れた。スバルとティアナが倒れた。エリオとキャロとフリードリヒが倒れた。揃って意識不明。ただ、倒れたと言っても脳波を見る限り睡眠に入ったというのが、まぁ救いだ。
「まさか本当にこうもあからさまに私と交友関係のあるみんなを襲うとは・・・!」
どうしてそっとしておいてくれないんだ。先代テルミナスとの決戦前、フェイトからの告白の時に吐露した想いを思い出す。
――私の想い人はいつも殺されて逝く。
護ると誓っても、愛すると誓っても、必ず私の手の中から零れ落ちる。
私は疫病神だ。自分が幸せになる云々以前に、一番大切な女性を幸せに出来ない。
そんな私に、人を愛する事はもう出来ない。必ず不幸にしてしまうからだ。
だからフェイト。君が嫌いなわけじゃない。この場所が嫌いなわけじゃない。
怖いんだ。私が残ることで、この愛おしい場所がまた何かに奪われるんじゃないかと――
それが現実になるかもしれないという恐怖感が私を押し潰そうとする。人間になった。フェイト達と幸せを築けるんじゃないか。さぁ一緒に過ごそう。ハッ、なんだそれは。“力”が有ろう無かろうが、結局はこういう帰結か? 4th・テスタメント・ルシリオンという存在であった以上、こうなるのが当然か。
「ルシル・・・震えてる・・・」
机上で握り拳となっている右手に、そっと手を重ねてくれたフェイト。優しい柔らかさ。人の温もり。散々拒絶してきて、だが望んで得たモノ。失いたくない。
「フェイトさん、ルシルさん。お二人宛に何か届いてます」
シャーリーが白い封筒を手に歩み寄ってきた。なのは達が倒れ、その事で参っている私とフェイトというこの状況だ。彼女は、私とフェイトをからかうような事はせず、スッと封筒を差し出してきた。二人で「ありがとう」と礼を言い、封筒から二枚の写真を撮りだす。倒れたなのは達の共通点。側には写真があった。倒れた全員が写る写真が。
「私とルシルの写真だね・・・」
「ああ。なのは達と同じ状況に陥れば打開策が見つかるかもしれない」
が、このまま一生目覚めないかもしれない。分の悪い賭けのようなものだ。私はいい。いや、本当は嫌だが、私が代わりとなってなのは達が目覚めるというのであればその選択も・・・
「自分一人だけ犠牲になる、なんて言い出したら殴るからね」
フェイトの怒気を孕んだその言葉に、私はただ「ありがとう」とだけ応える。
――召喚されたし召喚されたし召喚されたし――
その直後、来た。視界が揺れる。頭が重い。精神干渉によるものだ。私は椅子に座っていたから良かったが、フェイトは立っていた事でそのまま倒れ込もうとした。重い体を必死に動かし、私へと力なく倒れてきたフェイトを抱き止める。シャーリーの「フェイトさん!?」という悲鳴がどこか遠くに感じる。口を開くのも辛いが、
「シャーリー・・・。みんなを・・連れ戻しに・・・行ってくる・・・!」
そう告げる。歪む視界の中で、シャーリーは息を飲み「必ず皆さんと一緒に帰ってきてください」と言ったのを見る。あぁ、帰ってくるとも。精神が取り込まれた先に何があろうとも、必ず・・・! 決してフェイトを落とさないようにしっかりと抱きかかえ、私は意識を手放した。
「・・ル・・・ルシ・・・シル・・・ルシル!」
暗い闇の中、私を呼ぶ声がする。フェイトの声。耳にすると安心出来る、愛おしい彼女の声。暗闇が晴れていく。意識の覚醒だ。
「ルシル!」
パチン!と景気の良い音、遅れて頬から伝わってくる痛みがじんじんと・・・。ハッと目を開ける。目の前にはフェイトが佇んでいて、「よかったぁ」と安堵していた。左頬に手を置く。熱くはなってないな。あれ? 今、思いっきり叩かれなかったか?
「どうしたの、ルシル?」
「え? あ、いや・・・。なあ、フェイト。今、私の左頬を叩かなかったか?」
「ううん。やだなぁ、ルシル。もしかして寝惚けてるの?」
・・・・だったら何で目を逸らす? まあいい。悪気があったわけじゃなく、ただ目を覚まさなかった私に非があるんだろう。目を覚まさなかった私を心配した、そういうことにしよう。とにかく現状の把握だ。今、私とフェイトが居るのは、陽気な音楽が流れる遊園地内にある広場のような場所なんだが・・・
「なんて言うか、すごろくのような道があるね」
「ああ。というか、入場ゲートに思い切り見知った名前が載っているんだが」
すごろくのマス目のような道のスタート地点に設けられた入場ゲート。そこにはこう描かれている。
――ようこそ☆ロキのロキによるお客様のための遊戯城へ――
ロキ。その名を持つ男は、大戦が始まるさらに昔に存在していた。我が先祖の原初王オーディンと義兄弟の契りを交わしたヨツンヘイムの王。オーディンが生み出した、魔術の祖たる“ルーン”を利用して、ロキによって作り出された最古の玩具。どうしてこの現代にそのような代物があるのか。という疑問は今はもうどうでもいい。
「ロキ? ルシルの知ってる人なの?」
フェイトに「まあな」と短く返す。そこに、「フェイトちゃん! ルシル君!」と私たちの名を呼ぶ声が。振り返ってみると、なのはとヴィータがこちらに向かって駆けていた。なのは達だけじゃない。八神家にヴィヴィオ達、スバルとティアナ、エリオとキャロとフリードリヒも、四方八方からこちらに向かって来ていた。
これで意識不明になった全員が揃ったわけだ。大人経ちと合流できたヴィヴィオ達は安堵、だが若干混乱しているため、なのは達が落ち着かせようと話をしている。とりあえず事情を知らないヴィヴィオとその友達を除く全員に、
『聞いてくれ、みんな。ここは、邪神ロキの遊戯場という魔道具の中だ。そうだな・・・すごろくだと思ってくれていい。単純にゲームなんだ。出る方法は簡単、クリアすればいい』
そう念話で伝える。すると当然、『そのスンベルっていうのは魔術で創られたって事だよね? グロリアって魔術師関係なの?』と疑問が出てくる。
『テルミナスも精神転換のオルゴールという魔道具に似たようなモノを使ってきたからな。とはいえ正直に言えば、未だに判断でき損ねているというのが現状だ。どうしてわざわざここスンベルに精神を取り込む、という回りくどい手を取ったのか・・・』
『私らに危害を加える気はない、ということなんかなぁ・・・?』
はやての疑問はもっともだ。危害を加える気なら、すでに私たちはこの世に生きていないだろう。色々考えたい事があるが、まずは『なのは。ヴィヴィオ達には、ロストロギアだと伝えてくれ。何も解らないままじゃ本当に不安は拭えないからな』と伝える。
『うん、判った。でもヴィヴィオにも伝えていいんじゃないかな・・・? ヴィヴィオも魔術を知る側だし』
『ルシリオン。わたし、ここに来るまでにヴィヴィオに言っちゃったんだけど。グロリアがアポリュオンかもしんなくて、この世界も何かの術で創られて連れて来られたんじゃないか?って』
レヴィが参加。むぅ、そこまで言っているならヴィヴィオにも伝えておかないとダメか。とそこに、キャロから『誰か近づいてきます!』と焦りを含んだ念話が届く。念話を受け取った全員が防護服を装着、警戒態勢へ入る。私とフェイトとシグナムが一番前へ。
なのは達はヴィヴィオと友達を囲むように展開、どこから襲撃を受けてもいいようにだ。建物の陰からこちらへ向かって来ていた人物の姿が露わになる。目を疑った。なにせ・・・
「か、カーネル・・・!?」
戦友のカーネルだったからだ。両サイドに居るフェイトとシグナムが息を飲んだのが判った。当たり前だ。私とシャルの記憶の中で見た、私と同じ“アンスール”の一人が目の前に居るのだから。だがカーネルは死んだ。もうこの時代には居ない。
そのカーネルは、アースガルド同盟軍の軍服――黒の長衣にスラックス、編み上げロングブーツ、ロングコートという出で立ち。現在の私の防護服と同じデザインだ。だからこそ、ヴィヴィオ達からの視線を背中に感じた。
「ようこそ、ルシル。そしてその仲間たち。神々の遊戯場スンベルへ。俺はカーネル・グラウンド・ニダヴェリール。1stエリアの管理人をやってる」
そうだ、確かスンベルに誘われた対象の記憶から、特に親しい知人を読みこんで実体化させる、と聞いたことがある。
「そこで少し怯えてる可愛らしいお嬢さん達。安心してくれ。ここはゲームの世界。そうだな、夢の中だと思ってくれ。お嬢さん達の体は今頃、現実世界で眠ってるはずだ。で、起きる方法は簡単。このゲームをクリアしていってゴールすればいい」
カーネルは、事情を呑み込めていないヴィヴィオ達に微笑みかける。
「ゲーム・・・? どういったゲームなのですか?」
アインハルトが気丈にも問う。カーネルは「すごろく、は知っているか?」と微笑を浮かべ、十六面体のクリスタルのようなサイコロを生み出す。ミッドではあまり馴染みのないゲームだからな、すごろく。アインハルトやコロナ、リオ、イクスは首を横にフルフルと振った。
「そっか。じゃあ簡単にルール説明だ。よく聞いとけよ? このサイコロを振って、出た数だけ・・・このマス目の道を進む事が出来るんだ。1が出たら1マス、2が出たら2マス進むって感じだな」
あのカーネルが子供相手にゲームのルール説明? プッ、こんな状況だというのについ笑ってしまった。するとカーネルが説明を中断して、「何笑ってるんだよ、ルシル。親友の俺が何か可笑しなこと言ったか? ん?」と半眼で睨んできた。
「いやいや。目付きの悪さに定評があって、よく小さな子供に恐れられていたお前が、子供とまともに会話していると少しな」
「目付きが悪いだけで、俺自身は子供好きで優しいんだぞ。子供が俺を見て、ヒッ、って怯んだの見てショック受けていたの知っているだろ?」
懐かしいな、その話。“アンスール”として初陣を飾る前、最終調整していた頃のものだ。また笑ってしまう。あぁ、目の前に居るカーネルは幻影に過ぎないと解ってはいても、やはり親友なんだ。
「とにかく、お前との話は後だ。まずはお嬢さん達にルールを教える。目が、先に進んでください、って言っているからな。
えー、どこまで言ったっけ? あーそうだ。マスにはいろんなお題が書いてあってな。立ち止まったらそのお題をクリアしないとダメってわけだ」
親友にして戦友のカーネルの姿を眺める。アインハルト達の目にはもう混乱はなく、カーネルのルール説明をただ聴いている。いつか有り得たかもしれないカーネルと子供たちが遊ぶ風景。それが目の前に在る。たとえ幻影であっても、私は見ている。確かに見ているんだ。
「で、お題をミスしたり拒否したらキッツイお仕置きが待ってる」
お仕置きという言葉にビクッとなったコロナが、「あの、お仕置きってどうゆう・・・?」と恐る恐る訊ねる。
「それを今言ったら面白くないだろ? 具体例で言ったら、スタート地点に戻る、変な髪形や服装になる、姿が他の生き物になる、とか」
「うわぁ、あとの二つとか嫌かも・・・」
リオが苦笑しながら言うと、カーネルが「一番キツイのは、そのエリアの管理人とバトルだ」と告げた。これにはアインハルト達は首を傾げ、カーネルの正体を知る私たちは絶句した。カーネルは言った。1stエリアの管理人をしている、と。なら他のエリアには・・・
(シェフィやシエル、フノスも居るのか・・・!?)
チラッとフェイトを見る。フェイトもこちらを見ていた。不安げな目だ。そうだな。シェフィリスが居るかもしれない。それは、フェイトにとってあまり気分のいい話じゃないかもしれない。だが、この世界で・・・いや、もう私のパートナーはフェイト一人だ。
フェイトを安心させたいがために、彼女の左手に右手をそっと重ねる。握り返される右手。あぁ落ち着く・・・というか、フノスやシエルが出てきたら最悪過ぎる。
(フノスに勝つ? シエルに勝つ? というかアンスールに勝つ? 不可能だ!)
同じアンスールだからこそ理解している。アンスールの異常な強さを。まぁ鍛えたのは、私とイヴ姉様とステアとジークヘルグだが。特にフノス。彼女に勝つなど絶対に無理だ。当時の私ですらおそらく勝てない。魔道王フノス・クルセイド・アースガルド。彼女こそ真に最強の魔術師なのだ。
「あー、ひとつ言っておこうか。俺はオリジナルじゃない。管理人として厳粛に、プレイヤーがちゃんとゲームを進めるか――説明面倒だな。だからそんなに強くない?と思う?気がしたりしなかったり?といわけだ?」
意味が解らん。しっかり最後まで説明しろよカーネル・・・。オリジナルじゃないのは解っているんだよ、馬鹿。まあオリジナルに比べて弱い、と思っておけばいいんだな・・・?
「説明するよりやってもらった方が早いな。百聞は一見に如かず?だったか。おい、ルシル。まずはお前が代表してサイコロを振れ」
カーネルが十六面体サイコロを放り投げてきた。フェイトから手を離し、飛んできたサイコロを抱き止める。そうだな。クリアしなければならない。でないとここから脱出できない。グロリアが何を企んでこんな事をするのか未だに判断出来ないが、先に進まなければいけないのは確か。
「よっ」
サイコロを放り投げる。プラスチックが転がるような音を出しつつサイコロが転がる。出た数字は最高の16。カーネルに「ほら、進め」と言われ、マス目の道を歩く。16マス目に到着し、そのマス目に書かれているお題を見る。目を疑った。
何度も目を擦る。が、変わらずそこに書かれているお題。ある種の地雷、死亡フラグだと認識。どうにか不正してお題を変えられないかと思案。結論。ム・リ♪ お仕置きというのが引っかかって、不正を働けない。
『あなたは突然、見知らぬ異性と挙式をあげることになっちゃった☆ ルーレットを回し、出たその数字のプレイヤーとレッツ・ウェディング❤』
死ね、と思った。突然過ぎるだろうが。馬鹿げている。余計な事にどこからかお題の内容を読み上げる声が。しかも聞き覚えあり。ゼフィランサス・セインテスト・アースガルド。ゼフィ姉様の声で間違いない。
(ゼフィ姉様に逢える、のか・・・!?)
たとえ偽者、幻影でも構わない。心底逢いたい、ゼフィ姉様に。あとシスコン言うな。今、誰か私に「シスコンめ」とそうツッコミをいれただろ?
でも一つ文句を言いたい。お題の内容を読み上げた時の声色。内容からしてイラッとしているというのに、それを増長させるようなテンション。それでさらにイラッとした。こっちは下手すれば・・・ダメだ、考えるな。フェイトを見ないようにしつつ、目の前に現れた光で構成されたルーレットを回す。
「おーい、6が出たんだが――おおうっ!?」
カーネル達の居るスタート地点へ振り向くと、すでにそこは聖堂内。気が付けば着ている服も真っ白なタキシード。シャルとの結婚式にも着たことがある。問題はそこじゃないんだ。私の相手に問題がある。フェイト達が、あわあわ、と口や肩を震わせている。
「な、なななな・・・相手ってあたしかぁぁああああーーーっっっ!?」
真っ白なウェディングドレスを着ているヴィータが顔面蒼白で絶叫。
「新郎ルシル、新婦ヴィータ。お前たち二人の結婚式を始めるぞ~」
神父服へと着替えているカーネルがトドメの一撃を口にした。参式者となるフェイト達もドレス姿となっていて、目は限界まで見開かれていた。あぁ、どんなめちゃくちゃな結婚式になるのやら・・・。
†◦―◦―◦↓レヴィルーのコーナー↓◦―◦―◦†
レヴィ
「確かに出番あったけどさ、まぁいいけどさ、どうしてスンベルに来たのか説明する回だしさ」
ルーテシア
「だったら膨れてないで、ほら、今日のレヴィルーのコーナー❤
わぁパチパチパチ・・・・空しい・・・orz」
ルシル
「膨れているなよ、レヴィ。次回から大変だぞ。一体何をさせられるか判らないんだからな。出来ればアンスールと戦うような事態は避けたいから、しっかりお題をクリアしないと」
レヴィ
「ブーブー、勝手にわたしとルーテシアのコーナーに乱入するな~」
ルーテシア
「でもそうだよね。アンスールが戦う場面ってわたし見てないから、他のメンバーがどんな魔術使うのか知らない」
ルシル
「バカみたいに強いって思っておけばいい。だから、かなりいや~なお題でもクリアする、という決意と覚悟を持っていなければ、な」
レヴィ
「ゲームなのにどうしてそんなガチな意志を持たないといけないの?」
ルシル
「・・・・ま、とにかく頑張るぞ、と」
レヴィルー
(逃げた・・・・)
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